筋肉と武闘祭と霊長類最強受付ちゃん 2

そして大会当日である。

参加者は、日の出前に教会前に集まる。

今回の参加者は大体100人程度であろうか。みなやる気十分である。


出場者の服装は、金属製の防具を付けない、という以外は特に制限はない。制限はないが、基本的に男性陣はみな褌である。裸に近いほうがつかむ余地が少ないからである。完全に勝負を意識した格好である。ちょっと朝は肌寒くなってきた時期なのだが、そんな筋肉マッチョが並んでいる光景は非常に暑苦しい。

少数出る女性、といっても私とお姫以外には、領主様のところの女性騎士1人だけだが、の格好は、人によって違う。私は、いつもの格好の下に、スパッツと胸にさらしをまいている。摑まれて胸や下着を見せるのはさすがにご勘弁願いたいからだ。女騎士さんもスパッツに、張り付く形のタンクトップであった。お姫は普通にいつもの白いワンピースだ。お前は試合中に剥かれて裸にされてしまえ。



試合の組み合わせはトーナメントだが、基本的にくじ引きである。会場に早く来た人から順番に引いていく。あらかじめ準備されていたトーナメント表に名前が記載されていく。お姫は第一試合、私は第六試合だった。

一回戦は全部で50試合を行うことになった。私はつまり最後の試合である。試合数が相変わらず多いなぁ。これを決勝戦以外は1日で終わらせるんだから、なかなかの早さである。


祭を楽しみにしている人たちは、このくじ引きから見学に来る。日の出前なのにご苦労様である。そして、自分が応援している選手に思い思いの差し入れをするのだ。大体は温かい飲み物か、甘いものなのだが、場合によってはそのまま酒盛りをする人もいる。竜神様はお酒が大好きなので、酔っぱらって試合に出ても問題はないとなっている。まあ、酔っぱらえば当然勝負としては非常に不利なので、そういう人は勝つつもりが薄い人たちばかりであるが。

そんな中、私の周りには誰も来なかった。やばい、泣きたくなってくる。孤児院のリリーちゃんはお姫のほうに行ってしまった。泣いてなんかいない。でも視界がぼやけてきている。お姫は何人も構ってくれる人がいるんだし、リリーちゃんぐらいこっちに来てくれてもいいのに。ほかの子たちは見当たらないところを見ると、まだ寝ているのだろう。日の出前だしね…… マスターやほかのギルドのメンバーはみんな参加者だから当然来るわけない。というかマスターには固定層のファンがいるし、ベアさんやヴォルヴさんは奥さんがいる。みな何か楽しそうに話している中、私は一人隅っこで体育すわりをしていた。本気で泣きたい。





日の出とともに、太鼓が打ち鳴らされ、試合が始まった。

最初の試合は、お姫と八百屋のおっちゃんである。

20年連続出場の八百屋のおっちゃんは最近子供の生まれた38歳。日ごろの野菜運びで筋肉がかなりすごい。普段は優しいおっちゃんだが、ふんどし姿だと、その筋肉が明らかになり、見ているほうも圧倒される。さすが最高順位ベスト4。かなりの有力選手である。

対するお姫は、なんというか、いつも通りのマシュマロだった。ふわふわである。一人場違い感が半端ない。しかし、そんなふわふわお姫も、帝都武闘祭で、優勝したことがあるとかいうから驚きである。神父さんがそう実況している。


この勝負、八百屋のおっちゃんがかなり不利である。武闘祭の試合は、基本的には真剣勝負ということにはなっているが、実際にはいろいろ空気の読み合いがある。見た目雰囲気ふわふわマシュマロを、おっちゃんが力の限りで殴り掛かったら、そしてそれで怪我でもさせたら、やはりかなり微妙な雰囲気が流れる。そういった空気の読みあい、場の作り方も駆け引きの一つなのである。そういう駆け引き意味では、ふわふわ衣装のお姫はかなりのやり手ともいえるだろう。多分何も考えていないだけだが。


立ち会うとすぐ、八百屋のおっちゃんは、爪先立ちで、かかとの上に尻を載せて腰をおろし、膝を開いて上体を起こした体勢、蹲踞の姿勢をとる。おそらく、このままお姫を勝ちあげて吹き飛ばそうという作戦なのだろう。対するお姫も同じ体勢だ。力の勝負だと単純なパワーなら、お姫も遜色ないだろうが、単純な体重はお姫のほうが軽いし、かなり不利だと思うんだけどなぁ。

そんなことを考えていると、試合が始まった。体勢そのまま、二人はぶつかりあう。『ごぉおん!!!』という鈍い音とともに二人ははじけるように吹き飛ばされた。当たり前だが、力を加えればその分反作用がある。お姫の軽い体では、正面からぶち当たったら、いくら力が強いといってもその反作用で吹き飛ぶのだ。

八百屋のおっちゃんはそのままごろごろと場外へ落ちた。対するお姫は、空中に吹き飛ばされ、そのままふわふわくるくると羽を広げて宙を舞い、同じく場外に着地した。両足をそろえ、スタッときれいに地面に着地する。無駄に魅せるやつである。


試合のルール上、先に場外に出たほうが負けなので、この場合、滞空時間が明らかに長かったお姫の勝ちである。

パワーファイターの八百屋のおっちゃんに正面から力勝負をして、互角にもっていったうえで華麗に舞ったお姫の会場の出の評判はうなぎのぼりだった。




そんな盛り上がりの中、私の試合も始まった。相手は鍛冶屋の息子で同い年のエドワードである。

エドワードのことは、私は嫌いである。小さい頃はよく絡んできてはわざわざ嫌味をいったり、髪を引っ張ったりと嫌がらせばかりだった。顔がいいのを良いことに、周りの女の子を味方につけたりするので、私は散々な目にしか合わされなかった。単純にクソイケメンである。


「女のくせにこんなところに来るとは、相変わらずの男女だな、エリス」


今でもこういうことを言ってくる。本当に私をイラつかせる天才である。顔がいいんだから早く結婚でもして嫁の尻でも追いかけていてほしい。本当に私にかまうな。

イケメンだし女の子侍らせているのだから、すぐ結婚できそうに思うが、こいつはいまだ独身である。周りがどんどん結婚していく中、残り物になりつつある。きっと女癖が悪いから、結婚相手として見られていないのだろう。ざまーみろ。

冷たい目をしながら感情なく見ていると、いつの間にか試合開始の合図があったようだ。クソイケメンが突っ込んでくるが、体さばきがまるでなっていない。触りたくもないので、横に回って体を躱し、たたらを踏んだ、そのクソイケメンのケツを思いっきり横蹴りで蹴りつけてやる。クソイケメンはそのまま場外に転がり落ちた。

いまいち盛り上がりが欠ける中、私は舞台からおりた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る