第99話 レンの決断

 ベイリトールが手配してくれた傭兵団の手引きで、俺たちは鬱蒼とした森の中でも迷う事無く隠された遺跡の間近まで来る事ができた。


 ゲーム時代だと全体マップみるだけだったから、リアルだと完全に迷ってたはずだから助かった。


 欲を言えば、先にレアと合流をしておきたかったのと、もし悪魔王の召喚を止められないのであれば、剣神流の面々やシュウトとも合流しておきたかった。

 一応、全員に伝言は飛ばしてあるが。


 だけど、俺はそんな応援を待たずに現場に急いだ。

 だって…その先導をとっているのは、やはりヘッケランだったからだ。

 俺たちアイアンメイデンの副首領であり、ティファ達と同じくらい俺が信用していた人物の一人。

 …それなのにアイツは俺を、俺たちを裏切った。


 いや、少し違うな…

 ずっと抱えて来た我慢が爆発したって感じだったんだろうか?

 我慢していた理由…確かに思い当たる節はある。

 …シャルとレンの事だ。


 あの時は、ヘッケランが大人な対応をとってくれたと勝手に考えていたけど、おそらく二人を仲間に引き入れたのは納得できなかったんだろう…

 俺は自分の都合がいい側面だけを見て、他人の気持ちを蔑ろにした結果んだ。

 そして、最終的に一番酷い形に進もうとしている。

 正に自業自得過ぎて苦笑いすらできん。

 もう少しアイツと話し合えば良かったんだろうか。

 いや、シャルやレンを切り捨てる事は出来なかっただろうし、避けることはできなかったかもしれない。

 だけど、意味が無かったとしても話し合うべきだったな。

 …今からでも間に合うのかな。


「うわっぷ!…うぐっぐぐ…」


 まもなく合流地点と言う所で、俺の思考を断ち切った黒い物体。

 樹をへし折りながら飛んできたのは…


「なっ!?…べ、ベイリトール、お、お前腕が」

「あっ、大旦那達!良かった、レンの旦那が悪魔と戦ってるんです。俺じゃ力になれないんで、すぐに援護に行ってくだせぇ」


 片腕を失ったベイリトールだった。

 腕の止血は済んでいるようで、問題ないので早く行けと急かしてくる。

 あれだけの重症で大丈夫なはず無いのに、たいした精神力だな。


「これを使え!後は任せろ、行くぞみんな」

「「「はいっ」」」


 部位欠損を治すことができるハイポーションを投げ渡し、レンの元へと走り出す。


 序列下位の悪魔ならレベル的にレン単体でも倒せるだろうけど、三位の奴とかになると一人で倒せるのはティファぐらいだろう。


 茂みの方を掻き分けていくと、喧騒が大きくなってくる。


「んのっ!…かぁーしつこいやっちゃなぁ!」

「ははハ!なかなかに骨があるでは無いカ。先ほどの奴とは違ウ……なんだ?お前たちハ」


 レンの背後に現れた俺たちを見て、怪訝そうな顔でレンへの攻撃を止める悪魔。

 顔が異形すぎて、あんまり表情は分からないけど…


「結構余裕そうだな?助けなくても大丈夫かも」

「だぁっらっしゃい!俺はお手伝い、あんたらが主役でしょうが」


 勝手な理論を振り回すレンを無視して、二人に回り込むよう指示を出す。

 シャルには俺の守りをお願いし万が一に備える。


「三体一とはナ…」


 俺とシャルは物の数に入ってないのか…


「はっはぁ〜形勢逆転やな。観念せいや!卑怯とか言うなよ」


「あなたに従う気はありませんことよ」

「…右に同じです」


 調子に乗るレンに突っ込みをいれながらも、勢い良く突撃するレンに合わせてメリーがデバフ攻撃を放ち、時間差でティファが聖属性攻撃スキルをお見舞いする。


「ぐぅっ…卑怯、とは言うまイ。人間とは脆弱な生き物ダ、集う事で我らとようやく戦うこ」

「無駄口が過ぎますわ、絶影!」

「同感です。ホーリースラッシュ!」


 せっかく男らし…いや、悪魔らしい台詞を吐いていたのに、二人のスキルで真っ二つになり霧になって消えてしまった。

 悪魔の弱点属性を持つティファの一撃は効果抜群で、パーティーモンスターでもあっさりと倒せるほどのダメージ量はさすがだ。

 もちろん、その力を最大限に引き出すサポートをしているメリーも凄い。


「おぉ…出番なくなってもたな。おおきにな、ユウト」


 姉妹の連携を呆然と見ていたレンが、笑顔で近づいてくる。

 …しまった。

 現世への転移を何て説明するか、考えてなかった。

 このタイミングで言った方が良いのだろうか。


「あ、あぁ…」

「…どないしたんや?なんかエライ歯切れ悪い感じやな。あぁ、ヘッケランの兄ちゃんか…まぁなんや、その、大変やったな」


