第30話 ダーリン・ファーストキス
「龍海さんと見つめるこの渚、私は一生忘れません♪」
アイリーンが龍海に寄り添い浜辺を見つめる。
「この状況、俺はどうすればいいんだ?」
堤防に座り一人で海を見に来たはずの龍海、気が付いたら隣にアイリーンがいた。
素性を聞いてひとまず敵方ではない、というのは安心した。
だが花嫁候補の件に関しては性急すぎる、父さんも反対できなかったんだろうか?
せめて一緒に同じ子供時代を過ごしていたとかなら、まだそういう意識もできた。
「やはりまだ、私の事が不安なんでしょうか?」
アイリーンが龍海の心を読んだかのように尋ねてくる。
「ああ、悪いが不安だよ俺は家族や友人以外で異性と付き合った事がないからな」
身内だとわかればぶっちゃける、龍海の良くも悪くも内にはゆるい面が出る。
「……そうですか、悲しいです」
アイリーンのトーンが落ち込む、そんなアイリーンの様を見て衝動的に彼女の胴に龍海が手を回し足も素早く回して彼女の足を勢いよく払い上げると同時に膝の上に抱き寄せて無理矢理お姫様抱っこする。
「……え、これって!」
アイリーンも瞬く間にお姫様抱っこをされ、龍海に見つめられて驚く。
「言葉で君を傷つけ、いきなりこういう事もする俺はハッキリ言ってひどい!」
龍が宝珠を握る如くアイリーンを抱きしめる龍海。
「更に言えば俺は感情や衝動に突き動かされやすいし、不安がってるくせに君をこうして離したくない欲が出てる最低最悪の男だ。自覚してるのが尚更性質が悪い!」
アイリーンを見つめながら彼女への想いを暴露する龍海。
「ありがとうございます、私に気持ちをぶつけてくれて。では私からも言わせて下さい、私を離さないで下さい、離れてあげませんから私を傷つけた責任を取って一生私と歩んで下さい!」
アイリーンも抱きしめられたまま、龍海へと想いをぶつける。
彼女はヘルグリム帝国由来の能力はあっても臣民ではない為、龍海へ遠慮は無かった。
「後、私に対してここまで積極性を出していただけたなら怯えていないで一歩進んで情熱的に私の唇へキスを交わして下さい!」
アイリーンも素早く両腕を龍海の首の後ろに回してロックする、ムエタイやキックボクシングの首相撲の入りのように龍海の首根っこを押さえた彼女は回避もガードも
装甲値も無視な一撃を龍海へ叩き込んだ。
アイリーンにガッチリ拘束され情熱的な未知の感覚に溺れる龍海、これが彼の恋愛的な意味でのファーストキスだった。
心臓の鼓動が高鳴りっぱなしでただアイリーンを抱きしめながら見つめるしかできない龍海、自分が彼女の血を飲まされた事も気づかず彼の心は混乱していた。
龍海から顔を離したアイリーンが、彼へ語りかける。
「これが私のファーストキスです♪ 龍海さん、自分を卑下しないで下さい。
私があなたの生涯の最強最愛の花嫁です♪」
彼女の言葉は、龍海の中に染みこんで行った。
「そして、あなたは私のダーリンです♪」
自分が攻め落とした龍海の唇へ、今度は普通にキスをするアイリーン。
アイリーンは龍海に自分を刻み付けた。
こうして龍海は、自分も父親と同じく親子二代に渡り女性からの愛に押し負けた。
龍海は知らない、アイリーンを育てたのはリーファだけでなく異母であるアニー、メイ、フランの三人も関わっていた事を。
アイリーンが、恋愛に関してもモンスター娘達の感性に薫陶を受けていた事も知らず満たされたアイリーンに腕を組まれ引き立てられるように龍海は傍目には仲の良いカップル状態で自宅へと連れ帰られた。
「俺は、何をやらかしてるんだ~っ!」
正気に戻った龍海が、自分の体験した事を思い出して恥ずかしさなどが爆発したのは言うまでもなく父親は手で目を覆い母親達は微笑んでいた。
龍海の脳と心の中で、アイリーンの存在が急激に膨らんだ。
