第16話異世界人と儀典官

 

 街で声を掛けられた『儀典官』だと名乗る二人を連れて、屋敷に着くと応接室に通し、それぞれ自己紹介が始まる。

 …うぅ、上手くやれるか緊張してきた。


「なぁ、兄ちゃんの名前はネタなんか?エライおもろい名前やなぁ」


 いきなり失礼な事をブッ込んで来る男にイラッとするけど……俺の名前がネタ?


「エルス・フェンタイン・キーチク…て、俺が異世界人やからかもしれんけど、エロスやら変態やら鬼畜やらに見えてまうんやわ!…これ、突っ込みどころ満載の名前やで!?」


 荒い口調の男に、何でこんな名前にしたんだと笑われる。

 だが、一人で勝手に喋る男にもう一人から、ツッコミが入る。

「あなたは何を言ってるのです?この者はユウト・カザマ…と見えていますよ?」


 声が…どうやら、ツレは女のようだな。

 と言うか、男の方は異世界人とか、関西弁っぽい喋り方とかって…

 まさか、俺と同じで"転生者"…とかなのか!?

 しかも…俺が転生してから付けられた不名誉な名前が見えてるって事は、盗賊や暗殺者系のジョブを取ってやがるな。



「ユウト・カザマ……か、なぁ?もしかして兄ちゃんは地球から無理矢理呼ばれた系の人とちゃうんか?」


「……そ、そうですね。」


「おぉ!ほんかいな?それやったら、お仲間は自分で二人目やなぁ~」

 俺は最低限しか答えていないのに、こっちが疑問に思ったことは、コイツがどんどん勝手に喋ってくれてる。

 …コイツ結構、楽勝な相手なんじゃないのか?


「…レン、いい加減に黙りなさい。」


「へぇーへぇー、分かりましたよ姫さん。」

 そう思っていると、ついに、横の女から待ったが掛かって、男が黙ってしまった。


 …くそっ!放っておいてくれれば良いのに



 そらから、姫さんと呼ばれた女はフードを外して簡素に名乗り始めた。

「私の名はシャーロットです。よろしく。」


「…どっ、どうも、ユウト…カザマです……」

 …俺は驚いた。


 この世界に来てから、初めてウチの三姉妹と同じくらいの美人を見たからだ。

 しかも、なんだか心臓を鷲掴みにされたような…こう、変な気分になる。

 …なんなんだよこれは!?


「私達はシルクットでの任務があったのですが、この度の帝国軍との戦いについて調査を命じられ、その為に参りました。」


 好奇の目になっているであろう、俺の反応は無視して続ける彼女に、何とか相槌だけは打てた。


「…そ、そうですか。」


「僅か、数百の手勢で、万を超す帝国軍を退けたと聞きましたが……いったい何をしたのですか?」


 反応が鈍い俺に不満なのか、言葉に威圧感を込めて言ってきて…るんだろうけど、まったく頭に入って来ない。


 …そんな彼女を見ながらも俺の意識は、話とは別の方向に行ってしまう。

 銀色に揺れる髪の毛に目を奪われてしまうし、少し幸の薄い感じがする、潤んだ黒眼には保護欲が刺激される。

 話をする度に動く、瑞々しいのに厚すぎない唇に、俺は吸い込まれそうで、鼓動は速くなるばかりだ。



 …一体、俺はどうしてしまったんだろう



「…あの、聞いていましたか?どうやって帝国軍を退けたのかと聞いているのです!」

「おーおー、姫さんが怒っとるで!怖い怖い」


「…あ、あっ、あの…」

「わたくしが、お答えしますわ。」


 業を煮やして、問い詰めてくるシャーロットの質問にレンが茶々を入れてくるが、上手く頭の回らない俺が答えに詰まっていると、こちらも痺れを切らしたのか、代わりにメリッサが答えると言い説明し始める。


「ご主人様が率いられる組織である、我々アイアンメイデンは、様々な業種を内包する多角的な物であり、その中でご主人様は、色々な物をご用意されて、此度の戦いに挑まれましたの。」


「へぇ…」


「一早い情報収集もそうですし、今回の防衛戦におかれても、当然の様にご主人様は陣頭指揮に立たれました。数多のアイテムを駆使し、それと共に一騎当千の部下をお使いになられて、勝利を必然の物とされただけの事ですわ。」


