第40話不穏な動き
「ふぅあぁぁ。よく寝たな…」
俺達は、バノペアでの打ち合わせを終えて、街一番の高級宿【銀河亭】に泊まっていた。
フカフカのベッドで目を覚ますと…横にはルサリィがいた。
この前、私も皆と一緒に寝る!とか言ってたけど、ベッドに忍び込んだら一人だった、ってやつか…
…は、犯罪臭のする状況は、お兄さん少し怖いなぁ
心の中では焦りながらも、爽やかさと健やかな気持ちを強く持ち、ルサリィを起こしてあげる。
「ぐへへ。最近のわけー子は、発育が良くて困るなぁ、ここも、こーんなに…」
「…お、お兄ちゃんっ!?」
「あっ…ごめんなさい……」
俺の声で目覚めたルサリィから、道路に落ちている、犬のウ○コを見る目で見られるプレイをしてから、二人で一階の食堂へと降りる。
既に、シャルとティファ…と、なぜかアキラ君が居る。
あっ!ちなみにレアはカウンターで皿を積み上げてるので、そっとしておいてね。
彼は、俺とルサリィを交互に見ると、
「…おはよう。幼女の抱き枕はどうだった?」
と、表情に乏しい顔で聞いてくる。
「最高ですよ…んで、こんな朝から何用ですか?」
昨日、俺からアイテムを奪っていった、同郷の美少年に何用かと尋ねると、少し実験に付き合って欲しいとお願いされる。
「…君と言うより、君の所の、お姉さん達の力を借りたいんだ。」
どう言う事か聞くと、サリバン商会長の馬車を救ったロボの性能実験をしたいそうだ。
モンスター相手では、退治がメインになってしまい、性能を確かめる暇が無いからとの事だけど…
「今日はバノペア観光予定なんですけど?」
「…あぁ、君は必要無いから、そちらのお姉さん二人を貸してくれないか?」
ティファと、欠伸をしながら、階段を降りて来たメリーを指差す。
「二人が良いなら、俺は構わないけど…」
「私は構いません。将来ユウト様の敵に回られた時の為にも、対策を考えておくのは有用かと。」
「…わたくしも?良く分かりませんが、お相手して差し上げても、よろしいですわ。」
ティファが獰猛に、メリーが怪しく笑う。
…あんまり挑発するのは、止めような!
「…お手柔らかにね。」と、アキラが言うけど、二人は全力で行きそうだな…
一応、程々にな、と二人に釘を刺してから、アキラにOKを出す。
…
俺は、二人が連れて行かれるのを見送って、シャルとルサリィに市内散策のお誘いをする。
二人の了承を貰って、用意の為に部屋へ戻ろうとすると…服の裾が引っ張られる。
「…ご主人さま…わたしも…イクッ」
「誤解を招きそうな言い方は止めような!?食事がもう良いなら、一緒に行こうか。」
「…うん……おなかいっぱい…」
…宿屋のコック達が、カウンター越しに見える、奥の厨房でうなだれてる。
どんだけのスピードで食べたんだろうか…
明日も拠点探しの為に、もう一日滞在する予定なので、宿はそのままにして、俺達は街へと繰り出した。
ーーーーーバノペア 郊外
「…これが、マジ○ガーと言うものなのですわね。」
メリーが黒光りする、ロボットの機体を、イヤラシイ手つきでコスコスする…
「…そんな言葉、どこで仕入れたんだい?」
「ユウト様のお教えです。」
「…まったく…元ネタを晒すとは、危険な。」
と、呟いた後、アキラは機体に飛び乗った。
こんな芸当ができるのも、三姉妹と同じで、アキラはレベルが100だからだ。
因みに、ジョブは魔工師がメインとの事。
魔工師は、素材さえあれば、魔法のアイテムや魔道具、魔法の武器なんかも作成可能で、生産職が好きな人が好んで取っていた。
個人としての戦闘スタイルは、中から遠距離タイプを好む人が多かったな。
彼も近接戦闘は得意じゃ無いって言ってたので、肉弾戦はイマイチなんだろう。
そんな彼が、近接戦闘をこなす為に、と作ったのが、このマジン…魔導兵だそうだ。
高鉄鋼と言われる、非常に硬い鉱石をメインに使っているそうで、パーティモンスターのレベル90~95クラス、をソロで倒せる事を目標に作っているらしい。
後は…やはりシルクットで俺が購入した屋敷は、アキラが元々住んでいた物で、その頃に、都市へ侵入してきた悪魔を撃退した事もあるそうで、勇者扱いされたりもあったそうな。
…悪魔と言えば、イベントのラスボスが定番になっていて、弱くてもパーティ適正60LVくらいは必要があったと思うので、それを退けたアキラが強い、って事は充分に伝わると思う。
……
「…じゃあ、適当に攻撃してもらえるかな?最初は一人ずつで」
「では、わたくしから、行かせていただきますわ!」
まずは様子見、と呟いてメリーが加速する。
魔導兵の前まで来ると、体が一瞬ブレる。
するとそのまま、上に飛び上がり斬撃を放った!
