第11話 妹彼氏 の友達から彼女を紹介してもらう

 数日後



 新松戸駅の改札前。

 緊張して待つ私。

 夜のぬるい風が緊張をほぐそうとする様に私の体を包み抜けていく。

 今日は伊田さんが女の子を紹介してくれるというので、以前デパートでファッションセンスに優れる妹に勧められるがままに買ったサマージャケットを着てきた。

 服装はこれで良いか。

 靴も綺麗に磨いてきたし時計も嫌らしくない様にグランドセイ○ーをしてきた。

 そして今日行くお店に予約の再確認をする。

 何だかドキドキしてきた。

 どんな人が来るかなぁ。

 伊田さんには私の写メは送っていたが、相手の写メは所望しなかった。

 凄く可愛い、とは言っていたが女の人の凄く可愛いは競馬予想でヒロシの冒〇が的中する位の確率で可愛い子が来るので、せめて性格が良ければいいなぁと思って待つ。


 電車が停まる音がして暫くすると人が改札からぞろぞろと出てきた。

 この電車に乗っている筈だけど。

 伊田さんの姿を探す私。

「あっ、古村さーん」

 いた。

 私を見つけて手を振ってくれる伊田さん。

「どうもー本日はありがとうございました」

 そう言って近づく私。

 あれ? 1人だ。

「すみません、首藤は少し遅れるみたいです」

 今日来てくれる首藤さん。

 職業は公務員で実家は何か事業をやっているお金持ちの様だ。

 だから付き合うならなるべく経営者にしろ、と親に言われているそうな。

 経営者もピンキリだと思うけどなぁ。

「あっ、古村さん。昨日ラインでお願いしていた様に……」

「わかっています。コミケの事は内緒なのですよね」

「はいお願いします」

 伊田さんは友達にオタばれしたくないとの事で、コミケ関連の事は内緒にしてと言われていた。

 別に良い趣味だと思うのだけど、色々あるのだろうと察して了解の胸は伝えていた。

 また電車が停まる音。

 その直後に伊田さんのラインが鳴った。

「あっ、この電車で来たみたいですよ」

「そうですか」

 ついにご対面の時が来た様だ。

 改札から沢山の人が出てくる。

 その中で一際横に大きな女性がいた。

 相撲が強そうだなぁ、と思って見ていたら、

「あっ、イダちゃーん」

 と言って両手を振りながら近づいてきた。

 ……。

 顔は可愛いかな?