 レンは俺の態度に勘違いをしたらしい。

 このまま、一旦やり過ごすべきか…


「ユウト様、あの変態は私達が先に行ってお灸を据えてきますわ。ユウト様はお話を済ませてから来てくださいませ」

「へっ!?そ、そうか…そうだな。わかったよ」


 メリーはティファに一つ頷くと、さらに茂みの奥へと駆けて行った。

 残されたレンは怪訝な顔を濃くして近づいてくる。

 後ろをチラ見すると、シャルが顔面蒼白で両手を祈るように合わせていた。


「…なぁ、一体なんの話しなんや?俺に何ぞ伝えなあかん話しか?」

「……」

「…レ、レン」


 俺の目を真っ直ぐに見つめてくるレンに何て答えるか迷っていると、背後から弱々しい声が響いた。


「おぉ、シャル元気やったか?最近は楽しくやってるみたいやし、俺もうれし」

「元の世界に帰れるの」

「…はぁっ!?」


 あまりに唐突なシャルのカミングアウトに、さすがのレンも目を白黒させている。

 ダメだ、この説明は俺がすべきだと思う。

 シャルにこれ以上辛い思いはさせちゃダメなんだ。


「説明は俺がするよ。時間がないから手短にだけど」

「あぁ…頼む。」


 レンはいつものように茶化す事なく居住まいを正して俺の言葉を待っていた。


「実は、レンがアキラに頼んでたスタートホールの起動が成功したんだ」

「なんやて!」


「でだ、妖精の王女に頼んで現世への転移実験もやって……皆の協力もあって成功した。映像を見せてもらって、その場にいた皆が俺たちの世界に繋がったのを確認したんだ」

「…まじか」


 服の裾がギュッと掴まれる。

 シャルが不安で泣きだしそうだ。

 俺もレンの目をしっかりと見つめ返し、歯を食いしばった。


「人間を使ってはいないし、転移の影響で何が起こるか分からないけど…レンが帰れる可能性は十分にあると思う」

「そうか。」


 言葉少なく応じて、俺の話を噛みしめるように聞いていたレンは、両手を開いてまじまじと見つめている。

 その口元は少し釣り上がり、嬉しさを堪えているように見えた。


「…レンっ!」


 服の裾から手が離れ、シャルが堪らずレンへも抱きつく。


「シャル…大丈夫や、いきなりおらんくなったりせーへんよ。……ユウト、ありがとうな、ほんまにありがとう」


 胸に抱くシャルの銀髪を優しく撫でながら、今までに見た事の無い真剣な表情でレンガ頭を下げてくる。

 …言ってしまった。

 それなら、ここから先はレンを手伝わせるべきじゃないかもしれない。

 あのヘッケランが俺たちの妨害を予想しない筈は無いし、悪魔王討伐クエスト何て危険な事やらせるべきじゃないだろう。

 シャルを連れて安全な場所に避難してもらうべきか。


「…ほんなら、ここは気張って乗り切らなあかんな!」

「はえっ?」


 予想外の答えに変な声が出た。

 なんでだ、逃げる…と言うか、念願の帰還までは安全圏でって思わないのか?

 そりゃ、レンがいる方が戦力は増すから願ったりだ。

 だけど、お願いされれば無理にとは言えない程度にはレンの想いだって知ってるんだが…


「なんでだ?安全マージン取ったって誰も文句なんか言わないだろ」


 あ、メリーが不服そうな顔してるわ。

 まぁ、口挟んだりしないだろうけどね、できる姉様は雰囲気を壊したりしない。


「なんでそうなるんや?こんだけ世話になっといて一人でぬくぬく家でビビり倒して、帰ってきたらお疲れさん、元の世界によろしゅうてか?」

「……」


 レンの呆れ顔に言葉が出ない。

 そう言う奴なんて世の中には腐るほどいるだろ。

 …まぁ、そんな奴の為に動いてやるのは嫌だけど。


「それに、俺だけ生き残ったかて、お前ら全員がおらんと起動せんのとちゃうんか?」

「あっ、そうだった…俺はともかく、レアとアキラがいなければ成功しないかも」


 そうだ、うっかりしていた。

 たしかに…スタートホール起動の為には、大出力の魔力と転移場所を操作できる人間がいる。

 もし、この戦いでどちらかを失えば、元の世界に戻れる確率はぐんと下がるな。


「…そう言うわけや。まぁ、死なん程度に頑張るさかい、よろしゅうな」


 レンは屈託無い顔で笑った。


「そうだな、弱気になってた。皆でヘッケランをぶっ飛ばして正気に戻したら、全員で家に帰ろう」

「…レン、ユウトさん!あれを」


 シャルの指差す方へ振り向くと、祭壇が集まっているだろう遺跡から空に向かって光の柱が立ち昇っていた…

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