魔王は呆気なく


 クラウザーに殴られた砂の魔王は、殴られた勢いのままに後ろへと飛ばされ、何度も地面の上を跳ねながら転がった。

 あまりにも呆気なくダメージを通した事に驚きつつも、クラウザーは相手を挑発する態度を取りながら近付く。

 

「おいおい魔王さんよ、あまりにも情けねぇじゃねぇか? あん? それともわざとですかぁ?」

 

 砂の魔王はバサッと広げたローブの上で仰向けになったまま答えない。口からは尚も砂が吐き出され続けている。そしてその砂から新たな砂の軍隊が生まれる。

 

「気持ち悪い方法でお友達増やしてよお、そうやってでしか仲良くできなくて楽しいでしゅかあ? 楽しいんだろうなぁ、ううん?」

 

 クラウザーは砂の魔王の元へゆくと、周りの軍隊を風の魔晶石で吹き飛ばしてから頭をひんづかんだ。

 

「ご尊顔でも拝見させてもら……なに?」

 

 フードを剥ぎ取ってその顔を見ると、そこには不気味な化け物の顔が……あると思っていたのだが、実際は虚ろな目をした人間の顔があった。

 しかもその顔には見覚えがある。

 

「お前、確か俺のローブを焦がしたやつ!? お前が魔王だったのか」

 

 砂の魔王は人間だった。いや砂を吐いてる以上人間ではないのだろうが、それにしても腑に落ちない。


「ちっ」

 

 考えている暇はない、こうしてる間にも砂は吐き出され続け、砂の軍隊は増え続けているうえに今自分は包囲されている。

 ひとまず砂の魔王の頭を火の魔晶石の力で燃やして砂を止める。色々調べたいが、まずは雑兵を片付けなければ。

 

 風の魔晶石をセットした篭手を構え、発動タイミングを測る。

 気を張り詰めて砂の魔物達を見据えたその時。

 

「のほおおおお朕は美味しくないのじゃあああ」

 

 ものすごく間抜けな声が聞こえた。

 

「あぁ?」

 

 興が削がれてしまったクラウザー、声がする方に目を凝らすと、砂の軍隊の足元を縫うように何か小さなモノが駆け抜けている。

 小動物のようにも見えるが。

 

「なんだ?」

「にょわああああ……おお! そこの若人よ! 朕を助けてたもれ!」

 

 小さな何かは砂の軍隊から飛び出してクラウザーの目の前に現れた。

 それは顔から直接足を五本生やした謎の生物、顔はよくある四足動物と同じく鼻が前に突き出ており牙がある。また鬣が顔の周りを覆っていて謎の貫禄があった。

 その顔から蹄のついた獣の足が五本生えているのだ。

 

「キッモ!!」

「キモイとはなんじゃああ! 朕はプリティーじゃぞ!」

 

 しかも喋る。

 

「なんだよ、こいつ。つーか俺の身体によじ登ってんじゃねぇ!」

 

 自称プリティな気持ち悪い生き物は、器用に五本の足を動かしてクラウザーの肩へとよじ登った。

 

「よーし! やってしまえええ」

「クソが!」

 

 気持ち悪い生き物を払い除けようとも思ったのだが、せっかくいつでも発動できる風の魔晶石を止めるのはもったいないので、とりあえず先に有象無象を蹴散らす事にする。

 最早慣れた動作で破片を混ぜて吹き飛ばしてから、肩に乗っかった生き物をペシっと叩き落とす。

 

「あべっ、痛いではないか!」

「うるせぇよ! てめぇはなんだよ!?」

 

 ガシャっと篭手を謎の生物へと向ける。セットされているのは火の魔晶石だ。

 しかし謎の生物は武器を向けられても平然としており、何故か誇らしげにクラウザーを見上げるのだった。

 

「よくぞ聞いてくれた。朕はブエルである。序列十位の高位の悪魔であり、地獄の総裁である。崇めよ!」

「断る」

 

