第96話腹心の裏切り

「一体どうなってるんだよ?ヘッケラン、ヘッケランはどこにいるんだ!肝心な時に…」


 俺は動揺していた、しまくっていた。

 聞くに王国でゲルノアが国王を捕らえたらしいとか…

 確かにアイツは裏で黒い事をしてるみたいだったし、欲深い顔はしてたけど。

 まさか、こんな大胆な行動に出るなんて思っていなかった。


「そ、それが…少し前からヘッケラン様が見当たらず、その、ネロ君も一緒に居なくなってしまったのです」

 オドオドとした感じでメイド姉のサリネアが答えてくれる。


 …おかしいだろ。

 あいつは呼ばれなくても緊急時には、いの一番に現れるはずだ。

 それが、このタイミングで行方不明だって?

 ま、まさか、あいつが裏で糸引いてたり…なんてしないよな。


 俺の部下になってからは真面目になったとは言え、ヘッケランも野望多き人間だった。

 それに、あの事も心に引っかかってるし…

 まぁ、俺の感なんて当てにならないだろうから大丈夫か。

 以外と二人で飯でも食いに行ってるのかもな、間が悪いだけで。


「ユウト様!帝国でも謀反が発生との報せが」

「こちらも謀反です!各都市長様から救援の要請が」

「シュウト様から伝言です、仲間が捕まったので力を貸して欲しいと…」


 ネロの代わりに通信室に行かせた部下達から次々と反乱発生の報告が上がってくる。

 毛色は違うようだけど、シュウトの所でも何か起こってるみたいだ。


 ガンガン連絡が入ってるので、通信関係のアイテムが切れた、と補充依頼も相次いでくる。

 …ヤバイ。

 少し前から分かっていたが、通信系のアイテムと防御系アイテムは枯渇気味なんだ。

 これ以上、無計画に使えば大事な時に用を為さなくなってしまう。


 あ、焦るな、落ち着け俺。

 消費系アイテム以外で連絡…

 あっ、そうだ。

 ここには、アレも結構な数を置いてたはず。

 …と言うかヘッケランに預けてたんだった。


「そ、そうだ!見鏡は?あれなら主要所と制限なしに繋げるし、王都ならアールヴの爺さんにも話しが聞けるはずだろ」

「そ、それが…見鏡部屋は頑丈に鍵がかけられていまして。」


「ティファ!ぶっ壊すぞ」

「はっ!」


 全員で慌てて地下へと降りて通信室を覗く。

 虫電話は大森林方面以外の物がほとんど消費されてしまっている。

 こんなに一気に消費するなんて、計算外過ぎるよ…

 そして、最奥にある小部屋は報告通り、しっかりと扉が閉められていた。


「ティファ!」

「はぁぁっ!」


 ドガッと言う音を立てて扉が蹴破られる。

 結構頑丈そうなのに一撃とは…さすがはティファってところか。


 俺は勢いを弱めて、恐る恐る中を見た。

 正直、ヘッケランやネロ任せっぱなしで、中がどうなってるか見た事が無かったな。

 だって、何かあれば報告が来るし普段は鍵がかけられていたから、わざわざ覗く必要も無いはず、だったんだ。


「…あの変態男、見つけたら容赦しませんわ」

「ここここ、これは、大変なんだな!国宝級のアイテムが!ここ、こんな…」


 俺の横から部屋を見たレオがメリーの呟きを搔き消す。

 …部屋の中は荒らされていた。

 いや、鍵はかかっていたのだから、荒らして行ったんだ。

 部屋の見鏡は全て割られていた。

 アイテムはただのガラクタになり下がり、光を失ってしまっている。


「…まじかよ」


 勿体ないとは思ったが、それよりも俺の心を動揺させたのは別の事だ。

 …ヘッケランが黒だった、裏切ったんだ。

 さっきまでは、まさかと思い自分をバカにしていたのに。


「…ここはヘッケランの管轄です。奴の謀反も間違いようはありませんね」


 ティファが少し肩を落としながら残念そうに伝えてくる。

 そうだ、そうなんだ。

 ここの責任者はヘッケランとネロだ。

 だから、あいつら以外にこんな事は簡単に出来ない、出来るはずない。


 くそっ。

 意味が分からん!

