第5話 十五歳のキルマーク

 「あ~、ついに自分の手で怪人をやっちまったか」

 事件後、更新されたヒーローライセンスに付いた小さい金星を見て溜息をつく龍海。

 抹殺許可が出された悪の怪人とはいえ、人を殺めた事実は彼の胸を暗くしていた。


 「つらいわ~、戦いに勝ったって気分しないわ~、喜べないわ~、憂鬱だわ~!」

 ベッドの上でゴロゴロ、気分は悶々。


 ヒーローにも悩みは尽きない、ましてや多感な年代の少年なら尚更である。

 「あれだわ~、何か暗い底なし沼にはまった気分だわ~!」


 そんな龍海の部屋のドアを、何者かがゴンゴンゴンとノックする。


 「たっつ~ん、学校行こうぜ~♪」

 異母兄弟その一の幸太こうただ、赤毛で色白のわんこ系美少年。


 「たっちゃん、一緒に学校行こうぜ♪」

 異母兄弟その二はギュンター、紫の髪をリーゼントにしてる爽やかマッチョ。


 「たつみん、具合が悪いのか?」

 異母兄弟の三人目、褐色に緑髪の眼鏡イケメンの明人めいと


 三者三様で龍海を呼ぶ彼らに龍海は

 「初めて人を殺めて気分が悪いから、休んで海に行くわ~!」

 と素直に返す、一人になりたい気分だった。


 「あ! リーファママが来たぜ、たっつん!」

 幸太がドアの向こうの龍海に告げる。


 「たっちゃ~ん♪ ママもお弁当と水着用意するから、一緒に行きましょう♪」

 龍海にとってラスボスなリーファが、赤ん坊を抱きながら部屋の前にやってくる。


 「元気になったので学校に行ってきます、海には父さんと行って下さい!」

 リーファの声を聞き学ランに着替えて鞄を持って、龍海が部屋から飛び出す。


 龍海を追い、兄弟達も学校へ急ぐ。


 そして、力華学園ヒーロー科の教室に至る。


 ニュータントのヒーローのみならず、サイボーグやパワードスーツを

纏ったヒューマン・ヒーローが登場して十五年。


 力華学園は全国に先駆けヒーロー科を設立、他校より一歩先んじていた。


 「母さんにはまいったぜ、あれはヤバい」

 教室の机にへばる龍海、三十代で未だ少女の頃の美貌を保つ母は教育に悪かった。


 「たっつん、リーファママだけでなく俺らの母親からも好かれてるよな♪」

 幸太が隣の席で笑う。


 「たっちゃん、超パパ似だからママ達からモテモテだな♪」

 ギュンターが呟く。


 「遺伝が父親よりに極振りしてるよな、流石我らの長兄で将来の皇帝♪」

 明人の言葉に異母兄弟、全員が頷く。


 「俺ら年齢いっしょだろが? たっく、父さんの遺伝子、俺にだけ

自己主張強すぎだよ!」

 乙女ゲーで攻略対象になりそうな、母親似の兄弟達を見てうなだれる龍海。


 自分だけ父親似で、精悍な顔つきではあるがそれ以外個性がなくいわゆるギャルゲーやエロゲーの主人公顔というのが龍海のコンプレックス。

 姉妹達も母親似で、アニメやゲームのヒロインみたいに容姿に恵まれている。


 「母さんに似てる所ったら、鱗が体のあちこちに生えてるくらいだぜ」

顎の下の首回りの青い鱗を掻く、急所や体の要所を守るように鱗が生えてる龍海。


 ホームルーム前、そんな会話をしつつ午前の授業が終わる。


 そして、昼休み。


 異母兄弟達は、各自が適当に食いに行っていた。

 


 「さ~て、今日の昼はタコスとチャーハンか」

 龍海の二段重ねの弁当の中身は、どちらも母の故郷由来のメニューであった。




 クラスメート達もそれぞれが食堂や校庭などへ食事に行ったり教室で弁当を広げたりしている平和な学園生活。


 「よう、たっつん♪ 初のキルマークおめでとう♪」

 龍海がカルネ・アサダ・タコスにかじりついたタイミングで、ハンバーガーの袋を

複数抱えたマッチョ男子が現れる。


 カロリーブースターこと甘粕力あまかす・つとむが近付いてきて、ハンバーガーを一つ龍海の机の上に置く。

 「へっへ~♪ これは俺からのお祝いだ、食ってくれ♪」


 龍海の隣に座り、ハンバーガーを一人フードファイトで食っていく力。


 「龍海君、動画見たよ~♪ 甘粕君は、またバーガー?」

 声をかけながら龍海達に近づいてくるのは、サッカーボールサイズのおにぎり

を持った三つ編みツインおさげの眼鏡美少女だった。


 母の弁当を食い終えて、力からのハンバーガーの包みを開けた所で龍海

 「力もレンズも勘弁してくれよ、人を殺めるって難儀な事だぜ?」

 と返してハンバーガーに食いつく。


 「何で私だけヒーロー名なのさ? まあ、怪人とはいえ生きた人だしね」

 レンズと呼ばれた眼鏡美少女、鯖江光子さばえ・みつこは細い体型に似合わず豪快におにぎりにかじりつく。


 「ふ~、食った食った♪ 優しすぎるぜたっつん、コードDだぜ?

たっつんが折角やった、更生のチャンスを無駄にした相手が悪いんだよ」

 力が龍海に語りかける。


 「そうだね~、スクワッド入りする気もきちんと裁判受けて刑に服す気もなかったっぽいしね~あの犯人」

 いつの間にかおにぎりを食い終えた光子も語る。


 「まあ何にせよ、たっつんは別に悪い事をしたわけじゃねえよ。自分を責めるな」

 力が龍海の背を軽く叩く。


 「そうそう、怪人を野放しにして被害が出るよりましだから」

 光子も龍海を慰める。


 「ああ、二人ともありがとうな」

 友人二人に礼を言う龍海。


 こうして、楽しい昼休みは過ぎて行くのであった。










































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