第9話 抽選会

 「お家帰りたい、というか大会なんて投げ出したい」

 仲間達と東京に来た龍海は朝からげんなりしていた。


 「まあまあ、終われば帰れるだろ?」


 「逃げるなよたっつん、お前さんはヴィラン対策室直々の推薦なんだから」

 チームメイトの力と光子に左右から確保され、引きずられていく龍海。


 青空の下、東京は後楽園にある東京ドーム。

 今この場所に、日本全国のヒーロー科を有する高校の代表達が

集まっていた。


 ヒーローが社会に定着し、学生のヒーローも登場してから十五年。


 学校教育機関に本格的なヒーロー養成課程が誕生し、実戦以外にも若きヒーロー達の実力を披露する場を設けようと言う政治的な運動から誕生したのが春と秋の

全国高等学校ヒーロー競技大会である。


 別名のご当地ヒーロー甲子園が今では一般的な、全国の学生ヒーロー達が優勝を目指して競い合う三対三のバトル大会だ。


 アナウンスに呼ばれ、バックネットの方にある舞台へ龍海が登壇しボールの入った箱に手を入れて引き抜き黄色いボールを掲げて見せる。


 それと同時に、舞台上に設置された巨大モニターに対戦表が表示された。


 力華学園VSナポリ女学院


 「名前からして、ややこしい所を引いちまった」

 溜息をつく龍海。


 「ふむ、ナポ女か。 なにやら、イタリアっぽい学校らしいぞ?」

 光子が語る。


 「イタリアっぽいって、何だ?」

 力が首をかしげる。


 龍海達の後も各校の対戦相手が決まって行く、全てのカードが決まると

 各学校の紹介VTRが四十七校分、北海道の学校から順に流れ出した。


 「よさげな学校あったら、転校しようかな」

 他校の面々が帰る中、龍海は見る事にする。


 「その前に、理事長に拉致されて無理だな」


 「同感だ、諦めろよたっつん」

 光子と力が手を横に振る。


 北は北海道から南は沖縄まで、個性豊かな学校紹介が続く。


 「北海道や東北の学校は寒そうだな」

 阿寒湖で訓練をする釧路ヒーロー学園や、冬の八甲田山で自衛隊と対戦する

青森の私立アップルジャック女子学園などを見て寒さを嫌う龍海が呟く。


 「伊賀、甲賀、根来に何故か飛騨と4校くらい忍者が売りの学校ってどうなんだ?」

 力の言葉の通り忍者の里で知られる地方は、忍者のヒーローを売りにしていた。


 近年では、ニュータントと忍者の関連性が歴史学者により研究され物語の中の

フィクションとされている忍法がニュータントの能力ではと言う説が広まっていた。


 「東京は三宅島の都立国防高専か、優勝候補だな」

 光子が軍隊の様に規律正しい都立国防高専の生徒達を見て呟く。


 そして、力華学園のVTRが流れる。


 赤い屋根の鐘付き時計台のある洋風建築の校舎。


 人間もニュータントも等しく制服を着て、楽しく登校する風景。


 学生食堂では中華料理とメキシコ料理が人気。


 課外活動では、マスクを被った生徒達や教師がリングの上でルチャ・リブレの試合

を行っている。

 「あ~、部費獲得ルチャ興行の映像を流してるのか」


 「試合してるドラゴンのマスクにメイド服って、理事長では?」


 「母さん、恥ずかしいから止めてくれ!」

 母の試合姿に目を背ける龍海。


 力華学園では、部活の部費をルチャ・リブレの興行で稼ぐシステムがある。

 見物料は、ドリンクとポップコーン付きで500円。


 「「なんてカオスな学校だっ!」」


 「「学校に観客席と、リングがあるって!」」


 他校の生徒達が全員自分達の学校を棚上げして叫んだ。


 「他所も大概だが、家もカオスだよな。」

 カオスなのは否定できない龍海。


 そして、対戦相手である鹿児島のナポリ女学院の映像も大概であった。


 ローマを意識したトレヴィの泉のような噴水のある入口の校舎に向かって

「ごきげんよう♪」と挨拶をしながら登校するお嬢様達の集団。


 コロッセオ風の体育館では、巨大なピザを生み出し高速回転させながら投げつける

生徒とそれに対抗して掌から無数のパスタを生み出してそのピザを受け止めると言う

生徒同士の模擬戦風景は会場を唖然とさせた。

 「イタリア人に殴られそうな光景だな」

 素直に感想を口にする龍海。


 「ニュータントって、何でもアリだよな」

 自分を棚に上げて力がぽかんと呟く。


 「世の中広いな、あれと対戦する我々はまだ普通だ」

 光子も心に棚であった。


 こうして、誰もが皆心に棚を作っていると感じられた抽選会は終わった。


 これから学生ヒーロー達にとって、激闘の一週間が始まる。


 場面は変わりどこかの会議室、円卓の上にはホログラムスクリーンがぐるりと並ぶ。

 「さてヴィラン組織の皆さん、今年もヒーロー甲子園の時期が来ましたねえ」

 司会を務めるのは高級スーツに身を包んだ太った金髪眼鏡の白人、スマイリー。


 「ヴィランとはいえ人間が何の用? あなたの血はまずそうだわ、さようなら」

 ホログラムの一つから語りかける金髪の少女はエリザベス、吸血夜会の主だ。

 彼女は、関わる気がないようでホログラムスクリーンが消える。


 「我らは、下らん話に興味はない。修行の邪魔だ!」

 黒のローブに身を包んだ怪人、導師。

 ブラックカルマの首領である導師は早々に退場しホログラムがまた一つ消えた。


 「吸血夜会さんとブラックカルマさんは不参加と、お話ぐらいは聞いて

いただきたかったのですがとても残念です。」

ニヤリといやらしく笑うスマイリー。


 「おい、くだらん用件ならお前を食うぞ?」

ティラノサウルスの頭を持つスーツ姿の怪人が喋る、ダイノマフィアの

ドン・ティラノは苛立っていた。


 「どんな楽しいお話かしら? ミスター・スマイリー♪」

 優しく微笑む豊満なブロンド美女は悪の魔女組織セイラムの長、タバサ。


 ヴィラン組織の首領が語り出す度に、ホログラムスクリーンが消えて行く。

 「おやおや、お二方以外の皆さまは乗り気ではないようで。」

 スマイリーは動じない。


 「では、ダイノマフィアさんとセーラムさんはヒーロー甲子園襲撃に乗って下さる

と言う事で宜しいでしょうか?」

 スマイリーが確認しドン・ティラノとタバサが頷く。


 ヒーローが動く時、それはヴィランの動く時でもあった。

















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