第4話 はじめてのたたかい その4

 黒い馬の魔獣バイコーン二頭立ての戦車が空を行く。


 その様子を、蝙蝠型の小型の魔獣達が撮影しながら追走する。

 地上からもヘルグリム帝国の公用車が追走する。


 「父さん、本当に撮影するの?」

 戦車の後部座席でドラゴンブリードが、父であるデーモンブリードに尋ねる。


 「すると言うかされてるんだよ、父さんの代から皇族の公務として動画放送したり

本国のテレビで放送されてるぞ歴史に残る公式の記録だ」


 息子に答えるデーモンブリード、この戦車内での様子も撮影されていた。


 「もしかして、ニゴ生やヨーチューブのチャンネルでも?」

 子供の頃、父の活躍をネットで見たのを思い出したドラゴンブリードが聞く。


 「勿論、あれも我が家の収入源だがんばれマイサン♪」

 デーモンブリードが笑う。


 「ぎゃ~~~~~っ!!」

 ドラゴンブリード、悲しみの叫びであった。


 この時、ニゴニゴ動画の生放送では


 お父様、お兄様、がんばって~~♪


 たっつん、ファイト~♪


 よ~し、帰ったらお祖父ちゃん達と鑑賞会だ~♪


 進ちゃん、息子いじめるなよ~


 あの、息子さんを大事にして上げて下さい


 親子そろって、あんたらね~~~!


 流石殿下♪


 さすでん~♪


 パパとお前でダブル殿下だ!


 親子ヒーローがんばれ~♪


 と、身内を中心に生暖かいコメントが飛び交い高い再生回数を記録したと言う。


 一方、イエロースパイダーはと言うと。

 「ちくしょう、山を出たと思ったらまた山でしかも採石場か?」


 富士の樹海に作られた収容所、ヴィランケージを脱走したこの怪人。


 野を越え山を越えて辿り着いた場所が採石場で、自棄になっていた。

 「来るならきやがれヒーロー共! 返り討ちにしてやるぜ~~っ!」


 自分が撮影されているとも知らず叫ぶイエロースパイダー。


 そんな中、空から黒い馬の化け物が引く古代戦車がやってくるのを目撃する。


 「馬鹿な! ヒーローだけじゃなくヴィランも俺を殺しに来たのか?」

 盛大な勘違いをするイエロースパイダー。


 動画の生放送のコメントも爆笑の嵐。


 「父さん、連れて来てくれてありがとう。あいつとは俺が戦うよ」

 ドラゴンブリード、戦車から飛び降り地上へと降下。


 息子の自主性に任せてデーモンブリード、黙って見送る。


 「てめえはあの時のヒーロー野郎! 死ね~~~~っ!」

 イエロースパイダーが、着地したドラゴンブリードに糸玉をぶつける。


 当のドラゴンブリード、避けずに受けて糸に包まれる。


 イエロースパイダー、巨大な糸玉に近づき6本腕を振るいラッシュをかける!


 勝利を確信したイエロースパイダーが、背を向けると糸玉が爆発!!


 「いよ~~~~っし♪」

 爆音にガッツポーズするイエロースパイダー。


 「生憎と、その程度じゃやられないよっ!」

 爆炎の中から現れる青き龍の戦士。


 振り返ったイエロースパイダーの喉に真直ぐ、お返しの突きを叩き込む

ドラゴンブリード。

 「何故あの時、あの女性をさらった? 何が狙いだっ!!」


 イエロースパイダーと攻防を繰り広げつつ、敵から事件の情報を聞きだそうとする。

 「ああ? あの女の研究データを奪って、売る為だよ!」


 イエロースパイダーが吠える、その答えがドラゴンブリードの逆鱗に触れたとも知らずにドラゴンブリードを殺そうと糸玉を吐く。


 至近距離で発射された糸玉が、青い炎で消滅した。

 「そんな事の為に、人を誘拐して殺しかけたのかっ!」


 ドラゴンブリードの方が跳び退いて間合いを取る。

 「ニュートラルの研究データなんてもん、吸血夜会にブラックカルマにと

いくらでも買い手が出るからな~♪ 女をいたぶる趣味と実益を兼ねた俺の楽しみを

邪魔しやがって、てめえだけは許さね~~~っ!」


 ドンドン墓穴を掘るイエロースパイダー、ドラゴンブリードの心中に黒い怒りが

 燃え上がっている事など知る由もなく煽る。


 もういい、こいつは絶対に許さない。


 ドラゴンブリードは、己の怒りを開放した。


 父親譲りの魔王の力を呼び覚ます、青かったヒーロースーツは漆黒に染まり

全身から黒い闇が噴き出す!


 「な? 奴が黒くなっただとっ!」

 ドラゴンブリードの様子に驚くイエロースパイダーを闇の触手が襲いかかり

相手が抵抗する間もなく上空へ持ち上げて磔にする。


 「お前の処刑法は決まった! まずは極めて裂くっ!」

 イエロースパイダーの手足がゴキゴキと極められながら闇の触手に引かれる。


 「ぎゃ~~~~~~っ!」

 絶叫するイエロースパイダー、だがもう何もかもが遅かった。


 採石場の周囲が異界に包まれる。


 ワインレッドの空の魔界、ヘルグリム帝国の景色に世界が変わる。


 ドラゴンブリードが跳躍し、足裏から闇のエネルギーで描いた巨大な黒山羊の頭の

紋章が自分を押しつぶしに迫る。


 それが、悪の怪人イエロースパイダーが見た最後の景色であった。


 「気分が悪いけど、これが命を奪うって事か」

 ドラゴンブリード、初めての戦いの顛末であった。
















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る