第6話 妹彼氏 色々ばれる!!

 次の日の仕事終わり。

 いつもの喫茶店に呼び出された私。

 イヤな予感がしつつも車を走らせる。

 信号で停車。

 ふと空を見ると夕闇が街を覆っていた。



 喫茶店の駐車場にはもう柳原君の黒塗り高級車が停まっていた。

 ため息1つ着いた後、車を停めて店内に入る。

「おにいさ~ん」

 情けない声で呼ばれる私。

 その顔を確認する。

 左頬が少し赤い柳原君。

 良かった。

 骨折等大怪我はしていない様だ。

 レジでコーヒーを注文した後、彼のいる席の対面に座る。

「ばれちゃいましたぁ~」

 私が着席したと同時位に言う柳原君。

「どの程度ばれたの?」

 他にも内緒にしていた事が有る筈なので聞いてみる。

「はい、美咲ちゃんが内緒にしている事全部話さないと、お前重体即死にすると言うので……」

 ああ、これは妹が一番怒っている時に出てくる謎ワードだな。

「ホストをやっている事と、オタグッズを大量に持っている事と、元カノの悩み相談をよく受けている事を全部話しましたぁ~」

 最後のは私も知らなかった。

 まぁ優しい柳原君ならさもありなんだけど。

「そうしたら家を追い出されてしまいました」

 当たり前と言えば当たり前の事をしょんぼりとした様子で言う柳原君。

 かなり落ち込んでいる様子だった。

 しかし妹がこんな良い男と今後付き合える確率は今後ゼロだと思う。

 何とか仲直りさせなくてはならない。

「じゃあホストを辞めて、オタグッズを全部捨てて、元カノさんとも連絡とらない様にしないとならないねぇ」

 その後妹に話を持っていけば、重体即死にされる事は無いだろう。

「なっ、何を言っているのですかお兄さん!!」

 驚いた様に言う柳原君。

「僕はホストクラブで枕はやっていませんし、彼女がいる事もお客様に言っています」

 すげーホストだなおい。

「オタグッズの中には僕がコミケで本を売るお手伝いをした時、お礼でもらった本もあるので捨てるなんてとんでもない」

 変な所で真面目なんだよなぁこの人。

「元カノも困っているんです。僕しか相談する相手がいないんです。そんな人を見捨てられません」

 いや、言っている事はわかるのだけど、私の妹の気持ちも考えておくれ。

「という訳で本当に困っているんですぅ~」

 そう言って頭を抱えて悩みまくる柳原君。

 まずは1つ1つ説得していくしかなさそうだ。


 はぁ。


 めんどくさ。

 

 しかしそれにしても1つわからない事がある。

「ねぇ、うちの妹の事今でも好き?」

 一応確認をしておく。

「はい」

 即答を頂く。

 そして、

「僕は自分の中の素直な気持ちを捨てたくありません。なのでホストもオタグッズも元カノも、そして美咲ちゃんの事も諦めたくありません」

 そう言い切った。


 自分の中の素直な気持ち。


 彼が良く言う言葉だ。

 高校までは全て我慢して育ってきた、という彼。

 ある日を境に自分の中の素直な気持ちが一番大事、と気づき、それからはその様にして生きてきたと言っていた。

 しかしね。

 世の中にはね。

 それだけでは生きられない事もあるのですよ。

 それを教えてあげなくては、と思った。

 何気なく外を見る。

 もう真っ暗だ。

「今日は私の家に泊まりなさい。今日はゆっくり休んで明日から対策を考えよう」

 一息入れた方が良いだろう、と考えた私は彼を泊める事にした。

「すみませ~んお兄さん。宜しくお願いしま~す」

 頭を抱えている柳原君もようやく顔を上げた。



 私のマンションに到着。

 1階がコンビニになっていて、裏がマンションの住人が使う駐車場になっている。

 マンション住人用の駐車場。

 一番奥は来客用になっている。

 そこに柳原君の車を停めてもらう。

 ここに日をまたいで停める時はマンションオーナーである北井さんの許可がいるので、柳原君と一緒に行く事にした。

 

 ピンポンピンポン~


 1階のコンビニに入るといつもの音楽が流れる。

 レジの方を見るとちょうど北井さんが何時ものコンビニの制服では無く、スーツに着替えていてどこかへ出かける所の様だった。

 話しかけ、駐車場を貸してもらう許可を頂く。

「ああ、どうぞ。私急ぐのでこれで失礼。松山ちゃ~ん後宜しく~」

 そう言って北井さんは出て行った。

「はーい、オーナー」

 4階に住んでいる松山ちゃんが今日は店番だった。

 スポーツジムのバイトも掛け持ちしており、いつも茶髪で真っ黒に日焼けしている活発な女の子だ。

「あれっ? 古村さん、その人彼氏?」

 柳原君を見て言う。

 松山ちゃんは今、真面目で大人しそうな両想いの彼女と同居している。

 つまり彼女はレズっ子だ。

「いいえ違います」

 そう言って店を出ようとする私。

「ずいぶん綺麗な男の人だね、色も白いし。古村さんそっちに目覚めたりして~」

 ニヤニヤしながら私を見る松山ちゃん。

「それは無いから」

 即答する私に、

「最初はみんなそう言うんだって~」

 笑いながら言う松山ちゃん。

「そうですね。お兄さんはカッコいいですし」

 柳原君も話に乗ってきた。

 こういうコミュ力は本当にすごいと思う。

 柳原君に話しかけられて顔を赤らめている松山ちゃんはもうほっといて、私達は自室に向かう事にした。

 


