第7話 言語障害

白蛇が家の中に入って父が他界した後、私に言語障害が起きた。

私はその当時のことは覚えていない。

母、静子が話してくれた。


漢字を教えろと、うるさいくらい言うから教えてあげたのだけど、

どんどん覚えていってね、この子はものすごく頭が良い子なのだと思ったの。

教えても教えても、もっと教えろと言ってね、教え続けたら、あなたは口から言葉が出てこなくなってしまったのよ。

言葉を発するかな?と思っても、言葉というより嗚咽のように声が出るだけ。

だから、障害者の子が通う学校に小学4年生まで通ったんだよね。


その学校のことは何となく覚えている。

週に2回、保育園から近いバス停に1人で行き、そこからバスに乗り、裾野駅まで行く。すると、そこに母がいて、私は嬉しくて嬉しくて、力いっぱい母に手を振った。バスからピョンピョンと跳ねてバスから降り、今度は母と2人で電車に乗り、学校がある沼津へ向かった。


学校へ行くと、眼鏡をかけた優しそうな男の先生『稲葉先生』が待ってくれていた。稲葉先生と母はお話があると言われた。少しすると、若いお姉さんが私を迎えに来た。そのお姉さんに「一緒に遊ぼうか!」と声をかけられ、手をつないでもらって別室へ向かった。

窓から入る風が心地よい、ピンクの絨毯の教室だった。壁側に棚がいくつもあって、そこには私が大好きなオモチャがたくさんあった。

私のお気に入りは、小さなピンポン玉をバスケットゴールに入れる2人用のゲームだった。そして、時間内にすべての立体パズルをはめこむ大きなサイコロの形をしたゲームだった。

私は、稲葉先生も若いお姉さんも大好きだった。


私が大人になって知ったことだが、壁には大きな鏡が掛けてあって、実はそれがマジックミラーだった。稲葉先生と母は、そこから私の様子を観察して、母静子のことも私のこともカウンセリングしていったのだそうだ。


ある日、1人で外で遊んでいたら男の子を連れた母親と出会った。

男の子が私を指さし「あの子、変なの~!」と大笑いした。


え?


そう思った瞬間、男の子の隣にいた母親が言った。


「やめなさい。あの子、かわいそうじゃないの。」


よく解らないけど、自分は何かおかしいのだと初めて思った瞬間だった。


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