第13話罰ゲーム

 …ガチャッ …バタンッ


 戦とパーティーに疲れた野郎どもが、庭でほとんど倒れたのを見届けてから、俺は自室に戻って溜息をついた。


 …ふぅ。

 …俺は怒っている。


 どれくらい怒っているかと言うと…

 隠していたエ○本を、母親が机の上に綺麗に並べて置いているのを発見した時と同じぐらいの怒りだ!

 それも三冊もだ!

 一体、なんの恨みがあって、あんな晒しの刑を実行するのかまったく理解出来ない。



 …中身がエグいやつは見つからなくてよかったんだけどな。


 あれは、恐ろしさと、「なぜこんなにも堂々と知らせるのか」と言う納得のいかない怒りが込み上げてくるんだ…

 俺を辱めて何の得があると言うのだオカンよ!!




 …あぁ、いかんな。

 話が逸れてしまった。





 …そうだ。

 あれだ、ティファの事だった。

 あいつは、俺に対して気を使いすぎなんだよ…信用的な物も無さ過ぎるし!



 今回の件だってそうだ。

 言うなら、【見捨てないで事件】の事だ。

 俺が、いつ、どうやったら、あのパーフェクト美女を捨てる……いや、捨てられると言うのだろうか!


 と言うか、そもそも俺にそんな選択肢があるかどうかすら謎だ、って話もあるしな。



 まぁ、とにかく、あんな態度を取りやがるティファを俺は"ギャフン"と言わせてやりたいんだ!

 安心して一緒にいてもらうためにな。


 そうだな…

 名付けて、【罰ゲームデート大作戦】とかかな!



 ん?…あ、あれ…な、なんだろう……罰ゲーム扱いされ続けた俺の…げ、現実時代のトラウマが蘇って…………


 ……ぶるぶるぶる。







 俺は暫く布団に潜り込んで、震える事を余儀なくされるのであった…



 …ふぅ


 やれやら、ようやく震えも治ったので、寝る前に明日のプランを考えておくとしよう。


 今までは身の危険を第一に考えて、日常のほとんどを地下室に篭って過ごしていたから、ろくに誰かを『おもてなし』する、って事が無かったかんだよなぁ……



 …

 ……



 あっ!やばい。



 …そういや、


 俺って、デートなんて物は生まれて初めてするんだった……

 せいぜい、漫画やアニメの世界で行われる、何しても喜んでくれるようなチートなデートしか知識が無い



 …俺の中に焦りが生まれ、次第に大きくなって行くのが分かる。

 手に嫌な汗をかいてる。


 だっ、だって、無理矢理に予定を空けさせておいての、サプライズのデートタイムでなんだ!

 お姫様扱いして、「うふふ、きゃはは」となって、二人はもっと親密になり…

 そして、結ばれる!と言う予定になるはずが…


 あ、いや…結ばれるのは無理か。

 俺、'『不能者』だしな。



 いやいや…

 ティファだって、せっかく予定を空けたのに、サプライズデート!とか言われたのに、まともなエスコートもされないなんて、最悪な一日を味合わされるとか、マジで終わってないかっ!?


 そんな奴こそ、見捨てられても当然なのでは?と言う気さえしてきた…



 くそっ、俺に何か策を!


 …誰か助けてー!!







 ーーーーー翌朝


 …結局、一睡もできなかった。


 あれから一晩、色々考えたんだけど、そもそも女心の分からん奴が思いついた事なんて、まともに喜んでくれるのか、まったく当てにできない!



