第41話帝国の罠とハプニング

「はぁっ…はぁ、はぁ…ここか」


 俺達は、見世物商会によって連れ去られた、ルサリィを取り戻すために、指定された倉庫街までやってきた。


「…確か、赤い屋根の倉庫が…あれか!」


「ユウトさん、行きましょう!」


 シャルに頷いて、目的の倉庫に着くと、鍵のかかっていない扉を開ける。



 …ガラガラガラ…

 滑りの悪いドアが開く。


「ようこそ!王国の新星ユウト侯爵さんっ!」


 そこに居たのは、几帳面そうな顔に眼鏡を掛けた、いかにも高貴な存在ですと言わんばかりの知恵が回りそうな男だった。


「…お前が親玉か。ルサリィを返せっ!!」


「おぉ!そうでした…これは失礼。おい!」


 男がそう言うと、ルサリィがピエロに連れられて来た。


「ルサリィ!」

「お兄ちゃん!」

 走って来たルサリィを、俺が受け止めるとレアが戦闘態勢で前にでる。


「あなた、帝国の宰相カリオペア…」

 シャルが驚いた顔で呟く。


「おやおや!男を誑かす天才、シャーロット皇女殿下ではありませんか!?」


 カリオペアと呼ばれた男は、シャルを知っているようだ…それに宰相って言えば、かなり偉いんじゃ無いのか?


「帝国のお偉いさんが、何でこんな事するんだ?」


「あっはっは。そう怒らないで頂きたい!ちょっとした余興だったのですよ。我が主人、カイザー・ヴァルブレド・エスクワイア皇帝陛下とお会い頂く為のね。」


 カリオペアがニヤリと笑うと、奥から冒険者と言われた方が納得できる風貌の、壮年のオッサンが歩いてくる。

 …両脇には魔法の武具で身を固めた、高レベルっぽい護衛を従えて。


「…皇帝エスクワイア三世!?ほ、ほんもの…貴方達、これは国家間問題ですよ!!」

 皇帝の姿を見たシャルが激昂する。


「おぅおぅ、随分と物騒な事を言う姫さんだ。この我が仕組んだ証拠が何処にあると?」


「脅されていた人達に聞けば、あなた方の関与は明白です!」


 シャルの発言に余裕を見せる皇帝は、カリオペアに説明させた。


 今回の事件は、バノペアでのアイアンメイデン進出に反対した抵抗であり、帝国の存在等は一切確認できない事になっているし、逆に暴漢から、獣人を救ってやった善人だと言いやがる。

 それに、皇帝達は物見遊佐でバノペアに立ち寄っただけで、俺達に会う為に来たのでは無いと証言可能だ、とカリオペアは万全に練られた計画を伝えてくる。


「…くっ、じゃあ、一体何の用なんだ!?俺個人と戦争でもしたいって言うのか?」

 言葉に詰まるシャルに代わって、俺は再度理由を問う。

 喧嘩なら買うぞ、と添えて。


「いえいえ、滅相も無い!王国に取り入れられようとする、哀れな若者を説得しに参ったのです。」


「…回りくどいのは好かん。貴様、我が帝国に来い。今よりも良い待遇を約束しよう。」


「ざけんなっ!こんな事されて、ハイ分かりました。なんて言う奴がいるかよ!」


 俺の啖呵に、皇帝はニヤリと笑うと…

 入り口の方から、さらに二人の護衛が現れた。

 …ちっ、挟まれたか。


「…力ずくって事か?」


「あっはっは!我が主人のご意思は絶対でございますな。いくら、強力な護衛がいても…この数を守れますかな?」

 意地の悪い顔でカリオペアが笑う。


 たしかに、レアだけじゃ手が足りない。

 ティファやメリーが居れば、こんな奴らに好きにはさせないのに…


「…ぜんいん…ころす…凍りつかせ、フリージングマキシマム!!」


「はっ!?」


「陛下!」

「…うぐっ」


 帝国のやり方に激怒したレアが、最大出力の高位魔法で倉庫内を一瞬にして氷漬けにしてしまう…

 が、皇帝側は、神樹の加護と言う魔法を完全ガードするアイテムを使用して凌ぎ、後ろ側の奴らも、スキルと魔法を重ねて防いでる!


「レアの魔法に耐えるなんてっ!?レア、シャルの方が耐えきれん、もう持たないぞ!!」

 レアの魔法発動に合わせて、俺とルサリィを守る為、シャルが三人分の障壁を展開してくれている。

 だけど、消費が大きすぎて長い時間は、とてもじやないが持ちそうに無い!


