第39話要塞都市

 ーーーーフローラ帝国 王城


 …コンコンコン

「失礼致します!王国よりペルギーレ様がお戻りです!」


「…入れ。」


 …ガチャ

「失礼致します。閣下。」


「珍しいな、ペルギーレよ。使いの者では無く、貴様自ら報告に戻るとはな。」


 フローラ帝国、帝都オーガストリアにある、皇帝カイザー・ヴァルブレド・エスクワイア三世の執務室に、王国へ潜入させていた、ペルギーレと言う男が報告の為にやってきた。


 皇帝は半分寝そべるように、ソファーに腰掛けながら、ペルギーレに顎で向かいに座るよう指示する。


 彼が席に着いたのを見計らい、皇帝の横に移動してきたのは、この国の宰相カリオペア・フェン・サイラスと言う男だ。


 彼は皇帝の頭側に立ち、ペルギーレの話を一緒に聞こうと耳を傾ける。


「これは、大きな動きではありますが、重要かどうかは少し判断に迷いましたので…」


 微妙な表情をしながらも、ペルギーレは王国で見聞きした内容で、帝国にも影響を及ぼしかねないと判断した報告を行う。


「…ほう。王国に新しい侯爵か。」

「古い貴族達が力を持つ王国で、いきなり侯爵とは…我ら帝国でもなかなか…」


「なんだ?カリオペアよ、我にその程度の事ができん…と?」

「いえいえ!滅相もございません。ただ、実例が無い、と申し上げたのみでございます。」


 はっ!と、皇帝は鼻で笑うと、さらに報告を続けさせる。

 それを受けて、新しい侯爵の名前と、爵位を得た経緯を順に説明していくペルギーレ。


「ほう!エンシャントドラゴンか。アレスよ、お前達ならアレを倒せるか?」


 その皇帝の質問には、後に控えていた、金髪長身で白い軍服に身を包んだ男が、直立不動の姿勢で答える。


「…難しいご質問です、陛下。我々四将全員でも普通に戦えば厳しい。しかし、周到に準備を重ね、アイテムを多分に使用すれば不可能では無いかと。」


 ふむ。と顎に手を置くと皇帝は、今の報告を吟味する。

 そして、横に控えるカリオペアに考えを言えと、顎をしゃくる。


「そうでございますな。恐らく、そのユウトとか言う者を王国の力として取り込む為に、高位の爵位を餌にしたと思われます。それに、何かもう一つ…決め手になる、特別な餌があると思われますな。」


 見てきたように、自信満々で答える彼に、皇帝は「…なるほどなぁ。」と関心したように頷く。

 実際、カリオペアの予想や、物事の本質を見抜く力は高く優秀で、元々は下位の貴族だった彼を、拾い上げた皇帝からの信頼も厚い。


 侯爵の件で、全ての報告を話し終えたペルギーレも、向かいで深く頷いているのが、実情を正確に見抜いている事を裏付けている。


「可能なら、帝国に欲しい所だが…どうだ?」


「…それは、非常に厳しいかと思われます。」


 ペルギーレは、残りの情報を使い説明する。

 未確定ではあるが、ユウトと言う男は、アーティフェクトである、古代のアイテムを多用し、最強クラスの力を持つ美女を複数従えており、少し奮発した程度の金や女で釣るのは難しいと。


「…では、地位や権力ならどうだ?」


 今回の侯爵騒動が、王国による囲い込みなのであれば、帝国でも地位に付け加えて、権力や領地を与えては、と皇帝は考える。


 …が、やはりペルギーレは首を横に振る。

 侯爵を与えられた時も平然としており、当たり前かのように振舞っていた事。


 そして、領地についても不要と発言していたのを聞いた者がいると補足した。


「…では、それだけの者が一体、何故王国に尻尾を振るのだ?」


「それは、恐らく…シャーロット・ベイオール・フォン・アダド王女にあるかと。」


「…またあの、女狐ですか。」

 カリオペアが鋭い表情で口を挟む。


「あのレンとか言う男の時と同じか…」


 皇帝の呟きにペルギーレは頷く。

 以前に、異世界から来たと言う高レベルの人間をスカウトする為、高官を派遣したのだが、シャーロット姫と行動を伴にするので、帝国はお呼びでは無い、とぞんざいに扱われた記憶が蘇る。