 …はぁ、


 まだ早朝なんだけど、一人で考えてもラチがあかないし、誰かに相談するか。


 俺は、用意を手早く済ませて、自室から、コッソリと出て行く。


 階下に行くと、双子メイドのサリネア、サルネアが朝食の準備を初めていた。


 …すんすん。

 スープを作ってくれているのか、辺りに優しい良い匂いが漂ってる。


 俺は二人を驚かさないように、壁をノックしてから声を掛けた。


 …コンコンッ

「おはよう。サリネア、サルネア。」


「あぁ、ご主人様!おはようございます。」

 姉のサリネアが返事をして、二人が丁寧にお辞儀してくれる。

 やっぱりガチのメイドさんは素晴らしいな。


「…なぁ、準備の邪魔をして悪いんだけど、質問があって、…いいかな?」

「はいっ。変な事で無ければ、大丈夫ですよ?」

 妹のサルネアがサラッと失礼な発言をしてくるがスルーしよう。


 思い当たる節は多々あるし、その程度で俺はへこたれたりしないからな!



「…あー、なんだ…今日さ。ティファとデートをしようと思うんだが、女の子って何が喜ばれるんだろうかと……」

 なんだか中学生ぐらいの時代に戻ったみたいで、結構恥ずかしいぞ…


「きゃー!ティファ様とですか!?いいですねぇ…」

 楽しそうにニコニコと喜ぶサルネア。

 いや、何がいいのか教えてよ!


「ティファ様は真面目な方ですので、無難に買い物やお食事を、外でされるのが良いのでは無いでしょうか?」

 妹を見かねたサリネアが無難な答えをくれる。


 そうなんだよなぁ…でも、普通のやり方だと、何も変わらん気がするんだ。

「こぅ、何かもっと特別な…もらったら一緒に居て安心できるような、そんな何か無いかな?」

 俺は、もっと何か無いかと聞いてみた。


「……指輪、とかでしょうか?」

「…きゃーっ!」


「指輪か…そうだな!そうするよ!」

 サルネアの反応が気になったが、方向性は決まったので、俺は行動を開始した。




 まずは、良い店を紹介してもらうために、迷惑顧みずヘッケラン宅へ突撃する。

 …絶対寝てると思ったのに、応接室に行ったら、すでに起きていたみたいだ。

 奴はいつ寝てるんだろうか…完璧超人め!


 若干の嫉妬を感じながらも、ティファの為と頭を下げて、オススメの店を教えてもらう。


 さすがヘッケラン、この街の店の事は大体頭に入っているそうで、回る順序まで教えてもらった。

 さらに、身だしなみが、どーちゃらこーちゃ言われて身ぐるみ剥がされた…

 紳士の嗜みとか言われて、真っ白なスーツと軍服の間みたいなのに着替えさせられた。


 いつもクローゼットに入ってる服を適当に着てるから、違和感が半端無いな…


 そんな事をしてると、結構良い時間が経ってたみたいで、約束の時間が迫ってきていた。

 取り敢えずお礼を言って、ヘッケラン宅を後にして、待ち合わせ場所に向かう。




 アスペルの中心部にある、待ち合わせの定番スポット、噴水前に着いた俺の目に飛び込んで来たのは




 おっふっ…そこに居たのは甲冑だった。




「…お待たせ、ティファ。」

「は、はい。ご主人様。」

 今日も態度がクソ堅いな…怯えてるのか?


「そんな格好じゃ動きにくいし、着替えに行こうか。」

「…?訓練をされるのでは無いのでしょうか?」

 甲冑のまま首を傾げる、器用なティファに、これも訓練の一環だと連れて行く。



 …異様な光景だろうな。

 白スーツの後ろを純白の騎士が、トボトボついて歩くんだ、そりゃ皆が見てくるわな。


 …視線が恥ずかしいぜ。




 順番は前後してしまったが、教えてもらっていた、お洒落で高級そうな服屋に着いた。


 若干入りずらいけど、覚悟を決めて店に入る。

 外観は結構な装飾過多だったけど、店内は落ち着いてて良い感じだった。


 さすがはヘッケランチョイスと思いながら、キョロキョロしてると店員に捕まった。

 …俺はこの絡みが嫌で仕方ないんだが、ティファの為と割り切って相手をしてもらう。


「連れの服を一式選んで欲しいのですけど……ごにょごにょ」

 何と言えば正解なのか自信が無くて、お願いが尻窄みになってしまった…



 しかし、お姉さんは気にすること無く、笑顔で対応してくれる。…さすがはプロだな。


「はい!お連れ様です……げぇっ!」

 おいおい、人の連れ見て「げぇっ!」って!?あんた、何考えて…あっ、そういやフルプレ着たまんまだった!


