第11話戦の始まり
ーーーーートプの大森林
ーーザッザッ
ーーザッザッザッザッ
「…ようし!止まれぇ!」
揃いの紋章が入った兵士の集団は、大将の号令で規律の取れた足並みを止める。
「これより、我ら帝国軍は王国との長き宿怨に終止符を打つべく、国境の要所である、城塞都市アスペルを落とす!」
「「はっ‼︎」」
「奴らは、平地の方にしか注意をしていない。この大森林を抜けて行けば、そこはもう、奴らの喉元よ!」
…
アイアンメイデンによる、アスペル統一から少し経った、王国の祝日にそれは起こった。
長らく小競り合いが続いていた、王国と帝国の歴史は、今まさに転機を迎えようとしていた。
そのうねりに巻き込まれるのは、城塞都市に本拠を構える彼等とて例外では無い。
ーーーーーユウト邸 地下アジト
「…ですから、次に落とすべきは工芸が盛んなシルクットですわ!ユウト様が刺繍された織物等を販売して、世界中に知らせるべきでしてよ!」
「いやいや、メリッサ殿!まずはこの都市の基盤を盤石にし、工業が盛んなバノペアを落とし、軍事力の強化に務めるべきかと!」
「ご、ご主人様の治める、このアスペルが盤石では無いとぉ…?」
ゴゴゴ…と言いそうな、ティファの威圧を込めた質問に、冷や汗を吹き出しながら、余裕を無くしたヘッケラン。
「いいい、いやいや、ティファ殿落ち着いて下さい!落ち着いて!も、勿論、皆はユウト様を支持されていますよ?ですが、収益面や事業計画的なものですよ!ハハハ……」
なんか、言い訳くさい話だな…
…最近の俺は、この3人が議論を戦わせているのを、部屋の隅でレアとオヤツを食べながら見守るのが日課になりつつある。
もう、君達だけで世界征服して、スローガンか何かに俺の名前付けてくれれば良いのでは無いだろうか?
…いや、恥ずかしいから止めよう。
「…ごしゅじんさま……これ美味しい」
隣に座って黙々とフライドポテト的な物を食べていたレアが、お前も食えと「あ〜ん」してくる。
ん〜、美麗なロリっ子に、"あ〜ん"されるのも、また格別ですなぁ……
早く方針が決まれば、自由時間が楽しめるので、口を挟まず、口をもぐもぐしていると、ティファが横目で俺を見ていた…
た、食べたいのか?
あ〜ん、しようか?
…いや違うか、に、睨まれてような気も……
「…あぁ、皆も食べるか?サリネアが入れてくれたお茶もあるし……」
俺の本心とは離れてしまうが、仕方無く少し休憩を促してみる。
あまり白熱しても、話が思うように進まん時もあるだろうし。
「…ふぅ、そうですわね。ユウト様のご厚意ですから、頂くとしますわ。」
まずはメリッサが、ふわりと音がしそうな、絹のように繊細な青髪を揺らし、レアと反対側の俺の横に座る。
うん。
相変わらず良い匂いだ…
するとティファも、「そうですね」と言いながら、俺の向かいに腰掛けた。
長い金髪が背もたれの後ろで、キラキラと揺れて天使のような光の輪ができている。
その美貌と合わせて、マジで天使に見えますよティファ様!
ありがや、ありがたや…
そして、ヘッケランは…
…なぜか"ふせ!"のポーズで待機している…
「…ごぉらぁあ!メリッサ!何を仕込んどるぅう!」
「あらあら?ご主人様、焼きもちですか?それとも…チ○チ○のポーズが良かったのかしら……」
ふふふ…と、淑女の笑い方をしながら、エゲツない事を考えるメリッサに、俺は溜息をつく。
「あのなぁ、大の大人に変な事をやらせるなよ!ヘッケランだって嫌がっ……ひ、人が見たら驚くだろ?」
俺が大人としての注意をしようと、ヘッケランを見ると、奴が若干嬉しそうだったので…別の理由でダメだと注意しておいた。
あぁ〜…人の変態を見るのは結構引くもんだな。
そういや、エ○ゲの時もそうだったけど、主人公がやられてれば感情移入できるんだが、
サブキャラがやられてるのは、見ずに飛ばしてたもんな。
…
……
その日の会議は夜遅くまで続き、レアは寝てしまい、俺も自室に戻って一人寂しく眠りにつくのであ…
ーーリーンリーンリーン‼︎
「へっ⁈」
なっ、なんの音だ?
なんか、妙に懐かしい、あの黒電話の着信音のよう…
おぉっ!そうか⁉︎
ケモっ子…豹人族のペルとか言うのに預けてた、虫の音色の効果か!
アイテムボックスから対になる、虫型の電話機を取る。
ムカデ型かよ…
チクチクする電話に出ると、やはり相手はペルからだった。
「ボス、ヨロイきたニンゲンたくさん……ボスのホウにムカッテる…」
「そうか⁉︎よく知らせてくれた!この電話は三回まで使えるから、困った時は掛けて来てもいいぞ!少しくらい手助けしてやるからなっ!」
「アリガタキおことば……」
俺はペルに軽口を叩いて、ベットから飛び起きる。
寝間着のまま会議室に行くと、まだ4人……レアは座ったまま寝てるから3人か…は、行動計画を練っていたようだ。
さすがに、疲れてるよな?
皆さん、目が怖いですよ?
