魔界パトロール 開業編

第23話 魔界パトロール始めました

 かくして、俺は人生で初のフォームチェンジ教習を終えた。

 フェリー救助の手柄は、師匠の元気さんが持って行った。

 

 「まあ、焼き肉焼いてやるから好きなもん食え食え♪」

 焼き肉店で師匠が、特上カルビやらお高い肉を自分の能力で絶妙な美味さで焼いて食わせてくれる。

 「相変わらず美味い、師匠はステーキとか焼肉を焼くの天才ですね」

 船会社からの謝礼金を、弟子に還元してくれる元気さんは面倒見の良い師匠だ。


 「はっはっは~♪ 覚醒してから、訓練がてらに散々料理の修行したからな♪」

 師匠の言葉になんとなく納得する。

 

 「それはさておき、お前は将帥としての勉強もしろよ? 男だけでなく女とも

付き合い方を学ばないと、今でも苦労はしてるみたいだがもっと苦しむぞ?」

 師匠から痛い所を突かれる。

 

 俺は特定の女性や男子からは好かれるが、異母姉妹達からは求心力が低い。

 「正直、その辺りも師匠から教えていただきたいのですが?」

 大人しくしていてもクラスの女子からも、マザコンドラゴンとか学園では最強最悪の魔王とか呼ばれて用がない時は避けられている俺にどう女子と接しろと? 

 

 家族以外の女性と接するって、両手の指で数えるほどしかないんですが(泣)


 そんな弟子の悩みに対して、師匠からのお言葉はというと

 「俺もその辺を教えるのは難しい、耐火性のない女性と付き合えないし」

 師匠も師匠で何か無理そうだった、何て駄目な師弟なんだ俺達は。


 「その辺に関しては、お前の父さんから聞いた方が早くないか?」

 師匠が俺の父さんと言う一番参考にならない人物を例に挙げた。


 「無理です、最初からヒロイン達が好感度マックスでスタートだった人ですよ!」

 俺と同じ年にまず三人のメイドと結ばれて、その後追加で俺の母と結ばれてからは毎日イチャイチャ暮らすって、チートハーレム主人公の息子は辛いよ。

 親がまったく参考にならないどころか羨ましい。


 「そういやそうだったな。進ちゃん、当時からエロゲー主人公って言われてたし」

 師匠が父さんのことを思い浮かべて言う、今でもエロゲー主人公ですあの親父!


 「噂じゃ、お前の祖父さんもモテたそうだぞ」

 師匠がさらなる言葉で追撃をしてくる。

 父さんだけでなくお祖父ちゃんもエロゲー主人公かよ! 

 何で代々続いているのに、俺だけそう言う出会いとかがないんだ!


 「師匠、俺もヒロインとの出会いが欲しいです!」

 俺は思い切り叫んでいた。


 「そんなもん、俺だって欲しいんだよ!」

 師匠も叫んでしまい、店員から小言を言われて俺達は落ち込んだ。


 その後この日は、美味いか? 美味いです以外の会話のない焼肉となった。

 

 彼らに出会いが訪れるのは、もうしばらく先の事となる。


 「前回の件は、ご苦労様だった。そして今回からは新たな仕事を頼みたい」

 父である進太郎から執務室に呼び出されて告げられる。

 「何です? 幼い弟妹達の育児の手伝いですか? 販売するグッズ関連?」

 思い当たる仕事内容を尋ねてみる龍海。

 「グッズは冬コミかな? それとは別に魔界関係の仕事だ」

 グッズの展開はあるのかと思いながら話を聞く龍海。

 「魔界関係? 向うでの何かの公務ですか?」

 忘れがちだが、自分は魔界の一国家の皇族で公務員だと思いだす。


 「公務だな、まあ現場は人間界だから問題なかろう。魔界パトロールだ」

 進太郎が業務内容を告げる、魔界パトロールとは人間界で起こる魔界絡みの事件の調査と解決を目的とした仕事だ。


 この地球がある人間界は、異世界である魔界からも狙われていた。

 はぐれ悪魔や魔獣と呼ばれる怪物に加え、魔界の国家からの侵略。

 これまでは既存の宗教組織の退魔部門や、民間の魔物狩人などが対応していた。

 

 人間界に侵略をしてくる悪魔達と同じ魔界に属し、その上で唯一国家として人間界と友好を結んでいるヘルグリム帝国は長崎の出島の如く魔界の窓口として人間社会から事件への対応を要求された。


 そしてできたのがヘルグリム帝国大使館魔界事件対応部、通称魔界パトロールだ。

 これまではヒーロー業務の一環としてデーモンブリードが兼任していたが龍海の成長を機会にドラゴンブリードへ業務引き継ぎと相成ったのである。


 「やるのは構いませんが、相手が他の国の王族だったりした場合はどうなるんでしょう?」

 重要な事を父に尋ねる龍海、そんな時突然デジタルスクリーンがポップアップして

画面に美少女の顔が映し出された。

 「たっちゃ~ん♪ ば~ばだよ~♪ 悪い子の本国はば~ばがやっつけるから安心してね~♪」

 その美少女、進太郎の母にして龍海の祖母の女帝メルティだった。

 用件だけ伝えると、デジタルスクリーンが消える。

 「父さん、本国が戦争していくつか敵国滅ぼしたのってまさか?」

 突然の祖母の連絡に、龍海の背筋が冷えた。


 「そのまさかだ、女帝陛下が戦って下さるから安心してがんばってくれ」

 進太郎が龍海に微笑む。

 「いや、安心じゃねえよ! 武力解決なの! 武断主義なの!」

 龍海がツッコみきれていないがツッコむ。


 「しょうがないんだよ! 魔界の国って、力こそパワーな奴らばっかなんだよ!」

 進太郎が嘆いた、魔界は戦国の世であった。

 「うん、わかったよ父さん。平和って、勝ち取らなきゃいけないんだね♪」

 龍海は、乾いた笑顔で魔界パトロールの業務を引き受けたのだった。

 

 


 


 


 

 

 

 

 

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