第95話強い想いと兆し

「…はぁ。言い過ぎましたね。」

 部屋を出て、項垂れながら呟くティファ


「仕方ありませんわ。お姉様は良く我慢されていましたもの。」

 誰も居なかったはずの空間から、突如メリーが現れティファの背中に手を添える。

 普通であれば何処にいたのかと驚く所だが、既に部屋の中で存在に気付いていたティファは特に驚かず、力なく首を左右にふった。


 屋根裏で聞き耳を立てていた者として、メリーは少し責任を感じていた。

 …お姉様は、あの子と仲が良かったようだしお任せしたけど、私が言った方がよかったのかしら。

 でも、わたくしあの子は好きになれないのよねぇ。

 優柔不断のくせに、横からしゃしゃり出てユウト様を攫っていくんですもの。

 ありえませんわ。


「あれが失敗となれば、別の方法を考えた方が良さそうですわ。」

 フォローするように、メリーはワザとらしく「むぅっ」と拗ねた顔をした。


 …だけど、お姉様の言う事も一理あるわ。

 ユウト様をこの世界に留める為には「何でも利用する」と、言うのは正しいこと。

 さすがのわたくしも、あの時はユウト様の姿には動揺しましたもの。

 ユウト様が『不能者』でなければ、わたくしの身体でいくらでも虜にして差し上げれますのに…口惜しいですわ。


「…まぁ、無い物ねだりしても始まりませんわね」

「あるものを最大限に利用して戦う…これは基本ですからね」


 二人は力なく笑い合う。

 そして考える。

 自分達に使えるものは何があるか、と話しながら。




 …

「なんの騒ぎだろうか…」

 メイド姉妹の買い物にレアと付き合って帰ってきたら、二階で怒鳴り声が聞こえた。


 しかも、あれはシャルの声だろうか。

 相当エキサイトしてらっしゃるようだけど、俺の事じないよな?

 悪い事なんてしてない…はず。


「ユ、ユウト様…」

「あら、もうお戻りになられまして?」


 二階から降りて来た二人が俺を見つけて、少し狼狽えている。

 あの様子だと、シャルと揉めたのはティファだな。


 あ、ティファが階段を踏み外しかけてた。

 まぁ、天然なところがあるから別段驚きはしないが。

 あの二人が、俺の気配に気付かないほど集中して話をしていたのだろうか?


「あぁ、四人いたからすぐに終わってな」


「そうでしたの。それで…お疲れはとれまして?」

「ユウト様。私達に出来ることがあれば、何でも仰って下さい。」


 二人共、表情に覇気がないな。

 何か心配事でも…いや、逆に俺が出来る事なら何でもするんだけど。

 それとも、二人には俺の正体を明かした方がいいんだろうか?