 俺は急いで兜を脱がし、変質者では無いし女性だと必死にアピールする。

 店員さんもティファの顔を見て、あからさまにホッとして、「何点か見繕いますのでらこちらへどうぞ。」と案内してくれていた。




 ティファが試着してる間、俺は暇だったので、椅子に座ってボーッと店内を見ていた。

「お客様のお召し物、とても素敵でお似合いです!当店はどなたかのご紹介などでしょうか?」

 店員のお姉さんに質問されたので、「へっ…ヘッケランの紹介でふっ…!」と盛大に噛んで答えた。


「えっ!?…しょ、少々お待ちくださいませぇ!」

 俺が噛んだ事には触れず、なぜか店の奥に逃げて行ってしまった。

 …そんなに怪しく思われたのだろうか?




 しばらくするとカーテンの方から「着替え終わりました」とティファの声が掛かる…

が、店員さんがいない!?


 お、俺が開けるの?と、ビビりながらも、ちょつとヤラシイ気持ち半分にカーテンを開いてみる。


「おぉぉ!素晴らしい!めちゃくちゃ綺麗だ!」

 マジで感動だ!いつもの私服もいいけど、お洒落なドレス姿も、すんばらすぅぃい!


「……あ、ありがとう…ざいます。」

 照れる姿も可愛いなぁ!こんちくしょう!


 恥ずかしさで固まってるのを良い事に、テンションMAXでジロジロとティファを見ていると…

「お客さ…いえ……カザマさまー!」


 …誰だ?知らないおっさんが、俺の苗字を叫びに近い声で呼びながら近寄って来る。

 …お姉さんも一緒に戻ってきたな。


「よよよ、ようこそ、いらっしゃいました!私はこの店のオーナーで、ブラットと申します。」

 恰幅の良い、高価そうな服を来た頭の毛が寂しいオジサンが、俺に深々とお辞儀をしてくる。


「ど、どうも…連れが着替え終わったみたいなんですけど、どうした…いぃ…かわか…くて」

 …くっ、やはり店員は苦手だっ!



「おぉぉ!素晴らしい!正に美の女神でございますな!さすがはヘッケラン様の主人たる御方が、お連れになれている方ですなぁ!」


 …オーナーの発言で、すべて分かったよ。

 そうか、ヘッケランが店に対しても根回し済みだったのか…予定では昼以降に行くつもりだったから、このオッサンは焦って出てきた訳か。


 なんか、気を使うのかアホらしくなって来たな。

「ぁあ、お姉さん、他にも何着か良さそうなの合わせてもらえるかな?あと、オーナーさんはもういいや、ヘッケランには宜しく言っとくからさっ」

 店長は何がいけなかったのかと、顔を青くしながら店の奥へと戻っていった。


 そのあと、何着か着せ替え人形させられていたティファがギブして、結局、最初に来たドレスに決めた。

 黒のワンピースだけど、スカートが斜めカットしてあって、ちょっとエロいんだよな。

 肩と腰に紫のレースがポイントにあるのも『良いね!』をあげたい所だ。



 鎧は後で屋敷に送ってもらうようにお願いして、お会計…と思ったら、ヘッケランのツケになってるから必要無いと言われた。

 …あの完璧超人めがっ!



