第14話戦王都よりの使者

「…はぁっ…はぁ、はぁ…はぁー!」


 ヘッケランは、今回の防衛戦でこれだけの戦果を挙げたのに、今回の件に考えが及ばなかった自分を責め、少しでも早くユウト邸へ戻るべく走っていた。


 

 …くっ!感の悪さもそうですが、体力の無さにも自分の事ながら嫌気がさしますね。

 この程度の距離を全力で走ったからと言って、呼吸するので精一杯になるなんて…普段は使いの者ばかりに走らせて、自らの精進を怠るからこんな事になってしまうのだ


 ヘッケランは自分を叱咤しながら必死に走り、ようやくアジトへの道を走りきった。



「ひぃーひぃーふー、ひーはー…ヒーハー!」


 屋敷に着いたヘッケランは、最後に息を大きく整えると、地下アジトへ向かう為に屋敷の門を越えて、ゆっくりと庭へと足を踏み入れる。


 …組織の関係者に、無様な幹部の姿は見せられ無いから、常に余裕を作って行動せねばな。


 そのまま一直線に玄関のドアまで向かうとするが、途中にレオ・ライオンズの姿を見つけてしまい、「面倒な奴に会った…」と渋い顔をする。


 いつも通り、プニプニした体を震わせている、ライオンズ家の跡取り息子に、わざと忙しい表情を作ると、話し掛けて来ないように忙しい表情を作り、横を通り抜けようとするヘッケラン


 が、

「ぷひー、ヘッケラン卿、さっき帰られたのでは無いのかな?」


「ちっ…あぁ、レオ殿!偶然ですな、実は少しメリッサ殿に報告し忘れた事がありまして…では!」


 睨みが効かず話しかけられてしまったヘッケランは、ガッカリしながらも適当な理由を説明して、さっと横を通り抜けようとする…が、レオに腕を掴まれ屋敷への歩みを止められる。


「…何用ですかな?」

 もう一度、強く睨み語気と視線で脅す。


「ひっ!…い、いや、私も卿に言っておいた方が良い事があったので呼び止めたのですよ?」

 いつもであれば道を譲る筈なのだが、今回は怯えてスライムのように体を揺らしながらも、ヘッケランの威圧に対抗する、レオの意見を一応は聞いておくべきかと諦め耳を傾ける。


 …話を聞かずに大事を逃すのは、グズのする事ですからね。


「…でっ?」


「あっ、あぁ、実は隣町のシルクットに【断罪の巫女】が現れたって…父上達が話しているのを聞いたから、もしかしたらユウト殿の事を調べに来たのかと思って…ぷーひー」


「なっ、やはりそうでしたか!?…その情報、素晴らしいですな、感謝致しますぞ。では!」

 有益な情報を教えてもらった礼は言うが、ヘッケランはそれ以上の話は無用だ、とレオを躱して屋敷に入る。



…コンコンッ…ガチャ

 一応ノックはするが、扉を開けてもらうのを待たずに、勝手知ったる感じで屋敷に入ると、そこにはメイドのサリネアが居た。

 ヘッケランは、彼女にメリッサ達の居場所を確認すると、まだ全員地下室にいると聞き、自分もそのまますぐに階段を降りて行く。



 …やはり、まだ自室には戻っていませんでしたか…しかし、皆さんがいるなら好都合です。

 この情報を伝え、組織としてどんな対処をして行くか意見を出し合わないといけませんしね。



 ヘッケラン自身も頭の中で、色々なプランを練りながらアジトの扉を開け放つ。









ーーーーーメリッサ視点


 …今日はユウト様が、お姉様とデートに出掛けてしまわれたので、わたくし達も早めに会議は切り上げました。

 だって…放っておくと、変態(ヘッケラン)がいつまでも帰ろうとしませんから迷惑なのですわ。



「はぁ…しかし、お姉様だけなんてずるいですわぁ…」


 メリッサはデートをしているだろう二人を思い浮かべて、ため息混じりに自分の欲望も吐き出す。


 …こんな事なら、わたくしもユウト様のご褒美に、夜だけじゃなくて、お昼の"デート"もおねだりするべきでしたわ!

