第19話王都編①

 

「よく戻った、シャーロットよ。」


 結婚式なんかで使うような、大きなワンホールのフロアを思わせる大きさの、王座の間には【断罪の巫女】と呼ばれる二人が、報告の為に呼び出されていた。


 一人は跪く傭兵のような男性で、異世界転移に巻き込まれた被害者、菖蒲蓮ショウブ レンと言う従者兼用心棒。

 もう一人は、スカートの両端をつまみ上げ、優雅に淑女の礼をする女性シャーロットだ。



「これより儀典官、シャーロット皇女殿下より報告をさせて頂きます!」


 声を発したのは、二人の横に立つ、白色の政務官服を着た書記官長の男で、それを聞いた国王は一つ頷く。



「…それでは、わたくしよりご報告をさせていただきます。」



 頭を少し下げてから、シャーロットは話し始めた。

 周りにいる衛兵達や高官達も、黙って彼女の話に耳を傾ける。



「まず始めに、シルクットでの餓狼蜘、及び邪教ラヴァーナについての報告となります。」



 そして、彼女は語り始めた。

 まず、シルクットの商業を支える【織物商会】これの代表であるバカルナ、そして三人いる幹部の二人、ラジット・ドーダリーと言う男と女は既にラヴァーナ教に恭順しており、実質的にシルクットはラヴァーナ教に支配されかけていること。


 さらに、ラヴァーナ教は、教主ラクシャスを中心として、都市内に五万人近い信者を内包していること。

 そしてこれは、シルクット人口の実に1割に登っており、王国の脅威となりつつある現状を共に伝えた。


 その上、教主ラクシャスは裏の顔として、犯罪集団【餓狼蜘】の事実上の首魁であるとも付け加えた事で、彼女達の周りからは動揺の声が上がる。



「静かにしたまえ!報告はまだ途中であるぞ!」


 そう言ったのは、この国のナンバー2で統括大臣のゲルノアと言う、神経質そうな顔に半分白くなった頭髪を持つ小太りな男だ。


「「…………」」



 周りが静かになり、シャーロットはゲルノアに笑みを向けると続ける。



「この餓狼蜘には、王国内にかなりの力を持つ後ろ盾がある事までは掴めました。」


 名前までは聞き出せませんでしたが…と、ゲルノアを見やる。



「そ、それは残念だ…」と、俯き呟く大臣を無視して、シャーロットは話題を変える。



「シルクットでの報告は以上になります。…続いて、アスペルでの帝国軍との防衛戦に関してですが…」


「……おぉ!」

「……あれか!」



 また周囲が騒がしくなるが、ゲルノアは先程の動揺が残っているのか、今度は反応しない。


 収まらない家臣を見て、国王は右手を少し上げた。


「………」


 すると、すぐに辺りは静まりを取り戻し、シャーロットは国王の配慮に笑顔で応える。



「こちらの件に関しては、この者より報告させますわ。」


 そう言って、彼女はイタズラな表情を浮かべてレンを指し示す。



 ……うげぇえっ!?

 と言う表情で答えた彼は、己の黒髪をポリポリと掻きながら立ち上がり、一礼する。



「…くそっ、姫さん覚えとけよ!」

 と、俯いた時に小声で言うが、シャーロットの澄ました顔を見て観念すると報告を始める。



 まず、アスペルに居たのは自分と同じで、異世界人だった事、そして、元々アスペルにあった商会を呑み込み、アイアンメイデンと言う組織を作っていたこと。

 また、傭兵団も吸収しており、僅か300人程度の軍で、帝国軍の一万超を打ち破れたのは、自分と同程度の実力者が三人と、アーティフェクトアイテムを多用したからだと報告する。



「なんと!過去の遺物である、アーティフェクトアイテムを多用だと!!」

 元気を取り戻したゲルノアが叫ぶ。


 そして、何故そんな危険な者達を放って帰って来たのか、と強く二人を叱責してくる。


「…あぁ~、それなんですけど、俺と"同程度''って言いましたよね?シャーロット姫が死んでもええんなら、一人か二人は道連れに出来ると思いますけど、それでええんですかね?」



