第102話 最終決戦 ー激闘2ー

上に乗って移動可能な白い雲をヘッケランの周りに出現させ、目くらましと移動に使う。

 この上は走っても音が響かない。


「まだまだいくぞ!ゴーレムの心、マジックワーム」


 石畳の下は土の地面になっているようで、石と土の混ざったゴーレムが俺たちの前に複数出現する。

 さらに、姿を消すことが出来るマントを使い、二人ともヘッケランの視界から文字通り消え去った。


「…なるほど。本気で戦われるとはお覚悟見事です!しかし、隠れたところで大体の場所は見当がついてしまうのですよ?お命頂戴します」


 ヘッケランの右手に光が収束すると、ビームのような光が放出され、四体のゴーレムが簡単に貫かれる。

 勢いをそのままにビームは奥のナニカに当たった。


「大胆に見せて最も安全な位置に隠れる…慎重なユウト様ならゴーレムの壁が一番厚い部分におられはずで…なっ!?」

 ヘッケランの説明を遮るように多方向から先ほどのビームが襲いかかる

「ぐっ…魔砲は悪魔固有の能力のはず!な、何故です」

 身体に開いた穴から煙を出し狼狽えるヘッケラン。

 しかし、質問に答える為に声を出すバカはいない。


 俺は予めヘッケランが狙いそうな位置に、Pv Pで使う反射壁(リフレクションウォール)を設置して魔砲とやらを受け止め跳ね返す準備をしていた。

 さらに反射時にはバレットスコープを通す事で多方向からのビームに変換してやったのだ。


「…わたしの考えが読まれたのでしょうか」


 おまけで襲わせたゴーレム達を軽く払いのけながら呟く。

 あれほどの力は厄介ではあるが、攻撃の手は休めていられない。

 地面からは蔦植物モンスターのグラチェスを使い視界の外から拘束攻撃を放つ。

 さらに七人の小人(オーロラチルドレン)を召喚し、拘束を切り裂く隙間から身体中に取り憑かせる。


「小癪な攻撃を…むっ、これは自爆型のデバフ付与アイテムですか」


 蔦を取り払う事に意識を取られ、取り付いた小人達が小爆発を起こしていく。

 七種類付与できるデバフの内、五体は役目を果たしてくれ感覚阻害や反応速度低下などを与える事に成功した。


「はぁぁっ、漆黒の旋風!」


 煩わしいと全身を使って払いのける動作で旋風が巻き起こり、俺は雲の上から落下してしまう。

「…うがっ」

 やばい、見つかった。

 マントがはだけて姿を視認されてしまったんだ。


「残念です。さらばユウト様、漆黒の業火!」

「いまだ、シャルッ!っと、行け六創の聖槍!」


 雲の中に隠していた六色に輝く光の槍が、一直線にヘッケランへ飛び四肢を貫く。

 一応、急所は外しているが大ダメージは受けた筈だ。

 対する俺の周りには黒炎が立ち昇っている。

 おそらくダメージ回避のアイテムでも防げない攻撃をと考えての選択だろう。

 …が、俺の読み勝ちだ。

 事前にシャルへ送った合図で俺は障壁に守られている。


「ぅぅ…ぐはっ」


 役目を終えた槍は消え去ったが、身体中に開いた穴からは派手に煙が出ている。

 苦しそうな様子から俺の攻撃が効いてるのは一目瞭然だ。


 …いける。

 押し切れるぞ。

 俺だってやれば戦えるんだ。

 圧倒的に叩きのめして目を覚まさせてやる!



「ふふっ…さすがは、我が主人ユウト様です。わたしは他者に力を求めましたが、あなた様は創意と工夫…そしてアイテムと言う無二の力を振るい戦われた」


「うぉぉっ!目ぇ覚ませっっ!!」

「ふっ、これは痛い…」


 感傷に浸り隙だらけの顔面をぶん殴ってやった。

 顔が硬すぎて俺の拳骨だけが傷ついたのは内緒だ。

 即座に雲から飛び降りて距離をとるとヘッケランの顔を真っ直ぐ見る。


「これで分かっただろ?お前は俺に勝てないんだ。だから……だから、帰ってこいよ?今なら全部謝って許してもらってやるから。また一緒に世界制覇とか馬鹿な事考えようぜ」


「…た…たしかに。わたしごときでは、ユウト様には敵いません」

「なら!?」


 ヘッケランの反応に希望が見える。


「ですが、この姿は仮の物です。わたしの意識を残して頂くために維持しているに過ぎません」

「なんだよ…じゃあ、どうすれば戻れるんだよっ、何をすれば」


 うまく言葉がでない。

 何でこんなにコイツは意固地なんだ。

 二人の命以外なら何でも手に入れてやるって言ってるのに…


「我が弟の仇…と、言いたい所ですが、もう遅いのです。力を得るために全てを捧げると契約したのですよ」

「そんなの、契約を破棄できる『破条のペン』や死にかけの身体もポーションで完治させられるだろ!」


 なんだって使ってやる。

 普段はケチってる課金アイテムだって出し惜しみ無しだ。

 もし必要な物を俺が持ってないってんなら、国を潰してでも取ってきてやるさ。


「…ユウト様には沢山の恩を頂戴しました。覚えておいでですか?アスペルの防衛戦で体を張って助けて頂いたのを」

「あの時は勝手に体が動いただけ…いや、俺だって手の届く距離にいる仲間くらい自分で守りたかったんだ」


 俺は臆病で身勝手なやつだけど、数少ない大切な人くらいは守りたい。

 守ってあげたい。

 それくらいなら頑張ってもいいはずだ。

 だから今だって何かあるはずだろ…

 諦めたく無い…いや、諦められん!


