第27話 イエティの国を救え 後編
「これでしばらくは持つかな?」
街への被害を防いだドラゴンブリードが降り立つと、イエティ達が彼に向けて
平伏していた。
「街を守っていただき、ありがとうございました!」
イエティ達から一斉に礼を言われ、驚くドラゴンブリードが変身を解く。
「どういたしまして、頭を上げて下さい」
龍海の言葉に立ち上がるイエティ達、その中から年老いた男性が龍海の前へやって来て礼をするので龍海も相手に返礼する。
「私が族長のフットです皇子よ、感謝いたします」
フットさんがこの国の長らしいので、今度は逆に龍海が土下座をする。
「すみません、族長様に頭下げさせるとか本当にすみません」
平身低頭で謝り敬老精神を示す龍海。
「頭をお上げください、皇子はお父上と同じことを為される♪」
フットさんの言葉に立ち上がる。
「父が何か粗相を? 事件を解決する事でご容赦を!」
龍海が頭を下げようとするのをフットさんが止める。
「その事件については街の外でお話を、おそらくもう敵が来ております」
フットさんから再度の変身を促されて変身し彼について行くドラゴンブリード。
案内された穴を進むと外は吹雪で荒れた天候の雪山、フットさんが雄叫びを上げて
巨大な白い毛むくじゃらの雪男に変身した。
「掘削を急げ! 三十分後にエリザベス様が視察に来られる!」
敵が近付いている事にきずかない、吸血夜会のヴィラン達は再度街へ攻め込むべく油圧ブレーカーを動かしていた。
「皇子、あれが敵です! 迎え撃ちましょう!」
フットさん、いつの間にかボール状の氷塊を担ぎ上げていてヴィラン達へ投げた!
氷塊は重機に直撃し、重機が倒れる。
「て、敵襲だ~!」
不意打ちを狙て自分達が逆に奇襲をかけられたヴィラン達が逃げ惑う。
ドラゴンブリードが空を飛んで近づき、敵の撃ってくる銃弾を重力を操って
バリヤーを張り防ぎながら叫ぶ!
「警告する、大人しく縛に着けば地球できっちり法の裁きを受けさせてやる!」
敵が地球のヴィランと聞いていたので、従ってくれれば儲けものと形式的に警告をするドラゴンブリード。
だが、ドラゴンブリードを見たヴィラン達は投降などしなかった。
「デ、デーモンブリード! 我ら吸血夜会の怨敵、死ねえっ!」
ヴィランの一人が誤解しながら吸血夜会と所属を名乗り、手榴弾を投げて来る。
その攻撃を重力で弾くドラゴンブリードの目が赤く光った。
「お前ら吸血夜会か! なら判決は死刑だ、吸血鬼抹殺法により断罪する!」
ヘルグリム帝国は、ヴァンパイア族と言う吸血鬼を打倒して建国した歴史から
吸血鬼は抹殺すると言う法律があった。
「皇子よ? こやつらはヘルグリム帝国の敵か?」
フットさんがヴィランの一人を巨大な拳で握りながら尋ねてくる。
「こ、降伏する! 俺だけでも、地球で裁判を受けさせてくれ!」
巨大な雪男に握られたヴィランが命乞いをする。
「判決は宣告済みだ、地球の法で裁いて欲しければ魔界に来るな!」
命乞いをしたヴィランに冷たく告げるドラゴンブリード。
「皇子は正しい、魔界には魔界の法がある! 貴様らの罪を命で贖え!」
ヴィランを握りつぶすフットさん、投げ捨てたヴィランの遺体は雪に埋もれた。
吸血夜会のヴィラン達は、投降不可能と理解すると逃げ出す者と死に物狂いで襲い来るものに別れた。
「ま、魔界の奴らはチョロいって行ったじゃないか~!」
と叫びながら逃げたヴィランの首が、逃げた先から吹いた冷気に斬られて飛ぶ。
「役立たず共、お前らもういらない!」
叫びを上げてもう一人の雪男が乱入して来た。
「あれはフロスト、この裏切り者のはぐれ悪魔め! よくも帰ってきおったな!」
ドラゴンブリードが吸血夜会のヴィラン達を容赦なく重力を操って圧潰して行く中でフットさんが、乱入してきた雪男に向かい飛んで行く。
「あれが、吸血夜会と組んだはぐれ悪魔か? フットさんと因縁があるようだな」
吸血夜会を片付けたドラゴンブリード、フットさんの加勢に行こうとする。
