5 お湯、ほっこり心マッサージ
「はあ、気持ちいいな……」
浴槽にしっかり浸かり、天井を見つめて碧海がぽつりと声を洩らす。
しかし洩らした言葉とは裏腹に、その顔には曇り模様が浮かんでいた。
「……あんなに怒らなくったって……」
脳裏に浮かんでくる藍沢の怒り顔、それに向かって言うように呟く。
本当はあの時にそう言いたかった、あれから今までもやもやになっていた思いが、ポンッと言葉になって胸の中に浮かんだ。
「私も悪かったよなぁ。まだちゃんと観てないで、あんな考えなしにヤシロの悪口みたいに言っちゃって」
全身を包み込むお湯の温かさのおかげだろうか。
あの瞬間にはわかってても認められなかった自分の非を、碧海は不思議なほど素直に口に出せた。
「うっし、髪洗おう!」
景気づけのようにかけ声一つそう言って、湯船から立ち上がる。
浴槽から出て再び椅子にお尻を乗せてから、シャンプーとコンディショナーをすぐそばに引き寄せた。
手のひらに出したシャンプーを両手で泡立て、その手を頭へと持っていく。
「明日、ちゃんと藍沢さんに謝ろう! 同じモラッド好きなんだから、これからと仲良くしたいもんね」
わしゃわしゃと髪を泡まみれにしながら、そう決意の言葉を口に出した。
「そうと決まれば、モラッドの続きを観なくっちゃ! ちゃんと観てちゃんと理解して、それでまた語り合わなきゃな!」
手早くシャンプーを洗い流し、次はコンディショナーを手に取り、髪に撫で付けていく。
やることを決めると今度は早く上がりたい思いに、気持ちが焦らされてしまう。
深呼吸一つ。コンディショナーが髪に馴染むのを落ち着いて待ちながら、それでもウズウズするの気持ちは止められず。
「待ってろよ、モラッド!」
ビシッと明後日の方向に指を突き付け、謎の宣言を放つ。
しばし待ち、頃合いになった髪をシャワーで流し、コンディショナーを落としていった。
「ふーふふんふーん」
モラッドの主題歌を鼻唄で歌いつつ、上機嫌で髪をシャワーで洗っていく碧海。
冬の冷たさと友達との喧嘩で疲れ沈んだ心と身体は、浴室の温かさと優しさに癒されてすっかり晴れやかなものへと昇華されていた。
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