第18話拠点

…ぐぅぅ~…きゅるる


俺達は不動産を案内してくれるハーピーさんに、シルクット内で支部の役割になる物件を紹介してもらう筈だったんだけど…

まずはレアのお腹を鎮める為に、ボリュームのある食べ物を出してくれる屋台を探す所から始まった。


…どーせレアに食べさせるなら、腹持ちが良い物じゃないと、一軒見る度に『ぐーぐー』言いわせかねないからなぁ

そんなんじゃ、気になって、家探しどころじゃなくるしな!


底無し沼のようなレアの胃袋の事を考えながら、とりあえず物件が方に歩いていると…

ふと、良い香りが漂ってきた。



…すんすん…すん。

俺は鼻から息を吸い込んで、匂いの元を探す。


これは…ソース系の匂いだな。

…俺は現世時代、粉物はそんなに好んで良く食べてた訳じゃ無い。

だけど、この屋台特有の濃厚そうで香ばしい匂いと音には、ついつい食欲をそそられてしまう。


あぁ、俺の腹も鳴りそうだ…




ハーピーさんにお願いして、少し寄り道してもらうと、屋台の看板が見えて来た。


【バクダン】


…おぉ、エラく物騒な名前だな。



そう思いながら、屋台の中を覗いてみると、「ジュウジュウ…」と言う音を出しながら豪快に焼かれる、焼きそば風の物と、デッカイたこ焼きの風の食べ物が見えた。


…おそらく、このたこ焼きの様な食べ物が、バクダンなのだろうが、なんだか、昔に行った夏祭りの夜店を思い出すな。

イジメられるようになってからは、クラスの人間に会うのが嫌で、全然行かなくなってしまったから、随分と懐かしく感じるよ…



「へいっ!らっしゃい!」


「おっちゃん、これ二つね」


「あいよ!バクダン二丁!」


…その掛け声、なんか物騒に聞こえますよ?



こっちにしたのは、流石に歩きながら焼きそばを食べるのは難しいと思ったからで、焼きたてのバクダンを二つ受け取る。

そして、それを食べる事でようやく、俺達は一軒目の物件を見に行けるようとになったのだった…



しかしこの、アツアツのたこ焼…バクダンは、物件に向かいながら食べる事にしたんだけど、既に腹は鳴りっぱなしだ。

…俺も馬車で吐いてるから、実は結構、腹減ってたんだよね。



「…まいどありぃ!」



おっちゃんの元気な声を背に聞きながら、バクダンにかじりつく。


……!?


これ、かなり旨いな!!

俺の掌一杯で何とか収まってる感じのビックサイズで食べ応えあるし、

ソースは中に入ってて、外側はしっとりふわふわで、たまご色になってる。



「…はぐっ。んぐんぐ」

「…もぐもぐ……ごくんっ。」



歩きながら、俺とレアは二人で黙々とかぶりついて行く。

中から濃厚ソースと、プリッとした食感の魚介っぽい具材が溢れてくる…

生地に混ぜてる野菜達も少し大きめにカットされてるのだろう、それぞれがしっかりと味を主張している。



生地に染み込んだソースと、中で互いを高め合う具材達!


…これは、

……これはまさに、


「うま味の玉手箱やぁ~!!」



……


…俺のリアクション付きでやった、渾身のモノマネは、元ネタを知ってる人間がいないと言う、厳しい状況下のもと…





…スルーされた。






「…ふっ。」



俺は一人虚しく息を吐く…


ちっ、そんなの分かってたよ!

二人の当たり前のような無反応は分かるけど、何でハーピーまで無視なんだよ!

「それは良かったです!」とかあるだろ??



