第20話王都編②

 

ーーー国王への報告後、翌朝


 レンは朝から、裏道にある暗い酒場に居た。

 表の看板には【閉店】の文字が掲げられ、客はレン以外には…一人しか居ない。



「兄貴に調べるように言われてた、例の遺跡ですが、やっぱり、何百年も前に壊れていて、誰も使い方どころか、修理できる人間すら居ないって言われましたよ。」


「ほーか……ご苦労さんやった。また次の情報が入ったら頼むわ。」

 そう言って金貨の詰まった袋を投げ渡す。

 レンの話し相手のフードを被った男は、それをキャッチすると、中身も確認せずに礼を言って店を出て行く。


 このやり取りだけで、どの程度、今の様なやり取りを繰り返してきた関係かが分かる。

 …だが、男から報告を受ける度に、レンは溜息をつく。



「はぁ~。これで何度目やろな…アホらしなって、数えんのもめんどいわ。」

 もう、いっその事、このまま、この世界に居残るか?と考えるが…その度に一人の女性の顔が頭に浮かぶ。



 元の世界に残してきた、自分の妻の顔だ。



 …出てくる顔は、マチマチで、小馬鹿にして来るものや、怒った顔、笑った顔に……泣き顔だ。




 …彼は常に考えている。

 どうすれば、元の世界に帰れるか、何が帰還のヒントになるのか…と。


 実際に、ユウト達と敵対せずに、懐柔を進言したのも、彼等のアイテム等から、帰還のヒントを得られるかもしれない、との打算があったからだ。


「…まぁ、期待して無かったし、ええんやけどな。次や次!」


「……頭は、本当に粘り強いですなぁ。俺には絶対ムリですぜ。」


 カウンターの奥から、レンの独り言に反応して男が出てくる。

 彼はレンの昔の仲間で、「ダズ」と呼ばれる犯罪組織の首領だ。



「いい加減、もう諦めて俺達と、また楽しくやりましょうよ!」

 と、いつもの様に彼なりの励ましをくれる。

 そんな姿を見ながら、レンは、この世界に来てからの自分の過去を思い返す。



 ーーーーーーーーーーーーーーー



 俺はこの世界に来てから……


 …あかん。やっぱり止めや!

 辛気臭い話はしたないし、自分の事語るんはオッサンになってからって決めとるからな。

 悪いけど、原稿は作っといたったから、これみて適当にお前さんが読んどいてや!

 なっ?んじゃ、宜しゅう!…ほなっ!



 ……へっ?


 ちょ!…おーい!……俺が読むのか?

 …おい、マジかよ。

 もう既に、一話分のナレーションで結構疲れたのに…

 なんて適当な奴だ!…今度、会ったら、絶対にとっちめてやる!

 ……皆でな。





 …

 ……俺は諦めてレンの過去を語る事にした。



 ーーーーーーーーーーーーーーー



 レンが転生させられて、初めて着いた場所は王国の西端にある、エゼルリオと言う街だった。

 ゲームの世界に来てしまった事に気付いた彼は、とにかく色々と試してみる。


 …だが、ログアウトも無ければ、セーブポイント等も使えない。

 当然、教会や神殿などにも相談したが、頭の痛い人を見る目で、厄介払いされただけだった。


 彼は諦めずに一ヶ月位、あちこちに行き、様々な事を試したが…

 結局、帰還方法どころか、ヒントすら掴めなかった。



 やがて、自暴自棄になったレンは、少しずつ荒れ始める。

 酒を飲んで暴れたり、旅人や商人を襲って、奪い…そして殺した。


 だが、そんな彼も女子供には手を出せなかった。特に妊婦には弱かった。


 どうしても、自分の妻の顔が重なり、手が震えるのだ。

 重なる妻の顔が、「何してんねん!早く帰って来い」と訴えてくる。



 彼はそれを見るのが怖くて、仲間を求めた。

 独りの時間を薄める為だけに。

 当然、そんな彼の周りに集まって来るのは、素行の悪い連中ばかりだ。

 だけど彼はそんな事を気にはしない。

 元々ヤンチャだった彼には、そんなバカな奴らで丁度良かったのだ。



 レンの周りに人が集まり始め、僅か半年もしないうちに、エゼルリオの街は、レンを頭とする愚連隊に占拠されてしまったいた。


 都市長は逃げ出し、討伐に来た王国軍も三度退けた程だ。



 レンの支配する街では、女子供には酷い扱いをさせなかったが、奴隷のように扱われる男達にとってここは、○斗の拳の世界に見えていた事だろう。

「ヒャッハー!」と言いながら、労働を強制し、上澄みを掠めとるレンの部下達に怯えながらも、妻や子供達を人質に取られ逆らえなかったのだ。



 何人かの心ある仲間は、街に秩序や統率をレンに求めた。


 …しかし、レンは興味が無かった。

 どうでも良かったのだ。

 所詮はゲーム、自分とは関係無い、意味の無い世界だと考えていた。

 軍と戦ったり、モンスターを狩る時だけは、生きてると実感し、彼は転生から一年経つ頃には、「死に戻り」を考え出していた。



 普通に考えれば、人の命は死ねば終わり。

 …諦めたら試合終了だ。


 だけど、この世界に生を望まない彼は、死んで目が覚めれば、元の世界に戻っているのでは…と本気で考え出し、そこに希望を見出そうとしていた。



 だが、そんな彼の考えを変える出来事が起こる。


 第4次征伐、エゼルリオ奪還作戦で特殊任務を行う【断罪の巫女】と出会ってしまう。


 当時12歳で第一王女と言う地位にありながらも、王家の呪われた血である、特殊能力を発現させてしまったシャーロットは、暗殺や粛清を主にする闇の処刑人として活動していた。

