第73話戦後処理と人の気持ち

 アスペルでの防衛戦に勝利した俺達アイアンメイデンは、戦勝の雰囲気に浮かれてダラダラとした日々を過ごしていた。


 忘れていた訳じゃないんだ。

 …いや、正直に言うと忘れたんだけど。


 軍神、戦神、英雄、王国の守護者etc…

 あの戦いの後、アスペルに凱旋した俺達を待っていたのは、絵に描いたような称賛の嵐だった。


 そんなによいしょされると、俺の性格上、乗るわな。

 調子に。

 お鼻たーかだっかでしたよ…


 なぜそうなったのか順を追って話を…いや、言い訳をさせてもらおう。


 帰還した初日は厳かな物だった。

 勝利を喜び全員で街に戻り、勇敢に散った戦死者達を弔い喪に服した。


 しかし、3倍以上の戦力差を跳ね返し帝国の有名人【天撃】アレスと、【日の本】首領シュウトを撃破と言う噂は俺達の予想以上に街を沸き立たせていたんだ。


 その為、戦死者を弔った翌日からはパーティー三昧であった。

 あちこちでの歓待に招かれ、屋敷には連日人が列をなして訪れて来た。


 バノペアでの防衛戦は、レアを送り出した時点で問題解決だろうとタカを括っていたので…

『星落とし』騒ぎや、魔導兵出現の話などは聞いていたのかも知れないが、まったく頭に入っていなかった。

 いや、ほんとに。

 決して、あちこちで褒められまくって、飲めない酒を飲まされて頭からスッポリ抜け落ちていた訳では…


 それ以外に、連絡関係の確認も怠っていた。

 この世界では『虫の音色』なんかの、直通で連絡を取るアイテムは貴重なんだ。


 俺もそれなりの数は持っていたけど、チャット実装後はゴミアイテムとして死蔵していただけだったから、携帯電話のように無意識でも確認するって習慣が弱い。

『見鏡の水晶』だって、一部の大貴族やら国レベルで数個持っていれば良い方らしいからな。

 固定電話みたいに常設して使うのが一般的だし、俺みたいにアイテムボックスに入れて持ち運んでる奴なんていないだろう…


 確認不足はたしかに自分のせいだし、ゲーム時代は使われないアイテムだったから勘弁してほしい…とは言い訳になるだろう。


 他にも細かいことははあるが、とにかく俺は色々と抜けてしまってた。

 そして、アスペル終戦後3日経って、バノペアでも決着が着いたと言う話が伝わって来た頃、それは現れた…



「ふぉっふぉっ…随分と楽しんでおるようじゃのぅ?」


「ふぇっ!?あ、アールヴ爺さん?」


 高級ソファーでメイド姉妹のサリネアとサルネアにフルーツを「あーんっ」させてもらっていた所に、髭もじゃの老人アールヴ魔法師長が現れた。


「ふむっ…防衛戦の疲れで動けんかったと言うのでは無さそうだのぉ」


 顔はいつもの笑顔ではあるが、目の奥が笑っていないな


「えっ?いや、戦後処理で色々と忙しくて…そっちもレアを送ったんだから問題無かったんじゃ?」


 王都エリオペアでの戦いについて何もしらない俺は、アールヴ爺さんに対して当たり障りの無い返ししか出来ないでいた。


「ふぅむ。それがのお…」


 爺さんはため息混じりにバノペア戦の一部始終を説明してくれた。


「星振りに魔導兵出現、レンの敗北に…特殊部隊の壊滅か」


 予想外の被害と、その半分位がレアを起因としている事に唖然としながらも、アスペルでの防衛戦についても掻い摘んで説明した。


「なるほどのぉ。かの異界人シュウトの襲撃を受けたと。やはり、今回、突然の宣戦布告に関しては、裏に日の本が絡んでいたと言う事かの…」


「俺もそれには同感なんだけど、今回の防衛戦で言えば俺達は第一級の功労者だろ?そんなに責められる言われなんて無いって。」


 爺さんは少し寂しい表情をした後に、戦いに勝利した事と被害を受けた人々の感情とは別物であり、侯爵となった今の俺やアイアンメイデンは国防に全てを費やして当たり前とみなされるそうだ。


「黙って聞いていれば随分良い身分ですね。」

「その通りですわ。わたくし達が守らなければ滅んでいた可能性の方が大きいと言うのに、良くそんなセリフが吐けますわ。」


 爺さんとの会話にティファとメリーが割り込んで来た。

 俺同様、爺さんの話に不服なようで、イラつきを隠そうとしない態度だ。


「もちろん、アスペルでのお主らの活躍やレア殿の力も十分知れ渡るであろうが、陛下も良い部分だけを讃える訳にはいかんのじゃ。」


 爺さんも二人の威圧に負けずハッキリと主張してくる。

 爺さん自身の考えや評価と、国家や世論の受け取り方は違うって事なんだろうか。


「つまり、王都召集があって何を言われても腹をたてるな。と、言う事でしょうか?」


「いかにも。」


 小脇に大量の紙束を抱え、戦後処理に事実走り回っていたヘッケランが屋敷に入ってきて早々に話に割り込んで来る。

 話の最後をちょこっと聞いただけで全体を理解するとか、どんな能力だよ…


「納得は出来ないけど分かったよ。んで、俺達は今からでも王都に行った方が良いのか?」


 爺さんは首を横に振ると、「戦後処理で忙しい」を突き通した方がマシだろうと告げ、極力アスペルの街で被害にあった人々のケアをするようにと言い残して帰って行った。


「まったく、恩知らずとはこの事ですわ。このまま王国をユウト様の物にされる方が良いのでは?」


「そうですね。メリッサの言うように愚民共に知らしめる必要があるかと。」

 