俺、お客様だよ?一応さ…



俺は勝手に心の中でそう毒付いて、無言でバクダンをかじり続けた。




……さすがに半分位まで食べ進むと、結構キツくなってきた。

なので、悪いとは思ったんだけど、ティファに残りを食べられないか聞いてみた。


「…えっ!?よっ、よろしいのですか?」

「えっ!?いっいや、食べかけで悪いんだけど…それで良ければ…ど、どうぞ?」


「もちろん頂きます!…はぐはぐはぐ」

ティファは嬉しそうに残りを受け取ると、凄い勢いで俺の食べかけを平らげてくれた。


…お腹減ってたのかな?

言ってくれれば、買ってあげるのに…


良く分からなかったが、ティファが助けてくれたお陰で、食べ物を粗末にせずに済んで良かった…と、横を見たら、レアは既にペロリと平らげた上に、こっちの残りのやつまで見てるよ…


…ほんとこの子は、いつもドコに食料をしまい込んでいるのかしら…体ちっこいのに。





そんな事をしていたら、ちょうど一軒目の屋敷に着いた。


「どうぞ、皆様、こちらが1軒目のお屋敷になります!」


ハーピーさんの言葉に物件を見上げる。

中々大きくて立派な屋敷だ。


さぁ、お腹も落ち着いた事だし、気を取り直して物件を見ていきますか!

俺は初めてのお部屋探しに、自分のテンションが上がって行くのを感じて頬を軽く叩く。



…しっかり選ばないとメリーに怒られるしな。







それではお待ちかね、クズハーピーチョイスの厳選物件達を紹介して行こうか……




①超近隣に墓地あり!毎日絶叫間違いなし!お化け屋敷感覚で楽しめちゃうホラーハウス!


……ハーピーさん曰く、今まで10回以上、所有者が変わっていて、怪死率9割との事だ。

何でも、鏡には色んな物が映るのは当たり前で、風呂で頭を洗っていると視線を感じる。

調子が良ければ、その人物の足元も拝めるらしい。

ラップ音やポルターガイストのサービスまで受けられる特典付きだ。


…それでも、場所が一等地にあるだけに、何度か除霊を試みようとしたそうだが、全て失敗した上に、除霊師達の何人かは失踪したと言うオマケ付きだそうだ…

そして、中が異常に寒い…



……いや、これ普通に無理でしょ?

なんでこんなの紹介したのか!って言いたくなるレベルだよ!

「俺の聖なる力で軽く浄化して、格安で物件を購入できてしまった☆」

みたいな力、俺にはねぇーっての!



…まぁ、アイテムなら、あるかもだけど?お化けは怖いからダメだ!



ちなみに、ティファは…

「ゴーストが相手なら物理攻撃は無効だから、聖陣を纏った攻撃なら対処可能ね…」

とか、真剣に対策考えてたよ…




…次だ!次!





②ありがたーいお経が毎日聴き放題!?騒音上等!魅せてやります信仰魂。オカルトハウス!


……ハーピーさん曰く、六区画あるうちの南向きの真ん中にある屋敷で、陽当たりも良く、周りも同じようなレベルの家庭が集まりやすい、初めは良い分譲地だった…らしい。


しかし…北東角の屋敷に、新興宗教団体が住み着いてから、あっという間に周りを占拠してしまい、空き家に入って来た家族をターゲットに、24時間、365日勧誘を掛けて来るらしい…


こちらは、5割の確率で入信し、その後は行方不明がほとんどとの事だ…

と言うか、近くに来た時点で結構な騒音が聞こえてたよ!




……いや、そもそも俺は無信仰者なんで、毎日読経のサービスなんていらないし、新聞の勧誘すら我慢できない俺が、年中無休の勧誘なんて耐えれる訳がねぇ!



ちなみに、レアは…

「…まほうで凍らせれば…バッチかいけつ……」

とか、物騒な事を呟いてた…




…無理!無理!次だ!





③危険度未知数??うっかり触ると大火傷!何が起こるか分からない。みんな大好きカラクリ屋敷!