「リロードオン!煙幕、記憶の扉!」


 俺は、一旦引くべきだと判断して、移動阻害効果のある煙幕玉と、銀河亭の部屋を記憶させた扉を使用する。


「…逃げられてしまいましたか。」


「はっはっはぁ!我に喧嘩を売るとは面白い奴よ、ますます気に入ったぞ。」


「…カリオペア殿、我々も帝都に引き上げましょう。」


 護衛の騎士が進言し、カリオペアもアイテムを使用する。

 獰猛に笑う皇帝は、俺達の反応に満足したのか、上機嫌で帝都へと戻って行くのであった。


「…また、近々お会いしましょう。ユウト殿。」

 カリオペアは、イヤラシイ表情で呟くと、皇帝の後に続いた。




 そして…その場に残ったのは、哀れなピエロの氷像だけだった。









 ーーーーーバノペア 飯店

「はぐはぐはぐ…」


「お姉様、もう少し落ち着いてお食べになってわ?」


「朝から良い運動をしたので、エネルギー補給は必須よ…」


 アキラからの依頼で、魔導兵の性能調査に協力していたティファとメリーは、アキラの奢りで、高級飯店駿河亭に来ていた。

 高級料理を豪快に胃袋に納めるティファを、メリーが嗜めるが…特に気にする様子も無く平らげていく。


「まぁ、お姉様が淑女たるのは、ユウト様の前だけでございますものね」


「…ぶっ!ごほ、ごほっ…」


 メリーの発言にむせるティファは、「余計な事を言わないで」と言い、食事を再開する。


「…気にせずに、どんどん食べてよ」


「えぇ、もちろん働いた分は頂きますわ。」


 ははは。と薄く笑いながらアキラは二人を見る。


 …レベル100のパラディンロードに、魔法が使える暗殺者。

 確か、純粋な魔法使いもいた筈だから、近中遠のジョブが全て揃ってる。

 アタック力が少し乏しい気はするけど、この世界じゃ彼女達に対抗できる者は、殆どいないだろうな。



 アキラは、半日二人を見た総評と三姉妹のバランスの良さを、ゲームを知る者として高く評価する。

 その反面、本気では無い二人とソコソコの戦いしか出来なかった、自分の作った魔導兵に溜息を零す。


「…ボクの研究もまだまだ、だね。」


「んぐんぐ…そんな事は無いと思いますよ?少なくともソロで戦えば、私達が負けていたでしょうし。」


 あっさりと、魔導兵の力を認めてくるティファにアキラは目を丸くする。

 が、おそらく彼女は駆け引き等をしない、純粋な人なんだろうと納得した。


 なぜなら、性能テストと言う言葉を信じて、戦いながら改善点を指摘してくれる…

 そんなティファの真面目な性格が、あの短い時間でも充分感じ取れたからだ。


「…少し、申し訳ないな」


 二人には聞こえない、そんなアキラの呟きは、本当は二人の実力を計ろうとしていた、自分の心に言い聞かせるものだった。



 ……


「…一応、君達のご主人様にお礼を言って帰るよ」


 アキラは、お礼くらいしっかりと言うべきだと思い、二人と共に銀河亭に向かい歩く。


 美少年が、美女二人を連れ歩く姿は、街の人々の注目を集め、しばらくの間、市内の噂を独占するのであった…



「…ご主人様は、もう戻られているでしょうか?」


「戻られていましたら、わたくし達共、街ブラと言う物をして頂きたいですわね。」


 三人は、銀河亭に入り、俺が寝泊まりしている部屋を目指す。



「…しょう!!な…だよ、…さねぇぞ!」

「落ちつ…い、ユウト…」



「…何かあったのかな?」

「随分と騒がしいですね。」


 部屋から漏れ聞こえる、荒れた会話に嫌な物を感じながら、部屋をノックして三人が中に入る。


「…ただ今、戻りました。ユウト様、何かございましたか?」


「ティファ…あぁ、実は少し前に帝国に襲撃されてな。」


「襲撃とは穏やかではごさいませんわ。」


「…君達の噂を知って、手を出してくるなんて、一体誰がそんな事を?」


「…カイザー・ヴァルブレド・エスクワイア三世です。証拠は隠滅されていますが。」


 戻ってきた三人は、矢継ぎ早に質問すると、シャルから返ってきた予想外の返答に驚く。


 アキラが、何を目的に接触してきたのか聞いてきたので、俺を勧誘しにきたみたいだと言う事、そして、俺を呼び出す為に行った卑劣なやり方を教えた。


「…なるほど。あの傲慢な皇帝らしいね」


「私も、詳しくは教えてもらっていませんが、レンの時も酷かった、と聞いています。」


「あのクソ野郎…後悔させてやる!」


「…わたくしは、反対ですわ。」


「なっ!」


 メリーの反対意見を受けて、ティファも静かに頷いている。

 だが俺はそんな反応に納得出来るはずもなく、苛立ちながらメリーを問い詰める。

 俺に、俺達に対する、ふざけた行為を許すのか?と…


