第74話褒美を越えて
「ユウト侯爵、並びにアイアンメイデンの者達よ、此度の戦働き大義であった。」
登壇から発言まで終始、体調の悪そうだった国王が俺達を前に労いの言葉だけ伝えると、従者に連れられて王座の間を後にしてしまった。
「陛下に代わり、ここからは私エレノア・ベイオール・フォン・アダドが儀典を引き受けます。ゲルノア大臣」
「はっ!女王陛下。それでは、このゲルノアより国王陛下の決定を伝える。」
心なしか生き生きしたゲルノアの肉っぷりが腹立たしいな。
その後、俺達に示されたのは恩賞と言うより懲罰の意味の方が強かったように思う。
まず、俺に関しては三ヶ月の謹慎でアスペルからの外出不可、祝い事やパーティー等にも参加しないようにし、破れば爵位を一つ下げると。
そして、爵位を受けていた姉妹達には褒美の金貨のみ、ヘッケランと傭兵隊長ベイリトールには爵位と金貨が与えられた。
残りの幹部達には名誉賞として、飾りにしかならなさそうな短剣や紋章のモニュメント的な物が渡された。
「失礼を承知でよろしいでしょうか?」
姉妹達を必死に抑える横で、ヘッケランの右腕として経理関係を任されている敏腕秘書っぽいサラ・レイヤーが挙手をする。
「ほんとに失礼なっ。しかし褒賞の場だ、発言を許してやろう。」
「…我々アイアンメイデンは、王后諸侯の先陣に立ち人、金共に大きな被害を出しました。我々への褒賞はさておき、これへの補填はどうなるのでしょうか?」
「そなた、平民の分際で良くもそのような口が…」
ギリギリとお行儀悪く歯軋りしそうな表情で女王がサラを見下す。
気の強い美人秘書属性持ちのサラとは言え、国のトップにあんな顔されたら、さすがに顔色悪くなってる。
ここは俺が助け舟をと口を開きかけた矢先にゲルノアがカットインしてくる。
…俺のアピールチャンスを潰すとは不敬なおやじめっ!
「ふんっ…戦費への補填に関しては、前線都市以外の貴族と王国から支払われる事になっておる。」
「あ…ありがとう…ございます。」
…金庫番として当然の主張をしてくれたサラが、こんな扱いを受けるのは納得できんな。
「よろしいですか?」
「なんだね、ユウト侯爵」
「いや、今回の戦争で俺の考えが甘かったのは理解したし、俺自身への褒賞がない事には文句は言わない。」
「ほぅ。殊勝な心掛けでは無いか…ふっふっふ。」
弛みきった腹をさすりながらしたり顔でゲルノアがニヤつく。
「…だけど、ウチの人間を蔑ろにするなら、帝国や神国と組んで王国と戦争してもいいんだぞ?今回の防衛戦で俺達の力は十分示した筈だからな。」
…カツンッ
俺がレアに視線をやると、レアが手に持っている杖を床に打ち付けて冷気を撒き散らす
「なっ!?…な、なななにをっ」
「そなたっ!謀反を起こす気なのですか!?」
俺達の力は十分感じてもらっているのだろう、辺りが騒然となり近衛兵達にも緊張が走る。
…勢いで言ったけど、この空気をどうやって鎮めればいいんだろうか
「お待ち下さい女王陛下、ゲルノア大臣。我らが主人であるユウト様は慈悲深きお方です。」
とりあえずニヒルな笑みだけ維持していた俺の横にヘッケランが並ぶ。
姉妹達が満足そうな顔しとるな…
「…それがどうしたと?」
「はい、ゲルノア様。ユウト様は我々従者の扱いに気を配って頂いているだけなのです。我らアイアンメイデンは、もちろん王国の礎と共にある事は疑いようはございません。」
「その言葉を信じよ…と?」
ヘッケランは余裕の笑みを崩さず、ゲルノアのヤラシイ視線も微動だにしない。
「こいつはウチの副団長で俺の右腕だ。そのヘッケランが言うなら俺も無下にしたりしないさ。…まぁ、後はあんたら次第だよ」
「良いでしょう。わたくしが慈悲を与えます。ゲルノア、後は良きに計らいなさい。」
恭しく一礼するゲルノアを見もせず、アストルフ王子を伴って退出してしまう女王
後に残されたシャルが気まずい表情で俯いてる。
「戦にも勝ったんだし、分かってくれればいいさ。俺は大人しく謹慎してますよ大臣。」
「ふんっ。良からぬ事は考え無いようにな、面倒ごとはごめんだからなっ」
…そうして、その場はヘッケランのお陰で無事に乗り切ることが出来、部下を守る良い上司アピールに成功した俺の株も少し上昇したのであった。
お母様に弱いシャルからは後程、大クレームだったのはご愛嬌だ。
ーーーーーー三ヶ月後
王国対帝国での戦争から謹慎期間が明けて、名実ともに晴れて自由の身となった俺は、いよいよ獣耳…もとい、獣族と精霊族が治める大陸南部地域に乗り出そうとしていた。
