殺戮 開始
ミレニアムに戻って早々館長に呼び出されたため、クラウザーは館長室に赴く。中に入ると館長はデスクに座っており、隣には秘書が立っていた。他には誰もいない。
クラウザーはずかずかと中に入り、手前のソファーに座って机の上に足を置く。館長と秘書はその様子を眉を潜めながらもとりあえず無視して口を開く。
「クラウザーよ、今回の砂の軍隊が消えた事どう思う? あれから三日経ったが、これで終わったと思うか?」
「なわけねぇだろ、ほんとにそう思ってるなら頭の中に砂糖詰め込みすぎだぞ」
「ならば砂の軍隊は現れると?」
「知るか。けど完全に消えたとわかるまでは再び現れると思っといた方がいい」
「そうだな、そうしよう。ところでもう一つ君に頼みがあるのだが」
「砂の軍隊が消えたところを調べろってか?」
「話が早くて助かる」
「明日から行くとするか」
時々察しがいいのは美点だとクラウザー自身も自負しているが、さすがに今回の事に関しては館長に頼まれるまでもなく自分から調査にでようと思っていた。
これまで砂の軍隊が進軍を止めた事はない、たとえ首魁である魔王を倒しても進軍速度や方向こそ変わりはすれ、止まる事はない。またしばらくすれば魔王は復活するためどう足掻いても止められない。
言うなれば天災なのだ、通り過ぎるまで抗うか逃げるしかない。
それが、今回突然消え失せてしまった。このような事は前代未聞なため本来は調査して完璧に安全だとわかるまで警戒すべきなのだが、軍事や戦闘に疎い民衆からすれば危機を回避できたという喜びが強いのだろう、人々は浮かれて騒ぎ、祭りのような体相を醸し出していた。
「しかし夜になっても騒がしいですね」
秘書が窓の外を眺めて呟く、確かに騒がしい。
「あれは酒場があるところだな、全くこんな時間まで騒ぐとは。街の為政者として法を定めるか」
クラウザーも気になり、ソファーに座ったまま目を閉じて耳を澄ませる。
街の喧騒が少し多く聞こえる、どれもこれも何を言ってるのかわからないが、それが徐々に大きくなっている。
「なんか……おかしくねぇか?」
その時、窓の外遥かで火の手が上がった。祭りによるものでは無く、確実に火災と呼ばれる類の災害だ。
「おい! 燃えてるぞ!」
「一体何が!?」
秘書が外の様子を更に良く知ろうと窓を開け放った瞬間、翼の生えた蜥蜴人のような姿をした魔物が目の前に現れ、秘書を連れ去って空中へと上がった。
「うわああああああああぁぁぁ」
秘書の叫びを残しながら空へと上がり、そのまま秘書は強引に上半身と下半身を引きちぎられて絶命した。
剥き出しになった背骨に内蔵が絡みつき、さらに伸びた小腸がブランブランと揺れながらも下半身と上半身を繋いでいる。次第に肺や肝臓も零れて宙吊りとなった。
「なんだよあのトカゲ!」
「新手の魔物か!?」
窓を閉じて様子を伺う、魔物は空中に滞空したまま引きちぎった秘書の身体に食らいついて咀嚼を始めた。
「食ってやがる」
首筋を骨ごと噛み砕いてしまったため、秘書の頭が離れて地面へと落下する。頭は噴水の縁に衝突してグチャっと潰れてから噴水内に落ちる。
たちまち噴水が赤く染まる。
「あんたは皆を連れてどっかに隠れてろ!」
「お前はどうするんだ?」
「ぶっ殺してくんだよ」
クラウザーは窓を開け放ち、窓辺りに足をかけて跳びだした。勢いよく真っ直ぐ魔物の元へと魔晶石の力で飛んで、未だ捕食中の魔物を左手の篭手で殴った。
食べるのに夢中で気づかなかったのか、魔物はあっさりとクラウザーの攻撃を受けて地面へと落下し、その身を打ち付けた。
秘書の遺体は投げ出され、地面へと投げ出される。衝突の衝撃で食べかけだった腕が千切れ、肝臓などの内蔵が潰れていた。
クラウザーは倒れている魔物の前に降り立ち、篭手に火の魔晶石を嵌め込んで魔物へと向ける。
「ギィエエエエ」
奇っ怪な叫びを上げながら、魔物はクラウザーを憎々しげに睨めあげた。
起き上がろうとする前に篭手から炎が噴き出して魔物を包み込む。
「ギャアアアアアア」
断末魔の叫びをあげてのたうち回る魔物、例えその身を包む火が沈静化してもクラウザーは更に炎を浴びせて苦痛を与え続ける。やがて体表を焼き尽くして皮膚呼吸が不可能になったところでようやく魔物が息絶えた。
「死んだか……ん?」
死体を確認しようと足で小突いた瞬間、その部分が砂となって崩れた。
「まさか!」
他の部位を小突いてみると、同じく砂になって消えてゆく、もう間違いない。この魔物は砂の軍隊だ。
「じゃあ砂の魔王が現れたってことか!」
クラウザーは喧騒……否、悲鳴が轟く街の中へと駆け出す。
博物都市バリエステスはこの時、砂の軍隊による虐殺の舞台となっていた。
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