筋肉と武闘祭と霊長類最強受付ちゃん 1

秋になると、毎年行われる竜神教のお祭りがある。

弱小なうちの町の竜神教の教会でも、これだけは毎年必ず行われる祭りである。

その名を武闘祭という。





竜神様を祭る闘いで競い合うこの祭りは、ほぼ全員の男性が出る大騒ぎである。うちのマスターやヴォルヴさん、ベアさんも非常に張り切っている。ギルバードさんは出ない代わりに新型の魔導カメラを購入していた。


「ボクも出るからね!! 優勝したら、ご褒美頂戴受付ちゃん!!!」

「まあいいけど」

「今、何でもいいって言ったよね!」

「いや、言ってないけど、まあなんでもいいよ」


目を輝かせるお姫。どうやらお姫も出るらしい。確かにお姫は単純な戦闘力ならこの街でぶっちぎりの一番だ。種族ゆえの魔力の高さや、魔法の巧みさなどは他の追随を許さないほどだろう。闘い方も案外えげつない手まで使うみたいだし、戦争のような何でもありルールなら一番生き残る可能性が高い、最も強いのは疑いようもない。


「約束だからね!!! ボクが優勝したらちゅーだからね!!」

「はいはい、優勝できたらね」

「ぜったいだからねえええええ!!!」


全く、私のキスの何がいいのかわからん。

張り切ってトレーニングを始めたお姫。前回優勝したベアさんは、ゆっくりと大きな丸太を振っている。本当に力強いですね。お姫も真似して振っているが、重すぎて体がずいぶん流れている気がする。

マスターは、相変わらず打倒領主様らしい。一人でシャドーをしているが、相手が領主様っぽい動きである。

そんな感じでみんなが庭でトレーニングをしているのを尻目に、私は教会へと向かった。




武闘祭の会場は、竜神教会の前である。毎回ここに会場を作るのだ。砂で固めた高台を作る作業が、毎回私や神父さんの仕事である。子供たちも砂山作りを手伝ってくれる。

水をかけて、上から突いて押し固める、という作業をのんびりやっていると、神父さんが


「そういえば今年の武闘祭、エリスさんも参加されるんですよね」


と聞いてきた。


「は? もう私は出ませんよ。あの時で引退しましたから」

「でもアンジェリーナさんが、エリスさんの分も登録してましたよ」

「…… あの真っ白饅頭がああああ!!!!!」


どうやら勝手に登録をされていた模様である。


「あれ、キャンセルできないですよね」

「ああ、やっぱり無断でしたか、頑張ってくださいね」

「神父さんも止めてくださいよ!!!」

「たまにはエリスさんの活躍もみたいなって思ったんですよ」

「さいですか……」


どうやら神父さんも消極的に協力していた模様。私が出たのは8年前、10歳の時だけだし、それから二度と出ないと思っていたんだけど……


「ぺちゃんこにされちゃったらどうするんですか」

「そうしたら頑張って回復魔法使ってあげますよ」

「そういう問題じゃないと思うんですけどね」


武闘祭のルールは簡単。トーナメント形式で、勝ちぬいたら優勝である。

武器や防具は使用禁止。魔法も肉体強化のような、体内から魔力を出さないもの以外はすべて禁止である。それを守らせるために、この舞台は特殊な砂が使われていて、この舞台上ではそういった放出系の魔法が使えない。

舞台から落とされるか、降参すると負け、あとは何でもありのルールではある。単純だが、だからこそ見ている方もわかりやすくて楽しいのだが…… このルール、当然、体格が大きい方、力が強いほうが有利である。肉体強化魔法は許可されているので魔力の大きさもそれなりに影響するが、もともとの筋力が結局ものをいう。肉体強化魔法は、現在筋力に倍率をかけるものだから、筋力がある方が効果的なのだ。


「まあ、最低限は頑張りますよ。手を抜いても竜神様に失礼ですし」

「怪我しない程度で頑張ってくださいね」

「それなら申し込み止めてくださいよ」


そんなことを神父さんと話しながら、舞台が完成した。

武闘祭は明日である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る