第3話 はじめてのたたかい その3

 「父さん、何で俺は母さんの膝の上に乗せられてるの?」

 一仕事を終えて強制的に帰宅させられた龍海、自室を出た途端母の長い尾

に絡め取られて食卓に着かされる。


 「たっ君、男と言うのは妻や母親には勝てないんだよ」

 まだヘルグリム帝国の皇帝になっていない皇太子の父、進太郎。


 30代に入り、学生の肩書が消えてヒーローとパパと皇族の3足の草鞋を履く男。

 四人の妻との間に設けた子供の数は、現在12人。


 「は~い♪ たっちゃん、あ~ん♪ 旦那様も、あ~ん♪」

 進太郎と龍海、親子そろって妻と母には勝てなかった。


 「ダーリン♪ 龍海君♪ 私からも、あ~ん♪」

 龍海の異母の一人、人魚のメイも末子の赤子にミルクを与えつつあ~んをしてくる。


 「あなた~♪ たっちゃん♪ あ~んでちゅよ~♪」

 異母その二、赤毛の人狼のアニーも胸に赤子を下げつつ迫る。


 「二人とも、しっかり食べて♪ パパは特に精を付けて」

 異母その三、紫色の肌の人造生命族のフランも赤子を背負いながらトーストを焼く。


 「しかし、我が家もにぎやかになったのう♪」

 龍海の曽祖父、ゴート66世は人間と変わらない姿になっていた。

 彼の人間形態は白髪オールバックのマッチョ紳士である。


 「他の皆は?」

 龍海が他の異母兄弟や、祖父母について父に尋ねる。


 「ああ、他の子達はもう学校に行ってるぞ? 母上達は公務だ」

 進太郎が答える。


 「え? じゃあ俺も学校行かなきゃって、ぎゃ!」

 リーファが尻尾で龍海だけを絞める。


 「いけません、たっちゃんは今日はお休みしましょうね♪

ああっ、たっちゃんの良い臭い♪ 息子成分が補給されますっ♪」


 リーファが謎の言葉を放ち恍惚とする。


 「そういうのは父さんから吸ってよっ!」

 反論する龍海。


 「父さんは母さん達に毎晩吸われてるから、たっ君も母親孝行しなさい」

 進太郎の言葉に恨めしい視線を送る龍海。


 「ほっほっほ、長生きはするもんじゃな♪さてニュースでも見るか」

ゴート66世がテレビの電源を入れると、ニュース番組が流れていた。


 緊急ニュースをお伝えします。


 昨夜、ニュートラル研究で有名な女性研究者を誘拐し殺人未遂の罪で逮捕された怪人イエロースパイダーがヴィランケージの職員を殺害し脱走しました。


 ヴィラン対策室はコードDを発令、イエロースパイダーに対して全国指名手配

並びに賞金と抹殺許可をヒーロー達に交付しました。


 画面から流れるニュースに、ヘルグリム帝国のインペリアルファミリーは愕然。

 「母さん、離してくれるよね? これ、俺が行かなきゃ駄目な気がする」

  息子の言葉にリーファは龍海を膝の上から下す。


 「良いのか? 父さんとおじいちゃんが行くぞ? 父さんも、たっ君と同じ年

でヒーロー始めて手を血で染めて来たけどたっ君はまだ手を血で染め無くて良い」


 自分が経験してきたからこそ、進太郎は龍海を含む息子達にはまだ敵の命を殺める

ような経験はさせたくなかった。


 進太郎の本心は龍海のヒーローデビューも、大学生くらいまで遅らせたかった。


 「ありがとう父さん。でも、これは避けて通れないんだと思う」

 無理に笑顔を作り覚悟を決める龍海。


 「そうか、だがそんな顔をするようじゃあ心配だ父さんも行くぞ」

 進太郎も立ち上がると同時に


 「賞金がかかっとるしのう」

 ゴート66世が瞬時にベルトに変身し、進太郎に巻き付く。


 「え? ひいじいちゃん、大事なの賞金の方なの?」

 龍海、曽祖父の言葉に愕然。


 「たっ君。正義感も大事だけど、お金や生活はもっと大事なんだよ」

 世の世知辛さを教え、息子を諭す進太郎。


 いつの間にか朝食を片付けたリーファ達も、端末を広げてお仕事モード。


 「私達もでかけますわ♪」

 リーファ、ビデオカメラを片手に立ち上がる。

 異母達も何やら撮影機材を用意する。


 「ええっ! やめてよ母さん、そのカメラは何っ!」

 家族達が、我も我もと動き出したノリについていけてない龍海。


 「息子の変身シーンを最前列で撮影するのは、ママの使命ですっ!」

 豊満な胸をぼにゅん♪と張るリーファ。


 「たっ君、父さんの時もだけどこれが家の流儀だから諦めよう」

 息子の肩に手を乗せる進太郎。


 家を出て庭で、親子同時変身。

 デーモンブリードの変身シーンは使い回しがあるので省略。


 「さあ、たっちゃん♪ 変身よ♪」

 リーファがカメラを回して変身を促す。


 「変・身っ!」

 龍海が構えて叫ぶと、何処からか青い龍型のモンスターが飛んできて龍海の腰に巻き付き変身ベルトになる。


 ベルトのバックルになった龍頭が雄叫びを上げると、龍海の背後から荒波が起きて

龍海の全身を飲み込む。


 波が消えるとそこには、青い龍の外骨格を纏った超人。

 その名もドラゴンブリードが立っていた。


 「見よ! ヘルグリム帝国皇帝の血を受け継ぐ新たな英雄、その名も

ドラゴンブリードの爆誕であるっ!」

 デーモンブリードが、ナレーションをする。


 「きゃ~~~っ♪ 旦那様~♪ たっちゃ~ん♪ 素敵よ~~~♪」

 カメラを回しながらもはや、ただのステージママとなったリーファが叫ぶ。


 かくして、ドラゴンブリードは家族と共に怪人の討伐へと出陣するのであった。

































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