…皆の顔に若干気圧されそうになるが、踏みとどまって、先程の電話の内容を伝える。
「…なんと!すっ素晴らしい!さすがはユウト様です。そんな布石を打っておられたとは……この情報は金貨1000枚にも相当しますぞ!」
ヘッケランが手を叩いて、俺を称賛してくる。
「ですが、この情報を"どう活用するか"が大切ですね。」
「…決まっておりますわ。まずは、アスペルの都市長、ゲイリー・ウル・モレーノに、貸しとして情報を渡す。そして、わたくし達が第一陣を担当すれば良いのでわ」
「…メリッサ殿、しかし我らは基本的に商人の集団で、帝国の軍隊を抑えられる戦力などは持ち合わせていませんが?」
三人がそれぞれに、これからの対応について道筋を立てて行く。
最後に、ふぅ、と溜息をついてメリッサは続けた、
「ティファお姉様が盾になって、私とレアが殲滅すれば簡単でしょ?」
「おおぉ!さすがはレア様と並ぶ力をお持ちの方々!敬服致します」
はっ?いやいや、おかしいだろ…
「あのさぁ、一国の軍隊相手に、お前達3人で相手は可笑し過ぎないか?」
「ですがユウト様、それが一番手っ取り早いのでですわ。」
「…だとしてもダメだ。お前達に掛かる危険が大きすぎる。相手にしたって、どんな戦力があるかも分からないし、アイテムだってあるだろ?」
「しかし、ご主人様、この案以外に方法があるのでしょうか?」
言う事を聞かない俺に、メリッサもティファも少しご立腹だ。
でも、ここは俺も引けない。
…ここで簡単に認めて、後で後悔とかしたくないしな。
「ヘッケラン!お前の方で、何か策は用意できないのか?」
「はっ、敵の数等は、把握出来ているのでしょうか?」
「ペルの報告が確かなら、大体1万超えって所らしい…森が大騒ぎだとさ。」
俺の報告を聞いてヘッケランは顎に手を当て考え始める。
「…ユウト様もご出陣された上で、アイテムを使われる事も計算に入れてよろしいのでしょうか?」
「あぁ、そうしてくれ。」
ティファがそれは危険だ、止めろと言ってくるが、聞こえない物としておこう。
皆が危険で、俺だけオコタでヌクヌクは…素敵ではあるが、とても出来んからな。
…あぁ、俺も変わったな。
昔の俺なら、「そんな怖ェーとこ絶対行かんからな!家でメイドたんとゴロゴロしてるから、おまいらだけで行ってこい!」とか言ってたんだろうなぁ。
自分の成長に自分で感心していると、ヘッケランが何か思い付いたのか、顔を上げた。
「ユウト様…招きの鈴と写し身の心得、と言うアイテムはお持ちですか?」
「ん〜…多分あるんじゃないか?アイテムボックス!」
中身を確認すると、両方ともあった。
「これで良いのか?」
「はい!では、私は傭兵組合のツテを使って2〜300人用意させます。ユウト様達はゲイリー殿に情報を渡しに行ってくださいませ。」
その話の後、それでは一時間後に!とヘッケランは頭を下げて部屋を出て行った。
「…なぁ、メリッサ、この二つで何とかなるのか?」
「さぁ…私には変態(ヘッケラン)の考えは分かりませんわ。ですが…アレが大丈夫と言うなら平気だと思われますわ」
へぇ〜…
ヘッケランは、どうやらメリッサの信頼を勝ち取るまでになっていたようだ。
少し、嫉妬するけど、今はしまっておこう…
俺が危険だ、と粘ってくるティファには、危なくなったら、帰還の巻物を使うし、「何かあってもティファが守ってくれるだろ?」と、そう言って、無理矢理だけど納得してもらった。
話がまとまったので、俺達は急いで市長会館へと向かう。
交渉ごとなので、都市長ゲイリーへの訪問は、もちろんメリッサに同行してもらう。
夜遅かったので、俺達を怪しむ使用人に、火急の知らせで来たと、取り付いでもらう。
さすがに、俺やメリッサの事を知っていたのだろうか?疑う事無く迎撃準備を始める事になり、この情報の恩は必ず!
と、約束させて屋敷に戻った。
まぁ、話をしたのは、ほぼメリッサだけどな…
俺は。自室に戻り準備を始める。
「リロードオン!」
ー竜の守護ー
ー防御の宝珠ー
ー影縫いの肩当ー
・半径20m以内の味方の影に潜める(1分)
ー賢明の盾ー
・魔法攻撃を二回までガード(第七位まで)
ー能力向上のベルトー
ー疾風ブーツー
今回は戦だからな、ちょっと大盤振る舞いだけど、怪我でもしたら「だから言ったでしょ!」と、ティファに怒られるしな…
準備を終えた俺は、階段を降りて玄関に向かう。
玄関ホールには既に三姉妹が揃っていて、跪いて俺を迎えてくれる。
…ははっ!
ちょっと大げさだけど。
「行くぞ!」
「「「はっ!」」」
俺も大袈裟に号令して、玄関を出た。
すると屋敷の庭には、既にヘッケランが傭兵を集めて待機していた。
さすがに、仕事が早いな。
「ユウト様、万事整っております。」
深々とお辞儀をしてくるヘッケランに手を上げて答え、俺は傭兵達にハッパを掛けるべく声を上げた!
「私の治めるこのアスペルに、帝国のバカ共が踏み込んできた。私の怒りに触れたことを後悔させてやろう。そして、お前達は最前列で、この者達の戦いが見れる事を大いに喜ぶがいい!」
俺は自分の後ろにいる三姉妹を指し示して、自軍の力を誇示してみせる。
「…さぁ!全員出撃だぁ!」
…おぉぉお!!
…そして、引き返せない戦いが始まる。
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