 でも、それを考えると動悸が酷くなる…


「ど、どうしたんだよ。腹減ったのか?それに元気と無さそうだけど、あ〜…俺で良ければ相談にのるぞ?まぁ役に立つかわからんけどな」


 ワザと明るく振る舞い、茶化すように尋ねてみた。


「わたくし達は、レアさんと違ってお気楽なキャラではありませんことよ?」


 ワザとらしく頬をプクッとして拗ねた顔をしてくる。

 普段見せない表情は可愛いな…

 これがギャップ萌えか。

 いや、それは置いておこう。

 二人のこんな反応は珍しい。

 やっぱり俺絡みの悩みなのだろうか。


 二人は、ソファに座って情けない顔をする俺の左右に腰掛けた。

 いい匂いがフワッと香ってくる。

 メリーは頭を肩に乗せてくると、太ももを弄り出す。

 反対側のティファは、左腕に胸を押し当てたままジッと前を向いている。

 心なしか頬が赤い。


 二人ともラフな服装のせいから上から見下ろすと、左右の桃源郷具合がハンパないな。

 山脈がそびえ立ってるぞ。

 しかし、これだけの眺めに反応を見せない我が愚息には溜息がでる。

 元の世界の体に戻れば、アソコだけは最強伝説をつくれるのだが。


「……ユウト様こそ、何かありまして?」


 上目遣いの潤んだ瞳が色っぽい。

 それに、含みのある少しワザとらしい聞き方をしてくるな。

 空色の髪からのぞくエルフ耳と相まって、威力がハンパない。

 反対側では、おずおずといった感じで、さらに腕を絡ませてくる。


「わ、わわわ私達に出来ることであれば、なんなりとお言いつけ下さぇあっ…」


 …噛んだな。

 言い慣れんことを言ったせいだろう。

 まぁ、そっとしておくのが男ってもんよ。

 それに…こっちに来て間もない頃から考えると、ティファのデレ度も育ったものだ。

 乙女ゲーの攻略済みツンデレヒロインくらかな。

 まぁ、ツンは無いけど。


「おの、俺さ、二人には言って…」

「たたた大変です!!ユ、ユウト殿!」

 リビングの扉を体当たりするかの如く押し開けて、幹部の一人レオが駆け込んでくる。


「ぷひーぷひー、たたた」

「うるさいですわよ子豚……良いところでしたのに」

 今度はメリーが言葉を遮るように極寒の眼差しを向ける。


「あわわ…い、いや、違うんです。王都に行っておられた父上からクーデターとの報せが」

「はぁ、なんだって?クーデターって誰が?」

 気の抜けるような音で呼吸を整えながら、覚悟を決めた顔で俺たちを見つめてくる。

 そして、彼の口から伝えられた内容は驚きの事実であった。









 ーーーーアダド王国 王都エリオペア

 …その頃王城では。


「きぃさまぁぁ、ゲルノアァ!陛下から手を離さんかっっ」

 能力低下の効力があるアイテム『怨嗟の鎖』で全身を簀巻きにされた、オリバー騎士長が叫ぶ。


「ほっほっほ。あまり煩くすると、間違って陛下の首が落ちてしまいますぞ?」

「ぅぬぐぐぅっ」


 オリバーを始めとする騎士の幹部達は既に捕らえられ、国王は王座から落ち四つん這いになり、その首元には鋭い剣が向けられている。


「あなた…」

「…お父様」


 王冠は転がり落ち、黒尽くめの暗殺者に足蹴にされる国王。

 それを心配する王女や皇子も後ろ手に縛られている。


「…ゲルノア大臣よ手引きご苦労であった。魔法士長がいないのは気掛かりだが」

「アールヴの転移でしたら、既に手を打っております。王城内に結界を張り巡らせておるので転移魔法は無効ですぞ。」


 王城一階の扉は固く閉ざされ、城内至る所に水晶型のアイテムが光り輝いている。

 ラクシャスから借り受けた兵士と、ゲルノア個人の私兵により既に場内は制圧済みのため、もはや王城へ忍び込む事すら困難な状況になっていた。


「なにゆえ…なにゆえ陛下を裏切るのか?私益を肥やす貴様を、陛下はお目溢し下さっていただろう」


 歯噛みしながら顔だけを巡らせるオリバー。

 彼もゲルノアの裏の顔は知っていたが、ここまでの無理をする程の度胸があるとは思っていなかった。


「すでに…城下も我らラヴァーナ教の者によって死と恐怖の支配下にあるだろう」

「そして、この世界はラクシャス猊下の物となるのだ!わたしは…わたしは、猊下の僕としてこの地を治めるのだよ!」


 目を充血させ、両手を広げるゲルノアはまさに狂信者そのものであった。


「無駄な事を…民が、国民が貴様など認めるものか」


 オリバーは常々思っていた。

『国』とは、王と民の信頼無くして成り立たないと。

 頭だけをすげ替えた所で身体が拒否すれば、それは完全な形を保てない。

 だから、王と王都を落とした所で、各都市の都市長達が黙っているわけがないのだ。

 たしかにラヴァーナ教と餓狼蜘蛛の力は強大である。


「民の替えなど、いくらでもおるのだよ。オリバー…牢に放り込んでおけ!」

 下卑た笑顔を作りオリバーを見下ろす。


 …そんな訳はない。

 あの神国ですら、全てが教徒と言うわけではないのだ。

 国家を維持できない国の王になんの価値があるというのか。


「「さぁ、立て!」」

「…せいぜい、偽りの王を楽しむんだな。じきに彼らが来てくれる」


 …じきに都市長達が、そして世界最高の戦力であるアイアンメイデンが暴挙を阻止してくれる。

 それまでの辛抱だ。


 オリバーは私兵に引き摺られるように王座の間を後にした。


「さて陛下…おっと、ガイゼフよ教えてもらおうか。この城の地下に眠る祭壇への鍵を」


 ガイゼフの頭から落ちた王冠を拾い上げ、自分の頭に載せゲルノアは王家のみが知る秘密を尋ねる。


「…おのれ、無礼ですよ!ゲルノア」

「…その辺で犯して殺してあげなさい。」

「「はっ!」」


 ゴミを見るような目で指示を出すゲルノアに、王女は戦慄する。

 母親を庇おうとする幼い皇子も、兵士達に押さえつけられてしまう。


「まっ、待て!わかった…分かった。全て話すから、だから二人を助けてくれ…頼む、ゲルノアよ」


「ほっほっほっ、素直でよろしいでしょう。では、地下祭壇へ向かいますぞ…その二人は牢にで入れておけ」

「「ははぁっ!」」


 王座の間には、数名の私兵と黒づくめの男達が残った。


「……ピィー」

 戦力としてカウントされなかった書記官のベイルは、静かに口笛を鳴らす。


 すると、窓際にいた鳩が一羽飛び立った。

 この危機を彼に伝えるために。






 ーーーー要塞都市 バノペア

 …同時刻。


「いやー!やっぱ、一気に狩るんは大変やったなぁ」

 身体中に小傷を作りながら飄々と語るレンに二人から冷ややかな視線が飛ぶ。


「あなた、もう少し連携を考えるべきよ!」

「キリカに言われるなんてレンさん…」


 飛龍退治に赴き剣士三人と言う変則パーティーながらも、火力に任せて見事に討伐を完遂した帰り道。

 ワイワイと言い合い、技についての意見を交わす。


 死線を潜り抜けた事で、出会った頃よりもだいぶ打ち解けて見える。


「なんや、あれ…」

「なによあれ?」

「いや、僕に聞かれても…」


 そんな三人の視線の先に、バノペアの城壁から登る灰色の煙が見えた。


「ちょっと、ヤバそうやな…二人とも、もうちょい手ぇ貸してくれ!」

「「はいっ」」


 自然と足は早くなり城壁へと急ぐ。

 レンは額に汗を浮かべていた。

 アールヴに少し聞かされていた、反乱の兆し。

 まさか、そこまで酷くはならないだろうと軽く流していた。

 バノペアには知り合いも多くいるのだ。

 腰の刀を握る手に力が入る。


「無事であってくれや」


 レンは呟き急ぐのであった。

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