 しかし、メリーは至って冷静に返答する。

「全てに優先されるのは、ユウト様の安全ですわ。」


 そして、三人掛かりで始末しに行け、と命令されれば喜んで従うが、俺が乗り込むと不測の事態に対処出来ない可能性が高くなるからダメだと続けた。


「…以前にもお伝えしましたが、相手が巨大な組織だと、数の利で押し切られる可能性がございますわ。」


「でも、だけど、それじゃあ俺は…」


 俺は悔しかった、いつも守られるばかりで、この手で掴める距離にいる人すら守れない自分に。

 そんな俺が申し訳なくルサリィを見ると「私なら怪我も無いし大丈夫だよ?」と、俺の方が心配される始末だった


 …一体、どっちが大人なんだかな。


俺は、大きく息を吐いて心を落ち着かせる。


「…わかった。今は報復を諦めるし、今後はもっと気を付けて行動するよ。そして、急いで力を取り戻して謝らせてやるっ!」


「…力を、取り戻すって?」


 俺は転生に巻き込まれたアキラがいるのを忘れて口を滑らせてしまった…

 レンには内緒にしてもらう事を約束に、グランドドラゴンの件や、奴に課せられた呪いの事を正直に話した。


 アキラは異世界での研究を楽しんでるっぽいから、巻き込まれを聞いても大丈夫だろうと踏んでのカミングアウトだ。


「…なるほど。それならグランドドラゴンを倒すのが、レンの願いを叶える事になるかもしれないね」


「それって…どう言う事だ?」


 当たり前のように、自分の考えをアキラが述べるが、頭の悪い俺に同意出来るわけがない。

 噛み砕いて、詳しく説明してもらうと、転移の原因がグランドドラゴンなら、送り返す力を持つのも当然と言えるのだそうだ。


 ただ俺の力同様グランドドラゴンも不完全な思念体で、呪いのような状態にあるから、レンを現世に送り返すのであれば、グランドドラゴンを通常の状態に戻す必要があるとも言われた。


 …ただその際、異世界に残りたい俺たちも巻き込まれて、現世に帰る可能性もある。

 と、アキラは付け加えた。

 俺は、その説明になるほど、と感心する一方で、現世への帰還に巻き込まれたらと思うと、正直に試したくないとも思ってしまう。


 ただ…本当に送り返せるかと言うのは、当然未確定なので、次にグランドドラゴンに会ったときには確認する必要がある。

 と言う事で、話し合いは落ち着いた。



 …レンは良い奴だし、想いの強さを知ってるだけに協力はしてやりたい。

 だけど、そのせいで俺が現世に戻る、って言う事は避けたい…


 俺はあの世界に未練なんて、これっぽっちも無いからな。


 ちなみにアキラは、どっちでも良いそうだ。

 今の世界は、やれる事は多いが、現世でも一人で充分楽しめてたらしい。

 …俺が言うのも何だが、中々のボッチ根性だな。



 ……

 その後は、一旦解散して、皆で食事を取り風呂に行った。

 この銀河亭は、高級宿なだけあって、宿に大浴場が備えられている。

 ただ、浴場は一つしか無いので時間交代制なのだ…


 イライラしたり、頭を使ってお疲れの俺は、女子の時間が終わったタイミングを見計らって、ラッキースケベに想いを馳せて浴場に向かう。

 そこには、いかにも旅館の温泉です!って感じの脱衣場へ続く通路があった。


「男」と書かれた立看板と暖簾をくぐって脱衣所に向かう。

 …着替えが1セットある。

「こっ、こ、これはっ!?」


 まぁ、男物だけどね…



 自分で自分のバカっぷりに苦笑いしながら、大浴場に向かう。

 …やはり、先客がいるみたいだ。


 子供…だろうか?

 黒髪で体は小さく見えるから、親を待ちきれなくて、一人で先に来たのかもしれないな。

 …俺は、風呂で見知らぬ人とコミュニケーション等取れるような、そんな気さくな人種では無いので、視線が合わないよう、斜め45度の位置にスペースを陣取る。


 どんなお子様かと思って、少し気になり横目で確認していると



 …ザパァン

 少年が立ち上がると色々と丸見えになり、相手が男とは言え上から順に眺めてしまう。


 …無い。


 ……無いざます!


 "ナニ"が無い!そして若干だが、胸の膨らみがあるっ!?



 俺はまさかのラッキーハプニングを堪能すべく、全力で網膜に映像を焼き付けていく。


「…君、いくらお風呂だからって、人の体をジロジロ見過ぎだよ」


 ん?聞いた事ある声…


「…この件は、あの姉妹達に伝えておくよ」


 そういうと、色々と隠しながら、美少年…改め、美少女のアキラは風呂を後にして行った…






「あいつ、女だったのかよっ!!?」

 …俺の心の叫びは、湯けむりに溶けていくのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます