第100話 最終決戦 ー開幕ー

「メリッサ、私の背後へ!」

「はいですわ!」


 聖属性のスキルと魔法を重ねがけし、ティファとメリーは辺り一帯に猛威を振るう瘴気から逃れる。


「ようこそ…ようこそ、おいで下さいました!我が主よ!」


 大業に両手を広げ天を仰ぎみるのは、ヘッケラン…

 いや、もはやソレはヘッケラン「だったモノ」であった。


 嬉々とした表情の彼の顔色は、青白いを通り越しもはや紫色になり、口からは鋭い牙が覗いている。

 目は大きく見開かれ黒と赤に染まって、ギラギラと形容されそうな光を放っていた。

 身体においても、もはや『人』とは言えない。

 背中には蝙蝠のように鋭い翼が左右二翼ずつ生え、肌は黒色に染まり骨格が肥大し化け物のようだ。


「…あの変態、人間やめましたのね」

「あれは、召喚と言うより同化に近いわね。自分の身体を使って半強制的に呼び出しているみたい」


 二人はソレを見て意見を交わした後、どう攻めるべきか考える。


「ヘッケランはユウト様の腹心、あの状態ならまだ倒せるでしょうけど…その時は身体ごと斬ることになるわ」

「いいんじゃありませんこと?確かに有能な変態ではありましたけど、危険を冒してまで助ける必要は…と言うか助けれますの?」


 レンとの話が長引いているようで、中々追いついてこない主人の心中を推し量り意見の定まらない二人。


「ぅう…ぐぐぐ…うぁぁあ」


 二人が相談している間にも、瘴気にあてられたラヴァーナ教や餓狼蜘蛛の人間たちが下級悪魔(レッサーデーモン)化していく。


「お姉様、あまり悠長に悩んでもいられませんわ」

「…仕方ありません。先に雑魚を排除しましょう!」


 本命(ヘッケラン)は後回しにして、人間をやめようとしといる周りの者達へ刃を向け走り出した。







 ……

「な…なんだよ、これ」


 俺の目の前には、人間と悪魔のハーフとでも言うような奴らがウヨウヨしていた。

 なんか一番奥には、やばそうな奴が四つの祭壇の中心で高笑いしてる…って、あれヘッケランか?

 あいつは、シャルとレンを殺す為に召喚儀式を先導してただけじゃないのかよ。

 悪魔と契約でもしたから、あんな姿になったとか…いや、さすがに無いか。

 本の世界じゃあるまいしな。


「おぉ…どんどんヘッケランの兄ちゃん、どんどん酷くなっとんな。もはや悪魔そのものって感じやな」

「えっ!?あれがヘッケランさんなの?悪魔に変身したみたい…」


 やっぱりヘッケランだったんだ…

 あれは元に戻せるのか?

