第38話王都からの凱旋
「ガイゼフ・ベイオール・フォン・アダド国王陛下の御出座です!」
書記長官をしていると言う、ベイルさんが始まりの合図をすると、ガイゼフ国王が王座の間の入り口から、騎士長を連れてゆっくりと歩いてくる。
俺達は前回とは違い、それを絨毯の横で跪きながら通過を待つ。
前回は…国王が先に座って待っていて、報告の為に意気揚々と入って行ったら、「捕らえよ!」だったからなぁ
しかも今回は、なんとシャルの弟君で、次期国王のアストルフ君も参加しているのだ。
彼とシャルは、3才程、歳が離れているそうだけど、中々しっかりしてそうで、美男子だ。
二人も、国王が座る椅子の横にある、自分達の椅子の前で、頭を下げながら国王の着座を待っている。
…ん~なんとも、ご大層な催しだよなぁ。
俺達は入り口に一番近い所で、早く座ってくれんかな~…とひたすら待つだけだ。
…
「皆の者!面を上げよっ!!」
小太りな、いかにも貴族、ゲルノア筆頭大臣が号令をかける。
それに合わせて皆が立ち上がると、俺達は絨毯の真ん中まで進んだ。
ここで、恩賞を受けるのは、俺と三姉妹だけになっていて、ウチのルサリィは、そのままの場所でお行儀良く待機してくれている。
…ドレス姿が可愛いな。
「これより、恩賞授与の儀を執り行う!」
ゲルノアの言葉に続き、国王が頷き発言する。
「ユウト・カザマよ、そなた等の働きに褒美を与える。」
「はっ!」
俺は練習通り、胸に手を当て、畏まった返事をする。
本番は緊張するな…
国王が、アスペルでの防衛、シルクットでの餓狼蜘の事、そして…王都でのエンシャントドラゴン件、と俺達の功績を並べて行く。
「……これらは、我が娘に対する無礼にも勝る事である。よって、余、ガイゼフ・ベイオール・フォン・アダドが褒美を授けよう。」
このオヤジ、シャルの件をまだ気にしてたのか?
…いや、周りの貴族達への牽制かな。
多分そうなんだろうと割り切って、俺はようやくお待ちかねの、ご褒美タイムになるのかとウキウキした気分になってきた。
こればっかりは、事前に何も教えてもらって無いからな…どんなお宝をくれるのだろうか?
…ん~そうだな、国宝の武器とか武具?
はたまた、至宝の便利アイテム!とか、
後は、一年間女湯覗き放題券とかかなぁ…
「金貨5000枚と、王族直下の貴族位として、侯爵の爵位を与える!」
…ざわざわざわ…そんなっ!?
どうなっているんだ!…こんなバカ事が…
周りの大貴族達が騒ぎ出してる…
…侯爵?
ん~…侯爵って、どれくらい偉いんだったかな?
こっそりメリーに聞いてみる。
「なぁメリー、侯爵って結構偉いのか?」
「…大都市の都市長、辺境伯の上くらいですわ。」
…ほう。
…えっ!?ななな、何それ?どゆこと?
それって、めちゃんこ偉くない?
…
「ユウト・カザマ侯爵、返事をせんか!」
俺から返事が無いので、ゲルノアが不機嫌そうに怒鳴ってくる。
「…あっ…ハイ。ありがとう…ございます。」
「くっ…」
俺の気の抜けた返事に、ゲルノアはまだ不満そうだったけど、それ以上は何も言わなかった。
俺はあまりの展開に終始ポカンとしていただけだったが、姉妹達を見ると、メリーは国王を譲るべきとか呟いてるし、ティファはドヤ顔だ。
レアは…うん。お腹すいてる顔だね。
…その後は、簡単な取り決め事や説明があった後、授与式はお開きとなった。
…
……
…こうして、突然の貴族宣言と、爵位だけなら、筆頭大臣なんて偉そうな役職をしている、ゲルノアとも並ぶ地位になった俺は、
その日から王都を出るまでの四日間、妬みや嫉妬…取り入ろうとする者から、取り込もうとする奴まで…
色んな人間の相手をする羽目になって、政治の陰謀渦巻く大嵐に、どっぷりと巻き込まれるのであった。
…ちなみに、三姉妹達は男爵になって、俺には王都エリオペアの一等地に、デカイ屋敷も用意されていた。
ただ、土地の縛りは無いみたいなので、何処かの領主的な事はしなくて良いらしい。
他国に勝手に乗り込んだりせず、常時連絡が取れるようにしておけば良い、って話だ。
