第12話アスペル防衛戦
ーーパッコ…パッコ…ガラララ
ーーヒィヒーン…ブルルッ
ーーザッザッザッ
大森林を越えて進軍してくる帝国軍を迎え撃つために、俺は何とか集まった部隊をまとめて移動していた。
…あぁ、俺達は今から戦争をするんだ。
ヤバイな…カッコつけて出発して来たけど、戦場が近くなって来たら緊張してきた!
オシッコちびりそう…
だだだ、だってさ…ゲームの時は【ギルドvsギルド】とかになると、大規模戦闘キターッ!ってなってさ、普段は温存してるアイテムを使う時じゃー‼︎って、テンション上がるでそ⁈
まぁ、使うのはちょっとだけど…
でっ、でもさぁ…生身では戦争体験とか無いし、そもそも現世ての知識っつても、テレビの中で見た程度しか無いんだもん!
しかも、しかも…俺っちってばLV2だったんだってばよ!
…てへっ。
今から進軍してはる、この団体の中でおそらく俺が一番弱いと思う。
…多分ヘッケランよりもな!
アイテムを使って守りを固めてもこれだけ恐怖を感じるんだ…
戦争がいかに恐ろしいかと言う事だよな。
STOP戦争! NO戦! ダメ痴漢!絶対。
…くそっ!変な事しか頭に浮かばん。
俺は、頭を振って雑念を振り払っていると…別の雑念に支配され違う事を考え始める。
…ここはティファの体に抱きついて癒されるか。
俺は馬に二人乗りしているのをいい事に、思いっきりティファに抱きついてみる
が…かったーい!
そう言えば、ティファさんフルプレでしたね…
「……?」
何かしたのか?と兜がこちらを振り向いた。
側から見れば、ころころ表情が変わる今の俺の姿は、「出発の時の勢いはどうした?」と、突っ込まれてしまうこと間違いなしだろう。
せめて、自らの心を必死に隠して進む俺に、ヘッケランが馬を並べて来る。
「ユウト様、そろそろ帝国軍とかち合う頃かと思います。さっそくですが、写し身の心得を使って頂いてよろしいですか?」
「…え?構わんけど、誰を増やすんだ?」
「私が連れてきた傭兵達、全てでございます。」
「…へっ?いや、そんなに数は持って無いんだけど⁈」
予想と違う展開に焦る俺に、ヘッケランは丁寧に教えてくれる。
…成る程、パーティーを組んだ状態で全体使用できるアイテムは、効果をメンバー全てに及ぼす事ができるのか!
初めて知った…
俺は視界に映るメニュー画面から、パーティーを選択して巻物状のアイテムを使用した。
「リロードオン!」
ー写し身の心得ー
・攻撃を受けるまで、使用された者の分身を作り、本体と同じ動きをさせる事が出来る
……
おお!…凄い!後ろにいる、傭兵団の皆が3倍くらいになって見える!
およそ300人いたから、これで大体1000人規模の一団になって見えるって訳か!
ウチの三姉妹達も知らなかったようで、ヘッケランの優秀さに驚いていた。
…本当に味方で良かった
…レアのお陰だな。
ーー…ザッザッ…ザッ
ーーガシャ!カシャ!
しばらく歩くと、整った行進で進んでくる軍隊が見えた。
……凄いな、これが数の力か!
一万人以上いるであろう帝国軍の圧力は半端なくて、物理的に押し返されるんじゃないか、って感じさえ受けた。
その姿を確信して、ティファがこちらの進軍を止め、号令をかけた。
「…これより、我らアイアンメイデンが、城塞都市アスペルの防衛戦を開始する!皆の者、準備は良いかー‼︎」
ーーうぉぉぉお‼︎
ーーおおぉぉお‼︎
「傭兵隊は、弓での遠距離攻撃を主とせよ!近距離まで迫られた場合のみ、抜刀攻撃を許可する!」
「テメーラやるぞぉぉお!」
ヘッケランの作戦に、傭兵達の隊長ベイリトールが叫ぶ。
……帝国軍にも少なからず動揺は見られるようだ。
そりゃ、誰にも知られていない筈の進軍だったのに、目の前に1000人規模の一団がいたら驚くわな!
俺は自分の大森林での作戦が活きている事に、思わずニヤける。
が、しかし、帝国の進軍は止まらない。
もうすぐ、こちらの射程距離に入りそうなくらいに迫ってきている。
敵が森から全て出てきたくらいの所で、そろそろ戦闘かと身構えていると…
ーーすとっ、
ーースタスタスタ
……ん?どうしたんだろう?
メリッサとレアが、何故か2人で敵の元へと歩いて行く。
映画とかで見る、将軍同士の名乗り合い?みたいなのをやるのだろうか……
俺がやるんじゃ無いのか…
少し残念に思って見ていると、どうも様子が変だ…
「レア、おやりなさい」
「…あい、ねーさま。」
二人が何か話した後、レアの周りに、眼に見えるほどの魔力が渦巻いていく…
…まさか、もう開戦する気か!?
