第2話 妹彼氏 色々やり手
その後は庭に出て食事会となった。
もうとんちゃん(もつの焼肉)の用意は出来ていて後は焼くだけになっていた。
肉奉行の親父殿が次々と肉を網に載せる。
「さぁどうぞ、もう焼けていますから。お口に合うかどうかわかりませんけど」
母親が次々と皿に取り柳原君の前に置く。
「あっ、どうもお母さま。ありがとうございます」
「まぁどんどん呑んで食べてくれよ、グァアアッハハハハハ~」
「あっ、ありがとうございますお父様」
どんどん地酒を注ぐ親父殿。
柳原君は相当呑まされていたが全然顔色が変わらない。
お酒に物凄く強いのだろうと感じた。
もうまるで本当の家族の様に仲良くなっている。
「ところで柳原君は何をやっている人なのかね? グァッアアアッハハハハ~」
完全に出来上がってしまった親父殿。
そう言えば私も何をやっている人なのかは知らない。
バイト先で妹と知り合ったという事だけは行きの車中で聞いたのだけども。
「フリーです」
自信満々に答える柳原君。
「フリー?」
親父殿が素面に戻った。
やばい。
親父殿は極端にフリーターを嫌う古い人だ。
妹もそれを知っているはず。
ちゃんと教えとけよ!
「フリー? というのは……ジャーナリスト……とか?」
何とか良い様に解釈しようとする親父殿。
「いえ、テレアポと居酒屋です」
爽やかな笑顔で言う柳原君。
本当にやばい。
もろフリーターだ。
親父の表情が変わる。
しかしそこからが凄かった。
「今はしがないフリーターですが将来は自分で起業して居酒屋をやりたい、と思っています。今はその為に修行をさせて頂いている状態なので雇用形態はアルバイトですがあと2か月で正社員にして頂けます」
まるで空気を読んだかの様な回答。
親父殿の表情が穏やかになった。
「そうか、夢があるんだな」
「はい」
そしてまた仲良く呑みだした。
いや凄いコミュ力だなぁ。
和やかな雰囲気。
楽しい宴は深夜まで続きそうだった。
普通に里帰りの予定だった私は21時から地元の友達と呑む予定だったのに、とてもじゃないが行ける様な状態ではなくなったので断りの電話を入れよう立ち上がる。
そうだついでに、
「おい美咲さんちょっと来て」
こいつにも話を聞いておこう。
「結婚の許可をもらいに来たの?」
家の裏庭で妹に話を聞く私。
「んなわけねーだろ。同居のお願いだっつーから連れてきたのに……。ホントビックリしたわ」
未だに興奮さめやらない妹。
何か珍しくモジモジしている。
「美咲はどうしたいの?」
一応聞いてみた。
「そりゃ、カズ君が、結婚したい、言うなら、嬉しい……」
だんだん声が小さなる妹。
ニヤニヤして本当に嬉しそうだ。
「でも~私~普士通に~入社するし~入社前に~結婚って~どうかなーとは思うけどぉ~困ったなぁ~」
物凄いにやけ顔で困った言っても全然説得力がねーぞ、
と言おうとしたのだが、
「迷惑だった?」
私より先に口を開いたのはいつの間にか裏庭に来ていた柳原君だった。
「俺、美咲ちゃんに迷惑な事言った?」
怖い位に真剣なまなざしの柳原君。
私はこの場を離れようとしたのだが、妹が私のデニムのポケットをガッチリ掴んでいて逃げられない。
「ううん、そんな事無いよ」
可愛い声を出して小さく首を振る妹。
いつもの様に「んなわけねーだろ」と言って唾を吐いたりしない。
「じゃあ何で!!」
大きな声を出す柳原君。
妹も私もビクッとした。
「いや、でも、プロポーズしてもらってないし……」
モジモジしながら言う妹。
少し冷静になった感じがする柳原君。
「一緒になりたい、と言うのでもう伝わっていると勝手に思っていた。本当にゴメン。じゃああらためて言わせて」
そう言うと妹の両肩をガッチリ掴み、
「あなたの事が好きです。結婚してください」
シンプルだが直に伝わるプロポーズをした。
ひゃー、イケメンのプロポーズはこうやるのか。