 …普通に考えれば、王族や貴族に対してかなり失礼な話し方ではあるが、彼のこの言葉遣いは"直らない"で統一認識されている。


 と言うか、一応丁寧に喋っているつもりであり、これ以上、本人に直す気がないのだから仕方ない。


 それに、一対一でレンに勝てる人間が、王国軍内に居ない事にも起因している。

 もちろん、単純に同条件で戦った場合と注釈は付くが…


 いかに彼が、王国に取って得難い戦力なのかが伺えると言うものだ。




 レンの発言に、さすがのゲルノアも黙り込む。



「う~む…それはいかんのぉ。儂の大切な娘に何かあってからでは遅いではないか。」


 国王が行き詰まるやりとりに、のんびりとした返事をした事で空気が少し緩み話が続く。


「そやから、取り敢えずは様子見って事で、連絡手段も取り付けて来ましたんで、それで勘弁してもらえませんか?」


「…いや、しかし、その者達が力を着けて、王国の転覆を願うやもしれんではないか?」


 尚もゲルノアは食い下がる。

 …お前が言うんかい。と、小さく呟きレンは虎の子を出す。



「そ、れ、に、や。俺と陛下との約束もあるやろ?この件は、俺に一任してもらうで?」


「…君の世界に戻る為の力になる、か。」

 国王の呟きにレンは頷く。


「せや!俺が元の世界に帰れる確率が少しでも上がるんなら、あんたらは協力を惜しまん。それが、俺が命令に従う理由やからな。」


 レンの第一目的は"元の世界に戻る事"これは、彼がこの世界に迷い込んだ6年前から変わっていない。


 その目的の為に、あらゆる事を試した結果が、王国との持ちつ持たれつの関係であり、今のシャーロットの従者と言う立ち位置でもある。



「良かろう…。では、その件は君に任せて構わんな?」

「へっ、陛下!?」と続けるゲルノアの不満は無視され話は進む。


「もちのろんや。それで陛下に一つ、しんご…?しんけん?……」

「進言ですよバカレン。」


「おぉ!そうそう、進言があるんですわ。」


「…どんな事かのぅ?」


「今回会ったユウトっちゅう奴は、早めに抱え込んどくべきやと思うんですわ!」


 レンがシャーロットを犠牲にすればと言ったのは、大袈裟でも何でも無い。

 ただ単に、あのまま戦えばまず自分が死んで、次にシャーロットが殺される。

 それまでに、断罪の輪で何人殺れるか?と言うだけの事だから、事実を言ったにすぎない。


 そしてゲルノアが言った通り、アイアンメイデンが敵に回れば王国の苦戦は必至で、下手を打てば国家首脳陣壊滅の線すら出てくる。

 故に、レンは早期にユウト達を懐柔すべきだと国王に進言したのだ。



「…お主ほどの者をしても、野放しは危険だと?」


「そうですねん。LV100が三人もおって、アイテムしこたま溜め込んでる主人がおるんでっせ?俺が国王なら速攻で重役にして、飼い慣らすように努力しますけど?」



 ……ふむ。


 国王は呟き考え込む。



「陛下!何をお考えになられておりますか!?その様な身元の不確かな者が、いきなり重臣になるなど、帝国や神国に何と言われるか、聡明な陛下であれば、充分お分かりでしょう?」


 ゲルノアが必至に抗議する。



 …しかし、国王は顔を上げると、

「その者に一度会ってみよう。」

 そう、二人に告げて王国に呼び寄せるように指示を出す。



 ……陛下!?

 ……しかし、それは…

 ……いやはや…



 色々な立場の人間達が、色々な事を好き勝手に言い出し、王座の間は騒然となる。



「……わかりましたわ!陛下からの勅命、わたくし、シャーロット・ベイオール・フォン・アダドがお受け致します。」



 辺りは静まり返り、

「…げぇっ!また、あっこまで行くんかいな…」

 と、レンの呟きだけが響く。



「…そうか、ではお前に託そう。シャーロットよ。丁重に連れて来るが良い。」


「畏まりました、陛下。」





 そう言うと、二人は王座の間を後にして、シャーロットの部屋に向かい歩く。



「…なぁ、姫さんや、なんでまた急にユウト達に絡む気になったんや?てゆうか、ちょっとはユックリしようなぁ」


「レンは見てないの?あのデブ大臣…何が国の脅威になるかも!?よ……あんたが一番、国を脅かしてるんじゃないのっ!」


 めんどくさそうにするレンに、シャーロットは歩きながら怒りを露わにする。

 さすがのレンも声が大きいと、自制を求める程だ。


 それでも彼女の怒りは収まらず、部屋に着くまで、レンは「へぇ、はぁ、」を繰り返すばかりだった。

 …10歳は開いている年の差も、この時ばかりは、お姉さんと弟のように見えただろう。




「…ほんじゃ、予定が決まったら教えてな!俺はそれまでブラブラしとくさかい。」


 そう言って部屋の前から離れようとするレンの腕を引っ張り、自分の部屋に連れ込むシャーロット。




 …そして、それを見ていた、王宮付きのメイド達が色めき出す。


「…きゃー!見た?姫様から無理矢理、レン様を連れ込んだわ!?」

「姫様は年々、過激になられているわね!」

「いーなぁー!私もカッコよくて、強くて、お金持ちで、地位のある旦那様がほしい~」

「あんた、欲張り過ぎよ!!」



 そんな声をドアの外に聞きながら、シャーロットは謁見の服装からラフなドレスに着替え出す。


「あんなぁ姫さん?俺も男子なんやから、もちっと気ぃ使ってもええんちゃう?」

 後ろを向きながら、目に手を当ててボヤくレンに、「見なきゃいいでしょ」とシャーロットが言い返す。



「姫さんも、そんな冒険者的な性格になってもうたら、嫁さんの貰い手が無くなってまうで?」

 多少の嫌味を込めながらレンは文句を続けていると…

 背後から細くて白い手が二本、脇の間を通って身体を抱き寄せて来る。


「じゃあ、あなたが私をお嫁さんにしなさいよ…」


「せやなぁ…俺が元の世界に帰るんを諦めたら、嫁にもらおうかなぁ」



 …幾度と無く繰り返したやりとり。

 答えは分かっているし、レンは帰還を諦めたりしない。

 でも、諦められない。

 シャーロットは18歳になっており、王族としての婚期は遅いくらいだ。

 特殊な役に着いている為、あまり周りに言われないのを良い事に、ひたすら先延ばしにしている。

 5年前のあの時から……



 しかし、そんな彼女にも逆らえない相手はいる。


 現、女王…つまり、自分の義母にあたる、エレノア・ベイオール・フォン・アダド、その人である。

 彼女は、未婚の第一王女が、身元の不確かな者と冒険者紛いの職に就く事を良しとせず、何かある度に婚姻話を持ってくる。



 だから、シャーロットは王城に長く滞在したくないのが本音で、その為にユウト達をだしに使い、想い人であるレンとの旅行に興ずる。



 …それは、叶わない一時の幸せであると知っていても。

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