のは…分身で、本物のメリーは右脇の死角から、飛び蹴りをお見舞いする!
も、アキラはロボの腕を動かし、それをガードする。
ガギーン!と鈍い音がして、メリーは後ろに飛びのく。
「…なるほど、かなり硬いですわね。」
「…貴方はアサシンタイプか」
「次ですわ、我に力を与えよ!ライトニングエルスピア!!」
メリーの周りに火花が散り、第七位魔法の雷撃による複数の槍が放たれる。
大きな魔導兵は格好の的になる!…が、アキラ共々ビクともしない。
「ちっ。」
「…へぇ、賢者レベルの魔法まで使うのか」
…
「…次は私が行きます!」
ティファは、そう宣言すると、大上段からの跳び斬りをお見舞いする。
「…ぐっ」
ガグンッ!と言う音と共に魔導兵は、後ろによろめく。
「…なるほど、貴方は純粋なパワータイプか」
ガードに徹していた魔導兵は、攻撃も試すように動き出す…
その後は、二対一で戦いながら、指からビームを出したり、ロケットパンチを弾き飛ばしたりして…模擬戦は昼まで続いた。
…バシューゥ
魔導兵のハッチが開いて、中からアキラが出てくる。
「…ありがと。良いデータが充分取れたよ」
「それは良かったですわ。」
メリーが余裕の表情で、空色の髪をかきあげる。
「…お礼と言ってはなんだけど、お昼をご馳走させてよ」
それを聞いた、攻撃の型を練習していたティファが「頂戴しましょう。」と、話に割り込んで来て、三人で都市に戻って行くのであった。
ーーーーーバノペア 市内
「初めまして!ユウト・カザマ様ですね?」
白いタキシードに身を包んだ、ピエロみたいなメイクをした男に呼び止められた。
レアが俺の前に出て、何用かと尋ねる。
「いやはや、私は、見世物商会のオモロ・デルピエーロと申します!」
おもろい名前…いやいや、そんな微妙な商会の人間が何用だろうか?
上位商会に入る為の協力を!とか言われても、手伝ってやる気は無いのだが…
「私、さる御仁に、ユウト様をお招きするように頼まれておりまして…ご同行願えませんでしょうか?」
質問だけど…有無を言わせない圧力を感じるな。
「いやに威圧的じゃないか。俺の事を知っての態度と理解して良いんだよな?」
「おぉ…こわやこわや」とか言いながらも、奴に引く様子は無い。
こんな手合いには、退散してもらうのに限るな!
俺は、素早くアイテムを出すと、オモロに投げつけて叫ぶ。
「リロードオン!恐怖の黒球」
黒い球は、オモロの頭上まで来ると、パカっと二つに割れて…中から、カサカサカサカサと複数のゴッキー達が襲いかかる。
「おぉ、虫型のモンスターってゴキだったのか…」
ぎゃぁあ!と叫んだオモロに気を取られた隙に、周りからピエロが複数現れた!
