第75話邂逅と和解 前編

 あれは、王都での褒賞騒ぎが終わり自治都市エゼルリオでの祝賀会、孤児院の落慶、ダンジョンでのドキドキレベリングが終わった頃だった。


 アスペルの街に戻り、戦の興奮覚めやらぬ来客達の対応に若干うんざりして来た所


 そいつは突如、俺の前に現れた…



「…ユウト、カザマ。キサマ…いや、貴方に願いがあって来ました。」


 突然の来客にメリーが短刀を抜き、警戒と不快感を露わにする。


「…どの面下げて俺達の前に現れたんだ?昨日の敵は今日の友だとでも思ってるのか?」


「分かっている。私の命が欲しければくれてやるし、この身体も好きにして構わない。」


 …ピキッ


「ちょ、メリー落ち着いてくれ!流石に話も聞かず殺るのは無しだって。」


「…わかりましたわ。」


 こめかみに青筋を立てながらも刀を収めるメリーに安堵しながら、立ち話も何だからと屋敷に案内する。

 …べ、別にあの子の服が破れまくってて、目のやりどころしか無いから、じっくり鑑賞しやろうとかは無いんだからねっ


 まぁ、メリーが途中で簡易マントを渡してしまったので、お楽しみタイムは終わってしまったが、あんなに傷ついて、命を賭けて敵である俺達に会いに来るなんて…一体なんなんだろうか


 心の中で一人問答をしながら三人で屋敷まで無言で歩いた。




「さて、それでは詳しい話を聞かせてもらおうか…まぁ、シュウト絡みだろう事だけは分かるけどな」


 黒髪ポニテのおねえさん系美女である元NPCのコハルが、整った眉をピクリと反応させた。


「さすがはシュウト様を退けた『軍神』と呼ばれる実力者ではありますね。」


「当たり前です。」


 勝手な噂が先行して呼ばれる二つなを口にするコハルに、新手の嫌がらせかと狼狽えていると、俺の横に座るティファが当たり前だと上乗せしてくる。

 …レンが側にいなくてほんとに良かったな


 マントの隙間から覗く素肌に話が頭に入ってきいくかったが、要点をまとめるとこんな感じだった。


 ・シュウトの配下でコハルの同僚であるアスナと言う少女が、帝国によって人質にされてしまった

 ・シュウトの治める国「日の本」も半占領状態な上、大半を生活弱者が多く戦力が無い

 ・単身でアスナ奪還を目指したが、見事返り討ちに遭い手詰まりになった

 ・頼れる相手も資金も無く、シュウトと同郷である俺を頼るしか無かった。

 ・どうせ一人で戦っても死ぬだけなので、俺に辱められても仕方ないと。


 …いや、最後の一個だけおかしいだろっ!