「皇子は決闘の立ち合いを、こやつへの手出しは無用に願う!」
フロストとガッツリ手四つに組んだフットさんに叫びで止められる。
そう言われたら、止まらざるを得ない。
止まったドラゴンブリードにも異変が襲って来た、突如彼だけが霧の中にいた。
「霧? 空間が変わった!」
霧の中、目の前で一瞬だけ光った赤い閃光に反応し側転するとさっきまでいた場所へ赤い斬撃が飛び去った。
「部下の様子を見に来たら壊滅状態、あんたの仕業ねデーモンブリード!」
誤解しながら赤い目を光らせ牙を剥く金髪ツインテールの女、赤い騎士鎧と
サーベルで武装している。
「俺はデーモンブリードの息子、ドラゴンブリードだ! 誰だか知らねえが、吸血鬼のヴィランは殺す!」
三叉槍を召喚して構えるドラゴンブリード、アーマーの所為で父親と間違えられてるのに気付いてはいるが父親の敵なら自分の敵だ。
「息子? 本人でも息子でも私が殺してやる、吸血夜会再興の為に!」
吸血鬼の女騎士、エリザベスが血の斬撃を飛ばせばドラゴンブリードも穂先に周囲の霧から水を集めて斬撃を飛ばす。
「今度はこっちから行くぜ、串刺し刑だ!」
血と水の斬撃が空中でぶつかり合い相殺される、三叉槍を消し薙刀を召喚し直したドラゴンブリードが刃を突き立て地面から無数の氷柱を生やしてエリザベスを狙う。
「ぎゃあ!」
その攻撃は、回避運動を取ったエリザベスの鎧を削りサーベルを落とさせる!
「直撃を避け切られたか、なら今度は火刑で霧もお前も蒸発させてやる!」
デーモンアーマーの胴部の山羊頭が赤い狼の頭に変形し雄叫びを上げる。
その文字通り熱い叫びは、霧に包まれた空間を炎燃え盛る火災現場へ変えた。
「……く、私の作った霧の空間が! 忌々しい悪魔め!」
急激な気温の上昇で膝をつくエリザベス、傷は再生できても熱で意識が朦朧としてくる。
「お前たち吸血夜会の方が邪悪な悪魔だ!」
その隙をドラゴンブリードは容赦なく攻めに行く。
虚空から新たに取り出したのは鎖鉄球フランハンマー!
「地獄へ落ちろ!」
動けぬエリザベスに振り回したフランハンマーを叩きつける。
その一撃は罪人を断罪する漆黒の鉄槌となって、エリザベスを叩き潰した。
ドラゴンブリードは、相手の素性を知ることもなく父の代から続く因縁に終止符を打ち吸血夜会を壊滅させる功績を立てる事となった。
やがて、空間が元の雪山の景色に戻る。
「幹部らしいこのヴィランの死体は、冷凍してヴィラン対策室へ提出するか」
エリザベスの遺体を氷漬けにするドラゴンブリード、そのまま火葬したい気分だったが相手が地球のヴィランだと思うと自身も地球のヒーローとしての取るべき手続きを思い出す。
フットさんとフロストの兄弟対決も、決着が着いたようでフットさんが
フロストの遺体を踏みつけて泣きながら勝利の雄叫びを上げていた。
戦いが終わり、イエティ族の祝勝会を辞退してエリザベスの遺体を地球へと持ち帰ったドラゴンブリード。
ヴィラン対策室にエリザベスの遺体を提出した事で、事情聴取を受けた龍海。
「え? あの女騎士が吸血夜会のボスだったんですか!」
自分が倒した相手が予想外の大物だった事に驚く龍海。
事情を聞く側の担当官も龍海がエリザベスの素性を知らずに倒した事に
驚いていた。
「驚かれても困りますよ、ヴィラン組織のボスの情報なんて新人ヒーローに調べられるわけがないじゃないですか!」
龍海の叫びに、担当官も改善を検討するとのみ答えて押し黙る。
ヴィラン対策室では、育成を重視する方針から新人ヒーローにはデータベースから閲覧できる情報に制限が掛けられていた為に起きた擦れ違いだった。
事後処理でごたついたものの今回の功績により、ヘルグリム帝国のヒーロー業界での評価が上がった。
同時に地球のヴィラン達の勢力図が塗り替わり、やがて新たな事件へと繋がって行く事を立場的にはまだ駆け出しヒーローの龍海は知る由もなかった。
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