第18話 雪花氷乱

 俺の妹の話をしよう、その名は雪花。

 妹が家に帰って来たのは、4月も終わりの頃だった。


 「ゲヘへへへ♪ 蛇口ジャドー様のニュートラルジュース作戦は邪魔させんぞ」

 愛媛県内の学校の水道に、怪しい蛇口を付けて回る怪人の事件を追っていた俺。


 「昭和の悪の組織みたいなことしやがって、後始末が大変なんだぞ!」

 蛇口ジャドーを名乗る怪人を廃霊園まで追い詰めて叫ぶ。


 「黙れデーモンブリードの子倅っ! 貴様如きに我らネオジャドーの邪魔をさせてなるものか!」

 蛇口ジャドーが頭頂部の蛇口から黒い液体を放つ、それを避けたドラゴンブリードの背後の墓石が解けて消える。


 ドラゴンブリードが反撃に転じようと構えた時何処からかパカラッ♪ パカラッ♪

と軽快な蹄の音が鳴り響いてきた。

 「な、何だあの馬は!」

 蛇口ジャドーが驚いたのは無理はない、青緑色の肌に水草の体毛をした馬に跨ってやって来たのは姫カットの後ろをポニーテールに纏めて武士っ娘風の髪型にして

白い着物に青い武者袴の可憐な姫武者姿の雪花だった。


 「せ? 雪花っ?」

 思わす声を上げるドラゴンブリード。


 「お兄様、雪花が助太刀いたします!」

 凛とした目付きで蛇口ジャドーを睨む雪花。


 「吹けよ吹雪っ! 流れよ颪っ! 変・身っ!」

 馬上で雪花が叫ぶと、突如彼女の周りにだけ吹雪が発生し雪花の体を包む。

 吹雪の中で雪花の手が、足が、胴が、雪の結晶に包まれ結晶が砕けると具足へと変化して行き最後に彼女の頭部を包んだ雪の結晶が砕けるとその変身が完了する。

 妹よ、お前は何処に行ってしまたんだ。

 

 「ブリザードブリード、推参っ!」

 吹雪が晴れ現れたのは、氷の刃の薙刀で武装した白銀の鎧武者だった。

 「どこのどなたか存じませんが、お兄様に変わって私が裁きます!」

 薙刀を上段に構えて見得を切るブリザードブリード。


 

 「おのれ、小癪な~! ドラゴンブリードの前に貴様から倒してくれる~っ!」

 蛇口ジャドーはドラゴンブリードに背を向けて、新たに登場したヒーロー。

 その名も、ブリザードブリードへと突進して行った。


 「え? ちょっ! マジかよ!」

 このまま蛇口ジャドーを追う気が失せたので変身を解き、龍海へと戻る。

 俺はもう妹に任せて良い気がしていた。


 馬の歩みを止め、飛んでくる蛇口ジャドーの液体攻撃を空中で凍らせて薙刀で打ち落としていくブリザードブリード。


 「おのれ、こうなれば肉弾戦よっ!」

 ブリザードブリードへ突進する、蛇口ジャドー。

 彼は戦いで自棄になるのは、負けるフラグだとわからないのだろうか?

 「ケルピー!」

 馬の名を呼び走らせるブリザードブリード、構える薙刀は刃が巨大な氷の塊になりもはやメイス状態。


 氷の塊が、蛇口ジャドーの頭上に容赦なく振り下ろされ鈍い音を立てて哀れな怪人を叩きのめした。

 「……ネ、ネオジャドーに栄光あれっ!」

 最後の言葉を発して、蛇口ジャドーの体は爆散した。

 「うっわ、自爆装置ってマジで昭和かよ。怪人は雪花が倒したし俺も後始末に行くかな」

 目の前で起きた昭和特撮のような事態に背を向けて、怪人が起こした事件の後始末へ行こうとした俺を妹は見逃してはくれなかった。

 「お兄様~♪ 雪花はやりました~♪」

 変身を解き、花の様に可憐な笑顔で馬に乗り俺を追いかけてくる雪花。

 

 ケルピーと呼ばれた馬も笑顔で嘶き迫りくる、良い話シーンに見えるが怖い。

 「ブヒヒヒ~ン♪」

 ケルピーが俺に頭を摺り寄せて顔を舐めてくる。

 いや、ちょっとこの馬なんか舌がドロリとして毛がワカメの臭いがする!


 「まあ♪ ケルピーったら、もうお兄様に懐いたのね♪」

 微笑ましそうに俺とケルピーを眺める雪花、かんべんしてくれ。


 「お帰り雪花、再会を喜ぶのは後にして事件の後始末に戻らせて欲しいんだが?」

 雪花に尋ねてみる俺、迂闊な事は言えない。

 

 「そうですわね、では私の後ろに乗って下さいませ♪」

 笑顔で答える雪花、彼女に何の他意は無いと思う。

 俺の方が雪花に引け目やらを抱えているだけだ、正直逃げ出したかったが

後が怖いので俺は雪花の言葉に従いケルピーの背に跨った。

 

 俺の分の鞍がないので尻が痛かったが、情けなく雪花に抱きつくようにして俺は連れて行かれた。

 「お兄様の温もり、息遣い、感触、雪花は嬉しゅうございます♪」

 俺の心中など知らず頬を染めて喜ぶ雪花、ケルピーも何故か興奮気味に走る。


 「いや、その、馬のスピード速い、尻が痛い! やっぱ、お家帰して~っ!」

 情けない話だが、乗馬なぞした事がないので尻は痛いは何か振動は骨に響くわで

ほうほうの体でこの日は家に帰宅した。

 

 

 

 

 



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