ヒーロー学校生活編

第6話 バレンタイン騒動 その1

 「海外のヴィラン組織で近年、東南アジアを中心に頭角を現して来たのが

殺人宗教結社ブラックカルマだ。宗教とヴィランが絡むと大規模な自爆テロなどを起こして面倒くさいぞ、戦う時は注意するように」


 渋い声で語るのは、ヒーロー社会学担当の男性教師だ。

 「そして、こういうヴィラン組織の連中は凄腕ばかりだ。諸君らはなるべく一人では立ち向かわないようにする事」

 と一旦言葉を切って生徒達を見回す。

 「交戦するなら、相手を仕留める覚悟をもって挑む事だ。そうでなければ、自分の生命だけでなく仲間や市民など大事な物も失う事になる」


 教師の言葉は重かった、生徒達全員が彼の生身と機械の半々の顔を見つめた。


 そんな事を思い出しつつ龍海は休日も鍛錬に励む。


 「そりゃ、先生の言う事が正しい。命のやり取りは難儀だが、そうなったなら自分達が生きて帰るには相手をやるしかねえぞ」

 龍海の師匠の一人、レッドブレイズこと火野元気が分身を作り龍海にけしかける。


 「だけど師匠、割り切れるかは別だよっ!」

 師の分身達を、全身から炎を出しながら格闘して行く龍海。


 師匠の分身達も、避けたり防いだり反撃してくるので中々倒せない。


 「割り切れとは言わん、だから無理に割り切らなくていい。お前の自由だ、悩みながら行けっ!」

 そんな弟子を元気は、否定せず見守る。


 「はい、せりゃっ!」

 さらに全身から炎を燃やして足から龍の尾のエネルギーを出しながら

蹴る跳び回し蹴りで分身を撃破する龍海。


 「おらっ!」

 技を出し切った弟子へドロップキックで奇襲する元気。


 「てりゃっ!」

 師匠の奇襲に蹴りで対抗する龍海、小さい爆発が起きるも互いに着地。


 「ち、流石にもうこのパターンは読まれるか!」

 悔しさと嬉しさが半々で呟く元気。


 「そりゃ、父さんやひいおじいちゃんにもやられてるから」

 龍海の返事に納得する元気。


 「ああ、そういやあの爺さんまだ現役だもんな」

 ゴート66世を思い出す元気。


 鍛錬を欠かさないヒーロー達、彼らに事件が迫りつつあった。


 「今年もまた、軍靴の音が鳴り響いて来た。諸君、聖戦の時だ!」

 どこかの地下室で、割れたハート型のマスクを被ったヒーロー風の男が語る。


 「バレンタインなど打ち砕かねばならん、真実の愛の為にっ!」

 その男、バレンタインクラッカーが拳を突き上げると手下の戦闘員達が同調する。


 2月、節分が終わればバレンタインデー。


 男子も女子も気が気ではない、義理だ本命だお返しは3倍からだなど企業の陰謀に

人の欲望が混ざり合って数十年経っても人類は愚行を繰り返す。


 「ホワイトデーも打ち砕く、何がお返しは3倍からだ、金が欲しいだけだろうがっ! 奴らが愛しているのは金だっ、ファッキンッ!」

 バレンタインクラッカーの叫びに戦闘員達も


 「そうだ! そうだ!」


 「醜い化け物は奴らの方だ!」


 「バレンタインを血祭りにっ!」


 「真実の愛の為にっ!」


 「愛に金銭はいらないっ!」


 愛にはぐれ、愛を憎み、愛を切り裂く男達が叫ぶ。


 いつの世も、嫉妬の力はすさまじい。

 「今年は他のヴィランとも手を組んで、派手に行くぜ~っ!」

 バレンタインクラッカーの狂気の野望が動き出していた。


 そして、力華学園にカメラは移る。


 力華学園では学校を上げて、バレンタイン祭が公式行事で催される。

 禁止するよりは、認めて教師や保護者全体で管理する方が有効という算段である。


 リーファ当人も、15年前のバレンタインで龍海を懐妊しているので恋愛事の行事は否定しない。


 全校集会でリーファが壇上に立ち、スピーチを行う。

 「皆さん、今年もバレンタイン祭のシーズンがやってきました。

女子は意中の男子を逃さぬように、男子は女子に恥じないよう授業も疎かにせず

恋に学業に青春を謳歌して下さいね♪」


 リーファのスピーチに生徒達から「理事長万歳~♪」と歓声が上がった。


 「ああ、頭が痛い」

 龍海は額を抑えた、面倒事の予感しかしないからだ。


 ヒーロー科の教室も、バレンタイン祭の話題で賑わっていた。

「ね~ね~♪ 誰かにチョコ渡すの~♪」

 女子は誰にあげるか義理チョコはどうするかで盛り上がる。


 男子は自分は、貰えるだろうかなどとそわそわしていた。


 「甘粕君、お菓子の作り方教えて~!」

 力はこの時期になるとできる、弟子入り希望の女子に群がられていた。


 「わかった、わかった、俺に任せろ♪」

 力がバイセップアップのポーズで引き受ける。


 そんな喧騒の中で龍海は憂鬱だった、理事長の息子や魔界の皇子の立場や母や妹達の干渉に加えて親しくない女子とはろくに会話もしないし自分から女子と交流を持とうとしない性格などから彼はモテなかった。


 女子からはマザコンドラゴンや歩く危険物件、国が絡むとか素行調査されるとか

理事長に処刑されそうで怖いなどと言われて恋愛どころじゃなかった。


 「本当楽しそうだな、皆」

 ぼけっとしながら呟く龍海、非モテな上に主催者側として警備で動かねばならないのでバレンタイン祭は好きではなかった。


 バレンタインクラッカーと言うヴィランが、愚かにも力華学園を狙っていようなどとは思いもよらなかったのである。


 学生達はただ、来るべき日を楽しみに平和を満喫していた。

























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