縛りは緩いが、その代わりに、国がピンチに陥った時には、前線で活躍するように、と言われている。
なんだか、傭兵的な扱いをされてる様に感じるんだが…
……
「…それでは、行ってきますね。レン。」
「おぅ!こっちの仕事は任して、存分に楽しんどいでぇな。」
「シャルの事は、俺が守るってばよ!」
俺は、何処かの忍びのようにレンに言うと、固く握手を交わした。
「…シャルは頼むけど、例の約束も…やで?」
レンが体を寄せて、耳元で囁いてくる。
「わ、分かっているさ…」
四股禁止と、現世への帰還の話しだ。
俺はそれに頷き返すと、王都を出発した。
レンは王都に残って、一人で【断罪の巫女】の仕事をこなす事になったそうだ。
シャルの自由の為に、一人で二人分働くとか…レンには頭が下がる思いしかない。
……
帰りの馬車で、俺は悩んでいた。
「あぁ~、帰ったらヘッケランに何て言おうかなぁ…」
「…私を恨んでいる…ですよね?」
【断罪の巫女】を…シャル達の事を、弟の仇と恨んでいるだろう、ヘッケランの事を考えると、シャルを連れて帰って、どんな反応をされるか…正直不安だ。
シャルを自分の仲間として、受け入れてくれるのだろうか…
「それはそうですが…アレには忘れてもらうしかありませんわ。」
「そうですね。ユウト様の決定には従うものです。」
メリーとティファは当たり前の様に言うけど、ヘッケランが二人と同じように考えてくれる、なんて甘い話は無いだろうからな…
「…おなか…へった…」
「ふっ…そうだな!考えたって始まらんし、どこか近くの街で、宿と飯を取ろうか?」
「…さすがご主人様…それがいい…」
レアのブレ無い、いつも通りな反応に、少し重くなりそうな空気が軽くなったので、それに便乗させてもらう。
レアには感謝を込めて、彼女が言う通りに動いてあげよう!
…どうせ、急ぐ旅じゃないんだしな。
ーーーーアスペル ユウト邸地下アジト
「毎日、ユウト様のお屋敷に来ないと仕事が進まないのは問題ですな…」
ヘッケランは、ユウト達がシルクット、エリオペアへと旅をしていた間、ほぼ毎日、この地下アジトへと通っている。
文句を言いながらも、自分の屋敷に情報や、伝達の集約を行わないのは、ユウト達が戻って来た時に、勝手な行動を咎められないようにとの配慮からだ。
「…もちろん、その程度の事で信頼が揺らぐような仕事をしてはいませんがね。」
一人呟きながら、机の上に乱雑に並べられた用紙に目を通して行く。
基本的に、自分の部下達は、自らの屋敷に置いているため、ここに人が来る事はほとんどない。
この屋敷のメイドであるサリネアにも、知ら無い人間は入れないように伝えてある。
…もう一人のメイド、妹のサルネアは上手い事言われると、普通に通してしまいそうだから、判断は姉のサリネアが任されている。
ヘッケランの関係者で、この屋敷に入って来るのは、彼の従者であるネロと、もう一人…
…トットトト…トッン!
「副代表!聞きやしたでやんすかっ!?」
「はぁ…まったく、貴様は騒がしい登場しかできんのか?」
「貴様っ!?…いやもう、この下りは結構でやんすよ、ヘッケラン殿」
ネズミのような三本髭を揺らしながら、小柄な男がヘッケランに反論する。
…この男が、屋敷への入室を許された、もう一人の関係者シーノートだ。
彼は商戦に負け、一度はヘッケランに名を取られたが、ユウトの傘下に入った事で、多少は立場もましになって、以前よりは丁寧に相手をしてもらえている。
そして…ヘッケランは認めたがらないが、彼の部下の中でもシーノートは、その見た目とは違いソコソコ仕事ができる人材なのだ。
「…で、今日はどんな用事なのです?」
「実は、ユウト様が王都で爵位を賜ったと聞いたでやんす…」
「…はっ?」
この男は、まったく、どんな夢を見て来たのかと、ヘッケランは大きく溜息をついた。
「いやいや!確かな筋…レオ殿の父上とゲイリー都市長にも確認済みでやんす!!」
ヘッケランは、慌てながら噂の信憑性を語る、シーノートに視線を向けて考え込む。
…噂の確認は済んでいるようだな。
という事はだ、ユウト様は自力で信頼を勝ち取り、国王から爵位を頂いた、と言う事か?