 でも横幅がどうみても前頭5枚目位ありそう。

 やっぱりこうなったか。

 めまいがする私。

 でも性格が良ければ。

 それに痩せさえすれば可愛いというのはあながち嘘でもなさそうだし。

「あっ、よっしー久しぶりー」

「イダちゃーん、この辺住んでいるんだっけー」

 盛り上がる2人。

 初めまして、と自己紹介しようとした所、

「あれーイダちゃん今日男の人と一緒なんだー。ごめんねー」

 そう言うと両手を振って去っていくよっしー。

 ん? あの人が首藤さんじゃないのか。

 手を振りながら去る前頭5枚目を見送りながら少しホッとする私。


「ごめん遅れた」

 抑揚の無い声で背後から不意に声がしたので振り返ると、


 黒くて長い髪、目が鋭く性格はきつそうだが正統派日本美人という感じの女性がこちらを見ていた。


「来たな麻由香。この人が私の友達のお兄さんで古村さん。古村さん、この子が大学時代テニスサークルで一緒だった首藤麻由香です」

 困ったぞ。

 もろタイプだ。

「初めまして。首藤です」

 お辞儀した後、髪をかき上げる仕草がたまらない。

「初めまして、古村です」

 良かった。

 豪華版(手すき和紙)名刺を作り直して本当に良かった。

 緊張しながら名刺を差し出す私。

 それを少し見た後、私をじっと見る首藤さん。

「会社を経営なさっているのですか」

「ええ、まぁ小さいですけど」

「そうですか」

 そう言ってまた私の名刺に目を落とす。

 参ったなぁ。

 何だか会話が続かない。

「ところで古村さん、今日はどこへ連れて行ってくれるんですか?」

 伊田さんが楽しそうに私に語り掛ける。

 今日食事をする場所は私に任せてもらっていたのだ。

 よし。

「では行きましょう」

 タクシーを停めて行先を告げる私。

 2人が後部座席に乗り込むのを確認した後私も助手席に座った。



「どこ行くんですか?」

 タクシーの中、私に聞く伊田さん。

「はい、綺麗なザイセリア(イタリアンカフェレストランの激安チェーン店)を見つけたのでそこに行きましょう」

 意気揚々と言う私。

 はぁ? という顔になった伊田さん。

 そうそうその顔、みんなそうなるよ。

 私はご満悦だった。

 一方首藤さんはというと無表情だった。

 別にファミレスが嫌だ、という女性を振り落とすテストな訳では無いので少しがっかりだった私。

 しっかし無表情な女性だなぁ、首藤さん。



 タクシーに乗って5分もしたら目的地に着いた。

 雰囲気の良い照明に浮かび上がる白壁のこじゃれた小さな建物。

「さぁ行きましょうか」

 笑いながら言う私。

「えーここーすごーい」

 伊田さんは急に明るくなった。

 知り合いの女性をここに連れてきたのは初めてだが、私がよく行くとても美味しい隠れ家的イタリアンレストランだ。

 しかし首藤さんは相変わらずの無表情。

 いいんだ。

 ここからが勝負さ。

 さて頑張りますか。

「あれここザイセリアかと思ってたけど違うみたいですねぇ。まぁいいや、入りましょう」

 私の言葉に笑う伊田さん。

 それとは対照的にやっぱり無表情の首藤さん。

 今日は1回でも笑わせたら私の勝ち、と思う事にした。



「いらっしゃいませぇえええ~?」

 店主が私を見て驚く。

 そりゃそうだろう。

 いつもアイパーの人や土方、水商売の男しか連れてこない私が美女を2人も連れてきたらこの反応は妥当だった。

「予約の古村です」

 私がそう告げると店員の女の子まで目を丸くしている。

「今日は……セクハラパーマの人(金古先輩)はいないんですね」

「ええ、たまには私だって女性とこういったお洒落なお店に来たいですからね」

 さり気なく女性と来ていないアピールをする私。

「古村さんやりましたねぇ。この美人さん達どこのお店の人ですか?」

 余計な事を言う女の子店員にあんまり余計な事を言うな、という風に口に人差し指を当てる私。

「……ではこちらの席にどうぞ」

 女の子店員はそれだけ言って逃げる様にカウンターに戻って行った。

 女性2人が着席するのを見て私も座る。

「古村さんはよく女の子がいるお店に行かれるのですか?」

 本日初めて自発的に話しかけてくれた首藤さん。

 なのに聞かれたくない事を聞かれてしまった。

 あの店員勘弁してくれ本当に。

 嬉しい反面、どうしよう、の気持ちもあった。

 だって正直にお話したら嫌われてしまうかもしれない。

 でも初対面の人に嘘を言うのも嫌だったので、

「はい、大好きですね。特にキャバクラは週8回行く事もありました」

 とても正直にお話しした。

「1週間は、7日ですよね」

 冷静な首藤さんの突っ込みが入る。

 なので、

