第8話 妹彼氏 なぜか妹と上手くいっている

 去年の夏 


 

 

 蒼い空。

 白い入道雲。

 とても暑い日々が続く毎日。

 そんな日々が続いている中、婚活の為に服を買いにデパートへ行く事になった私。

 相変わらず結婚相手どころか彼女もいなかった。

 どこが悪いかは主に3点だそうだ。

 服装がダサい。

 髪形がダサい。

 顔がダサい。

 最後のはどうにもならないが後のはどうにかなるだろう、と今日一緒に服を買いに行ってくれる人が言っていた。

 待ち合わせ場所、柏駅近くの喫茶店でコーヒーを飲みながら何気なく外を見ているとやたら派手なミニのワンピースにハイヒール、白い帽子を被った白ギャルが歩いてこちらに向かってきた。

 また派手だなおい。

 その白ギャルは私を見ると店内に入ってきた。

「おい来てやったぞ」

 妹の美咲だ。

「お疲れ様。なんか買って来いよ」

 そう言って五千円を渡す。

「おう、わりーな」

 そう言って私からお金をひったくると妹はレジに並んだ。


「しかし相変わらず派手だなぁ。下着みたいじゃねーかその恰好」

 私が半場呆れながら言うと、

「るっせーな、これが流行ってんだよ」

 めんどくさそうに返す妹。

「その恰好親父殿に見せられるの?」

「お前が言わなかったら良いだけだ。言いやがったらお前死す殺す」

 そう言ってアイスコーヒーを一吸いで半分以上飲む妹。

 相変わらずだ。

 本当に変わらない。

 呆れる私。

 しかし妹は最近1つだけ確実に変わった所があった。

 ダメ人間にはとことん厳しいのに、超奇跡的にまだ柳原君と同居していた。

 相変わらず柳原君は就職が上手くいかず、最近は短期のバイト等をしている様だった。

 店内の視線がこちらに向いているのに気づく。

 妹少し煩かったかな、と思い周りを見る。

 視線は男からの物ばかりだった。

 私が見ると慌てて視線を外す男達。

 もう一度妹を見る。

 細身の体に長い脚。

 意外と大きい胸。

 中学、高校とガングロが許されるという理由だけで入ったテニス部の頃以外は美白に気を使い色白の肌。

 外見は相変わらず派手ではあるが、割と可愛いと思うし高校時代はいつも彼氏がいた。

 モテないタイプでは無いし、むしろモテるタイプだと思う。

 なぜ柳原君と付き合い続けているのだろうか?

「何見、て、ん、だ、よ」

 見続けていたら怒られてしまった。

「キモいからそういう風に女の子を見るんじゃねーぞ。おらっ、じゃあそろそろ行くか」

 こんな性格だけど本当に見てくれだけは悪くない。

 やっぱり柳原君の性格が良過ぎて別れられないのだろうか。

「なぁ」

「何だよ」

「柳原君のどこが好きなんだ」

 いつか聞こうと思っていた事を聞く事にした。

「な、何言ってんだ?」

 面食らう妹。

「いや婚活の参考にしようかな、と思って」

 正直な所を言う。

 妹は少し考える仕草になったが、

「自分の中の素直な気持ちに従っている所かな。ほらっ、カズ君って変に考えないで自分の思った様に生きているでしょ。そういう所」

 乙女の様な顔になって答える。

 行動は世紀末覇者みたいなのに。

「てめー、何恥ずかしい事言わせてんだよ。おらっ、早く行くぞ、はい行くー」

 そう言って私を無理やり立たせようとする妹。

 私が立ち上がろうとすると、急に何かを思い出した様な顔になった。

「おい、忘れていたわ。そういえばカズ君がお前に仕事の相談があるってよ」

 

 正直イヤな予感しかしなかった。




 約束の金曜日の午後、前に柳原君を連れて行ったお好み焼き屋で待ち合わせる。

 知り合いに健康になりたい人がいたら紹介してほしい、と言われたので今時アイパーでアメカジに雪駄がユニホームというとてもお洒落だけどガタイが良く、健康に人一倍気を使う同郷の金古先輩を連れて行く事にした。

 