 この時の彼女を警護していた男は、シャーロットに興味が無く、人の断末魔のみに眼を輝かせるような人間だった。



 軍を都市の前面に配置し、注意を引いた隙に【断罪の巫女】は都市内に潜入した。


 そして、敵の首魁である、菖蒲 蓮を見つける。

 無気力にヘラヘラと笑いながら、「よぅ、来たなぁ~…」と話す敵の首魁を見て、感情を無くし掛けていた、シャーロットの瞳に嫌悪が滲む。



「ガイル、いつも通り行きますよ。」

「了解だ、シャル」

 …素早く殺し終わらせる。

 シャーロットは少しの感情を瞳に乗せ、断罪の輪を発動させる。

 ガイルが敵の気を引き、自分がスキルで殺す。


 自分の年齢や外見から、ガイルにしか注意を払わないバカ共は、常にコレで一撃だった……

 が、しかし…今回だけは違った。



 敵の首魁は、ガイルが飛び掛かり、シャーロットがスキルを発する一瞬の間に、姿が揺らめいた、かと思うと…

 飛びかかった筈のガイルは消え、そこには、綺麗に半分になった"物"が転がっていた。



 彼女は焦り、もう一つの特殊スキルを発動しようと口を動かす。

「絶対しょうへ…」

 ーーーカチャリ…

 彼女がスキル名を発するよりも早く、レンの刀が首元に当たり、少し血が滲む。



 絶対的な"死"を感じた彼女はその時


 ……笑顔を見せた。



 「……!?」

……バッ!

 その笑顔を見たレンは、驚き刀を離して飛びのく。


「おっ、お嬢ちゃん…何やそれ、その顔はなんやねん!」

「……して。早く殺してよ!!」

 …シャーロットの心からの叫びだった。



 物心着いた時から、殺し殺し殺し殺して来た。

 感情があれば壊れていただろう環境だ。

 幼さ故に、感情を仕舞い込んで、何とか保っていた自我が「自分の死」を直面して、助けを求める。



 絶対の静寂…

 自分の死を、敵であるレンに願ったのだ。



「あかん!絶対にあかん!…俺は…そんな事、そんな事を望んだ訳やない…そんなの認められへん!」

 レンは崩れ落ち、涙を流し蹲る。


「なによ!私に安息を頂戴よ、殺して!何もかも終わりにしたいの!」

 シャーロットも膝を抱きしめ座り込んで叫ぶ。





 ……しばらくして泣き止み、顔を上げた男の顔は、最初に見た時とのソレとは別人だ、とシャーロットは感じた。

 さっぱりとした表情で、美しいとさえ思った。



「…あ~、ほんま久々に泣いてもうたわ。しかも、こんなチビッ子の前でて……」

 レンは顔を抑えて、天を仰いだ。


 そして、シャーロットを見つめて言う。

「よし!決めた。俺がお前を死にた無い!って思うぐらいに甘やかして…そんで、…守ったる。」


「はっ⁈なっ…何を言ってるの⁉︎意味が分からない!頭おかしいんじゃないの!」


「せやな、俺は頭ん中ぶっ壊れとる。でも、諦めたらあかん目的があるんや……嬢ちゃんは、それまでの、俺の生きる意味になってもらう!…コレは決定や。」


 自分の意見をまったく聞こうとしない、大人…なのに、泣き叫んでワガママばかり言う変な奴…



 そんな、訳の分からない相手なのに、レンの笑顔を見てシャーロットは、こんな顔が出来る様になりたいと願ってしまった。




 …それから、レンを失った愚連隊は王国軍に降伏し、街には平穏が戻るのであった。


 レンはと言うと、一部の幹部達は先に逃がし、自分の駒が全て無くならないように手配すると、シャーロットを連れて王都に向かった。



 王都へは徒歩で向かった為、衣食住を共にし色々な事を話した。

 レンが異世界人だと知った時、シャーロットは驚いたが、なんだか納得もした。


 この世界では、かなりの強さを誇るLV60以上あったガイルを一撃で葬る強さ。

 訳の分からないことを言い、それまでの全てを捨てて自分を守ると言い出すような変人が、まともな経歴を持ってる筈が無いからだ。



 そして、感情を忘れかけていた彼女は、彼と話をする度に瞳に感情を戻して行く。

 王都に着く頃には、レンを信頼し、レンが自分の全てだと思うようにまでなっていた。



 何故なら、王都に着くまでの二週間弱、野党やモンスターに襲われたが、レンはシャーロットに一度も戦わせなかった。

 それどころか、危ないと思う事すら起きなかったのだ。



 …自分を見てくれ、優しくしてくれる。

 そして、絶対的な力を持つ男性。

 幼いシャーロットが、想いを抱くまでに大した時間は必要なかった。




 …二人は王都に入り込み、王城前まで来ると、レンはおもむろに刀を抜き兵士に告げる。



「おう!お前ら、姫様殺されたくなかったら、王様に会わせんかい!?」


「……えっ?」



 聞こえてきた言葉に傾げたシャーロットの首元には、レンの刀が突き付けられるのだった……

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