私の予定では、ユウト様の爵位拝受は、もう少し先だったのだが…
まぁ良い。どうせ最終的には全ての都市を治めて頂き、王国全土に認めさせる必要があったのだ。
少し予定は早まるが、こちらの準備も問題なく進んでいる…どう転んでも、彼等が私の事をさらに認めざるを得ない状況に変わりは無い…か。
「…なるほど。それでは疑いようが無いですな。で、爵位とは如何程のモノを?」
「そっ…そ、それがぁでやんすね…」
歯切れの悪いシーノートを問いただすと、彼の答えにヘッケランは驚愕する。
「なっ!?なん…と、侯爵とは…」
「こ、これも聞き間違いでは無いでやんすよ?」
「分かっている。」と言いながらも、にわかに信じられないヘッケラン。
彼は昔、自分も王になりたい!と望んだ事はあったのだが、まさか自分の主人がそれに近い…王国で三人しか居ない侯爵になる、とは思ってみなかった。
「いささか過大評価?…あの姉妹達を抱き込む為の策と言った所か…」
厳しい表情で虚空を睨むヘッケランの独り言に、シーノートが「ティファ殿達の事でやんすか?」と聞き返すが、冷たくあしらわれ、話は終わったから帰れと追い返されてしまう。
……
「けっ。なんでやんすか…アイアンメイデンの副代表になったからって偉そうに。いや、あいつは元々あんな感じの嫌な奴でやんすね!」
部屋を追い出され、屋敷を出るシーノートは不満をもらす。
ユウト達が帰ってきたら、自分を直属の部下に!とお願いしてみようか?と考えながら帰路につくのであった。
…ヘッケランは誰もいなくなった、その部屋で一人、呟く。
「あぁ、我が主人よ、このままでは…王国とも事を構えることになりそうですぞ。」
ーーーーー宿場町 ソルケル
「かんぱーいっ!!」
レアの提案から少し後、王都からアスペルを繋ぐ街道にある、宿場町のソルケルと言う小規模都市で宿を取る事になった。
侯爵になった事で、領地からの収入は無い物の、王国より毎月、給料のような物が支給される事になった。
今はその上に、褒美の金貨もたんまりあって…かなり豪勢な晩飯になってしまった。
…レアの胃袋に消化されていく、憐れな食事達を見ていると、なんだか俺達は皆、自然と笑みがこぼれて来て楽しくなってしまい、
酒場に居た人達、全部の食事を奢る羽目になった…
まぁ、今日は無礼講で良いか。
「…ふぃー…まんぷく…」
「…お粗末様ですっ!!」
酒場の食材を食べ尽くし、満腹宣言をするレアに店主が半泣きで完売宣言する。
少し多めに金貨を渡して労っておこう…
「侯爵様、ありがとうございやした!」
「俺達、侯爵様からのご恩忘れやせん!」
「あー、そんなに気にしなくて大丈夫だよ?騒がせて悪かったね。」
喜んでお礼を言ってくれる、酒場で奢ってあげた人達に、俺は気にしないでと手を振った。
「喜んでくれる顔を見るのは、悪いもんじゃないな…」
そう、呟き宿へと戻った。
…翌朝
「…んぐぐ…ぐるじぃ…」
俺はあまりの圧迫感で目を覚ます。
体を起こしてベッドの上を見ると…
右手にメリー、左側にレアを挟んでティファが居た。
…まさに、夢のコラボやぁ!
俺は一瞬、我を忘れた後、何故にこんな状況になったのかと、昨日の事を思い出す。
…俺も普段は飲まない酒を飲んだから、あまり定かでは無いんだが、ティファもだいぶ飲んで酔っ払ってたみたいだったな、
「ご主人様は私の物ですよぉ~」って、言いながら目が座ってたのは、微かに覚えてる…
「んん…あっ!…お、おおはようございます、ユ、ユウト様」
ティファが状況に気付いたのか、焦りながら髪型を気にしてるのが可愛い。
普段は綺麗系キャラなので、ギャップ萌えだ!
「…ふぅわぁ…おなかへった…」
「…おはようございます、ですわ。ユウト様。」
「あぁ…皆おはよう。昨日は楽しかったな」
三人は笑顔で返してくれて、それぞれの部屋に支度しに戻った。
俺は一人、先に宿屋の食堂に降りると、シャル&ルサリィにジト目で睨まれた。
「お…お、おはよう。二人とも?」
「お兄ちゃんだけ、みんなで寝るなんてズルいよぉ!」
「…昨夜は楽しまれましたか?ユウトさん。」
周りの視線も痛いし、二人の空気も痛いっす…
俺は必至に言い訳しつつ、三人が降りてくると、そそくさと朝食を取り、宿を退散して馬車に戻った。
……
その後は、なんとかご機嫌も直り、順調に進み、四日間の旅を終えて、無事にホームがある城塞都市アスペルに戻ってきた。
「…なんだか、久し振りな気がするなぁ」
「…そうですね。ですが、ここが我々のホームですから。」
ティファと戻った感想を言いながら、そのまま屋敷に戻ると、サリネア・サルネア姉妹が笑顔で迎えてくれる。
「「お帰りなさいませ!ご主人様っ!」」
「長く留守にしてて悪かったな、シアンが今度会った時、お前達に話がある!って何だか怒ってたぞ?」
何かしたのか?と聞くと、「はて?」とサリネアが首を傾げていた。
…シアンは何を怒っていたんだろうか?