 なんで謀反?俺が気にくわないなら直接言えば良いだろ。

 他の誰でもなく、お前の言う事には耳を貸してきただろうが……なぁ、ヘッケラン


「はぁはぁ…あっ、いたっ!お兄ちゃん、大変なの、ウチの支部が暴動に巻き込まれて襲われてるみたいなの!」

 大慌てで飛び込んで来たルサリィの獣耳がペタリと塞ぎ込んでいた。


さらに追い討ちをかける報告に泣きそうになる。

 誰だよ、一体何のために。

 いや、ヘッケランか。

 あいつが、俺を潰すためにやってるのか?俺を潰して組織を乗っ取ると


 …確かに俺はへなちょこ野郎だ。

 だけど、このアイアンメイデンって組織は優秀な幹部達あっての物だ。

 各国の王様や代表者も、ウチの姉妹の武力や、各責任者達が有能が故に俺達に一目置いてるんだろうが。

 だから、事務所潰して頭すげ替えたって、他がついてこないなら、上手くいくわけ無いだろ!


「いや…落ち着け。落ち着こう……まずルサリィは情報をまとめて報告してくれ、それからメリーは各地への対策を。ティファはこの屋敷周辺とアスペル事務所の警護指揮をとってくれ!」


「わかった!」

「かしこまりましたわ。」

「はっ!」


 それぞれが理解を示し、迅速に行動へと移してくれる。

 実に頼もしい。

 唯一頼もしく無い俺は頭を冷やそう。

 そうだな、気休めにレオを連れて行こう。



 ……

 小一刻、小一時間もしないうちに準備が整ったと会議室に呼び出された。

 レオが鼻息荒く喚いてたのを見て、俺もだいぶ落ち着く事が出来た。

 良かった、レオ様々だな。

 そうだ、レオでも役立つなら、この場で俺ががマジで一番いらん子なのでは…

 と、そんな思考を振り払うように顔を振る。


「みんな、ありがとう。話を聞こう」


 こんな俺でもココではトップだ。

 柄じゃなくても気張って行こう。

 大丈夫、ヘッケランがいなくても、頼りになる仲間はいる。

 だから大丈夫な…はずだ。


「じゃあ、わたしから説明するね?まず、アスペルは大した混乱も無く落ち着いてて、シルクットも被害が少ないみたい。

でも、パノペア、王都、エゼルリオ、エデキオの順で被害が大きくて出てて…四箇所の事務所は占拠されてしまったって。

それに…王都支部のマーザックさんと、パノペア支部のクシュールさんは、えと、その…」

「…そうか、分かった。続きを」


言葉を言い淀むルサリィに、俺は冷静に先を促す。


 …二人は殺されたのだろう。

 マーザックは国王から紹介された有力貴族の三男だけど、嫌味のない良い奴だった。

 シュールさんはアキラの紹介だったな。

 アキラを見ると視線を床に落としていた。

 流石にショックを受けてるんだろう、たしか、彼はアキラの手伝いもしてたはずだ。

 信頼できるからと紹介されたんだったしな。


「…う、うん。それから、帝国の首都と東側の二都市、バスクトとハノンでも同じような事が起こってるみたいだよ。

あと、シュウトさんの日の本は別の事情で困ってるみたい。」

「…別の事情って?」


 そう言えば、伝令から毛色の違う報告が上がっていたような。

 気になって横槍を入れてみたが、「それは、後で話すね」と流されてしまった。

 …あいつから助けて欲しいとか、何事だろうか。


「最後に、帝国の西側は被害が少なくて、大森林もほとんど影響は無いみたい。最後に神国でも暴動は少し起きたみたいなんだけど、それを先導していたのは悪魔だったって報告が来てた。」


 被害の感じからすると、パノペアを中心に反乱が起きたって事だろうか?

 あそこはラヴァーナ教と餓狼蜘蛛の本部があるって噂だったし。

 だけど、それなら悪魔は何で…

 まさか人間と手を取り合ってとか、簡単に召喚されてとかは無いだろう。

 たしか、召喚儀式は国家レベルの手続きぐ必要だって聞いたことあるし。


「各地での反乱はそんなところみたい。

それで、最後にお兄ちゃんが気にしてたシュウトさんの日の本は…幹部の人達が、帝国に捕まってしまったみたいなの。しかも、そのタイミングで反乱が起こっちゃって助けに行けないんだって」

「なんちゅうタイミングでやらかしてんだよ、あいつは…」


 ルサリィは俺の言葉に苦笑いで答えると、報告は以上だと下がった。

 簡潔にまとめられていて分かりやすかった。

 …ルサリィは賢いな。


「では、続いてわたくしが。」


 そう言って、ルサリィの報告に対して、これからの対応策をメリーが提案してくれた。


 具体的にはこんな感じだった…

・王国の各都市はベイリトール率いる傭兵部隊の幹部を頭に援軍を編成し送り出す。

・被害の大きい王都にはメリーが、パノペアはベイリトールが行く予定

・同時に何処かでで任務についてる筈のレンを捜索し回収。

・シュウトからの要請には、レアを送る

 …レアに合同作戦って、大丈夫だろうか?