 殺風景な私の部屋。

 断捨離したばっかりなので物凄く綺麗だ。

 3DKあるので4,5人は余裕で泊まれると思う。

「じゃあこれでも飲んでいて」

 缶ビールをテーブルに置く私。

 そして台所に向おうとすると、

「お兄さん、僕が何か作りますよ」

 そう言って立ち上がる柳原君。

 そういえばこの人は居酒屋でも勤務していたんだよな。

「じゃあお願いしてもいいかな」

 エプロンを渡す私。

「はい」

 柳原君は元気良く返事をして台所に向かった。

 


 台所の前に立ちエプロンをする柳原君。

 紐を結ぶ時の手つきが何だかエロい様な気がしてしまった。

 いかんいかん。

 松山ちゃんの言う通りになりかねなかったので、ラジオでもつけて待つ事にした。



「さぁどうぞお兄さん」

 ものの15分位で戻ってきた柳原君。

 テーブルにはサンドイッチ。

 パンの耳にチーズとケチャップをつけたもの。

 キムチチャーハン。

 ビスケットにチーズをのせたもの。

 等、如何にもおつまみ的な物が並んだ。

 これだけのものを短時間で作るとは大したものだ。

 しかも綺麗に盛り付けてあるし。

「頂きます」

 まずはサンドイッチを食べてみた。

 綺麗に三角に切られたサンドイッチ、変わった味がしてとても美味しかった。

「それコショウとマヨネーズを混ぜた物に少し醤油を入れたソースを塗ってみました」

 笑顔で言う柳原君。

 これは主夫の才能ありの様ですね。

 ならば話は割と簡単かもしれない。

「君は暫く主夫になる気はないの? そうすればホストもしなくて良いだろうし、美咲は折角普士通入ったばかりでどうせ辞める気なんて当分無いだろうし、オタグッズは私の家に避難させておけば良いし、元カノの相談は美咲が出勤している時にでも受けてあげたら良いんじゃない。とりあえず次の仕事が決まるまで暫くそうしたら?」

 と、提案してみた。

 これだったら美咲も文句は言わないだろうし、私も話を持っていける。

 少し考える柳原君。

 そして口を開く。

「やっぱりそれは出来ません。美咲ちゃんにばっかり働かせる事なんて」

 本当にいい奴である。

 しかしそうなるとどうしようかねぇ。

 柳原君の作ってくれた料理を食べながら、あーでもないこーでもないと私達は話し合った。


 ピンポーン


 唐突にチャイムが鳴る。

 立ち上がり玄関に向かう私。

「どなたですかー」

 靴を履きながらそう言うと、

「私、美咲。お兄ちゃん開けて」

 ドアの向こうから聞きなれている筈なのに聞きなれていない声がした。

 普段私を呼ぶ時はおい、だとかお前、のくせに柳原君の前でだけはお兄ちゃんなんだな。

 あれっ? という事は。

「すいませんお兄さん。一応お兄さんの所にいる事はラインしておいたので」

 なるほど。

 行方不明で妹を心配させない様にとの配慮かな。

 どこまでも気の利いた男である。

「お兄ちゃんカズ君いるんでしょ。お願い開けて」

 普段だったら、古村さーん借金返しましょうよー借りたものは返さなくちゃならないって小学校で習いませんでしたー? とか、古村俊開けろ!! 国税局だ!! 早くしろ!! ドア破るぞ!! とか端で聞いていた人達がえっ、古村さんってそういう人なの? と誤解される様な事を大声で言って開けさせるのに今日はずいぶんと可愛らしい。

 普段からぜひそうして頂きたいものである。

 一応柳原君の方を見る。

 頷いて近づいてきたので大丈夫かな? と思いながらドアを開けた。



「カズ君ごめん。私、カズ君の気持ちになって考えていなかった」

 泣きながら言う妹。

 そんな妹を優しく抱きしめる柳原君。

「美咲ちゃん。悪いのは僕だ」

 俺ですらそう思う事を言う。

「ううん。いきなり叩いてゴメンね。バーベル痛かった?」

「大丈夫、少し驚いたけど。相変わらず力強いね」

 なんちゅう物で人を叩いているんだ。

 やっぱり妹が悪いわ。

 そう思いながら成り行きを見守る私。

「許してくれる?」

「うん」

「ありがとう」

 急に妹の唇を奪う柳原君。

 何回も何回も口づける。

「ちっ、ちょっと、んっ」

 妹もビックリした様な声を上げながらも身を委ねている。

「すみませーん、寒いんですけどー」

 ここで始められたらたまったものではないので一応声掛けをする。

「あっ、お兄さんすみません」

 我に返った柳原君。

 妹が小さく舌打ちをしたのが聞こえた様な気がしたが、多分気のせいだと思う事にする。

「まぁ中で一杯やりませんか」

 仲直りしたみたいなので提案してみる。

「はい」

「うん、お兄ちゃん」

 2人共頷き、家の中に入ってきた。

 はぁ良かった。

 まずは一安心。

 宴は深夜まで続き、2つしか布団が無かったので妹を真ん中にして川の字になって寝る事にした。

 部屋を暗くした後、

「お兄ちゃんありがとう。ちゃんと会社の先輩紹介してあげるからね」

 私に顔を向け小声で言う妹。

 頭を撫でてやると満足そうに笑顔になった後、上を向いて目を閉じた。

 まぁ期待しないで待つ事にしますかねぇ。

 そう思い私も目を閉じた。



 妹にも柳原君という素敵な恋人がいる。

 柳原君にも素敵とはとても言い難いが美咲という恋人がいる。

 私にはまだそういった人は現れない。

 

 自分の中の素直な気持ちに従っているのです


 柳原君がよく言うこの言葉が妙に私の耳の中で響き続けていた.


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