「呪われた異能持ちではありますが、東西に名高い、稀代の美女ですから…男を狂わす力も特別強いのでしょう。」

 言葉を続けるペルギーレに、皇帝が「やれやれだな。」と相槌を打つ。


「…だがしかし、面白そうな男では無いか?どうれ、我が直接見極めに行ってやるか。」


「なっ!?陛下、いけません!御身に何かあっては、我ら四将の名折れにございます!」


 皇帝の無茶振りに、帝国最強と呼ばれる、四将軍の一人、天撃 アレス・テレストルが焦りながら皇帝を諌める。


 しかし、皇帝は何が問題なのかと、アレスを逆に問い詰めていく始末。


 …困った彼は、カリオペアに皇帝を説得するよう、助けを求めたのだが…裏目にでる。


「陛下がご所望とあらば、それを叶えるのが私の役目にございます。」


 演技掛かったお辞儀をして、ニヤリと表情を歪めると、「少しお時間を頂戴しますが」と付け加え、帝国随一の頭脳を持つ宰相が、悪巧みを始める。


 そんな、自らの参謀に満足すると、皇帝はペルギーレに労いの言葉を掛け退室させた。

 そして、そのままソファーに横になると、これから面白い事が起きそうだ、と悪ガキのような表情を浮かべて笑う。



 …その後ろでアレスだけが、頭を抱えるのであった。








 ーーーー要塞都市 バノペア への街道


 アスペルから北へ馬車で3日程行った所にあるのが、要塞都市バノペア。


 帝国と神国に国境線を隣接していて、国防の要として、軍事力強化に余念の無い都市で、最新の武器や防具はもちろん、新しい魔法道具の開発や大型の魔法兵器なんかの生産も盛んだ。


 俺達は、ヘッケランに言われ、まずはバノペアの主要商会である、武器商会のサリバンと言う男に会う為、アスペルを旅立っていた。



「ユウト様、そこは少し優しく…あっ、そうです。とても良いです…」



 ……ヤラシイ事はしていない。


 俺はバノペアに向かいながら、馬車の操縦を習っている。

 アイテムに頼らなくても、使える技術は、どこかできっと役に立つだろうからな。


 ティファに手取り足取り教えてもらいながら、ゆっくりと目的地に向かう。



「…お兄ちゃん!後、どれくらいで着くの?」

 馬車の幌から、ケモ耳が覗いてますよ!


 ルサリィが飽きたのか、まだかまだかと聞いて来る。


 アスペルの屋敷で、留守番していてもらおうかと思ってたんだが、余裕で却下されてしまい、現在に至るのだが…


 最近、俺への泣き落としスキルが上達している気がするんだが…悪女とかにならなければ良いんだけど。


 そんな心配をしながら、後1日もすれば到着すると教えてあげる。


 普通なら3日もあれば到着する旅程だけど、馬車の操縦を練習しながらなので、プラス1日って所だな。


「ユウト様、向こうに人影が見えます。」


「えっ!?…あ、あれか。」


 相変わらず目の良いティファに指を指されて、ようやく分かる程度の先に、豆粒みたいなのが見える。


「…どうやら、馬車が追われているようです。何に…モンスターのようです!」


「なにっ!?ピンチなら助けに行こう!」


 ティファに御者を交代してもらい、スピードを上げて行く。


 どうやら、彼等はこちら方面に逃げて来ているようで、互いの距離がグングン縮まって行く。


「敵でございますか?お姉様。」

「馬車が襲われているみたいだから、助けに行くな。」


 空色の髪をなびかせながらメリーがティファに問いかけるが、馬車を操縦しているティファに代わって、俺が質問に答える。


「…ご主人様…撃つ?」

 レアが遠距離魔法で狙うか?と、トンガリ帽子を抑えながら聞いてくるけど、逃げている人を巻き込む可能性もあるので、控えておいてもらおう…


「いや!状況が分からない。このまま近くまで行こう!」


 俺とレアの話を聞いて、ティファが並走できるよう、大回りをする為、迂回を始める。



 …すると、突然森が割れた!?


 バキバキ、メキメキと林の木をなぎ倒しながら、巨大な…



 …マジ○ガーZだっ!!


 流線フォルムに、トンガリ角を乗せたロボットが、俺達とは反対方向から逃げている馬車に近づく!


 …あれも敵なら、攻撃しないと間に合わないっ

 俺が迎え撃つべきかどうかを悩んだ一緒の間に、そのロボはロケットパンチをモンスターに向かって発射した!


 その威力は中々のもので、ソロレベルで60位ある牛型のモンスター、クレイジーパイソンを纏めてぶっ飛ばしていく…


「スゲーな…」


 俺が呟き見学に回っていると、パンチで仕留め損ねた残りの二頭を、馬車から降りたティファの斬撃と、幌の上から投げたメリーのクナイで仕留める。




 …ヒヒィーン……プルル


 逃げていた馬車が止まり、中から少し身なりの良い親子が出てきた。


「たっ、助かったよ君達!護衛がやられてしまってね、死ぬかと思ったな。」

「はい、お父様。危ない所でした。…冒険者?の方ですか?ありがとうございました。」


 中級貴族っぽいオジサンと、賢そうな男の子がお礼を言ってくる。

 …男の子はルサリィと同い年位かな?