翌朝、そんな龍海が更に衝撃を受ける展開が待ち受ける。
「おはようございます、龍海さん♪」
やって来た食卓では、アイリーンがエプロンドレスにホワイトブリムとメイド姿で
朝食の準備を手伝っていた。
「な! 何で、アイリーンがメイド服着てここにいるんだ?」
驚きつつも彼女のメイド服姿にときめく龍海。
「あらあら、たっちゃんはヴィクトリアンメイド派なのね♪」
恋に目覚めた息子の様子を微笑んで見守るリーファ。
「昨晩から、本格的に帝国式花嫁修業に入る事になりました♪」
アイリーンが明るい笑顔で龍海に微笑みかける、女性の笑顔への弱さも父親譲りな
龍海はその笑顔に赤面した。
「やばい、俺はもうだめだ」
朝からギブアップする龍海。
「わかるぞ、父さんもそうだから」
息子の混乱状態に共感する進太郎。
「まあ♪ それでは皆で旦那様を介抱しないと♪」
リーファが進太郎へ微笑みかける。
「食事で栄養取ってからの食後でお願いします」
妻に負ける進太郎。
「理事長先生、流石です♪」
アイリーンがリーファを尊敬のまなざしで見る。
「……父さん、しっかりしてくれよ」
母に負ける父の姿に自分の未来を見る龍海。
「龍海さん、私のこの姿は如何でしょうか?」
アイリーンが自分のメイド姿について感想を求めてくる。
「可愛らしくてドキッとした、今もドキドキしている」
誤魔化す事も出来ず素直な感想を述べる龍海。
「ありがとうございます♪」
龍海の素直な感想に頬を染めるアイリーン。
室内の空気がピンク色に染まった朝だった。
そして、龍海とアイリーンは二人で一緒に登校する。
「海風が気持ちいいですね、龍海さん♪」
制服姿のアイリーンがほほ笑む。
「そうだな、昨日とは違う風が吹いている気がするよ」
アイリーンの言葉を肯定する龍海、女子と二人だけでの登校という人生初のシチュエーションに戸惑いつつも校門をくぐる。
彼女と出会ってから調子を狂わされてる龍海、本人はまだ抵抗しているつもりだが完全に恋の病にかかっていた。
決まり手はフォーリン・ラブ、アイリーンが龍海の心を落とし完全KOしていた。
そして、アイリーンの方でも何故かそんな龍海の状況が伝わって来ていた。
「龍海さんが私を好きになってくれている感情が伝わってきます、嬉しいです♪」
アイリーンの頬は赤く染まっていた。
「え! ちょ、突然何を言い出すんだ君わ!」
教室で龍海の隣の席に座るアイリーンが龍海の胸へと飛び込んでくる。
そんな彼女を、何だかんだとしっかり受け止める龍海。
龍海とアイリーンは気づいていない。
あのキスの時、アイリーンが自分の血を龍海に奉げた事が引き金で龍海が無意識の内にデーモンアーマーの力を発動し祖先の権能を借りてアイリーンを自分の眷属にした事を。
龍海とアイリーン、二人は出会ってから急速に距離を縮め絆を育んでいた。
その日は二人とも、赤面しっぱなしで過ごした。
「二人ともお帰りなさい、お赤飯作りましょうね♪」
帰宅した二人をリーファが満面の笑顔で出迎える。
「理事長先生、まだ早いです!」
赤面したアイリーンがリーファに叫ぶ。
「アイリーン、家ではお
リーファが訂正を要求する。
「では、お義母様で。まだ、龍海さんと私にはお赤飯は早いかと思います」
頬を染めながらアイリーンが言う、その手は龍海の手を握っていた。
「そうだよ、まだ早いよ」
龍海も反論する。
「あらあら♪ そんな事は無いわよ、今日は二人が本当に互いに恋に落ちて手を取った記念日じゃない♪」
リーファは理事長なので、補習授業中の二人の様子は把握していた。
龍海とアイリーンは、二人して顔を爆発させた。
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