 そう言いながらも、俺はお言葉に甘えて店を出ると、昼食をとるために店へと向かう。


 ここも小洒落た店で、コースの内容を色々と説明されたけど、…よく覚えてないな。


 昼飯を食べながら、実は今日はデートだとティファに伝える。


「でぇっ…デート…」と、呟いてはいたが、嫌がる気配は無かったので、「今日は嫌でも、最後まで付き合ってもらうからな!」と厳命しておいた。


 その後は、お洒落な雑貨屋や、魔法武具店等、幅広いジャンルの店を見て回り、いくつか購入していく。

 …家で待ってる二人にも土産がいるしな。


 俺が防衛戦の事を怒って無いと分かってからは、ティファも結構楽しそうにしてくれていたと思う。

 あんまり自信無いけどね…



 夕食も高級そうなレストランで、高そうなコースを食べんだけど、ティファが家で作るメシの方が数倍旨かったな…

 ただ、何も頼まなくても、全部お任せで出てくるのは助かった。

 俺に上手く注文するなんてスキルは無いからな!



 レストランを出たら、外はもう暗くなって来ていたので、本日の仕上げに予定した最後の場所に向かう。

 そこは、この街で一番高い建物で、時計台の上が展望室になってるそうだ。


 今までの事や、仲間の事を話しながら時計台に入って、二人並んで登って行く。

 …ポケットからメモを出して見る。


 こっ、ここで手を繋いで上までエスコート、か…

 完璧超人のメモには、元隠居者にはハードルが高い事が山程書いてあるな…でも、やるか!


 俺は階段の前に出ると、ティファに手を差し出す。

「……あ、ありがとうございます。」

 一瞬、間があったけど、手を掴んでくれた。




 最上階に着く頃には、肉体LV2の俺の方がエスコートされてたけどなっ!


 エレベーターつけてくれよ……




 最上階に着くと、


 展望室はカップルだらけだ……


 へっ、うらやましー…くないか、俺も女連れだ!しかも、この中で一番の美女だ…




 よっしゃぁぁぁぁああ!と、世界の中心で叫びたいのを必死に我慢する。




「なぁ、ティファ。」

「…はい。」

「俺さ、前にも言ったと思うけど、ティファや皆がいて、すごく楽しいし恵まれてると思ってる」

「はい。」

「それもこれも、この世界で最初に俺をティファが見つけてくれたからだ。」

「……」

「だから、お前が嫌だと言っても手放す気は無いし、俺をもっと頼ってほしいんだ。」

「…………はい…」

「あ、いや、本気で言われた考えるから、嫌なら言ってくれよな?」

「そんな事ありえません。」


「そうか…んじゃ、これからも宜しくな!」

「…はい。ユウト様。」


 夜景を眺めながら、俺の正直な気持ちを全部聞いてもらう。

 そして、アイテムボックスから、魔法の指輪を取り出して、ティファに渡した。


 これは装備アイテムだけど、効果は即死効果のある攻撃を一度だけ防いでくれる優れものだ。


 自分でLV上げて装備しようかと思ってたけど、ティファなら大事に使ってくれるだろう!


「…ありがとうございます。大切に、大切にしますね…」

 そう言って、静かに泣く彼女の横に居るだけで、俺は役立たずだった。



 そして、俺の呼び名が、ご主人様からユウト様に昇格したのであった。







 ーーーーー同日 夕刻の大通りーーーーー


「…ふふふっ。ユウト様は上手く行っているでしょうか。」

 今のユウト様の状況を思い笑みがこぼれる。


 私を頼っていただいたのですから、失敗しないように万全を尽くしたつもりですが、どんな感じになっている事やら。

 相手がティファ様なので、色々と想像してしまいますね。


 最近良く周りに変わったと言われるが、自分が王になろうとしていた時より、今の方が、しっくり来ているのに「やはり、違和感があるのでしょうかね」


 …思わず呟いてしまう。

 そんな事を考えながら、自分の屋敷に戻っていると、嫌な物を見てしまった。


 目の前を王都の儀典官を乗せた馬車が通っていた。


 おそらく、都市長の元へ向かうのでしょうが、いったい何の調査をし……ユウト様達の件か!



「ゲイリー都市長め!いったい、どんな報告をしたのか!使えん男だっ!!」

 …私は、気づきの遅い自分も罵りながら、王都に防衛線の報告をした筈のゲイリーを呪った。



 ヘッケランは、先程来た道を大急ぎで走って戻るのだった。

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