「怪我はありませんか?俺はユウトと言います。…まぁ、冒険者みたいなもんです。」


 侯爵です。とか言うと面倒くさそうだったので、適当に誤魔化す。



 …それよりも、あれだ。


 完全に出てくるタイミングを逃したのか、ロボが沈黙して微動だに動かない。

 …逆に怖いって!



 俺はティファと一緒に、恐る恐るロボに近づく。

 すると、

 …ガシャアーン!

 ロボのハッチが開いて、中から美少年が姿を現した。


 身軽な感じで、ストンと地面に飛び降りると、俺達を見てくる。


「あなたは!高名な発明家のアキラ・カナメ様ではっ!?」


 先ほどの中級貴族が、後で騒ぎながら少年に近づいて行く。


「…そう。だけど、何か用?」


「このような場所でお会いできるとは…私は、バノペアで武器商会 を営んでおります、サリバン・クーペスと申します。」


 まさか!こんな所でターゲットに会うとは…


「…とりあえず街に戻ろうか。話はそれから、君達にも聞きたい事があるし。」


 美少年とも言えるような、黒髪の少年はそう言いながら俺達…いや、俺を見てくる。

 ティファが俺の前に立つが、危害を加える気は無いよ、と言いロボに戻って行ってしまった。



「とりあえず、俺達も街に向かおう。」

 俺は皆に伝えて、三組一緒にバノペアを目指す。



 …ロボと馬車が二台……シュールだ…




 バノペアの城壁前で一騒ぎ起きるが、少年が姿を見せると辺りは落ち着きを取り戻し、兵士達は即座にロボを何処かへ格納しに行った。

 …この少年、実はかなり偉いとかだろうか?


 そのまま俺達もノーチェックで、バノペアの市壁内に通され、一般住居地区の外れに佇む、工場付きのバカデカイ屋敷に案内された。


 少年が屋敷の前に立つと、扉が自動で開き、中に入ると濡れタオルや、マントを納める籠なんかが、ロボットアームとともに出てくる。

 …これ、なんか見た事あるな。



 サリバン商会長がテンションMAXで喜んでいるのを横目にリビングへ通される。


 ここでも、ロボットアームがお茶を入れてくれるが、一人はしゃぐ商会長の分は用意されなかった…



 商会長を落ち着かせて、皆でテーブルを囲み、改めて自己紹介をする。


「王国の秘密組織アイアンメイデンの代表、ユウト・カザマです。一応、貴族をしています。」


「ぬぅぁぁああんですとぉぉお!」

 ガタン!と音を立てて、コントのように椅子からずっこける父親を尻目に、

 息子が「貴方が、ユウト侯爵様でしたか!父が無礼な態度を取り、申し訳ございません。」と、頭を下げてくる。


 …ほんとによく出来た子供だ。



「…君達が…日本人だよね?」


「あぁ、その通り。で、そう言う君の名前は?」


 俺が優しく尋ねると、少しムッとした表情をされた…

 何か気に障ったのだろうか?


「…ボクは、君よりも年上だよ?年長者には気をつかうべきだ」


 衝撃の事実に、年齢を聞くと、今年で21歳だそうだ…見えん!