 俺はいつも選択を間違ってきた馬鹿野郎かもしれないけど、後で後悔を残さないためにも。


「仲間、ですか……あの時には既にわたしはベルセウブ様と契約を結んでいたので、多少のことでは死なないと気が緩んでおりました。しかし、自分よりも非力で臆病だと思っていたユウト様に助けられ、心から感謝したものです」

「そう言うのが仲間ってものだろ…お前だって、ずっと俺や皆の事を支えてくれてたじゃねぇか」


 身体中から流れ出てる黒煙の量が凄い。

 やり過ぎたか…

 死んだりしないよな?

 回復させるべきなんじゃ


「…そうですね。ですが、それだけにわたしよりも二人を選ばれた時のショックは大きかった」

「くっ…だ、だけど、シャルやレンも大切な仲間だ。どっちが上とかなんて決められない」


 少し寂しそうな顔を浮かべた気がした。

 安易に悪魔との契約に走った事を後悔しくれているんだろうか。


「だから、皆で話し合おう!もう逃げたりしない。俺が責任持っていくらでも話を聞いてやるから」

 ヘッケランは、ふるふると力なく首を左右に振った

「もう遅い…遅いのでよ」


 嫌な予感がする。

 ダメだ、このままじゃ取り戻せない。

 取り返しがつかなくなる。


「取り敢えず回復を…」

「ありがとうございました。心からの感謝を」


 立ち昇っていた黒煙はヘッケランの上で蜘蛛のような、ひとつの塊になっていて、それが次第に落ちてきてる。

 ポーションを投げようとする俺を手で制し、全てを受け入れたような顔を見せた。


「馬鹿野郎!ダメだ、許さねぇ、戻ってこいよ…お前は俺に従うって、あんなに楽しそうにしてたじゃねぇかよっ」

「条件は整いました…このヘッケラン・アシュペルガーの全てを捧げ、ベルセウブ様に復活を、そして我が悲願を叶えたまえ!」


 雲がヘッケランを飲み込んでいく。

 あれに飲まれたら、もうあいつは戻ってこないだろう。

 最後の瞬間、ヘッケランは俺のことを見ていなかった。

 もう、あいつの耳に俺の声が届くことも無かったんだ…


「…お逝きなさい!」

「ホーリースラッシュ!!」


 煙がヘッケランを飲み込む刹那、横合いからメリーとティファが飛び込んできた。

 しかし二人の剣は黒雲に阻まれ、飲み込まれたヘッケランには届かなかった。


 襲撃が失敗に終わると、二人はバックステップで俺の横にやってきた。


「ごくごく…遅くなり申し訳ありませんわユウト様」

「…メリー、お前腕が」


 かなりの死闘だった事をうかがわせる痛々しい様子なのに、大したこと無いと笑顔で返しながらポーションを飲み干すメリー

 即座に失われた左腕がみるみる生えてきて元に戻り、身体中の小傷も癒されていく。


「思いの外手間取ってしまいました。せっかくユウト様が追い詰めてくださったのに、倒しきれず申し訳ございません」

「いや…俺は、何もできなくて」

「そんな事ありません。ユウトさんは私とレンを選んで…守ってくれたんですから」


 直立の姿勢で頭を下げるティファ。

 そして透明化を解除し、遅れて合流したシャルが俺を励まそうと声を掛けてくれる。


 …たしかに俺は二人を選んだ。

 だけど、ヘッケランを切り捨てたかったんじゃない。

 救いたかった…戻ってきてほしかったのに。

 俺は迂闊なんだ。

 いつも上手くいかない、ゲームの世界で思い通りなんて以ての外だ。

 選択を間違え、対応を間違え、強い後悔だけが残る…


「…ほらっ、ユウト様」

「うぶっ」


 メリーに頭を抱えられ豊満な胸へと沈み込まされた。


「無くした物、失った物ばかりに囚われてはいけませんわ。後悔は教訓に、得たものを生きる糧としませんと」

「……」


 …温かい。

 メリーの鼓動が聞こえてくる。

 俺が今よりもっとダメな奴だった転移初期の頃に、何度も救われ元気を貰った音だ。


 ヘッケランは俺を恨んだのだろうか?

 この戦いで奴はそんな態度は見せなかった。

 感謝していると言い満足…とはいかないが、満更では無い様子だったように思う。


 結局、ヘッケランを選んでやる事が出来なかった俺が、あれこれ言うのはお門違いなのかもしれないな。

 いつも不敵な笑みを浮かべて、裏で悪いことばかり考えてた奴の顔が浮かんでくる…



「…ありがとうメリー、少し落ち着いた。もう戻らない、戻れないなら、あいつの野望を完膚なきまでにぶっ潰してやる」


 俺はヘッケランを好きだった…もちろん仲間として。

 だけど、あいつも俺を選ばなかったんだ。

 だからおあいこだ。

 それなら、アイツの最後の悪巧みを受け入れてやる必要なんかねぇ。

 …なら、真っ向勝負で潰すだけだ!


「ユウト様」

「ユウトさん」

「…参りましょうユウト様」


 俺は三人に頷き、力を貸してくれと頼む。

 三人から心強い反応をもらい感謝する。

 そうだ…俺には頼もしい仲間がまだ沢山いる。

 こんな所で泣いて蹲っていられるか。

 悪魔の野郎…ヘッケランを唆した罪、絶対に後悔させてやんよっ!



 …ドコォォッッ!!

 爆音と共に森の一部が爆ぜる。


「…あれ、そう言えばレンは?」

「そう言えば、まだ向こうで戦っていますわね…」


 俺の質問にレンの事を完全に忘れていたメリーが、バツの悪そうな顔で答える


「…レェェェンッッ!」


 一人残されたレンに、シャルの悲鳴がこだました。

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