第2話 眠らない赤ん坊

 1969年、私は静岡県三島市にある病院に生まれ落ちた。

父は松雄。埼玉県の良家の出身である。仕事で同県裾野市にやってきた。

母は静子。裾野市の大工の棟梁の三女として生まれ育った。

静子が松雄の働く会社に入社し、そこで二人は知り合い結ばれた。


 退院すると、静子は実家に里帰りせず、松雄と長女が待つ新築の借家にやって来た。濃い緑と小川に囲まれた小さな神社が、道路を挟んで目の前にあった。


 病院ではごくごく普通に過ごした母子だったが、その家に来た直後から何かが変わっていった。

赤子は玄関から1番奥の、小さな、しかし専用の部屋をもらい、そこに寝かされた。母親と2人でゆっくり静かな幸せに包まれ過ごすはずだった部屋だった。

ところが、赤子はいつも窓の方を見てはキャッキャッと、まるで誰かにあやされているかのように両手を広げ、声をたてて笑い、眠ることをしなかったそうだ。

可愛いと思えるはずの我が子の笑い顔も、静子の目には気味悪く映り、やがては気を狂わせていった。



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