ゴールドマン編
1st PROJECT
アメリカ イリノイ州、ミシガン湖畔にあるアメリカ最大の都市シカゴ。
夜になっても眠らぬこの都市から更に二百キロメートル離れた山の中に、シカゴに負けぬ輝きを放つ『マイソンシティ』という大都市があった。
「ふぉぉぉぉぉぉぉ」
夜の街並みを奇声を発しながらオープンカーで爆走する。耳障りな程のエンジン音を響かせて、彼は周囲の迷惑もなんのその、割り込みや信号無視をしながら駆け抜けていく。
誰も彼を咎める者はいない、警察ですら見て見ぬふりだ。
資産家であり、事実上マイソンシティを牛耳っているアーチボルト家の御曹司、小さくふくよかな身体はどこか愛嬌があるものの、性格は自己中心的。おおよそ他人を気付かう事などできはしない。
それが、エヴァン・アーチボルトという男である。
そして彼こそが、後にゴールドマンという名のヒーローになるのだ。
――――――――――――――――――――
「さあみんな! 飲んで食って騒ぎたまえ! ああセックスする時は隣の別館でな」
『YEAHッッッッ!!』
エヴァンの音頭に合わせて招待客達が一斉に手に持ったグラスを飲んだ。
ここはエヴァンが保有する別荘の一つ、今夜は特に理由もなくただの気まぐれで開催されたパーティ会場となっている。
招待された人間はいずれもエヴァンが通うハイスクールの学友達、八割ぐらい顔を知らないが、いつもの事なので気にはしない。
パーティ会場には思いつく限りのジャンクフードやドリンクが並び、また成人した人向けにお酒も用意している。だがそんなものを守る者はここにはおらず、早速シャンパンがぶちまけられ、ビールをガブ飲みする学生で溢れかえる事になった。
エヴァンはその中をご機嫌に歩き回っていく。
通りすがる度に「エヴァン」「最高!」と声をかけてくるので尚気分がよくなる。
「ハァイ、エヴァン。元気?」
「やあ、いいおっぱいだ」
「いやん」
「君名前は?」
「エリーよ」
声を掛けてきたグラマラスな女の子のおっぱいを揉んでその感触を楽しむ。エリーという女の子は特に嫌そうな顔もせず、耳元に口を寄せて。
「あとでどう?」
と尋ねた。「どう?」とは勿論セックスの事である。
「あとでと言わず今から行こう」
「きゃっ、もう仕方ないなあ」
基本性欲に身を任せているエヴァンは強引にエリーの手を引いてパーティ会場を通り抜けていく。
さっきエヴァンが言った通り、セックス用の別館を用意してるのでそこへ向かう。外に出た時、エヴァンは会場の隅っこでキョロキョロと周りを見ながら一人でジュースを飲んでいる背の高い学生を見つけた。
「おーいおい、誰だナードを連れて来た奴は」
エヴァンはナード呼びした学生の元へ歩み寄る。エヴァンは身長が百六十も無い低身長かつ太っているので、背の高いナード呼びの学生と並ぶとまるでエルフとドワーフだ。
「おいナード、お前名前は?」
「ま、マシュー」
「OKマシュー、お前が何でここにいるのかは知らんが、ここはお前みたいな陰気臭い奴のいる所じゃないんだ。わかるな?」
「は、はい」
「よしいい子だ、お前はきっと大物になる。ほら出口はあっちだ」
マシューはとぼとぼと背中を小さく丸めてそそくさとパーティ会場を後にする。他の招待客はその光景をゲラゲラと笑いながら見送っていく。
ふと、誰かが「忘れもんだー」と言って皿に乗ったパイを投げ飛ばした。
パイは放物線を描きながら足を止めたマシューの元へと飛んでいき、振り返ったところで顔に命中した。
そこでまた大爆笑。
「すげぇ! お前なんなんだ?」
「こいつチームのエースなんだよ」
「エースピッチャー半端ねえええ」
会場は突如現れたエースピッチャーで盛り上がり始めた。パイをぶつけられたマシューはそのまま会場を後にして夜のマイソンシティへと姿を消す。
エヴァンはエリーを連れて別館へと訪れた。
驚くべき事に既に何人か来ており、早くも致していた。
「あいつら下半身に正直すぎだろ」
エヴァンも人のことは言えない。
二人は別館を登って適当な部屋へ入った。
早速エヴァンは上着を脱ぎ、エリーもまたシャツのボタンを一つずつ外していく。基本我慢強くないエヴァンであるが、こういう焦らす感じは大好きなので満面の笑みでエリーの胸元を見つめる。
シャツを脱ぎ、ブラも豪快に外したら、彼女の存在感が強い二つの乳房が顕になってプルンと揺れる。
「ワンダフォー」
思わず感嘆するエヴァン。
エリーはそのままエヴァンをベッドに押し倒して彼のベルトを外す。
「ほほ、積極的なんだね……積極的な女は大好きさ」
「あらほんと? じゃあもっと楽しませてあげる」
「いいねぇ、君に任せてみようかな」
「いいわ、そのまま楽にして頂戴」
エリーはエヴァンの顔を両手で挟んで自分の方へ向かせる。何をするのか理解したエヴァンは目を閉じて唇を突き出した。
両者の顔が近付いていき、そして……。
「えっ?」
エヴァンの首筋にガンタイプの注射器が突き立てられた。途端に中身を押し出されて彼の中へと注入されていく。
「な、なにを」
もがくが、エリーの力は意外と強くて拘束を解けない。
「安心して、ただの睡眠薬よ」
「なんで」
「それは……私が積極的な女だから」
薄れゆく意識の中、エリーの妖艶に微笑む姿が網膜に焼き付いていた。
――――――――――――――――――――
どれくらい寝ていたか分からない。しかし意識がハッキリしてくるにつれて自分が危険な状態にあるのがわかる。
まず両手が後ろ手に縛られている。足は椅子に縛り付けられ、腰も同様だ。首だけが自由なためダラりと前に垂れている。
肩と首が凝って仕方ない。
「おや、お目覚めかな」
男の声がした。目を開けて首を上げると、目の前に鉄格子があった。その向こうに声の主と思われる男がいた。
屈強な、何処かの軍隊にでもいそうな大柄な男だった。
「落ち着いて聞きたまえ、君は誘拐されたんだ。我々にね」
なんて事はない、ただの犯罪者だ。
死ぬかもしれない。
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