「…まぁ、大まかな理由は分かったし希望も理解したよ。」


「ではっ!?」


 ばっと顔を上げて表情を明るくするコハルに待ったをかける。


「だけど、対価が弱すぎるだろ?辱め云々は別にしても、帝国と本格的に事を構える程の価値があるとは思えん。」


「…しかし、私に約束できる対価など知れています。」


「ユウト様の言う通りですわ。国主を助けて見返りが小娘一人なんてお笑いですわ。」


 小娘発言にコハルの肩がピクつくけど、立場を弁えて大人しくしているようだ。

 まぁ、メリーは若くは見えるけど、設定的にはかなり年上だからな。


「…たしか、日の本は独立国として存在してるんだよな?」


「…はい。」


 相当嫌なのだろうか、若干目が潤んでるし歯を食いしばってる。

 …なんだか俺が悪い事してるみたいだ、でも簡単に受けてやるのも違うと思うだよなぁ


 パシーンッ…

「その態度も気に入りませんわ。偉大なるユウト様の慈悲がそんな顔をする者に向けられるとでも思って?」


 頬を叩く乾いた音とメリーの言葉が周囲を静まり返らせる。


「ぐっ…おね、します。ぉねがぃ、しばす。おっねがい…ぼぉねがぁいじばずぅぅ!!!」


 膝を折り前のめりに崩れ落ちるコハルは、地面に頭を擦り付け土下座の姿勢で言葉を絞り出す

 その姿は正しく全てを捧げると言う言葉に相応しいものに見えた。


「もぉいい!分かった!!」


「…っ!?」


 コハルの肩を掴み土下座をやめさせると、俺は皆に指示を出した。


「謹慎は一旦撤廃だっ!全員、準備に取り掛かれ。最短で出撃するぞ!!」


「「はっ!!」」


 一部始終を見ていた幹部達の反応は早く、ヘッケランとメリーが奪還作戦の計画を立てるために地下の作戦会議室へと降りて行く。

 ティファとシャルにコハルを一旦預け、準備が出来たら会議室に来るように伝える。


 現状把握と状況確認、何が必要かをウチのブレーン達に伝えてもらわないと行けないからな。


 ルサリィには騒ぎにならないよう情報規制と、ここに居ない幹部達への連携をお願いする。








 ーーーーーー二日後

 準備を整えたアイアンメイデンが屋敷の庭に集結していた。


 俺は集まった皆を前に気合十分で演説を始める。


「いいか、みんなっ!やられっぱなしだった帝国の野郎どもに俺達の恐ろしさを思い知らせる時が来た!!」


「「おぅっ!」」


「お前らの力を信じてる。いっちょ、一泡吹かせてやろうぜっ!」


「「はっっ!!」」


 俺は微妙に震える膝を庇いながらヘッケランに交代する。


「お疲れ様でしたユウト様。台本通りバッチリでございました。」


「やっぱり大勢の前で喋るのは慣れないなぁ」


 ヘッケランは軽く笑い皆の前に立つと、今回の作戦についての細かな指示を出して行く。

 全員が真剣な表情で聞いている。


 その姿を見て昔を思い出した。

 自分が「エアデブ」と呼ばれていた学生だった頃、こういった全校集会的な物で話をまともに聞く奴は、ほとんどいなかったと思う。

 まぁ、俺は誰にも弄られないように、ひたすら地面の蟻を眺めていたんだけどな。


 この世界では話を聞いていなければ即死に繋がってしまう。

 俺にはチートなアイテムや仲間がいるが、その辺の子供でも知っている常識だ。


 平和だった昔の世界では考えられない事だよなぁ…と、そんな事を考えていると作戦の説明が終わったようだ。

 …回想挟んだりして、死亡フラグ立ったりしないだろうか



 それから、日が沈んだ夜八刻頃に俺達はアスペルを出発する事になった。

 情報規制は引いているけど、「戦争に行きます!」みたいな行軍を見られるのはマズイとの判断からだそうだ。


 市壁を出た後、軍を二つに分ける。

 一つは言わずもがなシュウトとアスナを助ける救出組。

 もう一つはシュウトの国である「日の本」奪還組であり、こちらの方が人数が多い。


 主要メンバーは王都に行くが、一般兵に占拠されている日の本には傭兵団と幹部が二人指揮官で同行する形になったのだ。

 …俺?俺はもちろん指揮官なんて出来ないから救出組さっ!

 一応、シュウトと話をせんといかんしね


 ちなみに都市解放部隊はメリー隊長にベイリトールが副長として指揮を執る事になった。


 ヘッケランは内務があるから不参加だし、救出部隊の方が大丈夫だろうか?

 俺は大した戦力にならんし、ティファは天然なところがある。レアは大砲役でコハルに至っては、どの程度できるか分からない。



「それでは、行ってまいりますわ。ユウト様。」


「あぁ、気を付けてな!頼んだ。」


 特に気負う様子も無くメリーとベイリトールが出発の挨拶に来て出発する。


 解放組とタイミングを合わせないと、日の本急襲を知った皇帝達が何をやらかすか分からない。

 なので、俺達は三日後に出発する予定だ。








 ーーーーーー三日後

「…ユウト様、帝国領内に入りましたわ。予定通り難民団を装って西武行きの許可も取れましたので万事問題ございませんわ。」


「了解。国境警備がザルで助かるな。俺達も出発するから、向こうに着いたら教えてくれ!」


「……」


 どうしたのだろうか、水晶に映るメリーの表情が曇っている。

 何かあったのだろうか…

 大丈夫だと言いながら表情で気付けよと、このドゥーテーに難問を投げ掛けているのだろうか。


「…りませんわ。」


「はいっ?」


「わたくしが居なくて寂しいよ(ハート)の言葉がありませんわ」


 …あらやだ、この子ったら困ったちゃん。


「はっ、い、いや…その、も…もちろん。ねぇ?」


「賢く出来たらご褒美をあげますわよ?」


「メリー様に抱いてもらえなくて寂しいワン」


 てっきりセクシーポーズでもあるのかとワンコになりかけたが、俺はメリーの主人として尊厳を持ち話をさせた。

 …心の声が漏れてる?いや、そんな馬鹿なっ


 俺の命により情報を吐いたメリーから聞いた事は意味不明だった。

 俺の領地(仮)になっている、グデ平原の国境付近に剣聖…いや、元剣聖のガリフォンが座り込んでいたそうだ。


 既に難民装備に変わっていて、特に絡まれなかったそうだが、帝国の国境警備が緩かったのもガリフォンのせいだとか。

 …あーゆー何かを極めし者の行動は良く分からないので、俺達も気をつけようと思う


 最後に水晶越しに投げキッスしてもらって…ゲフゲフ

 もとい、報告を聞いて通信を切った。



 何事も無いといいんだが、考えていても仕方ない。

 俺は救出班のメンバーに声をかけ屋敷を出発する。


「さぁ、俺達も行こうかっ帝国へ!!」

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