第4話 貧乏くじ男、冬訪清楚
私もとうほうせいそうって読んでました
「冬が来ました」
僕は本を読んでいた。寒い日はこたつから出ずにまったり過ごすのが一番だ。そんな僕の部屋に突然やってきた冬の知らせ。清楚な感じがする娘さんが丁寧に教えてくれた。もちろんチャイムを鳴らして。
「えっとわかってるけど。君は?」
「えっと大家の孫です」
「これは失礼しました」
「今までどこに行ってたんですか?何度か訪ねたのですがお留守で」
あれ一応大家さんには言ったんだけどなあ。
「ちょっと旅行に。まさに東ほう西走してましたよ」
「あ、私もとうほうせいそうって読んでました。あれ東奔って読むんですよ?ふふ」
楽しそうに笑う娘さん、かわいい。それより僕にいったい何の用事なのだろう。
「冬になったら暇になるって言ってたでしょ?」
「確かに暇だけど君に会うのは初めてだよ」
「そんな、一度挨拶のときにお会いして、それから何度かこの部屋に来てるのですが」
傷ついた様子の彼女に胸がチクリとする。僕には思い当たる節があった。きっとまたあの悪い癖が出たんだ。
「そうだったかな。仕事が忙しくなるとつい間違えるんだ」
僕はなるべく冷たい声を作って、
「君はもうこの部屋には来ないほうがいい。ここにいる男は悪い男だからね」
「えっと、はい」
帰っていく彼女。彼女が以前会った僕は今は本の中にいる。悪い僕だ。突然出てきてはいなくなる。なんであいつのときにしかあの娘さんは会いに来なかったんだよ。
不公平だ。
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