「…いや、あの、俺とティファは?」

「ユウト様はココで全体の指揮をお願いして、お姉様は護衛ですわ。一斉に反乱が起こった裏には指導者がいます…おそらくラクシャクトその配下達ですわね。」


 …やっぱりそうか。

 まぁ、冷静に聞けば想像つく話だし、もちろんメリーの采配も妥当だと思う。

 だけど、話を聞いて、真っ青な顔で立ち尽くす彼女をみて、俺だけ待機とか無理だよな。


「王都には、俺とティファと…シャルで行く。メリーが屋敷で全体の指揮をとってくれ」

「いけません!これはユウト様を誘い出す罠の可能性が高いのですわ。ですから、少しでも安全度の高い場所にいるべきですのよ!」


「…そ、それでも…だ。」


 珍しく声を荒げるメリー、心配するのが伝わってくる。

 だけど、俺も簡単に折れる訳にはいかない。

 シャルのあんな顔見てられるかよ。

 …たしかに、俺が行っても足手まといだし何も出来んかもだけど。


「あ、あの…わ、わた…わたしなら、だだだ、大丈夫ですよ?」

 周りの視線を受けて顔を青くしながらも愛想笑いをするシャル。


 …大丈夫な訳が無い。

 国王は捕まり王女と皇子は安否不明、レンの行き先を知る者も連絡が取れない。

 そんな状況で大丈夫なもんか。

 堅物のオリバーやアールヴ爺さんは何をやってるんだ。

 肝心な時に連絡取れないとは…いや、全員一緒に捕まってるのか?

 なら、やっぱり俺が付いて行って、皆を助けてあげないと。

将来の家族かもしれないからな。

明るい家族計画ってやつだ…違うか。


 そう決意する俺の目を見て、メリーが諦めたように深いため息をこぼした。


「はぁ…分かりましたわ。では、わたくしとお姉様で付き添いましょう。ルサリィにはココで全体の連携を、指示はわたくしが出しますわ。」

「はい!分かりました」


 メリーが頷くルサリィの頭を撫でながら俺を見てくる。

 ぐっ…。

 分かってるよ、ルサリィは良い子で俺は悪い子って言いたいんだろ?

 迷惑かける代わりに、お姉様には後でしっかり恩返ししてやんよ!


 と、思いつつもメリーの視線から逃れようとする俺の服の裾が掴まれた


「ユ、ユウトさん…わ、私のために、ご、ごめんなさい。」

「シャル…大丈夫だって。家族もレンも必ず助け出すからさ!」

シャルの頭に手を置いて答える。


 気休めにもならんだろうが、大袈裟に笑顔を作って大口を叩いてみた。

 万が一、国王達が殺されていても、シャルを守るのは俺の役目だしな。

 …レンは殺しても死なんだろうし、適当に回収しておこう。

 まぁ、スタートホールの件は言い出しにくいんだけどなぁ


かくして、行動の計画は立った。

 そうと決まれば慣れたもので、各隊に分かれると随時出発して行く。


「では旦那、お留守はお任せください!」

「姉さん達も気を付けて!」

「おう、くれぐれもルサリィ達を宜しくな!」


 俺は居残り組の護衛を任せる、傭兵隊の部隊長で元S級冒険者のサジマジに後を託した。


「お兄ちゃん、気を付けて!」

「皆様、ご武運を」


 連携係で屋敷を仕切ってもらうルサリィと、美人秘書ことサラの声を背に召喚巻物を起動する。

 巻物が淡く光り、ボロボロに崩れると光が集まってくる。

やがて…光はガルーダロックという巨体な鳥モンスターになった。


 足元に紐を括った二羽のガルーダロックに籠を引っ張ってもらい、俺たち四人は空へと飛び立った。

 …目指すは王城、エリオペアだ!

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