エピローグ


 最初に目にしたのは白い天井だった。続いて身体が拘束されたような不自由を感じるが、これは毛布を掛けられたためだとわかる。

 ゆっくりと上半身を起こして自分のいるところを把握しようとするが、突然腹部が痛んで渋々また身体を沈める。どうやらベッドに寝ているらしい、あまりにもふかふかなので落ち着かない。

 

「ここは……?」

 

 静かな部屋だった。病院かもと思ったがどうやら違うようだ、クローゼットが見えるし、鏡台もある。女性の部屋のように見える。

 生活感はあるのだが、どこか空虚な雰囲気があった。

 

 もう一度身体を起こしてみた。痛みはあるが、耐えられるものだ。

 顔を横に向けると窓があって、外の様子を伺えた。

 

「雪……」

 

 どうもここは森、もしくは山の中にあるらしい、視界には木々が並ぶ光景しか映らない。その木々も雪の帽子を被って防寒している。


「変だな、雪が降ってるのに寒くない」

 

 暖房器具が彼を暖めているからなのだが、それに気付くのはまだ先だ。

 そのまましばらくボーとしていると、ガチャとドアが開いて、女の子が入って来た。

 まだ十代半ばぐらいのあどけない表情を浮かべた少女だった。

 

「あっ、目が覚めたんだ……起きてて大丈夫?」

「あ、ああ……ここはどこだ?」

 

 少女はベッド脇に移動して、ちょこんとベッドに座る。

 

「ここは私の家だよ、君がこの近くの山の中で倒れてたから連れてきたんだ。最初は近くの診療所で入院してて、傷が塞がったら私の家に移してね、あっここはお姉ちゃんが使ってた部屋なんだよ、お姉ちゃんは今東京に行ってて中々帰ってこなくて」

「そ、そうか」

「うん! あっ中井先生が言うには、中井先生てのはお医者さんね。そのお医者さんが言うには、出血の割に大した怪我じゃないんだって。まあでも何針か縫ったみたいだけど。

 でも随分長い事眠ってたからちょっと焦っちゃったよ」

 

 矢継ぎ早に告げてくるので少々頭がいたむ、きっとこの少女はお喋りが好きなんだろうなと薄ら感じた。

 

「俺はどれだけ寝ていたんだ?」

「大体二週間ぐらいかな、その間のお世話はお母さんがやってくれたから安心していいよ、私のお母さん看護師なんだぁ、今は中井先生の助手をやってるよ」

「お、おう」

 

 聞いてもいないことをどんどん話してくれるのは有り難い事でもあるのだが、少し疲れる。

 

「でさ! 君って名前なんなの? 私は梨瑠花リルカっていうの、漢字で書くと難しいからカタカナで覚えてね。

 それで君は? 見たところ外国人ぽいけど、ちなみに私は生まれも育ちも福井県の日本人だよ」

 

 リルカ……漢字というものはよくわからないがとりあえず少女の名前は覚えた。それとどうやら自分は異邦人らしい。日本とはなんだろうか。

 いやそもそも。

 

「俺は……誰だ?」


 

 

 

 

 マジック・マスター 編 ~完~ 

 

 

 

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