「…らいとにんぐ…すたん!」
周囲のピエロに向けて、レアが魔法を放ったが…少し間に合わず、ルサリィが連れ去られてしまう。
「しまった!…おい、お前なんでこんな事を!」
「…や、やらなきゃ…一族皆殺しにするって……」
「ちっ!何処に行けばいいっ!?」
捕まえた男が説明した場所は、市壁と城壁の間にある、倉庫街みたいな所だった。
「…ご主人様…お姉様達に?」
「いや、一刻も早くルサリィを助ける!」
「そうですね。私達だけで乗り込みましょう!」
焦る俺の発言に、シャルも手伝ってくれるそうだ。
二人が居れば心強いな。
…俺達三人は、大切な家族を取り戻す為、指定された場所を目指して走り出した。
ーーーーーレン 視点
シャルが旅立った後、放浪時代に会うた、アキラに連絡を取る。
「おぉ、久しいな!研究はどないや?」
「…君は相変わらず騒がしいね」
「そう、つっけんどんしなや?ベッピンが台無しやで?」
「…うるさい。それより、セーブポイントの起動実験にマジックポットが欲しい」
「オーケー!ユウトっちゅう、俺らと同じ日本人が渡すから、もろといてくれるか?」
「…ちゃんと説明してるの?」
「俺から、姫さん奪った罰や~言うたら、一発やから!一応、また言うとくわな。」
アキラと実験や、帰還への方法なんかの話を詰めて、後の事は、心ん中でユウトに丸振りしとく。
…シャルは俺が今まで、大事に、大事にして育てて来たんや。
家族みたいに大事にしとったもんを預けたるんやから、これ位は飲んでもらわんとな!
それでも、ぜんっぜん割に合わんわ!
嫁にしてもエエと思うくらい大事にしとったんやからな…
…
「…あぁぁあ゛っ!!」
俺は頭を掻きむしって、辛気臭くなりそうになってた自分に喝を入れる。
……ドンッ!
隣の部屋の住人が、壁ドンしてきよった…
…まぁ、薄壁やから響くか。
俺は今、王都の北にある都市、エゼルリオとバノペアを結ぶ街道にある、サッカスっちゅう小さい町に来とる。
ここには、宿屋が一軒しかあらへんから、旅人達で結構埋まっとるし、あんまり騒いだら迷惑っちゅーことやな。
…昔の俺なら、隣に乗り込んでしばいてたけどな、大人になったもんやで!ほんま。
ほんで、なんでこんな所におるんかと言うと
、もちろん任務の為や。
なんや、ユウトの侯爵騒ぎ以降、神国と帝国に怪しい動きがあるみたいでな。
俺が担当しとる断罪以外にも、裁きと秩序の連中も動いとるらしいんやけど、アイツらとは…連携する気になれんしな。
「しかし…帝国の偉そうな皇帝が、俺ん時みたいに動き出すんは分かるけど、神国は何を考えとるんやろか?」
考えても分からん事は、悩むんをさっさと諦めて、行動あるのみや!
まずは…神国の動きを探って、問題無さそうなら、早々に帝国へプレッシャー与えに行かんとな。
けど、神国の四星にしても、帝国の四将にしても、まぁまぁ強い奴いてるからなぁ。
今までみたいにシャルのスキルは頼られへんし、俺もレベルアップしとかなヤバイ時があるかも知れんな。
シャルが自由に動けるようにするんを続ける為には、断罪での俺のミスは許されへん。
用意周到で、素早く行動やな。
…俺は、そう自分にそう言い聞かせて、地図を広げる。
まずは、国境沿いに進んで、セイクリッドパレスを目指して、着いたら教主長の一人でも拉致って情報を聞き出そか。
明日も朝早うから動き出すために、今日は早めにベッドに入る。
こんなに真面目に生きれんねやったら、元の世界でも、もちっと頑張れたんちゃうやろか?
…俺は、自分で自分を笑いながら、眠りについた。
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