何だか恥ずかしくなる私。
妹の方を見ると耳まで真っ赤だった。
「……はい。宜しくお願いします」
小さく返事をする妹。
その返事に穏やかな表情になる柳原君。
「ありがとう」
そう言うと爽やかな笑顔になり、ゆっくりと妹の唇に自分の唇を合わせた。
「ちっ、ちょっと、んっ」
くぐもった声を出す妹。
一旦口を離し、
「ようやく触れる事ができた。嬉しい」
そう言うとまた妹に口づける柳原君。
こんな場早く離脱したいししなくてはならないと思うのだが、握力50の妹にデニムのポケットを未だに掴まれているので中々手が離れない。
「おい離せよ」
小声で言ってみるが聞こえていないんだか聞いてもいないんだか離さない。
柳原君の右手が妹の肩からお尻に向かった所で漸く力が抜け、私は離脱に成功する。
少し離れた所から後ろを振り返ると柳原君は妹の全身を愛撫し、妹は力が抜けてしまっているのか立っているのがやっとの柳腰になってしまっていた。
まぁ後は若い2人に任せましょうかねぇ。
そう思い友達に飲み会の断り電話をした後、庭に戻った。
「おい柳原君はどうした。ずいぶん戻ってこないぞ」
親父殿が私に聞く。
「……ああ、トイレみたいだよ」
「ずいぶん長いトイレだなぁ、呑ませすぎたから具合でも悪くなっているんじゃないのか。ちょっと見てくるか」
「いっ、いや、見に行かなくても大丈夫だよ。美咲が介抱しているから」
「そうか? でも長いから1回見てくるわ」
「大丈夫だよ、今結構吐き出しているから(性欲を、と言いそうになったが寸での所で止める)」
「あらあらじゃあ水を持って行ってあげましょうかね」
「母さんも行かなくていいから!!」
今、親父殿や母さんが行ったらとんでもない事になる。
必死に2人を止める私。
柳原君と妹が帰ってくるのが遅かったから本当に苦労した。
2人が艶々しながら帰ってきた時は文句の1つも言ってやろうかと思ったが、何て文句を言っていいのかもわからないから止めた(長い事エッ〇してんじゃねーよなんて両親の前で言える訳がない)。
こうして彼との初対面の夜は慌しく更けていった。
無駄に大きい我が家。
田舎の家なので部屋数はそれこそたくさんあるのだが、今日妹は親父殿、母親と3人で川の字になって寝るそうだ。
柳原君には大きな客間で寝て貰う事にする。
押し入れから布団を出し、敷いてあげる。
「わぁ凄い立派なお部屋ですね」
感動している柳澤君。
「じゃあ欲しい物とか足りないものとかあったら電話してね」
柳原君の申し出で携帯電話の電話番号を交換し合っていた。
「お兄さんちょっとお話できませんか?」
畳の上で正座して言う柳原君。
風呂上がりで少し頬が赤く、端正で小さな顔が女性の様だ。
少しドキドキしながら私も座る。
「先程はすみませんでした」
先程?
「あの、止まらなくなってしまって……」
ああ、裏庭でのあれ、ね。
「まぁ良いんじゃない。生涯独身だと思っていた美咲の事を、女性だと思ってくれる人がいただけでも良かったと思っているから」
正直な所を伝える。
ホッとしたような顔になり足を崩す柳原君。
「僕は自分の中の素直な心に従って生きる事、が1番大事だと思っています。なので少し人と違う事をしてしまいます。お兄さん、どうか、温かい目で見て頂けるとありがたく思います」
少し濡れた髪の中から涼し気な目がこちらを窺うように覗く。
だから笑いながら答えてあげた。
「ああ、他の人と違う人間は美咲で慣れているから。余程じゃないと俺も驚かないよ」
これを聞いて物凄く笑顔になる柳原君。
「ありがとうございますお兄さん」
この後台所から地酒を持って来て少し2人で話をした。
本当にとても良い好青年だった。
この時は美咲以上の問題児だとは露程も思うはずもなく。
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