 だって、わたくしとのデートは、いつも夜にベッドの中で、となってしまいますものね…

 たまには、明るいお日様の下でイチャつく…と言うのも大切だと何かで聞いた事がありますし、まったく、惜しい事をしましたわっ!



「はぁ…仕方ありませんから、レアさんでも抱いて、気を紛らわせておきましょうか…」


「…ん?姉様、なに…?」


「レアさん、クッキーを焼いてあげますから、その後はユウト様達が帰ってくるまで、わたくしに気の済むまで抱かせて下さいな。」


メリッサはレアの頭を撫でながら尋ねる。


「…えっ…ごくっ……ん~、分かった。」


 いつもなら嫌がるレアだが、食べ物をチラつかせると誘惑に負けて、メリッサの要望を受け入れてしまうチョロいレア。


「…ほんっとに、アナタは何よりも食べ物なのですわねぇ?可愛いですわ!」


「…クッキーは、甘くて…サクサクで…ごはんとは違うから、いつでも食べられるんだよ…?」


 レアの良く分からない主張を笑顔で流して、楽しみなのかソワソワと揺れ動く仕草に、理由なんて何でも良いか、と考えるのを放棄するメリッサ


「ふふふ…まぁ、何でもいいですわね。」


 食い意地の底が知れない妹に笑うと、メリッサは彼女を好き放題させてもらう為の"対価"を作る為、キッチンへと向かう。

 キッチンに着くと、夕食の準備をするメイド姉妹がいたが、メリッサが少し場所を譲ってくれるように耳元で囁くと…妹のサルネアは「ひぃやっ!」と声を上げ、ゾクゾクと身震いしながら場所を譲っていた。



 …この子達もわたくしが囁いてあげると、いつも大変よい声で喜んでくれますし、人族は反応が単純で面白いですわね。

 まぁ、わたくしも半分は"人の血"が入っているので、一概に単純とは言え無いかもですけど…遊んで差し上げるのは良いのですけど、わたくし『遊ばれる』のは、趣味ではありませんし。



 メリッサはそんな事を思いながら、姉妹を使って遊びつつ、姉のサリネアにクッキーの材料を準備するようお願いする。

 用意してもらった材料を手早く混ぜ合わせ、形成していくと、オーブンでじっくりと焼き上げる。


 すると、その様子を見守っていたサリネアが、そんな事は自分達がとやるのにと言ってくるが、

「あの子を好き放題する為の"ご褒美"は、わたくし自身で作らないと意味がありませんから、気を使わなくて大丈夫ですわ。」

と、笑顔でメリッサに返されサリネアはそれ以上何も言えずに黙る。

これだけ聞くと、素晴らしい姉妹愛のように聞こえるが、実際は愛情の形は若干歪んでいるのだ。


 …わたくしが作った物を食べて、尻尾を振ってくれるレアさんの可愛い姿を見る方が、より快感を得られますからねぇ…やはり、この作業は譲れませんわ。



……

 しばらくすると、焼き上がったクッキーをお盆に乗せ変えてメリッサがレアの元に向運んでいると、屋敷の外から男の話し声が微かに聞こえてくる。


 メリッサは首を傾げ考える。

 …今、屋敷にいる男と言うと、おデブちゃんだけのはずなのに…一体誰かしら?


 玄関近くに居たサリネアに一応声だけ掛けると、来客なら自分を呼びに来るように伝えてレアの元へと急ぐ。





…コツコツコツ



「……ぐぅ…きゅるる。…」


 部屋に入る前から、レアのお腹が鳴る音が聞こえて来たので、こっそりと部屋の入り口から中を覗いてみる。


「…くぅ……おなかへった」

 お腹をさする姿が見えて、思わず微笑んでしまうメリッサ。


 …ふふっ…可愛いお腹が、わたくしを待っていますわねっ!


