お休みと教会と雪だるまお姫 2(2019.1.31改訂)

世界には三大宗教と呼ばれる三つの宗教がある。

1つは創造父神を祭る創造父神教。最高神でもある創造父神の教会は国家鎮護のご利益があり、王都の大教会などは創造父神を祭っている。といっても、ご利益があまり個人に関係ないため、国がお金を出して建てる場合が多く、規模の大きな教会を抱える割にあまり信者も教会数もないのが、この創造父神の教会だ。

2つ目は大地母神を祭る大地母神教。創造父神の妻であり、万物の母といわれ、豊穣と繁栄を司るこの教会は、とにかくそこら中にある。この街にも大きな大地母神の教会が存在している。信者も三大宗教の中では一番多く、特に農家の人はみなここの信者である。

最期は竜神を祭る竜神教だ。異なる世界から現れ、創造父神と大地母神の作った世界を守り繁栄させると約束した竜神様を祭っており、基本的には狩りと商売を司る教会である。竜人がトップの帝国ではこの教会の勢力が一番強いらしいが、水原王国ではそこまで勢力はなく、交易が盛んなところに時々教会がある程度である。


なんにしろ冒険者ギルドは狩りと縁近いということで、竜神教会の信徒ということになっている。竜神教会は麦づくりが主要産業なこのあたりだと当然勢力は弱く、この教会も一軒家ぐらいのあまり大きくない礼拝堂に、住居用の建物が一つある程度の小規模なものである。信者も大地母神教会に比べれば圧倒的に少ないが、それでも神父さんの尽力や孤児院を運営している関係上、寄付はそれなりにされている、と聞いている。

ちなみに孤児院の子たちは、D級冒険者となっており、雑用を主にお願いしている。そのまま冒険者になる人もおり、うちだとベアさんはここの孤児院出身と聞いている。


私と神父さんが、待合室に入ると、そこに一人の少女が中にいた。


「お姉ちゃん」


近寄ってきてくいくいと私の袖を引っ張る。真っ白な髪と赤い目をした、ウサギみたいな

彼女は、ここで預けられている子の一人のリリーちゃんである。孤児院の最年少の女の子であり、なぜか私に結構なついてくれている子である。ほかの子たちは私を若干怯えた目で見るが、私は悪くない。いたずらして言うこと聞かない子を躾けのために投げ飛ばし、雪にさかさまに突き刺しただけだ。礼儀と真摯さは大事だと教えただけでしかないのだ。怖がられても寂しくなんてない。

なんにしろ、現在孤児院で唯一なついてくれているリリーちゃんが寄ってくると思わず表情がゆるむ。頭をなでるとちょっとくすぐったそうに、しかし嬉しそうにしてくれる。


「どうしたのリリーちゃん。ご本なら後で読んであげますよ」

「アンジェちゃんはどこにいるの?」


リリーちゃんに雪だるまの行方を聞かれた瞬間、頭をなでていた手が止まる。雪だるまめ、私の唯一の天使たるリリーちゃんを奪おうとは言語道断である。絶対に許さん。

しかし、ここで会わせないように嘘をつくのは下策である。ばれた時に私の株が下がりかねないし、何より神父さんにお仕置で雪に頭から突き刺されかねない。私の技はすべて神父さん直伝だ。技の巧みさは、神父さんのほうが何枚も上手なのだ。

必死に頭を回転させて、私にとって最適な答えをリリーちゃんに回答する。


「雪だるまなら、庭で雪だるましていますよ」

「ゆきだるま?」

「アンジェさんって白くて丸っこいでしょ」

「うん」

「寒い日でも薄い服しか着てないでしょ?」

「うん、寒そう」

「寒くないんですよ。あれ、雪だるまですから」

「そうだったんだ!」

「そうだったんです」


感心するリリーちゃん。これが信用力の差です、雪だるま。ぽっと出のお前には負けないからな!


「雪だるまなら外にいますよ」

「お外で何してるの?」

「雪を補充しているんでしょう。手伝ってあげればいかがでしょうか」

「わかった! 神父様、お庭いってくる!」

「ちゃんと暖かい格好をしていくのですよ」


そういって意気揚々と外に出ていくリリーちゃん。ちょっと言い過ぎたかなぁ、神父さんにお説教されるかなぁ、と神父さんをうかがうも、ニコニコしてみているだけであった。


「エリスさん、楽しそうですね」

「楽しくないですよ。苦労ばかりで大変です」

「そうですか? いつも仏頂面していたあなたが、アンジェさんの前だと表情をコロコロ変えていますし、私には楽しそうに見えますけどね。気づいていませんか?」



ニコニコとみている神父さん。どことなく居心地が悪いので、ココアを入れてくるという名目で、席を立ち少し離れた台所へ向かうことにした。

途中の廊下の窓から外を見ると、子供たちが楽しそうに騒ぎながら、雪だるまを雪に埋めていた。リリーちゃんがほかの子たちも呼んだようだ。足だけはみ出した雪だるまの姿がシュールだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る