「…ふりーじんぐ、まきしまむ!」
レアが、魔法を唱えた瞬間、世界が凍りついたように変化していく!
……
「…⁉︎ちょ、ちょっと!レア!おやめなさい!ストーップ」
「…ん?むぅ……」
メリッサのストップ発言に不満を漏らしながらも魔法の発動を止めるレア。
……や、やばかった。
もう少しで俺達も凍る所だった。
メリッサが止めてくれて助かった。
レアの魔法は、レアを中心とした氷の円は敵兵の三分の一と…
こちらの全軍を凍らせかけていた……
「…あなた、魔法の照準点考えないでぶっ放すのはおやめなさい!まったく…」
「……………てへっ。」
「てへ。じゃありませんことよ!」
珍しくレアに厳しく怒りつけるメリッサは、溜息をついて、呟く。
「…仕方ありませんわね。我に力を与えよ!ドライ・ブレス!」
メリッサが魔法を唱えると、俺達を中心に、今度は風が巻き起こる。
またミスったのかよ⁉︎
と、ビックリしたけど、俺達は、暖かい風に包まれて、さっきまでの寒さが癒された。
…ふぅ。俺たちを助けてくれてたのか。
さすがメリッサだな!ありがとう!
そんなコントのような事をしていると、あちらの軍隊に動きが出る。
ーーうぉぉぉおお!
ーードドドドっ! …おぉぉ!!
レアの魔法に面食らっていた、帝国軍も立ち直ったみたいで、突撃を開始してきた!
「…ふりーずぶれす、うぃんどーぶれす!」
「我に力を与えよ!ディスレクション、マキシマム!」
最前線で二人が魔法をぶっ放していく。
レアの魔法は突撃してくる兵隊を凍らせたり、風で吹き飛ばしていくし、
メリッサの魔法は、前線にいる兵士達の移動速度をかなり低下させていた。
すげぇな…レアは勿論だけど、メリッサの魔法も実に効果的だ!
これは、本当に三人いれば万の軍と戦えそうな気がしてきたよ……
「斉射用意!はなてぇー!」
こちらも、ベイリトールの号令で、弓矢による一斉射撃が始まった。
射程に入っていた敵兵は矢にあたり、バタバタと倒れて行く。
そのおかげで、大体、三分の一位は倒したように見える。
……けど、まだ数が多い。
このままでは、向こうの槍が俺達の全線に届いてしまうと思った俺は、
アイテムで援護するため、前線に出ようとした。
…のに、ヘッケランに止められ、招きの鈴を使えと言われる。
良い所だったのに…良くわからんけど、ヘッケランが言うんだ、使ってみようじゃねーか!
「リロードオン!」
ー招きの鈴ー
・前方半径1kmの範囲のモンスターを呼び寄せる
鈴を発動させると、大森林の方から色んなモンスターが、俺の方を目掛けてやって来ようとする!
…しかし、帝国軍が邪魔でここまで来れないな。
おぉ!しかも、モンスターと帝国軍が戦いだした!
なるほど…これを狙って、このアイテムを用意させたのか⁉︎
やるな!凄いぞヘッケラン、偉いぞヘッケラン!
その後、しばらくは戦っていた帝国軍が、俺達とモンスターの板挟みにより最後は、散り散りに敗走して行った。
「ユウト様、我々の勝利ですぞ!勝鬨を!」
俺は頷く。
「我々の勝利だ!アスペルは守られたぞー!」
ーーうぉぉぉおお! やったぞー!
ーーおぉぉ! ユウト様ぁぁ!
…
……
こうして、アスペル防衛戦は幕を閉じたのであった。
戦後の処理は、軍を編成して駆けつけたゲイリー都市長の部隊に丸投げして、俺達アイアンメイデンは帰路に着いた。
後できいたんだけど、こちらの被害はほぼ無かったのに対して、帝国軍は半分以上の死傷者を出したそうだ。
これで、しばらくは安泰かな?
ーーーーーーユウト邸 庭ーーーーーー
「…え〜それでは〜、皆様の〜ご健康と〜ご多幸を〜ごにょごにょ〜」
「……我らの勝利を祝って!カンパーイ!」
「ごにょ⁈」
「「「「カンパーイ!!」」」」
その日の夜、俺達は帝国軍との防衛戦勝利を祝って、うちの庭で祝勝会をする事にしたんだ。
…俺の長過ぎる演説に痺れを切らした、ヘッケランに乾杯の音頭を奪われ、ジト目を送っていると苦笑いされた。
そして、俺の元にやってくる。
「…おめでとうございます。ユウト様。あれ以上、話をされると暴動が起きますので…ははは」
「ふんっ、お前じゃなきゃ、許さないんだからねっ‼︎…ふっはははっ!」
…どうやら、俺もテンションが高いみたいだ。
ヘッケランにツンデレを披露してやるなんて……どうした俺⁉︎
…男にデレるなんて!
まぁ、今回…ティファ達は勿論だけど、一番の功労者はヘッケランだったからな。
何か、彼に褒美を与えないとだな……
信賞必罰は世の常と言うらしいしなっ!