「…あまり過激なことは控えて頂けると助かります。ユウト様、思慮願います。」


 ヘッケランに手を上げながら仕事を邪魔しないように送り出し、姉妹達を落ち着かせてレアを迎えに行くのが優先だと話を逸らす。


 レアは俺に似てコミニケーション能力が割と低い。

 と言うか、俺よりも低いかもしれん。


 だから、よく考えて見れば向こうで一人寂しい思いをさせているだろうと…

 ん〜、食べ物さえ与えていれば大丈夫そうだが、意外と繊細…なのかも知れないしな。


 次にアールヴが来るときはアイアンメイデンへの召集が掛かる時で、大体一週間後くらいになるだろうとの事だった。

 なので、ヘッケランに費用を惜しまず被災者へのケアに努めてもらうよう依頼して、俺達は準備を整え記憶の扉を召喚しバノペアに向かうのであった。













 ーーーーーーレア視点


 …ドンドンドンッ

 今朝も早くから宿の扉がノックされている。

 戦争も終わって、白いジジイに用意してもらった宿でゆっくりしていると言うのに、毎朝煩いのが呼びに来る。


「レアちゃわ〜ん。遊びましょ〜」


「…うるさい…帰れ。」


 …ドガンッ


 今日も力任せに扉の鍵をぶち壊して部屋へ乱入して来る変態剣士。

 こんな早朝に回りの部屋の住人達は迷惑を感じていないのだろうか?


「…レディの部屋に…ぶっころ」


「おっ、どこにレディがおるんや?是非とも紹介して欲しいところやで」


 部屋中を見回す変態を睨んで続けて文句を言う。


「…まだ早朝…」


「いやいや、もう昼過ぎやでっ!?」


「……」


 まったく話にならないが、食事を用意すると言うので仕方なく変態について行く事にする。

 マントを羽織ってタオルを魔法で濡らし顔を拭いて外に出てる。


「眩しい…しぬ…」


「お日さん浴びとかんと健康に悪いで!飯食ったら今日もお散歩やな」


「…だる」


 この要塞都市バノペアでは主に野戦でカタをつけたので、都市内への被害は少なかったはずだが、一部の要人暗殺や主要な建物の破壊工作に巻き込まれた人間が少なからず存在していたようだ。


 私には関係無い事だけど、この煩い剣士レンは各所を回って修復の手伝いや被害を受けた者のフォローをして回っていた。


 そして、何故かそれに私も連れ回されてしまっている…

 まぁ、高レベル者は使い勝手が良いと言う事だろう。


 ご主人様達も迎えに来てくれないし、食事が必要なので言われた事は手伝っているが、簡単な魔法を使っただけで「ありがとう、助かったよ」と感謝されるのは意味が良く分からない。

 なんだか胸の奥がモヤっとする…



 そんな日を二日くらい続けていると、街の中に姉様の魔力を感じた。

 ほどなくして私の元に現れたご主人様と姉様達を見つけて思わず飛びついてしまった。


「ご主人様…さみし…おなかへった…」


「いやっ、今の可愛さアピールする所だっよねぇ!?」


 そう言いながらもグリグリと頭を撫で回してくるご主人様に少し安心した。

 …やはり、一人でお使いをするのは大変なのだ。









 ーーーーーーユウト視点


「いや、ほんまに遅いやろ」


 レアに抱きつかれながら、迎えが遅くなった事を謝っているとレンがジト目で突っ込んでくる。


「おだまりなさい、変態男。」


「いや、開口一番酷い扱いやなっ!?」


 メリーの強烈な突っ込み返しにレンが口をパクパクさせているのを見て笑い、アールヴ爺さんに聞いた話の確認を取る。



「…やっぱり、結構大変だったんだな。まさかそんな事になってるとは思わなくて」


「いや、しゃーないんちゃうか?別にユウト達は自分らのやる事はやってるんやしな」


「なかなか良い事を言いますね。」

「ほんと、変態にしては珍しいですわ。」


「自分らほんま扱い酷いな…」


 レアの面倒を見てくれていた事にもお礼を言い、その日は皆で晩飯を食べ一泊して、帰りは前線沿いに馬車でゆっくり帰ることにした。


 意外な事に、主戦場となっていたバノペアやアスペル近郊以外でも被害を受けた小さな村や町などがいくつもあった。

 戦争を隠れ蓑にした盗賊団の襲撃なんかもけあったようけど、俺達の目が届かない場所でも戦争の被害は起こるんだって事が良く分かった。


 そして、奪われるだけの弱者がどんなに惨めかと言うの少し分かった気がする。

 …俺は本当に人の気持ちを感じ取るのが鈍いようだ。


 反省の意を込めて村を再建して回ったり、町と村を合併させたりして砦っぽい堅固な町を作ったりと、やれる事は結構暇を惜まず手伝ってみた。

 人攫いに誘拐された獣族の少年少女達や、積荷を盗まれて人生詰みかけていた商団なんかも助けたんだけど、やっぱり人に感謝されるのは悪い気はしなかったな。



 そんなこんなで結構な時間を掛けてアスペルに戻ると、ヘッケランが出迎え早々にアールヴの再訪と王都への召集が掛かっている事を伝えて来た。


 今回は幹部全員召集との事なので、総勢10名での王都訪問になる。



 果たして、どんな結果が待っているのか…若干だけ胃の痛みを感じながらも準備を整え、幹部達を前に現在の状況と王都訪問の説明を行う。


「…それでは、これから王都訪問を行う。くれぐれも短絡的な行動は起こさないように。」


「「はっ!!」」


 自分の事は棚に上げながら、姉妹達にホントに頼んますと願いを込めて注意を促しておく。



 …そんじゃ、いっちょ行ってみますか!!

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