第6話 自覚の始まり

5歳の夏に父を亡くし、私は日中は保育園に預けられた。

母静子は専業主婦を辞め、父松雄が働いていた会社で働くようになった。

現代では考えられないかもしれないが、当時の私や友人は、保育園から家まで自分たちで帰ってきていた。

姉は習い事をしていたため、私は夕方遅くまで1人で家にいた。


天井の神棚から話し声が聞こえるようになった。

家に自分の他にも誰かいる。純粋にそんな思いでいたため、伯母たちの心配を余所に、特に寂しさを感じることはなかった。


保育園からの帰宅途中、道路で大怪我をしている人、草の陰で歩けず地面に貼りついている人、ジッとこちらを見ている人、何も言わずに自分の後ろをついてくる人を見かけるようになった。


家の玄関の壁には、気味の悪い顔が3つ描かれたお札がかかっていた。

当時、裾野市の深良という場所に暮らしていた霊能者のおばさんが魔除けとして描いてくれたものだそうだ。

必ずと言って良いほど、玄関を入ると私の背後にいた無表情な人も立ち去っていた。


ある日、私は母や姉や伯母と一緒に過ごしている時に、すぐ近くまで寄ってきた女性に「誰?どうしたの?」と話しかけたことがあった。

その時に見た3人の表情で「自分はみんなと何かが違う」と感じ始めた。


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