 すぐにクッキーを食べさせようと、扉に手を掛けて立ち止まる。


 …可愛い姿を見ると、なんだか余計に意地悪したくなってしまいますわね。


 そう考えると、メリッサは自分の持つ称号"盗賊"から、スキル【サイレントムーヴ】を発動し、レアの後ろに忍びよって驚かそうとするが……


 …グー…クゥー

「…ねぇーさま?」


 …⁉︎

「…あらあら、なぜ分かってしまいましたの?」


「…クッキーの…におい」

 スキルを使えば、気付かれる事は無いと思っていたが、お菓子の匂いをレアが気付かない訳がなかった。


「……そう、残念だわ」

 思い通りにならず、自分の悪巧みが食い意地に負けてしまいメリッサは肩を落とすが、レアが相手では、もっと前から、匂いも気配も消しておかなければ、驚かせる事は出来ないかと反省する。




 これ以上焦らすと、餓死しそうな目でレアが訴えてくるので、クッキーを渡そうとしたら、


 …一瞬で三分の二が消えましたわ⁈

 今、一体どうやって消したのかしら…


 口をモグモグさせながら、残りは「歯応えが重要なの」と、冷めるまで必死に我慢するレアの姿に、メリッサ愛おしさを我慢できず、食べきるのを待てず抱きしめる。


「…はぐはぐ…うまい…」

 嬉しそうに食べるレアを満足気に見ながら、メリッサが抱きしめつつ色々と体を触っていると…会議室のドアが荒くノックされて邪魔が入る。



「…一体なんですの?今、良い所なので邪魔しないで欲しいのですけど!」

 不機嫌そうに怒鳴るメリッサは、ドアの前に立つヘッケランを睨む。


「うっ…もっ、申し訳ございません!…し、しかし、火急の要件ゆえ、少しだけお時間を‼︎」


 メリッサの態度にも退出しようとしないヘッケランの態度に、何か重要な事があったのだろうと諦めて話を聞く事にした。


「……はぁ、仕方ありませんわね。」

 レアから手を離して、何が起こったのかを説明させる。


「実は…」

 …

 ……


「……儀典官?それは、わたくしも初めて聞くのですけど…それは、一体どんな存在ですの?」


「簡単に言えば、異端審問官と言うやつです。」


「…異端、ねぇ…」


「王国の各地で異常が確認されると派遣される、特殊部隊の様な人間達で、その力は大変危険な物なのです!」


 しかも、ヘッケランの話では、王国に三組ある特殊部隊の中でも、一番強力と言われる【断罪の巫女】が来ていると告げられる。


 …はぁ、まったく面倒くさい事ですわね。



 メリッサは仕方がないので、ユウト達を呼び戻すように使いを出して、会議を再開する。


 …今日は騒がしい一日になってしまいましたわ。









ーーーーー展望台


 俺は指輪を渡して、ティファが泣き止むのをモアイのように、ただジッと待ってようやく、そろそろ下に降りようかと声を掛ける事が出来た。


 周りから見たら、別れ話をしているように見えたのか、「雰囲気が悪くなるから、早く帰れ!」と言うオーラを、他のカップル達の視線から感じる。



 俺は、心の中では悪態をつきながらも、小心者なので声には出さず、そそくさと階段を下りて行くのだった。

 …俺だって、空気くらい読むときもあるさ!




 出入り口の所まで来ると、今日のデートが問題無かったかどうかを、どうやって聞きだそうか悩んでいると人が走ってくる。


「ユウト様ー!メリッサ様から至急、お戻り頂きますように、とのご伝言です。」


 屋敷から使いの者がやって来て、早く帰ってこいと言われる。


 …まーた、何かあったのか?はぁ、会議室に軟禁はシンドイなぁ…



「…あぁ、分かった。行こうか?ティファ。」

「…はい!」


 さすがに無視する訳にもいかないので、俺は何があったのか考えるのを止めて、伝言を持って来たネロと一緒に屋敷へ戻る事にした。





 …ん~…今日の初デートは、上手く行ったのだろうか?まったく分からんな。

 まぁ、見た感じではティファの機嫌は悪くないように見える。



「初めてだったし、とりあえずは良しとするか…」



 …俺の呟きは、夜の街に消えていった。

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