龍帝恋歌編

第28話 補習と出会い

 ヘルグリム帝国が吸血夜会を壊滅させた喜びから数日後。

 ドラゴンブリードこと龍海は、新たな窮地に立たされていた。

 「やばい、マジで数学とか化学とか物理とか戦いで使わない所がわからない」

 久しぶりに登校した龍海は、机の上で教科書や問題集と格闘していた。


 彼を襲う新たな敵、その名は学校の勉強。

 学生でもある龍海が直面したのは学業の大幅な遅れ、魔界パトロールやヒーロー業にかまけすぎて出席日数や単位が足りていなかった。

 

 「夏休み中は補習しましょうね、学校の方で寝泊まりして」

 リーファも母である前に理事長、教育者として自分の息子が学業落ちこぼれと

 言う状況は見過ごせなかった。


 「本当に申し訳なかった、しばらく仕事は休んで学業に専念してくれ!」

 進太郎も龍海にあやまった、息子の学生としての人生を抜かしていた事を彼は恥じていた。


 龍海の高校一年生の夏休みは、補習で潰れそうになっていた。

 「自分の夏休みは守れないヒーローって、一体」

 自分を含めて数名の生徒と補習授業を受ける龍海、休憩時間では一人黄昏ていた。


 そんな龍海の足元に転がる消しゴム、窓から眼を話した龍海がそれに気づき拾う。

 「あ、あの! そ、それ! 私のです!」

 勇気を出した声をかけられる龍海が声をかけた相手を見るとピンク色の眼鏡をかけた目隠れの女子生徒がいた。

 「はい、どうぞ? そんなに勇気出さないで良いからね? 俺、別に一般人に危害を加えないよヒーローだし?」

 少女に消しゴムを返したついでに尋ねる。

 「ご、ごめんなさい! こ、怖がってるとかじゃないんです!」

 消しゴムを返された少女が慌てる。 


 「いや、めっちゃ慌ててるから! ニュータントが怖いってのはわかるから」

 龍海は名前も知らない少女をなだめようとする、苛めたとか言われたらたまったもんじゃない。

 龍海からすれば、一般人がニュータントを苛めてるようなもんである。

 「だ、大丈夫です! 赤星君は怖くないですから!」

 名も知らぬ少女は、何故か赤面して自分の席へと戻って行った。

 「こっちは君ら一般人の方が怖いよ」

 龍海が呟く。


 そして、補習担当の教師がやって来て授業を始める。

 「近年、空海などの歴史上の偉人がニュータントだったと言う説が有力視されておりますが授業ではそう言った説は除外して進めて行きます」

 日本史の教師が授業の合間にそんな事を言う、ニュートラルやニュータントが過去にもいたと言う説は近年の研究で発表されてきた。

 

 神話や民間伝承が真実で、歴史はそれらを覆い隠す時の政権のカモフラージュであったという見方をする学者が出てきたのだ。

 だが、現在でも歴史の教科書はそう言った説を採用せず旧来の歴史観で刊行されていた。

 龍海としては、そういう事は知っている人が知っていれば良いかなと思う。


 気になっていたのは、ピンク髪のあの子。

 自分に話しかける女子と言うのはとても珍しいので、龍海の頭に記憶された。

 

 昼休み、補習でも昼休みはある力華学園。


 龍海が交友のある甘粕力や鯖江光子は、夏休みをエンジョイ中。

 異母兄弟達も、同じくエンジョイ中で学校には来ていなかった。

 「俺だけが補習、トホホだぜ」

 校庭に出て来てベンチに座り弁当箱を広げる、今日の昼飯はタコスとチャーハンの二段重ね弁当だ。

 龍海がレンゲでチャーハンを掬おうとした時、彼女が現れた。

 「ん? 何か珍しい? 良かったら一緒に飯でも食う?」

 どうせ断られると思い、軽く誘ってみる龍海。

 「はい、よろしくお願いします」

 意外な事にピンク髪の少女は、龍海の隣でサンドイッチと牛乳を取り出す。

 「お、おう!」

 女子生徒の予想外の反応に龍海はビビった、なんだこの子は?

 

 黙々とパンを食べる少女、そんな彼女を見て龍海は自分の弁当箱からタコスを

 取り出して隣の少女に差し出した。

 「大丈夫か? 足りなければこれを食ってくれ」

 少女にタコスを勧める龍海、彼自身が自分の行動をわかっていなかった。

 「え? あ、だ、大丈夫ですよ! 足りてますから!」

 断る少女に龍海は正気に戻る。

 「わ、悪い! 俺は一体何をしてるんだ? すまん!」

 慌ててタコスを戻して食う龍海。


 「あの、そんなに慌てなくて食べないでも大丈夫です! 気にしてませんから!」

 少女の声も気にせず食い終える龍海。

 「は~、食った! そ、そうか悪かった」

 何となくバツの悪そうな顔になる二人。


 「ところで、君の名前は? 俺の事は知ってるみたいだけど?」

 意を決して、龍海が知りたかったことの一つを尋ねる。

 名前さえ知れば、相手は自分にとって未知の存在ではなくなり恐怖や不安が消えて安心できる気がしたからだ。

 「名前ですか? 私はアイリーン・チェリッシュと言います、ニュータントです」

 少女、アイリーンが名乗る。

 「アイリーンさんか、改めてよろしく」

 アイリーンが名乗った事で落ち着きを取り戻す龍海。


 「はい、よろしくお願いします。赤星君が休んでいる時にこの学園のヒーロー科に編入してきました」

 アイリーンが自分の事を語り出す。

 「そうなんだ、ヒーローなんだ? 良かった、同業か~♪ 何か安心したぜ♪」

 龍海が安堵の声を漏らす

 「え? もしかして私、何か疑われてたんでしょうか?」

 アイリーンが少し慌てた表情になる。

 「ああ、もしかして一般生徒かなって? 俺、あまり一般の生徒に接触するなって言われてるから怖かったんだ」

 気持ちを吐露する龍海、安心しきって気が緩んでいる。

 「す、すみません! 私があの時自己紹介をしていれば!」

 アイリーンが謝るのを龍海が止める。

 「いや、良いって♪ 君が来たときにいなかった俺が悪い♪」

 笑顔でアイリーンに語りかける龍海。


 龍海とアイリーン、後に共に冒険をして結ばれる二人の運命の出会いだった。

  

 

 

 

 

 

 

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