 憮然と言い放った、メリーの言葉にシャーロットは整った眉を少し顰め、さらに尋ねる。


「一騎当千ですか?言うのは簡単ですが、貴方達の誰がそうなのでしょう?…それに、その話が本当なら私の連れを倒せると解してよい、と言う事なのかしら?」

 シャーロットは挑発的な目で俺達を見ると、薄く笑ってくる。

 おそらく、メリーの言ってる事が、本当かどうかを示せと言いたいんだろうけど…



「…では、私がお相手しましょう。」

 向こうの挑発に、今度はティファが答える。


「おぉー、確かに、このべっぴんさんは強そうやな!…LVも……ひゃ、100て!?」

「なっ!?はぁ…?100ですって!レン、貴方の見間違いではないの?」

 ティファのLVを、レンが見破った事で向こうに動揺が広がっている。


「う、うそやろ…?お嬢さん達、あんたら皆LV100やんか…」

「…なるほど、貴方達が全て一騎当千と言う事ですか。…これは、一地方組織が手にして良い力ではありませんね?」

 レンは、三姉妹を見てまだ動揺しているけど、シャーロットは立ち直ったようだ。

「看過できませんね」と呟くと立ち上がり、俺達に敵意を向けてくる。


 まさか、これだけの実力者を見ても、俺達を襲おうって気力があるってのかよ…


「レン、私を守りなさい。ー断罪の輪ー」

 彼女がそう唱えると、俺の周りに光の輪が突如として浮かび上がった。


「はぁぁあ!」

「ふんっ!」

 …ガキィィン!!


「ー絶対障壁ー」

…ヒュンッ!…ギィィギギ!


 ティファが繰り出した横薙ぎの一撃を、レンが日本刀でギリギリ受け止める…

 その後ろで、シャーロットを瞬殺すべく振り下ろされたメリッサの短剣は、シャーロットの周りに展開された光の壁によって防がれている。


「姫さん!絶対に障壁は解いたらあかんで!俺だけやと、…これ、よう守りきらんわ!」


「…情けない。」


「ぐっ、ユウト様を解放しなさい!」


「早くユウト様への攻撃を解除なさい!…しないのなら、わたくしの命を使ってで…」

「お前らいい加減にしろ!…お互いに剣を収められないってんなら、強制的に止めさせてやるよ!」


俺はメリーの言葉を遮って怒鳴り、素早くアイテムボックスから取り出したアイテムを使う。

「リロードオン!」

 ーアリアーシャの涙ー

 ・小瓶に納められた、聖女アリアーシャの涙が、エリア内にいる全キャラクターの攻撃行動を阻害する(10分間)



カランッ…ガシャン、

 カツンッ……キィィン…


 ウチの三姉妹とレンの武器が、そして、俺の周りに展開された光の輪が消え去る。


 …横目にチラッと見えたけど、レアも何かどデカイの撃とうとしてたよな?

…そんな魔法打ったら屋敷吹き飛ぶわ!


「…!?」

 今だに障壁に守られていたシャーロットは、光の輪が消え去った事に驚きの表情を浮かべている。


 …あの障壁には攻撃の要素が無いって事か?

 特殊スキルかな…聞いた事無いけど、名前からして防御専用っぽいしな。




……

 全員が少し落ち着くのを待ってから、俺は話を始める。


「なぁ、一度落ち着いて話をしないか?俺も自分の持ってる戦力が危険なレベルだって事は、薄々気付いてたんだ、でも…俺と同じで転移してきたアンタなら分かるだろ?これ位の戦力はゲーム時代なら普通だった…ってさ?」


 一旦、全員を席に座らせて仕切り直した事で、ようやくペースが掴めてきた俺は、今までの分を取り戻すべく必至に説得を試みた。


 …コイツらとは仲良くしたい…ってゆうか、シャーロットとは戦いたく無いっ!

 だから…レンを狙って説得を試みる。


「なぁ、レン…引いてくれないか?」


「…さんや」

「…?」

「……レン"さん"や。兄ちゃんの方が、どう見ても年下やから、俺に敬意を払うっちゅーなら、この場は大人しくするってので…どや?」


 多分、俺の方が実年齢だいぶ年上だと思うけど…

 ここは、しょーもないツッコミを入れる時じゃないし、見た目なら俺の方が間違い無く若いしな。

 せっかくレンが話を収めやすい方向に振ってくれたんだし、ここは有り難く乗っておくとするか!


「…わかりました。レンさん、ありがとうございます。」


「まっ、ええってことよ!」


「…ちょっとレン、勝手に話を進めないで下さい。決定権は私にあるんですよ!?」

 お礼を言い、頭を下げる俺にレンは手を振るが…

 シャーロットは怒り出して、レンがシャーロットに頭を下げる羽目になっていた。


「まぁまぁ、この兄ちゃんとは同郷のよしみやし、俺の願いの為にも、ちょっとでも可能性は上げときたいんや!…だからな?姫さんこのとーりや!」

 両手を擦って拝み倒すレンに、シャーロットは少し苦い顔をしたが、すぐに澄ました顔に戻って「分かりました。貸し一つですよ?」と、少しからかうように言っていた。


 …あの関係良いな

 いや、違う違う…まだ交渉は終わってない。


「おおきに!もちろんコイツ等が姫さんに歯向うようなら、俺がちゃんと守ってやるしな?」


「…まぁ、どうせ私だけでは、この人達全てを裁くのは難しいですし…別に貴方のためじゃ、ありませんから!」

 …美少女でツンデレ装備とか、シャーロットったんマジでパネェっす!