「ええ、水曜日には2回行っていました。ダブルヘッダーです」

 更にとても正直に答えた。

 するとクスッと今日初めて笑ってくれた首藤さん。

「野球やるみたいにキャバクラへ行かれるのですね」

 笑った顔がとても可愛かった。

「はい。でも野球みたいに人数集めなくて良いので助かります」

 私がそう言うと伊田さんも笑いだした。

 そこからはとても和やかな雰囲気で楽しいお食事会となった。


 夏の夜。

 深夜の帳も温かく。


「盛り上がっている所申し訳ないのですがそろそろ閉店です」

 店長の言葉に慌てて時計を見るともう23時をとっくに回っていた。

「いやこれはすみません。あっそうだ、お嬢様方このお店のお手洗いはとても綺麗ですからちょっと見てきてはいかがですか」

 ぜひ見に行って頂きたかったので提案する。

 それを聞いて含み笑いをする店長。

「そうですか、じゃあ麻由香行こうか」

 ワインで程よく出来上がっている伊田さんが首藤さんの手を取りお手洗いに向かった。

 では私は……。



「すごーい。本当に綺麗でした~」

「星の砂や白サンゴもあって素敵」

 2人共感激しながら出てきた。

「それは良かった。じゃあ出ましょうか」

 そう言って私は入り口に向かってゆっくりと向った。

「えっ?」

「あの、お会計は?」

 ビックリする伊田さんと首藤さん。

「もう済ませてあります。店長ご馳走様」

 奥にいる店長が出てきて笑いながらお辞儀を返す。

 何でも無い、という風に手を振りながら外に出て、

「マクドと値段そんなに変わらなかったです」

 笑いながら言う私。

「えっ、でもブルネッロ開けているから絶対そんな安いはずは無いと思いますけど……」

 伊田さんが心配そうに私を見る。

「今日は楽しかったですし、誘ったのは私なので払わせて下さい」

 思った本心をを言う私。

「何かすみません。ごちそうさまです~」

 満足気に笑いながら言う伊田さん。

 そして首藤さんも楽しそうに私に近づいてきた。

「ごちそうさまです。やっぱり関西の人ってマクドって言うのですね」

 そして含み笑いで私を見る首藤さん。

「ええ、まだ言ってしまいます」

 首藤さんとの距離が近く、照れ笑いをする私。

「関東にはまだ慣れていらっしゃらないのですかね。だったら私地元群馬なのですがもう大学生の頃から東京近辺に住んでいるので、良かったら今度面白い所ご案内しましょうか?」

 私の服の袖を少し掴み、はにかみながら言う首藤さん。

 マジか。

 マジで良かった。

 マジで柳原君、伊田さんありがとう。

「はい、ぜひ!!」

 ちょっと大きな声が出てしまったが、そんな私を首藤さんは笑いながら見つめてくれていた。


 いつもキザだとは思うのだがタクシーを停めて伊田さんと首藤さんに乗って頂き、何処まで帰るのかを聞く。

 そして運転手さんに幾ら位料金がかかるかを聞く。

「まぁ8千円位ですかね」

 なので1万円を渡し、

「おつりは要りませんのでお願いします」

 そういった後、後部座席の窓を開けてもらう。

「今日は楽しかったです。また遊んでやってください」

 私が言うと、

「はーいぜひ。今度はヤナギーも来れたら良いですね」

 楽しそうに言ってくれる伊田さん。

「古村さんの都合の良い日、教えてくださいね」

 好反応の首藤さん。

「じゃあおやすみなさい。運転手さんお願いします」

 私がそう言うとタクシーは動き出した。

 見送る私を振り返り、いつまでも見つめてくれていた首藤さんの綺麗な目が私の心に焼き付き、タクシーが見えなくなった後まで気持ちを高揚させ続けてくれた。



 夜中の帰り道。

 暗くはあるが心はとても明るく、跳ねる様に家路につく私。

 タクシーに乗ろうかとも思ったが酔いを醒ましたかったのでこのまま歩いて帰る事にした。

 手に入れたばかりの首藤さんの名刺。

 その裏にはラインIDと携帯の電話番号が書かれていた。

 凄く綺麗な字を書く人なのだなぁ。

 綺麗な字を書く人が好きな私は更に嬉しくなってしまった。

 この様な素敵な出会いのきっかけを作ってくれた柳原君にもお礼をしようと思い、電話をするが出なかった。

 おかしいなぁ。

 今日の食事会も誘おうと思い、電話をしたのだが出なかった。

 というかここ数日、電話も出ないしラインも既読が付かなかった。

 おかしいなぁ、とは思ったが色々事情もあるだろうし、万が一就職していて忙しいと悪いからあまりしつこくこちらから連絡するのは控えよう、と思った。



 夏の夜。

 とても楽しい気分で帰る家路。

 ただ蒸し暑さがやけに気になってはいた。

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