第29話 そして彼女と手を繋ぐ

 「で、何でチェリッシュさんと俺が対面してるんだ?」

 補習授業の日々、体育館で戦闘訓練の授業と聞いて来てみれば教師はおらず

 アイリーンと自分だけがいた。

 「自習だそうなので、お付き合いいただけませんか? 赤星君はこれを付ける様にとも先生から言付かっています」

 マスクと錘を龍海に手渡すアイリーン、自分と彼女の能力差からハンデは必要だろうと疑わず受け取る龍海。

 

 何やら仕組まれた感じがする中で、龍海は転校生のアイリーンと相対した。

 眼鏡を外したジャージ姿のアイリーンがスタンダードに構える、彼女はやる気だ。

 対する龍海は口はブレス封じのマスク、手足には錘を着けていた。

 「やるしかないな、来い!」

 腹を決めた龍海も負荷に抗いながら、手足を動かして構える。

 アイリーンの胸が意外と大きかったのは気になったがすぐに意識から除外する。

 

 アイリーンはジャージの手足の裾をまくり身を屈め四足獣に似た構えを取る。

 「ウェイクアップ、ワーウルフ!」

 とキーワードを唱えた彼女の手足が紫色の人狼の物に変わり、髪もピンクから

紫へ変化して狼の耳が生えた。

 半獣となったアイリーンが全身に風を纏い、龍海へ突進する!


 龍海が驚いたのは、半獣化したアイリーンからの気配が発せられた事だ人間形態の彼女からは微塵も感じなかった感覚だ。

 「君は何者だ!」

 アイリーンの突進の勢いを利用して巴投げで反撃する龍海。

 投げ飛ばされたアイリーンはと言うと再び

 「ウェイクアップ、マーメイド!」

 と唱えて今度はジャージを破り瞬時に手足を銀色の鰭や水掻きが付いた半魚人の物に変えて床を叩いて受け身を取り立ち上がる。

 「待った降参だ、着衣が破損してるから自分の着替えを取って来てくれ!」

 龍海の言葉に自分の手足を見て、元に戻ったらどうなるか気が付いたアイリーン。

 「わ、わかりました! そうしますね!」

 龍海の言葉を承諾し、体育館を出ようとするアイリーン。

 彼女に向けて龍海は、自分のジャージに上着を脱いで彼女に投げる。

 「それ、腰に巻き付けてけ! 君の事情を知ってる人間もつれて来て話し合おう」

 アイリーンに何かとんでもない事情がありそうだと察した龍海。

 その言葉に頷いて、腰に龍海のジャージを巻いて出て行くアイリーン。

 「あの姿も、うちの人魚族の感じだが何なんだ?」

 龍海は、アイリーンから何故帝国民の気配を感じたのか気になっていた。


 「理事長先生、赤星君に私の能力を見せてしまいました。それと、事情を語るようにとも」

 アイリーンは理事長室でリーファに報告した。

 理事長室で着替えは済ませて制服姿である。

 「そう、ついに時が来たわね。」

 リーファがアイリーンに微笑んだ、龍海に同年代の女子が近付く事を許さない

彼女がである。

 「私の事情を聞いて、あの人は私を受け入れてくれるのでしょうか?」

 アイリーンが不安そうにリーファに尋ねる。

 「大丈夫よ、安心して家にお嫁にいらっしゃい♪」

 リーファが笑顔でアイリーンを抱きしめる。

 

 「お、お嫁って! は、はい!」

 アイリーンは照れながらも頷く。

 「う~ん♪ 雪花よりも可愛いわ~♪ 貴女なら、たっちゃんをお願いできる♪」

 リーファは再びアイリーンを抱きしめて頬ずりする、溺愛モードだ。

 「は、はい♪ ですが、そろそろ行かないと!」

 抱きしめられて嬉しいアイリーンだが、リーファに移動を促す。


 「そうね、愛する我が子が待ってるわ♪」

 アイリーンをお姫様抱っこし、リーファが理事長室を出て体育館へ向かう。

 

 一方、体育館で腕立てなどの筋トレをしていた龍海は、眼鏡をかけた制服姿の同級生を母親がお姫様抱っこして入って来たことに愕然とした。

 「……え? どういう事?」

 唖然とするしかなかった。

 「理事長先生、降ろしてください!」

 アイリーンが叫ぶと優しく床へ降ろされる。

 「たっちゃん、これから重い話をするけどしっかり受け止めてね」

 真面目な顔つきで龍海に語りかけるリーファ。


 当の龍海は、ポカンとしていた。

 何で家の母親と会って間もない同級生が親しいんだろう?

