第8話 パパが息子に用意する物
「フンガー博士、龍海への新型魔獣鎧の開発はどうなっている?」
バレンタインに妻たちに精を搾り取られてやつれた進太郎が、頭が無数の電球で
アフロみたいになっている人造生命族のフンガー博士に尋ねる。
戦闘用パワードスーツ。
装着者の命を守り能力を向上させる他、魔獣の力の付与など様々な機能を持つ鎧。
ヒューマン・ヒーロー達のパワードスーツが進歩する中、ニュータントも善悪を
問わず己の菌の力のみならずさらなる力を求めて強化を行う者達がいた。
中でもデーモンブリードこと進太郎は、ヒューマン・ヒーローとの交流から装着型の武装に着目し自国において研究と開発を行わせて軍や警察ならびに親友や自分の息子達へ使用させていた。
「は、皇族専用魔獣鎧ブリードシリーズの強化アイテム開発は順調です」
フンガー博士が自信満々に報告する。
ブリードシリーズはかつて進太郎が自身の能力や過去に戦ったヴィラン、スイッチユーザーの研究データ等を基礎に開発を命じた魔獣鎧である。
生きた変身ベルトである小型の眷属魔獣、ドライブモンスターが主人である装着者
の腰に巻き付き武装へと変化する科学とは異なる技術の産物だ。
携帯しなくても呼べば来る、エネルギーは空気や水と言った自然界の物
のみならず食事など複数の補給方法が取れ自立行動も取れる優れ物。
「スペックはもちろんだが、デザインはどうなっている?」
進太郎が気にしている事は性能よりもデザインだった。
「帝国の威信にも関わる問題だ、人間界の皆さんにきちんとヒーローと
認識していただける物に仕上げてもらうぞ?」
フンガー博士に真剣な目付きで命じる進太郎。
「ははっ! デザイン面もヒーローらしくすると言うこだわりは忘れません!」
フンガー博士も真剣に答える、彼は帝国に流入してきた日本の特撮やアニメに触れて育った世代でそのセンスを買われて進太郎に登用されていた。
「ブリードシリーズも、きっちり俺が監修したが見栄えというのは重要だからな」
自分のヒーロー姿が禍々しかったので、息子達にはヒーローらしい姿で活躍して
欲しいとコミケで知り合ったゲーム会社などからデザイナーを招き自ら監修も行う
と言う進太郎の親バカぶりであった。
こうして、ドラゴンブリードの新装備であるデーモンアーマーの開発が
着々と進行していた。
これが後にドラゴンブリードがフォームチェンジをする布石となる。
一方、父親がそんな事をしているとは知らない龍海はというと。
「よ~、バレンタインの英雄♪」
「プリンス、お疲れ~♪」
「英雄様のご出勤だ~~~♪」
と、教室に入った所でクラスメート達に迎えられていた。
「何だよ、普段はマザコンドラゴンとか言ってるくせに」
龍海の方は機嫌が悪い、リア充と寒さが嫌いなので。
「まあまあ、君がイベントを守ってくれたのは事実だから諦めて褒められたまえ」
光子が近付いて話しかける。
「お前の戦いが上映会されたの知らなかったのか?」
力がイベント当日の事を語る。
「ちょ、マジで? うわ、なおさら行かなくてよかったわ」
母ならやりかねないと思い浮かべ憂鬱になる龍海。
「まあ、お前がどう思うかはともかくありがとうな」
力が礼を言う。
「来年は、龍海君も一緒にバレンタイン祭参加しようよ」
狸耳を生やした少女、
「あ~? 来年の事なんかわかるかよ、鬼が笑うぜ」
信子を追い払う龍海、皆が楽しんだならそれでいい。
明日につながる今日くらい、そっとして置いて欲しかった。
「幼馴染に対してひどいよ~! 龍海君のマザコン皇子~~っ!」
信子が嘘泣きをしながら去って行く。
「たっつん、お前さんそう言う所が女子にモテないんだぜ」
力が龍海の肩をポンと叩く。
「理事長のガードが固すぎるから、女心がわからんのだろう」
光子も眼鏡を光らせて肩をすくめる。
「やっぱり、赤星君は問題物件だわ」
「専制国家の国家元首の家なんて、ブラック嫁ぎ先よ」
「お姫様に憧れていた夢を返して!」
「ドラゴンには近づくなって、ゲームだけじゃないのね」
先ほどまでの英雄扱いから一転して、女子達から遠巻きに散々な事を言われてハートをフルボッコにされた龍海だった。
龍海に恋の春が来るのは、まだ遠い。
「たっつん、いじけてんな~」
「たっちゃん、がんば」
「これは、今敵が出てきたら大惨事になるな」
異母兄弟達も、遠巻きに見るしかできなかった。
父親が自分のパワーアップアイテムの開発を始めた裏側で、息子はいじけていた。
果たして、この後どんな事件が起こるやら?
「は~い、皆さんおはようございます」
ジャージ姿で教室へ入って来たのはクラス担任で古文担当の川原春子先生。
豊満な体型に、穏やかな顔立ちながらも女子相撲部の監督で神職の資格持ち
と学園でも人気の先生だ。
「HRでの通達事項は、3月に東京ドームで行われる全国高等学校ヒーロー競技大会の参加書類が届きましたので推薦で参加決定済みの赤星龍海君以外の参加希望者
を募ります」
担任の言葉に嫌な顔をする龍海であった。
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