「いらっしゃいませー」

 店内に入ると美人美乳ママが威勢の良い声で挨拶をしてくれる、馴染みのお好み焼き屋さんで待ち合わせた私達。

「ママ、今日もう1人来るんだけど」

 私が言うと、

「もう来てますよー、可愛い彼ね」

 とても楽しそうに言う。

 いつも俺達が来る時と全然対応が違うじゃねーか。

 くそっ。

 そう思いつつ座敷に向かう。



「あっ、お兄さんすみません。お忙しい中来て頂いて」

 申し訳なさそうに立って挨拶する柳原君。

「ご友人の方もお忙しい中、来て頂いて本当にありがとうございます。私柳原と申します。どうぞよろしくお願い致します」

 丁寧に挨拶をする姿は本当に好感が持てる。

「あっどうも、金古言います。私仕事がプロク〇ニ職人で、今の時期はそんなに忙しくないから大丈夫ですよ」

 優しい声を出しながら最低な挨拶を返す金古先輩。

 一体その仕事はいつが繁忙期なのだろうか。

 初対面の女性にもこういったとても素敵な挨拶をするので、お金を持っているにも関わらず全然モテない。

 金古先輩の素敵な挨拶に対し嫌みの無い笑顔で返す柳原君。

「さぁさぁお好み焼きますよー」

 ママが来てお好み焼きを焼き始める。

「ママー幾らなの?」

 金古先輩が問いかける。

 金古先輩は言動は最低なのだが、一緒に食事に行って後輩に金を出させる事はほぼ無い。

 だが、

「今日は古村さんが全額出すから大丈夫ですよー」

 そう言ってママは笑顔で私の方を見る。

 今日誘ったのは私だし、将来義理の弟になるかもしれない柳原君の用事で呼び出しているので、お代は全部私に付けて貰う様頼んでおいた。

「いや違くてママと一晩寝たら幾らなの?」

 相変わらず最低である。

 ガラス製の灰皿で思い切り金古先輩の頭を叩くママ。

「じゃあごゆっくり」

 笑顔でそう言うとカウンターに戻って行った。

「痛ってぇなぁ。火曜サスペン〇劇場だったら死んでいるぞ」

 痛そうに頭をさする金古先輩。

 相変わらず頑丈である。

「そういえば今日、何か仕事の相談があって俺を呼んだんだよね」

 金古先輩がこれ以上おかしな事をしないうちに聞こうとする私。

「あっはい。実はいつもお世話になっているお兄さんに良い話を持ってきました」

 満面の笑顔で言う柳原君。

 カバンから何かを取り出した。

 ほう、何だろう。

「実はこの健康電気器具なんですけどね」

 そう言って小さな電気低周波の様な物を見せてくる。

「肩や腰に当てると物凄く気持ちが良いんです。疲れやコリが取れるんです。勿論膝が痛い人、首が回らない等の人にも効きます。そしてこれはMAMORUコーポレーションでしか売っていない貴重な物なんです」

 ほう。

「で、僕はこれを売る代理店資格を取ろうと思っています」

 ふむ。

「で、これを売る代理店になったら次は5人勧誘して代理店契約を結んでもらいコア代理店になりたいと思っています」

 まさか。

「コア代理店になると1個売った時に貰えるマージンが上がります。更にスーパーコア代理店になると……」

 おいちょっと待てよ。

「なのでお兄さんも代理店になりませんか? 始めるなら早く始めた方が良いみたいです。チャンスを逃す訳にはいきませんよ。金古さんとても健康になるこの治療器具に興味ありませんか? 今なら何と3割引きで……」

 馬鹿だとは思っていたけどここまでとは。

「お前ちょっと表出ろよ」

 柳原君の襟首を掴み、外に引きずり出そうとする金古先輩。

「なっ、何でですか。ちっ、ちょっと金古さん?」

 婚約者の親族にこういう物を勧めてくるとは。

 この感じだと本当に良い事をしようとしたのにと思っていそうだし。

 少し教育が必要ですかね。

 激怒する金古先輩を必死に宥めながらそう思った。

 



 数日後




「という訳で美咲は柳原君の教育をちゃんとやりなさい」

 彼らの家に行き説教を試みる私。

「すいませんでしたお兄さん」

 反省しまくっている柳原君。

 まぁ君なら成功する可能性が無きにしも非ずだけど、親族やその友人に勧めちゃいかんよね。

 黙って聞いていた妹が急に立ち上がる。

 そして、

「お兄ちゃん、ちょっと」

 そう言って私を手招きするとベランダに向って歩き出した。

 


「おめーはそんな下らない事を言いに来たのか? 兄貴面してえっらそ、う、に。お前重体即死にされたいの?」

 柳原君の見えない所では態度も文法も本当にひどい妹。

 相変わらずだ。

 しかし、

「でもよー彼はちょっと常識教育が必要じゃないか?」

 私がそう言うとちょっと考える様な仕草になった妹。

 やっぱり思い当たる節が大量にあるのだろう。

 う~ん、と唸っている。

「それとよー、どんな女に対しても優しすぎないかい? あれじゃ勘違いしちゃう女の子がたくさん増えちゃうよ」

 私が更に言うとしゃがみ込んで頭を抱えだした。

 これはかなり思い当たる節がある様だ。

「でもそこがカズ君の良い所だからなぁ~」

 切ない声を出す妹。

 本当に惚れているのだなぁ、とは思った。

「まぁちょっと考えといてくれよ。あんまり周りに被害者出る前にな」

 これ以上話をしても仕方がない。

 後は2人に任せる事にして私は帰る事にした。




 しかしいつも思うのだがこんなに問題児な柳原君なのに、美咲が喧嘩らしい喧嘩をしたというのを聞いたのは1回しかない。

 いつか溜まっていたものが爆発したりしない物だろうか。

 そんな日が来ない事を祈るしかなかった。

 


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