 感動している俺にら横を向いていたレンが向き直る。

「…これでめんどい審問も、刑の執行も無しや!この見返りに二つ条件がある。」


 俺は…ゴクリと、喉を鳴らしてレンの願いを聞く。


「まず一つ目は、ゲームん時のラスボス…何たらドラゴンを倒したボケを見つけたら俺に教える事、んで二つ目は…こっちの方が重要や!元の世界に帰る方法が分かったら、教えて欲しい…この通りや!」


 条件と言いながらも、テーブルに頭をぶつける勢いでお願いしてくるレンの姿に、彼の必死さが伝わって来た。


 詳しく話を聞いたら…どうやら、元の世界に妻と子供を残しているらしい。

 転移当時は生まれる前だったみたいだけど、世界の時間の流れが、この世界と同じなら今は5~6歳って所だそうだ。

 今まで、色んな情報を集めてみたし、俺達みたいに転移した人間とも会ったらしいけど、今だに帰還の方法は分からず、目処も立っていないそうだ。

 ただ、諦める気は無いらしく、可能性があれば何処へでも行くし何でも協力すると言われた。


「まぁ、俺が姫さんと一緒にこの仕事しとるんも、立場があれば色々と調べたり立ち入ったりできるんが大きいねん。"既得権益"っちゅーやつかな?」

 暗くなった流れを、わはは!と自分で笑って軽くしてしまう。


 …そんな彼を見て、シャーロットは少し寂しそうな表情をしたように見えて、なぜだか俺の心がチクリと痛んだ。



「分かりました。我々はこれからも組織を大きくしますが、王国の害になる動きはしませんし、レンさんの期待に応えられるよう情報を集めて、元の世界に返してあげますよ!」

 俺は無理矢理に笑顔を作って、二人と約束をする。



「…というか、一つ目の相手は目の…もががが……もぐもぐもぐ…」

 話がまとまったと思ったら、ウチの爆弾娘(レア)が、核弾頭を落とそうとするので、首を捕まえてお菓子を放り込んだら大人しくなった。

…話をややこしくするのは、勘弁してくれよっ!


 その後、必死に言い訳したのは言うまでもない




 その後は和やかに話をしていたんだけど…

「ラスボスを倒した奴が、しょーもない願いをしよったせいで、俺は巻き込まれてもうたんやで?」

 と言われて、俺は頭にハテナが浮かんだ。


 そもそも、なぜ俺が転生を願ったとレンは知っているのだろうか?そして…巻き込まれた、と言い切る根拠はなんなんだろう…少し怖いが聞いてみた。



「ん?お前んとこには来んかったんか?いっちゃん最初に、変な爺さんが夢に出て来て、何ちゃらドラゴンを倒した奴が転移を願ったせいでお前は巻き込まれたんだ!って言ってきたから、そうなんか…と思うててんけど?」


「あっ、あぁ~僕は小さかったので、覚えてナイノカモシレナイナァ…」

 くそっ!あの、ドラゴンジジイめ!何を転移ミスった事を人のせいにする為に夢枕に立ってんだよ!?

 …俺が強ければ絶対にボコってやるのに



「まぁ、ユウトのLVじゃ、危険な事はしません!って感じやもんなぁ…俺はゲーム時代のLVあったけど、お前は初めたばっかで転移させられたんか?」

 痛いところを聞いてくるので、曖昧に誤魔化しながら話をしていると…


「…その程度のLVでですか?」

 今度はティファがぶっ込んで来たっ!!


「俺は途中でリタイヤしてた期間があって、久々に覗いてみたら…コレやからなぁ。それに、レベル90位あれば充分強い方やで?」


「88レベルですけどね。…であれば、私達がユウト様の盾と剣になれば済む話です。」


「うっさいわっ!88は末広がりやから、縁起がええねんぞ!」


 レンは意味の分からないツッコミを入れてるけど、顔は怒ってなさそうだし…これ以上、話をややこしくするのはやめような?

俺のキャパはオーバーしまくりだよ?



 その後…

 とにかく二人…いや、皆を宥めて何とか無事に話し合いを完遂させる事ができた。



 終わった頃には夕方前になっていて、どうせなら泊まるかと一応聞いてみたけど、シャーロットに、「公人が一般人の邸宅に泊まるのは良くありませんので。」

 …と、キッパリ断られてしまった。




 俺は、レンと連絡手段の交換をして、最後に二人を見送った。




……

 今日は頭の中がゴチャゴチャになった…

 後の事は明日考えるとして、今日はメリーに抱き締めてもらって寝よう。



 …俺は、そう心に決めて、大きく溜息を吐いた。

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