第101話 最終決戦 ー激闘1ー

「我はベルセウブ様に仕えし三柱が一つ、序列三位カリヴァンなり…いざ、参る」

「良いでしょう。ユウト様に楯突いた愚かさを思い知らせてあげます」


 ティファはゆっくりと剣を抜き放ち、自身の能力を向上させるスキルを重ねがけしていく。

 怪物ミノタウロスに悪魔の翼を生やしたような見た目のカリヴァンは、それを妨害することも無く悠然と見守る。


「…随分と余裕なのですね」

「最高の敵を最高の状態で屠る、それこそが武人としての誉れよ」


 大きな鼻から荒い息を一つ吐くと、カリヴァンは獰猛に笑う。

 何も無い空間から2mはあろうかと言うハルバードを取り出すと、徐ろに振り下ろした。


「っ!?」


 ハルバードからは三日月形の真空波が生まれ、身をよじって躱したティファの鎧に傷を付ける。


「なるほど…言うだけの事はありますね。ですが、その程度では私は倒せませんよ?」


 相手の実力を認めた上で挑発するティファ

 序列三位ともなればレベル90のパーティー推奨クラスだが、スキル『限界突破』を持つティファからすればソロでも十分との判断を下したのだ。


「ならば、かかってこられよ!雌雄を決しようではないかっ」

「遠吠えは負け犬の常套句です!」


 ティファを包む淡い光が残滓を引き漆黒の猛牛へと突進した。




 ……

「ワレはベルセウブ様が配下ロギエル、三柱が一人なり」

「どうせすぐに死ぬのですから、ご大層な挨拶は結構ですわよ?」


 相手を見下すような乾いた笑いと共にメリーの挑発が飛ぶ。

 しかし、ロギエルは簡単に乗ったりしない。

 メリーを油断ならない相手と認め、隙を作るような馬鹿な真似はしないのだ。


「面倒ですわね…ギャーギャーと吠えて、気付いた頃には死んでおけばよいですのに」


 油断の無いロギエルに評価を改めると、メリーは山羊のような顔を睨みつける。


 ロギエルはそんな態度や言動を気にする様子もなく、脳内でメリーをいかにして破るかのみを考えていた。


「力押しはカリヴァンの領域だが、小手先の勝負では部が悪そうだ」

「脳筋如きでは、わたくしは倒せませんことよ?」


 全身に力を漲らせ、肉体能力を向上させるロギエルは翼を大きく広げ、足を地面に食い込ませると深く腰を落とした。


「…ゆくぞ!」

「おいでなさい……絶影」


 翼での推進力と肉体能力にかまけた力押しの突進をかますロギエル

 五指全てを鋭い槍と変えメリーを貫かんと腕を突き出す。

 が、指がメリーの腹を抉った…かと思うと、その姿は影諸共かき消えてしまう。


「ふんっ!怨差呪縛」


 初撃をかわされた事に焦る様子も無く、自分の影に潜もうとするメリーに対し上空へと飛び上がる事で回避し、行動阻害のデバフを付与するスキルを放つ。


「我に力を、ウィンドウフォール!」


 物理攻撃は近距離の暗殺スキルが多いメリーは、宙に浮く敵に対して魔法での迎撃を選択した。

 風の圧力がロギエルを地面に叩きつける。


「うごぉっ…やるな」

「くっ…あなたも小賢しい真似をしますわね」


 互いに感想を述べると獰猛な笑みを浮かべる。

 デバフの効いている間に畳み掛けんと肉薄するロギエルを、多様なスキルとテクニックでメリーが翻弄していく。


 勝利を収めるためのプロセスを頭の中に描き、それを遂行しようとする知略者同士の戦いは、概ね均衡を保った滑り出しを見せていた。




 一方…


「なぁ、俺だけバランスおかしない?お前さんも序列三位とかなんやろ?ほんならあと仲間三人は付けてくれんと不利やん」

「ハハハ…ヨイデハナイカ。コノ、オエイレト様ノ供物トシテ死ニユクガ良イ」


 緊張感薄く愚痴をこぼすレンを、蟷螂と蝙蝠を足したような顔を持つオエイレトは快活に笑った。


 先の二悪魔とは違いオエイレトは小柄だ。

 下級悪魔程では無いが、レンとそこまで変わらない。

 2m近くはあるのだが、大きさの面では先の二悪魔より威圧感としてはだいぶ薄い印象だ。

 しかし、当然油断をして良い相手と言う訳では無い。


 レンはどう攻めるべきかと軽口を挟みながらも、相手をじっくりと観察する。


 …左手は鎌になってて反対には三叉槍か。

 物理特化っぽいけど、固有スキルもあるやろなぁ。