 「これから、私の事についてお話させていただきます」

 アイリーンが龍海に語りかける。

 「処理が追いつかないが聞くよ」

 龍海には、彼女の話を聞かないと言う選択肢は提示されなかった。

 「私は、今は無いある組織により人工的に生み出されたニュータントです」

 アイリーンは自らの出生の秘密を語り出す。

 「十五年前、スイッチユーザーと言うヴィランが起こした事件を切欠に魔界の

モンスターの力に注目する者達が現れました。その中でモンスターの力を人間に移植して超人を作る計画を行った組織で私は作られたんです」

 アイリーンが、一旦言葉を止める。

 「そうなんだ、辛い話をさせてしまってごめん」

 自分が彼女に興味を持ったから彼女に辛い事をさせたと龍海は思った。

 

 「いえ、話させて下さい。聞いて欲しいんです、私の事を」

 アイリーンが龍海に再び語り出す。

 「私に親はいません、私は人工子宮で作られました。」

 アイリーンの言葉に龍海は、デザイナーベイビーと言う単語が浮かんだ。

 「組織はヴィランを雇いヘルグリム帝国から誘拐して来た人狼、人魚、人工生命族の人達を殺害してその人達の因子やニュートラルウィルスを私に植え付けました。

 人間とモンスターを合成した疑似モンスターと言う存在が私なんです」

 アイリーンが語り終える。

 

 「わかった、その組織を潰しに行こう!」

 龍海の中で怒りが燃えた、錘を外しマスクを引きはがそうとする。

 「大丈夫よたっちゃん、その組織は私達が潰したから」

 リーファが戦いに行こうとする龍海を抱き止める。

 「そうなんだ、という事は彼女を保護したのも母さん達?」

 龍海がリーファに聞くとリーファが頷く。

 「何で、彼女を家の養子にしなかったのさ?」

 龍海が疑問を口にしたがこれはスルーされた。

 

 「……あの? 赤星君は、私の事をどう思ってますか?」

 アイリーンが龍海に自分の事を聞いてくる。

 「複雑な生まれとは思うけど、別に君は悪くないし特に思う所は無いよ?」

 素直に思う所を語る龍海、アイリーンに対して彼が思う所はなかった。

 その言葉に、今度はアイリーンが驚いた顔をした。

 「ど、どう言う事なんでしょうか?」

 自分が想像もしていなかった事を言われて戸惑うアイリーン。

 「父さん達がその時、君ごと全てを滅ぼさなかったなら良いんじゃない?

  悪い奴は倒して助けるべき者を助けた、君は家の身内みたいなもんだよ」

 アイリーンに微笑む龍海、それはアイリーンの素性を知り不安がなくなった安堵からの物だったがその微笑はアイリーンの心に光を与えた事を龍海は気づかない。


 「ほら♪ 何も心配なかったでしょ♪」

 リーファがアイリーンの所に行き彼女の肩を抱く。

 アイリーンは涙を流していた。

 「え? ちょっと! ごめん、泣かないで!」

 龍海は自分がアイリーンを悲しませたと思った。

 「す、すみません! 悲しいわけじゃないのにな、涙が止まらないんです!」

 アイリーンの流した涙は、自分の存在が肯定された事に対する歓喜の涙である事に本人も気が付いていなかった。

 「あらあら♪ もう、たっちゃんはパパに似て女泣かせね~♪」

 リーファは微笑んでいた。

 「何言ってるんだよ母さん!」

 リーファにツッコむ龍海。

 「女の子を泣かせた責任は取らないといけないわね、たっちゃん♪」

 リーファは龍海に責任を取るように促す、ここでようやく全ては母親が仕組んだ事に思い至る龍海。

 「いや、責任って! もしかして、だいぶ前から企んでただろ!」

 母親がアイリーンに親しくしてる時点で気づくべきだったと後悔する龍海。

 「私の最後の秘密は理事長先生達に保護されてから赤星君、いえ、龍海さんの花嫁候補として育てられたという事です」

 涙をぬぐったアイリーンが一番の秘密を語る、確かにだった。

 「うふふ♪ 逃げちゃだめよ、たっちゃん♪」

 リーファが遠回しに龍海を逃がさないと宣言した。

 「龍海さん、私の手を受け取っていただけませんか?」

 アイリーンが龍海に手を伸ばす、外堀が埋められた龍海に拒否権はなかった。

 「これからじっくり、関係を構築して行きたいと思います」

 龍海は覚悟を決めて、アイリーンの手を取り繋いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




 


 

 

 

 

 

 


 

 


 

 

 

 

 


 

 



 

 

 

 


 

 

 

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