ワイワイガヤガヤと楽しそうに飲み食いする皆を見てると、結構、幸せな気分になってしまってる。
そんな自分に、心の中で苦笑いしていると、ベイリトールと傭兵団の幹部?達が近づいて来た。
「オーナー…いや、ボス。この度の戦お見事でした。」
「いや、俺ほとんど何もしてないけど…」
「いやいや、姉さん達やヘッケランの兄貴を使いこなす力が、ボスの力ってやつですよ!」
「…ん〜そんなもんなのか?まぁ、皆もありがとうな!助かったよ。」
なぜか、俺をボスと呼び直し、姉さん、兄貴と子分のような発言を繰り返すベイリトール。
俺が、戦場に来てくれた事に礼を言うと、彼等は急に跪いた……
「ボス!俺達、アスペル傭兵協会は、あなたの参加に入らせて頂きたい。…どうか、我らの剣をお受け取り下さい。」
ベイリトールが跪いたまま、両手で剣を差し出す。
辺りが静まり返る。
…うっ、めっちゃ見られてる。
視線を感じて周りを見ると、皆が黙って俺達を見てる…
彼等も圧倒的な戦力差が分かってて、この戦いに参加してくれたんだよな…。
凄いよな、俺なら絶対断ってる自信あるしな!
…だから、それが望みだと言うなら。
俺は剣を受け取った。
ーーうぉぉぉ‼︎ ユウト様ぁぁ!
ーー隊長ぉぉ! やったぜぇぇ! ィエーイ!空前ぜつ……
こうして、アイアンメイデンに傭兵事業が加わった。
……ほんとにいいのか?まぁ、いっか‼︎
ーー宴は終わる事無く、夜遅くまで続いた…
…我が家の庭で、ぶっ倒れて眠りだす奴らが多くなって来た頃、今回の功労二番手だった、メリッサに声を掛けに行った。
「…ぁぁ、ユウト様…お祝いが遅くなり、申し訳ありませんわ…」
傭兵達に絡まれまくった今日のメリッサには、いつもの、ふてぶてしさが感じられない。
「…全然問題無いよ。お疲れ様。今回はお前の気転に助けられたよ……あのままじゃ、レアに全滅にされる所だったしな!」
「ふふふっ…そうでごさいましたね。」
…緩く笑う彼女の笑顔は、言い表す事が出来ない位に美しかった。
「…なぁ、なんか望みはあるか?」
あ、あんまり凄いのは無しな!と狼狽えていると、
「…では、わたくしの事は、親しみを込めてメリーとお呼びくださいませ。」
「そ、そんな事でいのか?」
ふふふっ…もっと凄い事がお望みですかぁ?とエロい顔をしてくるので、ペロリ…いっいや、ぐっと堪えて自制し、遠慮しておいた……
無念だ……
気を取り直して、第3功労者のレアを見ると、どうやって入ったのか、お腹がぽっこりになって、地べたに座り込んでいる…
「レアは充分、満喫できてそうだな?」
「…お腹いっぱい……」
俺は、はははっ、と笑いながら、レアは何か褒美の希望は?と、聞いてみる。
「…ん〜……けぷっ…なでなで…でいい。」
多分だが、食い物の事を考えてから、頭撫でって言ったよねぇ⁉︎
珍しく帽子を脱いで待っているので、何も言わずぐしぐしやってやる。
肩上くらいでバッサリ切ってある、緑色のショートヘアが帽子のせいで、毛先が外にくるん、となってる。…可愛いな。
思わずニヤついてしまう…
「…ん、もういい」
それなのにレアさんたら、すぐに帽子を被って…いけずねぇ。
…ほんとに、それ以上は無いようだったので、最後はティファの元に向かう。
鎧を脱いでフォーマルな感じのドレス姿は、まさに圧巻の美しさで、目のやり場しか無い。
むふん!…俺は、目のやり場に困ったりしないよ?
「ティファ、お疲れ様。」
「ありがとうございます。ご主人様。」
深くお辞儀をすると、胸元がヤバイですよ!ティファさん!
「この戦では碌な成果を上げれず、誠に申し訳ありません……」
なぜか、暗い表情になる彼女に俺は驚いた。
めっちゃ暴れ…活躍してたのに!
「ご主人様への攻撃は全てアイテムが防いでしまいましたし、私は雑兵を相手にするばかりで……ぐすっ」
な、な、な、泣いてらっしゃる……
そんな事を反省してたのか⁉︎
「いやいや、こっちの前線が無事だっのは、ティファが迫って来た敵を、斬り飛ばしたり投げ飛ばしたり、ぶっ飛ばしたりしたから、こんなに被害が少なかったんじゃないか!」
…俺は必死にフォローしてティファを宥める。
「…ありがとうございます。次こそは必ずお役に立ちますので……その、お見捨てにならないで下さい…」
ーーカチン
「……よし。決めた!ティファは明日一日予定を空けておくように。俺が直々に罰を与えよう。」
「…ごくりっ。……は、はい。」
……俺は心に決めた。
明日ティファに思い知らせてやると。
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