 ただ、逆にアキラ少年の、俺への失礼な物言いに、ティファの額がピクピクしている…

「い、いやぁ、その感じだと、貴方も異世界へ召喚されてしまった口ですか?」


 俺はティファを抑えながら、質問する。


「…あぁ、ボクは高校生の時に召喚に巻き込まれてね。あの関西人と同じさ」


「おぉ、レンの事か!」


 また、ムッとするので、まぁまぁと宥めながら話を続ける。


 どうやら、少年はカナメ・アキラ…アキラ君と言うらしい。

 身長は、多分150cm位…シャルと同じ位か。

 サラサラの黒髪に、黒い瞳でキラキラと光を発してる。

 顔も小さいし、ショタ好きのお姉様なら一目で全てを捧げてしまいそうだ…


 …おしいな、これで女の子なら、現世でも合法○リで大人気だろうに。


「…君、何か失礼な事を考えていないかい?」

 …おっと、心を読まれちまったぜ…


「いいいや、いやいや、滅相もございやせんぜ!げへへ…」


「…はぁ。同郷じゃなければ、ウチの魔導兵で細かく折り畳んでいるよ?」


「…すいません。」


 魔導兵って、あのマジ○ガーの事だろうか、俺のふざけた態度に、アキラがお冠なので、素直に謝っておく。


 すると、シャルが挨拶を始めた。

「…貴方が、噂の天才魔工師様でしたか。王都ではお会い出来ず残念に思っておりました。わたくし、シャーロット・ベイオール・フォン・アダドと申します。」


「だっ!第一皇女さまぁぁあ!」と、さらにずっこける商会長は放置しておこう。


「…綺麗な子だね。可愛いよ」


「なっ!?」と言って、自分の予想と違う反応に、シャルが頬を赤く染める…


 あんなセリフなんて飽きる程…毎日でも聞いているシャルを、こんなにするなんてっ!

 …きぃーっ!色男反対!!



 …

 まぁ、それは置いといて、

「んで、アキラ君は俺達に何か用があったんじゃ?」


「…あぁ、レンから聞いてると思うけど、現世への帰還に必要な実験で、レアアイテムのマジックポットがいるんだが?」


「…ほう。」


 呟いたきり反応しない俺に、アキラは「…君が渡す手筈と聞いているが!?」と若干、怒り気味に行ってくる…


 えぇ!?…聞いてねぇぞ、レン!


 シャルを見ると、いつもの事だと言わんばかりに、サッと視線を逸らされてしまった。


 俺はレンから聞いて無いし、何故俺が?とアキラに聞くと、「姫様を奪った代償?とか言ってたよ。」と言われた。


 それを聞いていたシャルが「バカレンめぇ!」とご立腹のようだ…



 シャルを引き合いに出されると仕方ない…

 俺はマジックバッグを出して、ご要望の品を献上する。


「…君、マジックバッグの中身は全部あったの?」


 俺はレベルが初期化されたけど、アイテムはそのままだったと伝えた。


「…ボクのパトロンにならないかい?研究にはアイテムが必要な事が多くてね。」


「結構ですわ。」


 メリーが身を乗り出して、話を遮る。

 俺も、合法ショタの為に尽くすつもりは無いので、一緒に遠慮しておいた。


「…残念だなあ…」

 と言われるが、アキラとの用事は終わったので、サリバン商会長…の息子に、ザイール都市長を紹介してくれるかな?と、頼んでみた。

 親父が「またまた、ご冗談を…」とか言ってるけど、息子君は「ご案内しますね。」と、繋いでくれる気満々だ。


 挨拶を済ませて、何かあった時の為に、アキラと連絡を取れる様にアイテムを渡してから、屋敷…工場を後にした。




 ……

 未来の商会長に案内してもらい、都市長会館までやってきた。


「サリバン・クーペスの息子で、アリバン・クーペスと申しますが、ザイール都市長様にお繋ぎ頂けますか?お客様をお連れしました。」


 可愛い顔してしっかり者のアリバン君に、受付のお姉さんも対応が良い。

 すぐに確認に行ってくれる。

 えっ…マジで親父の意味が……

 お姉さんが降りてくると、案内してくれるそうだ。

 …親父は、もう帰ってもらうか。



 …

 ドアをノックすると「どうぞ、お入り下さい。」と返事が聞こえる。


 お姉さんは、俺達を部屋に入れると、一礼して部屋を出て行った。


 部屋の奥には、マッチョ系の素敵髭なオジ様が居て、立ち上がって俺達を迎えてくれる。


「ようこそ!シャーロット皇女殿下、ユウト侯爵、歓迎致しますぞ!」


 わっはっはぁ!と近づいて来て、問答無用でハグされる…

 シャルには跪いて、手にチュッチュだ。

 …ちっ、うらやまだぜ。



「ようこそバノペアへ!私は都市長を務めるザイール・アッシュ・ノードでございます。ユウト様の事は、ヘッケラン殿から、しかと承っていますぞ!」


 ヘッケランの言っていた通り、全ての話は通っているようだ。

 奴の仕事が完璧なので、特に口出しする事も無かった訳だが、一応は実務者会議的なのを行っておく。


 俺とメリー、ザイールとサリバン、オブザーバーにシャルの形で話をした。

 と言っても、俺の知名度向上の協力方法くらいの物だったんだが、メリーが街の中心に俺の銅像を!とか言い出したので、止めるのが大変だった…


 それに、街の中心には、工業都市を支える発明家、アキラ像が既にあるらしい!

 …後で見に行ってネタにしようと心に決めた。




 …

 こうして、話はトントン拍子で進み、俺達はその日、街一番の宿にお泊まりする事になった。

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