4 こだわりGirl
「う、うん……もしかして未心さんも?」
前のめりで言った碧海にやや腰を引きながら、藍沢がそう答える。
引き気味ながらもその顔に浮かんだのは、同士に出会った喜びの色。
「うん! いいよねモラッド!」
「そうなんだ! なんか嬉しいなぁ」
同好の士との出会いに、嬉々とした様子でうなずいた碧海と満面の笑みで頷く藍沢。
「この二人……」
「こんなにテンション上がるんだ……」
ひょんな事からハイテンションになった二人とは対照的に、高橋と崎本の二人はポカーンとした顔で呟く。
完全に置いてきぼりを食った形になっていた。
そんな二人はよそに碧海と藍沢、二人のモラッド話は盛り上がりを加速させていく。
「ヒロトがいいんだよねぇ……いっつも滑ってるのに、なんか絶妙なタイミングでカッコいいし、卑怯だろ!」
「うん……うん。でもキリヤのさりげない毒舌も容赦なくて、わたしはキュンってしちゃうな」
「あれは毎回致命傷だよね! でもヤヨイのフォローが……」
「さらにハルカがすかさずそこで落下するから台無しで……」
互いに負けじとキャラの魅力を語り合い、けらけらと大笑い、そしてツッ込むという具合にコロコロと表情を変えていく碧海と藍沢。
際限なく高まる二人のテンションとモラッド話に、高橋と崎本は絶句し呆然と眺めるばかりであった。
しかしそんな楽しい雰囲気が一転、碧海の発言で凍り付く。
「でもさ、九話に出てきたヤシロだっけ? あれはなんか嫌な感じだったなぁ……」
「え……」
留まらぬテンションの勢いのまま、碧海が口にした言葉に突然、藍沢が固まってしまう。
それまでの楽しそうな空気が一瞬で消え、少しの間を空けてうつむく藍沢。
「あれ、藍沢さん……?」
「……てる」
「へ……?」
そんな藍沢へ声を掛けた碧海の耳に、小さな呟きが届いた。
聞き取れなかったが、その呟きから伝わる声音にテンションが鎮まっていく。
「勘違いしてるよ、未心さん……」
「な、なにが?」
「ヤシロはそんな人じゃないんだよ?
もしかしてまだ十一話、観てないの?」
静かな、だけどはっきりと不機嫌さを露にしたトーンで訊ねる藍沢。
「う、うん。まだ九話を観終わったところまでだけど……」
「じゃあ、続きを観てから言って欲しかったな。
そんな浅い見方で感想を言うなんて、ちょっと残念だよ未心さん……!」
「なっ、あ……浅いってそんな言い方っ」
藍沢の勢いに気圧されながら、しかしその物言いを不快に思った碧海も感情的になり言い返す。
膨れっツラで睨む碧海と、臆せず厳しい眼差しをぶつける藍沢。
「ちょ、ちょっと二人とも」
「やめなよ、そんなけんか腰になるの」
一触即発の二人に慌てて、高橋と崎本が制止の声をあげる。
それでも碧海と藍沢は一歩も譲る気配を見せず対峙したまま。
『キーンコーンカーンコーン』
鳴り響いた昼休み終了のチャイムが、二人の緊迫した空気を破った。
「……もう、いいよ」
低い声で言い、背を向けて自分の席へと戻っていく藍沢。
「あ、そう」
同じく碧海も低い声で吐き捨てると、そのまま席へと帰っていった。
胸の中にどんよりと漂う、嫌な気持ちに苛まれながら。
それが今日起こった出来事、碧海を憂鬱にさせる原因だった。
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