 ガチっとクラウザーが篭手を操作して炎を噴き出す。炎はブエルのすぐそばを掠めて鬣をチリチリと焦がした。

 ついでに寝転がったままの砂の魔王を焼き払った。

 

「熱いではないか! 朕のキューティクルがチン毛みたいになったではないか!」

「あぁ? いいから話せ、その悪魔がなんでここにいんだよ」

「むむ、最近の若者は礼儀を知らんのう。しかし朕は人に知識と癒しを与える存在。その質問に答えてしんぜよう」

 

 無駄に前置きの長い悪魔である。

 

「簡単にまとめると、元いたところから無理矢理こちらへと召喚されてしまったのじゃ」

「誰にだ?」

「知らぬ、こちらに来た時には既に召喚者はおらんかった。少し調べたら、どうも時間が経つと自動的に召喚される仕組みになっておったようじゃ。

 ほれ、朕によく似たプリティーな置物とか見たことないかの、見た目そっくりな物を使うと召喚されやすいのじゃ」

 

 言われて見れば、確か夕方頃サンジェルマンと出会った時に見た置物と瓜二つだ。名前は忘れたが、顔から獣の足が五本生えてるのは同じだ。

 しかしプリティーではない。プリティーが何かは知らないが。

 

「確かサンジェルマン伯爵が置いていたやつだな」

「なるほど、では朕を召喚したのはそのサンジェルマンとやらじゃな」

「もしかしてサンジェルマン伯爵は砂の軍隊に対抗するためにお前を呼んだ……とか?」

「それはないじゃろ」

「だよな」

 

 わかっていたとはいえ、気が抜ける。おそらくサンジェルマンは砂の軍隊に対抗するために置物を置いたのだ。確か全部で七十個ぐらいだった筈、その中の一つぐらい砂の軍隊と戦ってくれる悪魔がいてもいいだろう。

 

「何故ならこの砂の化け物は朕と同じ地獄の悪魔じゃからじゃ、悪魔を呼び出すために大掛かりな召喚システムを作り、それに朕が引っ張られたわけじゃの」

「待てよ、砂の軍隊はそこで灰になってる砂の魔王が産んでるんじゃねえのかよ?」

「ふむ、そやつはただの中継点じゃの。ただ砂の軍隊を産むためと、魔王としてお主のような兵隊の囮になるために殺されてこんな姿になったんじゃ。

 ほんとに操っとる奴は他にいるぞ、まず間違いなく朕の召喚者」

「じゃあ、まさかサンジェルマン伯爵が」

「おそらく、そのサンジェルマンとやらが何らかの目的で悪魔を呼び出して人々を殺害しておるのじゃ……ふむ、今気付いたがこれは生贄じゃな、人間の血肉ないしは魂を触媒にして何かをやろうとしておる。早く止めんと皆殺しじゃぞ」

 

 あの人当たりの良かったサンジェルマンが、多くの人間を殺した砂の魔王を操っていたなんて、とても信じられない。

 ブエルの話が真実であるならばであるが、しかし不思議とブエルの言葉は納得できるものがある。

 

「クソが、あの野郎騙してやがったのか」

 

 今サンジェルマンはどこにいるだろうか。いや考えるまでもない、ミレニアムだ。彼は宝物庫に興味を持っていた。それに今は緊急避難施設になってる筈だ。

 殺戮が目的なら、このどさくさで向かっていてもおかしくはない。

 

「展開が早すぎてまだよくわかってねえけど、とにかくとばしていくぜ!」

「うむ」

 

 ブエルは突然眩ゆく光り輝くと、その姿を変える。

 光が収まると、ブエルはその身体を異形のモノから、人型のようにもみえる星型へと変化した。

 

「なんだその姿?」

「ヒトデじゃが」

「知らね」

「ふむ、この世界にヒトデは存在しとらんのか」

 

  

 

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