ルサリィと、シャルの事を紹介していると、騒ぎを聞きつけたのか、ヘッケランがやってきた。
「ユウト様!お戻りに、なら れ た…のですね」
シャルの顔を見て、ヘッケランが固い表情をする…が、すぐに笑顔を取り繕って何事も無いように振る舞う。
「…は、初めまして?シャーロットと申します。」
「これはこれは、シャーロット皇女殿下もご同行されているとは、さすがはユウト侯爵様ですな。」
「なっ…なんだ、侯爵って、ヘッケランはもう知ってたのか?」
シャルの事を何と言われるか不安だったから、深く話をしないよう、侯爵話に逃げてしまった。
ただ、さすがはヘッケランと言うべきか、大人の対応で「商人は情報が命ですから」と、シャルの事を追求せず笑ってくれていた。
…良かった、一番の不安材料は問題無く処理できたみたいだな。
挨拶が終わり、シャルとルサリィの部屋を案内してもらった後、リビングでお茶を飲みながら、ヘッケランと情報共有していく。
「なるほど…エンシャントドラゴンとは、さすがユウト様ですな。」
「いやぁ、ほとんど皆のお陰だよ。」
「そんな事ありません。ユウトさんも勇敢に戦われていました。」
「まったくです。ユウト様は勇敢でした。」
「まさしく、その通りですわ。」
ヘッケランや、三人に褒められて苦笑いする俺…
だって、ほんとに大した役には立って無い。
本来の力さえあれば、と悔しくなる。
「そう言えばユウト様、シルクット攻略が終わられたのでしたら、次のターゲット都市、バノペアにはいつ頃向かわれますか?」
「そうだな…二、三日ゆっくりしたら、下見に行こうかと思ってるけど?」
「そうですか。それでしたら、バノペアの攻略は終わっておりますので、現地の代表である武器商会のサリバン殿を訪ねて下さいますか?」
「「はっ…?」」
俺とメリーは気の抜けた声を出してしまう。
「彼に会えば、都市長のザイール殿にも会えますので、最終調整だけお願い致します。」
「ちょ!ほんとに終わってるのかっ!?だって…バノペアって言えば、要塞都市とも言われてるし、規模だってアスペルよりデカイんだぞ!?」
「…本当にあなたお一人で?ここでの執務もこなしながらで、ですの?」
「はい。お陰様で時間と人手は、たっぷりとありましたので。」
余裕の笑みを浮かべながら、ヘッケランが「全てはユウト様の為でございます」と、恭しく言ってくる。
攻略までの経緯を聞いたが、まったく問題無さそうだったし、既にウチの商会連合からも人と物資が入っているみたいだ。
メリーを見たけど、首を振っていて認めるしか無いって感じだった。
…まったく、どんだけ優秀なんだよ、俺の右腕さんは。
「…分かった。向こうに着いたら、流れの確認と知名度向上の打ち合わせをしておくよ。」
「はい!それがよろしいかと。」
「なぁ、ヘッケラン。お前の働きに報いたいんだけど、何か希望はあるか?」
「…ふくし…いえ、事後報告になってしまいますが…仕事上、アイアンメイデンの副代表を名乗らせて頂いております。それをお許し頂けますか?」
メリーとティファの表情が引きつる。
勝手な行動と彼の功績を天秤に掛けているのだろう…
俺は二人の膝に手を置き…イヤラシイ意味じゃなくてな!
「俺が認めよう!お前は、俺の右腕だ。副代表で問題なんて無いさ。」
「…ありがたき幸せにございます。」
ヘッケランが丁寧にお辞儀をした。
これで、名実ともに彼は俺の参謀となった。
頼れる仲間に、俺は嬉しくなって、握手を交わした。
……
その後、三日間程アスペルに滞在して、溜まってた案件を処理したり、街ブラを楽しんだりしていたんだけど、
最終日には、侯爵の話が街中に知れ渡って、大騒ぎになってしまった。
…なので俺達は、めんどくさい事が起きるのを避ける為、逃げるようにバノペアを目指す事になったのだった。
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