 一発ぶん殴って正気に戻して、しっかり話し合ってから、誠心誠意俺の気持ちを説明して謝って許してもらおうと思ってたのに。

 事はそんなに簡単な話じゃないのかも。


「ユウト様、厄介な事が二点ございますわ」

「メリー遅くなった、俺も頭ん中は厄介ごとしか浮かばんな。ティファは大丈夫なのか?」


 俺を見つけて報告にやって来たメリーに、元人間達を容赦無く斬り捨てているティファの事を聞く。


「お姉様は問題ありませんけど…ヘッケランと国王が悪魔化していて、止めるなら殺すしかありませんの。」

「な、なんとかならないのか?」

「なりませんわ。ご指示を」


 冷たく切り返されムッとなる。

 …いや、ダメだ。

 俺の気持ちを考えて殺さなかったんだろう。

 それなら、解決策も浮かばないのに怒るなんてお門違いだ。


 メリーへの答えを曖昧にしながら、何か無いかとその場を見回す。

 神輿のような祭壇が四つ、中央の石でできた円形台座には高笑いするヘッケラン。

 辺りには濃い紫色の煙が漂っている。

 この煙…瘴気が原因で変形するなら、これを何とか出来ないかな。


「瘴気を止める事は出来ないのか?あれのせいで悪魔化してるんだろ?」

「瘴気は魔法みたいな物ですから、魔法やスキルで止めるか、発生源自体を破壊するしかありませんわ。」

「…そうか。」


 俺はヘッケンランを見上げる。

 まだ天を見上げて高笑いしているので、周りの状況には気づいていないようた。

 よし、行くか。


「いこう、レンとシャルは俺と。メリーは祭壇をぶっ壊してくれ」


「おうよ」

「はい」

「かしこまりましたわ。」


 瘴気は弱い者を悪魔化し、レベルが高い者は弱体化やダメージを与えてくるらしい。

 俺はシャルの障壁に守ってもらい、道はレンが切り開いてくれている。

 だからと言うわけでは無いが、俺はこの二人を裏切る事は出来ない。

 …ヘッケランと戦うことになっても差し出すなんて真似はとれない。

 説得さえ出来れば丸く収まるんだが、なんと言えば良いのか分からん。

 頭が真っ白だ。


 心の迷いとは反対にあっさりとヘッケランが高笑いする遺跡の中心部に着いた。

 周りより少し高く石垣が積まれていて、ここからだと顔が見えない。


「…おい、ヘッケラン!お前いつまで変な菌を撒き散らしてんだよ。てか、自分の主人が来てんだから気付けよな!」


 取り敢えず普通にいこう。

 まずは様子見だ。


「……おぉぉやぁ?これはこれは我が主人ユウト様ではございませんかぁぁ」


「うげ…こわっ」

「ひっ…」


 ヘッケランがこちらを向いた。

 正確には顔は真っ直ぐこちらを見ていない。

 複眼と言うんだったか、見開かれた眼球は黒く染まり、その中に小さな赤点がいくつも蠢いている。

 よく見たら額に小さなツノも見えた。


 若干視線のズレたヘッケランが嬉しそうに口角を釣り上げる。

 …こえーよ。


「ご覧下さい、この姿、力、溢れるオーラを!」

「だから!その煙を出すなっての、いっぺん落ち着いて話そう…なっ?」

「…おぉ、これは失礼しました。たしかに、突然の自体に私は力になれませんでしたので、説明が必要ですね」


 ヘッケランはそう言うと、撒き散らしていた瘴気をピタリと止めた。

 …冷静だな。

 見た目とのギャップが酷いけど、これならなんとかなりそうかも。

 ここからは交渉力をフルに使わねば。


「よし。まずは、その格好どうしたよ?イメチェンにしては頑張り過ぎだろ」

「おや…いかにご主人様とて、我が主と同化したこの姿を軽視するのは見過ごせませんぞ」


 ヘッケランは両手を広げ自分の姿を誇るように見せつけると、冷たく言い放つ。

 ……俺は奴のあんな態度見たことない。

 他人に興味が薄いのは否めないけど、俺の事はしっかり立ててくれてたはずだ。


 主ってのは同化してる悪魔の事なんだろうけど、ヘッケランはそれ程自分の中にいる悪魔を崇拝してるってことか。

 レン達を恨むのと、俺たちよりも悪魔との関係が上って事かよ…


「なぁ、ヘッケラン。この二人のこと以外で俺に出来ることは無いのか?」

「…ありませんな。ユウト様や御三方との組織を広げていく過程、実に楽しく思っておりましたし今もその想いに変わりはありません」


 軽く翼をはためかせながら、想いに浸るように、だけどハッキリとした口調で言ってくる。

 その裏にはレンとシャルを許す気は無いって気持ちが見えるな。


「ですから…ユウト様達が邪魔立てすると言うのであれば皆殺しに。二人を差し出すのであれば、主様にお願いしますので、新しい世界で生きていただければと」

「…レンは俺の責任でこの世界から消す。シャルは防御主体だ、だから許容してくれたって良いだろう?」


 ヘッケランは目を閉じ、首を振るとやれやれといった感じで応える。


「関係ありません。二人をこの手で殺す、それが主様との約束にございます。いかにユウト様でも、それを捻じ曲げることは許されません」

「……二人を殺すなんて認めない。だったら…だったら、この世界で最強と言われる俺たちと戦うって言うんだな!」


 俺の精一杯の虚勢をヘッケランは軽く笑う。


「世の中は広いのですよ?それに、ティファ様もメリッサ様も初めからそのようですし。ユウト様もお覚悟あっての事でしょう」


 臨戦態勢の強者二人を複眼で軽く見流す。

 そして、全身に力を込めたように大地を踏みしめ、翼を一振り大きく羽ばたかせた。

 すると、あたり一帯が一瞬だけ光に覆われ視界が奪われる。

 奇襲攻撃か、と警戒したが…

 目を開くと視界に映ったのは、新たに召喚された三体の悪魔だった。


「レア様がおられないのは残念ですが…さぁ、始めるとしましょう!」

「後で泣いて許してくれって言っても、簡単には許してやらねぇからなっ!!」


 …俺とヘッケランの譲れない戦いが始まった。

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