 適正90のパーティーモンスターをどうやって攻略するか、やけど…しかし、ほんまにキツイ相手やで。

 ユウトにクレーム入れなあかんわ。

 こないな事になるんなら、ゲーム時代にレベルカンストしとくんやったな。


「…言うても後の祭りやな。何とか時間稼いで嬢ちゃん達の援護待ちにしよか」

「一人デ戦ウ気概モナイトハ情ケナイ…」


 個体差を無視する発言に苦笑いしながらも、刀を抜くと構えずにダラリと垂らしたまま歩き出す。

 レンの表情は援護待ちの言葉とは裏腹に、やる気満々のようだ。

『適正』と言う言葉を思い浮かべながらも、強者との一騎打ちに楽しそうですらある。


「…舜転身」


 オエイレトの間合いに入る直前、レンは姿を消した。


「!?」


 予想外の事に動揺し、振り上げた右腕が硬直する。

「しっ!」

 短い呼吸と共に斬撃が飛ぶ。


 レンの姿を見つけた時にはオエイレトの右腕は、肘から先が宙を舞っていた。

 ザクリと音を立てて三叉槍が地面に刺さり、先を失った腕からは緑の血が吹き出す。


「ホウ…剣神流ノ技カ」

「せや、こないだ仲良なった僕ちゃん達が使っとってん。便利そうやったから教えてもろたんや」


 普通であれば習得までに半年〜一年はかかる基礎であり、多様な技に繋ぐための応用に飛ぶ移動スキル『瞬転身』

 たった三日で覚えられたのは、プレイヤーの身体と言うだけで無くレンの覚えの良さも大きく影響していた。


「…オモシロイ」


 流れていた血を止めると口角を釣り上げ、深く身体を沈みこませる。

 失った腕は少しずつ腕が再生し始めており、さらには両脇からも腕が生えてきていた。


「再生能力に変形能力とかチート過ぎるっちゅうの」

「今度ハ、コチラカラユクゾ」


 鎌腕で地面を引っ掻き助走に変える。

 背中の翼も使い、先ほどの瞬転身にも迫るスピードでレンへと突撃するオエイレト


 高レベル者の身体を持つレンは突撃に押し負ける事なく踏みとどまり、鋭い鎌と鞭のようにしなる尻尾の連携を見事に捌いていた。





 ……

 心臓の鼓動は思ったより落ち着いてくれている。

 だけど緊張からか、内側で聞こえる心臓の音は鼓膜を強く譲 揺すっていた。


「それじゃあ、メインも始めるとしますか。あぁ、最初に確認しとくと、お前の『主』ってのは悪魔王(デーモンロード)の事じゃ無いんだよな?」

「…はいっ、わたくしに同化されているのは悪魔王サタン様の第一の僕ベルセウブ様でございます。」


 思った通り僥倖だ。

 悪魔王はレベル100のレイド級だけど、第二位クラスの悪魔ならレベル100のパーティーモンスター扱いになる。

 …まぁ、それでも規格外に強いんだけどな。


「サタン陛下の召喚には第二位クラスの御三方の内、何方かの力が必要だそうなのです」


 そう言うとブルリと体を震わせ、敬うように空を見上げた。


「…わたくしとしては、まさかユウト様に直接戦って頂けるとは…この身をそれほど大切に考えてくださっていた事に光栄至極であります」

「自意識過剰な奴だな、俺だって男の子だ。好きな子の前だから張り切りってるだけだよ」

 軽い言葉と優雅なお辞儀に軽い挑発で返すとシャルが慌てだした。

「こ、こら!た…た、戦う前に変な事言わないで下さい」

 シャルが横で抗議の声を上げている。

 おそらく顔を真っ赤にして、さぞ可愛い顔をしているのだろう。

 だけど、言葉とは裏腹にそちらを見る余裕は俺には無い。

 なぜなら、普段から危険な事は避けていた俺が、今この場で最も危険な相手をしているからだ。

 余裕なんてもんは無いに等しい。


 だけど、シャルの前で良い格好ってのは嘘じゃないからな…

 それに悔しいけど、奴自身の言う通りヘッケランは大事な仲間でもあるんだ。

 何とかして取り戻したい。

 それには俺が相手をする以外に方法は無いだろう。

 …いや、別に俺が何か出来る事を思いついた訳じゃ無いんだけど。


「まぁ、出し惜しみは無しだ。たっぷりアイテムを味わっていけよな!シャル、予定通りいくぞ…浮雲」


 横でシャルが頷く気配を感じ、俺はアイテムを発動させた。

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