しかし、王都召集からいくつかイベントをこなしたので、いくつか紹介しておこう。
まず、謹慎命令後にアスペルへ戻った俺達の元にアールヴ爺さんが国王の使者として現れたんだ。
国王派と対立する貴族派達との戦後調整やら、俺達アイアンメイデンの機嫌を損ねないようにと色々手を回してくれていたらしい。
そんな事もあって、当日は体調不良で離席となってしまい申し訳無いとの事だった。
大貴族達の手前、一応は謹慎と言ったが特段気にする必要は無いので、問題だけ起こさないでくれとお願いされてしまった。
なので、ルサリィやバンゼル達に任せっぱなしになっていた養護院の落慶と戦勝を祝ってパーティーを開催したり、剣神流の二人から要望のあったダンジョンでのレベリング大会等、一ヶ月位はまったりと過ごしていたかな。
そうそう、ダンジョンに籠っていた時にうっかり罠にはまってしまい、あやうくキリカルートに突入しかけたりもしたので、時間があればその時の話もゆっくりしたいところだ。
あっ、剣神流と言えば剣聖ガリフォンが引退してジゼールと言う魔族の男が剣聖へと就任したそうだ。
バンゼルやキリカも寝耳に水と言った感じで、急いで道場に帰って行ってしまったからなぁ…
ちなみに、俺はまだ剣神流の道場には遊びに行けていないので、近いうちにその新しい剣聖様を拝みに行ってみたいと思ってる。
セクハラ巨乳聖女ことセレスは…神聖騎士のアルニラムさんに神国へと連れ帰ってもらったんだが、また面倒な約束もさせられてしまったんだよなぁ。
シュウト含む帝国方面の話は結構大きなイベントが起こったので、後で詳しく語らせてもらおうと思う。
ちなみに、王国に敗れた帝国は一応の代償としてグデ平原西部の領地を王国側に引き渡す事になったそうで、超後付けでそこは俺の領地になったそうだ…
追加恩賞とかほざいていたが、帝国との隣接地なんて言う誰も欲しがらない地域を、力はあるけど扱いが面倒な俺たちに丸ぶりしようってのが透けて見える…ってヘッケランが言ってたので、多分そうなんだろう。
取り敢えず掘っ建て小屋を王国が建設して杭を打ってるそうなので、たまに手入れするくらいの基本放置で良いだろうって事になった。
クソ皇帝様の為に嫌がらせで巨大軍事拠点を築いてやっても良かったんだけど、謹慎中にそれはマズイと幹部達に止められたな。
あぁ、それから幹部と言えば各都市に置いてる支部の支店長とルサリィが幹部入りを果たしたんだ。
…正直メンバーが増え過ぎて、偉そうな態度の奴がいると、俺の方がコソコソしてしまうんだよなぁ
…リーンリーンッ
「はい?」
「あぁ俺だ。帝国の奴らが平原をどうやって取り戻すか揉めてるらしいぞ?」
「まぁ、現状は放置状態だから奪っても良いけど、また戦争扱いなるんじゃないのか?」
「バカ共の考えは知らん、お前への義理立てで連絡しただけだ。本格的な動きになりそうなら、また報告を入れる。」
「ハイハイ、ご苦労さん」
「…ちっ」
まだ完全に受け入れた訳では無いけど、以前のような喧嘩腰には、もうならない。
電話の相手…シュウトも俺との約束や恩を仇で返すような事は無いだろう程度には話し合ったつもりだ。
俺達アイアンメイデンが揉める可能性が高いのは目下帝国軍だけかな。
まぁ、シュウトって爆弾を抱えながら俺達と事を構える程、狐宰相がリオペアは愚かでは無いと思うだけど…
「マジで攻めて来たら、また戦争か…それはゴメンだなぁ」
「ユウト様?」
「おにーちゃん?」
真面目な顔をしていたら皆を心配させてしまったみたいだ。
「新しい領地に巨大基地を作るのは、まだ先になるよなって話だよ!」
俺はワザと軽いノリで言い、ルサリィの髪をグシャグシャっと撫でさせてもらう。
「明日からは大陸南部への侵略に変わりはありませんの?」
「侵略て…」
メリーの言葉に苦笑いしながら頷く。
そのやり取りを見て、皆も止めていた手を動かし準備に戻って行った。
…もう少し、あと少しで俺の力が解放される。
ドラゴン爺さんと戦うのは嫌だけど、ゲーム時代の力を取り戻せば、毎日暗殺に怯えてティファとメリーの乙パイに挟まれて過ごす必要も無くなるんだ。
いや、それはそれで残念かっ!?
「…待ってろよ、ケモ耳達よっ!!」
心踊る呪文を唱え自分自身にハッパをかけて、俺も用意を始めるのであった…
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