ハーピー…クズ曰く、ここにはつい最近まで、変わり者の発明家が住んでいたらしい。

その人は、発明品を作るだけでは物足りず、家の中もあちこちと改造した挙句に、突如、家を引っ越して行ってしまったらしい。


なので、家の中で何を弄ると何が起こるのか……は、その発明家のみぞ知る、との事だ。



最近まで住んでいたので、今までの入居者は0らしい。

ちなみに、現状渡しで(何が起こるか不明で改装できない)ここだけ買い取りになるとの事だった。



しかし、ここは都市長会館にも近く、織物商会に至っては、目と鼻の先って好立地だ。

そして、謎とは言え、色々な改造が施された秘密屋敷……

実は、結構いいんじゃないのか?


俺は興味が湧いたので、中を見たいと言うと…

自己責任で、と笑顔で鍵を渡された…

マジで、ハーピーは何の為にいるんだよ!

ちゃんと仕事しろよ!



俺は心の中でツッコミを入れながらも、めんどくさいので、素直に鍵を受け取り、三人で屋敷を探索してみる事にした。





一階はキッチン、風呂、洗濯室、使用人室、応接兼リビングとなっていて、

二階は円形に五部屋ある。

主寝室が少し大きく、書斎が一部屋で、後の三部屋は似たような大きさの寝室だった。



…詳しく確認出来た訳では無かったけど、たしかに、色々な所に改造の後が見られる。


螺旋階段のエスカレーターやら、キッチンから二階に食事を上げる為のコンベア等、こちらの世界では見ないような物が多くあった。


…それに、隠し部屋もチラホラとあるみたいだ。

これはメリーの探知スキルで、その内に暴いて行けば良いだろう。



ある程度、各部屋を見て回り決心する。

……決まりだな!俺はここを買い取る!



その後、俺は二人と打ち合わせをして、ワザと服を汚し、擦り傷を作って家を出ると、ハーピーに掴みかかる。

鼻息荒く、ちゃんと案内しないからエライ目にあったとクレームを入れるが、今日の中では一番ましだから、もうココで良いや…と疲れた表情で伝える。



…すると、ハーピーは不良在庫が捌けると思ったのか、ニコニコと笑顔で嬉しそうに契約を進めてくる。



かかったな…


当然、こんな物件で我慢するんだから安くしろ!と交渉して、元値の2割引き、近隣の相場の半値近くで話がまとまった。


色々と変な物見せられたけど…

最終的に気に入った優良物件を、安く手に入れる事ができて、大満足の結果だった。




それから、

都市の入り口前にある大きな建物…総合手続館と言うらしい建物に戻って、カウンターに座る。


仮の契約書を取り交わして、代金の持参日を決めて、

支払日までに、必要書類を用意してもらう約束をしてから、シルクットの街を後にした。




「…ニィニィー!!」


ーーーガタンッ!ゴットン!ドゴン!



帰りもラビットホースの馬車だっけど、結構疲れていたのか、レアと二人で爆睡してしまっていて…あっという間にアスペルに着いた。

ティファは、馬車の操縦で大変だったと思うので、申し訳ないと謝ったが…当然の務めですので、と笑顔で言われてしまった。


ティファには、何かお礼をせんといかんな…




その後、自分の屋敷に戻って来たので、幹部達を集めて結果の報告共有をした。

まぁ、特に異論が出る事はなかったので、話はスムーズに終わり、俺達はシルクット攻略に向けて、契約の日までに移動の準備をする事になった。




俺達四人でシルクットを支配する為の、しばらくの間は、本部であるここの指揮と関係人員の配置はヘッケランに一任する。

一応、サポートにレオを付けた。


…役に立たんかもしれんが……





会議が終わった後、自室に戻って、今日の振り返りをしておく。


…色々あったけど、結構、順調に進んでいけてると思うし、皆が居れば問題無くやっていけるだろう。

ちょっと人任せ過ぎかもしれんが、最近は、そんな自信が持てるようになってきた。


…皆との信頼関係が出来てる証拠だ、と自分に言い訳をしておく。



さぁ…このまま、一気にシルクット…そして王国で一番有名になってやるぜ!!

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